大阪地方裁判所 昭和25年(ヨ)43号 判決
申請人 佐藤彦造 外四名
被申請人 新家工業株式会社関西工場労働組合
右代表者 執行委員長
被申請人 新家工業株式会社
一、主 文
申請人等の申請は孰れも之を却下する。
訴訟費用は申請人等の負担とする。
二、申請の趣旨
申請代理人は、本案判決確定に至る迄
(一) 被申請組合は申請人等をその組合員として取扱い、該権利の行使を妨げてはならない。
(二) 被申請会社は申請人等をその從業員として就業させ、別紙賃金表記載の各賃金の割合による金員を支拂い、他の從業員と差別待遇をしてはならない。
(三) 被申請会社は申請人佐橋、黒谷、久本をその設営する寄宿舍新生寮(大阪市西淀川区柏里町三丁目三番地所在)に寄宿せしめると共に他の寄宿從業員と同様の待遇をしなければならない。
との判決を求めた。
三、事 実
申請人等は孰れも被申請会社(以下單に会社と称する。)の從業員で別紙賃金表記載の各賃金の支拂を受けており且会社の從業員を以て組織する被申請組合(以下單に組合と称する。)の組合員であつて、申請人等の内佐橋、黒谷、久本の三名は会社の設営する前記寄宿舍新生寮に寄宿して居るものであるが組合は昭和二十四年十二月十六日臨時総会を開催し、審査委員会の報告に基き申請人等を除名する旨決議し、同月申請人等に之を通告し、又会社は同年同月十八日申請人等を解雇する旨通告し、同月三十一日申請人等の内佐橋、黒谷、久本に対しその寄宿する前記新生寮から昭和二十五年一月十日限り退去すべき旨要求した。
而して右除名決議の理由とするところは申請人等の從來の行動が組合規約第九條に所謂組合員が組合の綱領規約その他の決議に違反し組合の統制を乱した事に該当するものとし、又右解雇の理由とするところは労働協約第一條に所謂会社の從業員は原則として組合員である事を要件とする規定に則り右除名の事実によるものとしている。
併し乍ら、申請人等には何等組合規約第九條に該当する事実はない。このことは前記審査委員会の報告にも存しないのであつて、組合は單に、申請人等が共産党員でありその活動が組合規約に違反すると云う抽象的理由を掲げているに過ぎない。
言うまでもなく新憲法の下国民は信條の自由、政治活動の自由を有するものであり、労働組合法に於ても組合員の政党支持の自由、政治活動の自由は当然認められるものであつて、組合の統制に違反しない限り、このことを理由として、組合から除名される謂われはない。從つてかゝる除名決議は無効であり惹いて之に基いてなされた解雇も当然に無効である。
それで申請人等は組合並会社を相手方として除名決議並解雇の無効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが申請人等は一介の勤労者で他に收入の途なく生活の脅威甚しいのみならず申請人佐橋、黒谷、久本にとつては寄宿舍新生寮から退去せしめられる事は居住をも失うに至るので之等の著しい損害を避ける爲本件仮処分を申請すると述べ
被申請組合の主張に対し
組合員の政治活動が組合の綱領規約に違反する場合は所謂統制を紊すものと言えるであろう。併し申請人等にかかる該当事実は何も存しない。組合の挙示する各具体的事実は虚構のものか又は存在したとしても除名を正当付けるに足りないものばかりである。即ち、
(1) 「大阪民報」の掲示並配布の件
このことについて申請人岸本が西淀川警察署に留置され取調を受けた事があるが、当時組合に於ては外部との連絡のない組合掲示板に対する警察の干渉であるとして掲示板責任者たる書記局その旨の見解を発表したのであつて之は後日執行委員会に於て正当なものとして確認されたのである。
(2) 組合員に対する暴行の件
右は全然虚構である。福井文雄は元將校で岸本等から毆られるような人ではない。
(3) 職場抛棄の件
右は事実を歪曲している。組合は十二月六日婦人部青年部の委員会を開き同月四日会社の爲した回答を不満とし飽くまで越年資金獲得の要求を貫徹すべく且その方法を職場の討議に附する決定を爲したので会社の回答約束日たる翌七日正午の休憩時間に申請人等の所属する車体部では全員出席の下に職場会議が開かれ、前田委員長、後藤書記長の出席を求めその経過報告を待つたところ、前田委員長に於いて会社から団交を明日に延期する旨の申入があり右衝に当る田原重役は二、三日中に上京する旨発表したので組合員の議論沸騰しこの時就業サイレンが鳴つたのであるが勢の赴くところ職場大会の開催に至り全員一致で直ちに交渉に入る様決議されたのである。以上のような次第で右時間は会社の一方的団交延期通知回答に対する団交の爲の準備として費されたものであつて右集合は毫も不法でなく又申請人等の策動に依つて起つたものでもない。
(4) 選挙運動の件
右は否認する。当時組合に組織部そのものがなく從つて組織部長がある筈がない。
(5) その他
何れも否認する。尤も申請人佐橋が十二月八日の団交を傍聽した際「何時になつたら出すんだ」と一言発したことはあるが右は別段侮蔑の暴言とは目されない。と述べ
被申請会社の主張に対し
本件解雇が労働協約第一條に基いて爲されたとしても組合の除名決議が無効である限り右解雇も当然無効である。又会社として解雇に際しては右除名の形式的事実のみを以てその理由とせず除名が正当か否かに付いて調査すべき責務があるのであるが会社はかかる措置を何もしていないから本件解雇は許されない。
而して十二月七日の職場抛棄の件については被申請組合に対して爲した陳述の通りであるから之を援用する。尚本件除名決議は会社の工場長大墨正吾が組合員中本等と協議の上班長副班長等を懷柔しその協力の下に之を爲さしめたものであつて所謂会社が組合の運営に関與した不当労働行爲である。
と述べた。(疏明省略)
被申請組合代理人は
主文と同趣旨の判決を求め
答弁として次の通り陳述した。即ち
申請人等が孰れも被申請会社の從業員であり、且会社從業員を以て組織する被申請組合の組合員であつたこと及組合が申請人等をその主張するように除名する旨決議し之を申請人等に通告したことは何れも認める。
併し乍ら右除名決議には何等の瑕庇もない。
該決議は申請人等が從來執つて來た組合の綱領規約違反の行動を促え之を総会並に審査委員会に提案して爲されたものであつて單に申請人等が共産党員で党の指示に基き政治活動をしたことを以て理由としたものではない。勿論政治活動の自由は保障されているところであり、組合としても組合員に一定の政治的態度を求めてはならないのであるがこの自由にも法律の規定(団体等規正令等)や所属団体の自治的規範(組合の綱領規約等)に依る一定の限界が自ら存するのであつて之を逸脱してはならない。この見地から申請人等を除名したものでその具体的事実は次の通りである。
(1) 「大阪民報」の掲示並配布の件
申請人後藤は共産党アラヤ細胞の実質上の責任者であつて、同細胞の形式的責任者たる申請人岸本と謀り、昭和二十四年七月十八日「恐怖の街敦賀」なる記事を掲載せる同日附「大阪民報」第一号(号外)を会社作業場、食堂前の掲示板に掲示すると共に組合員に之を有償又は無償で配布し且このため申請人岸本が西淀川警察署に留置されるや之を非難し暗に進駐軍を誹謗する組合声明書を掲示板に掲示した。
(2) 組合員に対する暴行の件
申請人岸本、黒谷は昭和二十三年五月頃新生寮に於て組合青年部員福井文雄を毆打し之にリンチを加えた。右は同人が曾て青年部会に於て発言したところと異り組合大会に於て賃上要求額を過少に主張し、且つ活溌な発言をしなかつたことによるものであつて、以來年少組合員や女子組合員は同申請人等に対し暴力的恐怖を感じその言動に支配されるに至つた。
(3) 職場抛棄の件
昭和二十四年十一月下旬組合から会社に対し越年資金手取金一万円賞與手取金五千円(総額金六百五十万円)の要求がなされ同年十二月四日の第一回団体交渉に於て会社から最低一人当り金六千円(税込総額金二百万円)の案を提出したが、妥結に至らず第二回の団体交渉を同月七日行うことに執り決められていたところ、同七日晝の休憩時間終了後、多数の組合員が無断で職場を抛棄し工場内は相当の混乱に陷り、之を拾收する爲更に組合臨時職場大会を開くの已むなきに至り会社の業務は著しく阻害された。そしてこの爲組合は右団体交渉に於て極めて不利な立場に追込まれ、越年資金、賞與の獲得は見込薄となり且組合員は賃金の八分の一を差引かれるに至つた。このように就業時間中職場を抛棄し臨時職場大会を開催することは組合規約に違反すること勿論でかかる爭議行爲又は之に類する鬪爭行爲を爲すには必ずや正規の大会を開くべきものであるが申請人等は相謀り組合委員長前田直一の意志に反し独断で多数組合員を煽動指揮して敢えて之を爲すに至らしめたもので殊に申請人黒谷の如きは職場大会の議長となり委員長の発言を阻止し徒らに混乱を拡大したものであつて組合の統制を乱すも甚しいものがあつた。
(4) 選挙運動の件
申請人黒谷は執行部の組織部長の地位にあるに拘らず曩の衆議院議員選挙に際しその地位を利用し組合員に対し川上貫一に投票方勧誘し承諾者を記録して廻つた。
(5) その他
申請人後藤は組合員中出勤遅刻の首位職務も怠慢で之が爲組合は会社から屡々警告され面目を失い申請人佐橋は昭和二十四年十二月十日の団体交渉に傍聽者として出席した際労資双方を侮辱するが如き暴言を吐き該交渉を不利に導き、申請人黒谷は新生寮寄宿組合員を煽動して税金不拂鬪爭を企てたが却つて失敗し寮生に延滯料を徴集される憂目を蒙らしめた。
以上縷述したように申請人等の行爲はたとえそれが政治活動として爲されたとしても法律に違背するか組合の綱領規約に反し除名に値すること明白であつて本件決議が有効である事は疑を容れる余地がない。
尚申請人等は除名の提案理由が抽象的であつたと主張するけれども除名の具体的事実は前記のように頗る複雜多岐に亘つているし、又組合員周知の事柄のみであつた爲、便宜簡略した点がないでもないが、併し総会の席上討論に当り提案者からその都度之を指摘しているのみならず組合員全員も前記事実を知悉して決議に参加しているのであるから此の点に付いても何等瑕疵はない、と述べた。(疏明省略)
被申請会社代理人は
主文と同趣旨の判決を求め
その答弁として次の通り陳述した。即ち
申請人等が孰れも会社の從業員であり且会社從業員をもつて組織する組合の組合員であつたこと、組合が申請人等をその主張するように除名する旨決議し之を申請人等に通告したこと及会社が右決議に基き労働協約第一條によつて申請人等を解雇する旨通告し且申請人佐橋、黒谷、久本に対しその主張するように新生寮から退去すべき旨要求したことは何れも之を認める。
併し乍ら、右除名決議並解雇を無効とする申請人等の主張事実は之を爭う。会社と組合との間には被申請組合の答弁にある様に越年資金等に付いて団体交渉があり且其の最中に多数組合員の職場抛棄等のことがあつてその後行われた昭和二十四年十二月八日及十三日の団体交渉も妥結に至らなかつたのであるが、会社に於いてはその間右職場抛棄の眞相を調査したところ之は申請人一部尖鋭分子の策略煽動によるものであつたことを確めるに至り懲戒を考慮中同月十四日組合の新役員は選任され、翌々十六日には申請人等の除名決議を看るに至り、超えて十八日組合から会社に右除名の通告と被除名者の解雇方申入があつたので会社も事情を確め右除名決議を妥当有効のものと認め申請人等を解雇したのであつて右解雇は固より有効であると述べた。(疏明省略)
四、理 由
申請人等が孰れも被申請会社の從業員であり、且会社從業員をもつて組織する被申請組合の組合員であつたこと、組合が昭和二十四年十二月十六日臨時総会に於いて申請人等の行動が組合規約第九條に所謂組合員が組合の綱領規約その他の決議に違反し組合の統制を乱したことに該当すると称して申請人等を除名する旨決議し、同日申請人等に之を通告したこと及会社が同年同月十八日右除名に基き労働協約第一條に依つて申請人等を解雇する旨通告したことは何れも当事者間に爭がない。
申請人等は右除名決議の効力を爭い、申請人等には何等組合規約第九條に該当する事実はないと主張するのでこの点について考える。
被申請組合に於て除名理由として挙示する具体的事実の内被申請会社も主張し又申請人等に於ても極力爭うところの昭和二十四年十二月七日爲された職場抛棄のことについて観るに証人前田直一、中本勝市の各証言及眞正に成立したものと認める疏乙第五乃至第九号証並丙第四乃至第十号証を綜合するときは昭和二十四年十一月下旬から始められた組合の会社に対する越年資金、賞與支給の要求に付双方未だ妥結に至らず同年十二月七日第二回の団体交渉を爲す運びとなつていたところ同日晝の休憩時間中から会社工場車体二部に組合員の参集繁く就業時間に至つても集会を続け逐次その数を増し遂に臨時職場大会開催に迄拡大するに至り、その間職場を抛棄して顧みない事態となつた事、右集会並職場抛棄は申請人等が相謀り多数組合員を煽動指揮して爲さしめたもので委員長前田直一の意思を無視して行われたこと、及この爲組合は爾後の交渉に於て不利な立場に追込まれるに至つたことが認められるのであつて申請人等の提出援用する疏明方法によつては未だ右事実を覆すに足りない。このように一部組合員が独断で多数組合員をして就業時間中職場を抛棄し職場大会を開催せしめることはその意図の正否を問わず組合の統制を乱すも甚しいものと謂うべく、從つて申請人等にかゝる事実が存する以上被申請組合の主張する他の事実有無に拘らず右一事を以て組合規約第九條所定の該当事由は之を充足するものと言つて差支えない。
尚申請人等は総会に於ける除名の提案理由は抽象的で無きに均しい旨主張し疏甲第二号証は之に副うやうに見えるけれども証人中本勝市の証言及同証人の証言に依つて其の成立を認め得る疏乙第二号証によると右中本勝市は総会の席上組合の執行委員長として提案理由の説明並申請人等との討論を爲すに当り少くとも前示職場抛棄の事実を指摘強調し只組合員も右事実を知悉していた爲委曲を盡した説明迄はしなかつた丈であることが看取できるから本件除名手続には此の点に付いての瑕疵があるものと謂い難く申請人等の主張は採用し難い。又申請人等は申請人等の單なる政治活動を目して組合規約違反としていると主張するけれども申請人等に前記認定のような事実の存する限り右主張は当らないものと言わねばならない。
以上の次第であるから本件除名決議は有効であり、從つて之に基き爲された被申請会社の申請人等に対する解雇も亦有効のものと謂うべく、該解雇について申請人主張のような瑕疵は認められない。
然らば右除名決議並解雇を無効とし地位の保全を求める申請人等の本件仮処分申請は孰れも失当であるから之を却下すべきものとし訴訟費用の負担に付いて民事訴訟法第八十九條、第九十三條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 坂速雄 宮川種一郎 小林定人)
別紙賃金表<省略>