大判例

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大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)113号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事實)

被告は原告所有家屋を無断造作等禁止、これに違背したときは物件返還の際原告の選択に從い、自己の費用で原形に復するか、又は相当の賠償を為す、契約義務に違背したときは催告を要せず即時契約を解除されるも異議なし等の条件で賃借した。被告は、昭和二十五年一月六日表入口東側の土間に三疊の室一間を作り、又物置の部分にいわゆる鉄砲風呂を据付けた。原告はこれを無断造作等禁止の契約条項に違背するものとして賃貸借契約を解除し明渡を求めた。

被告は造作等の事実は認めるが、三疊の室の造作につき原告に了解を求めたところ原告は之を拒否する態度に出なかつたし、賃借の際権利金二万円を支払つた事情もあるから、原告の暗默の承諾があつたものと解して造作をしたのであり、工事は極めて簡単で且つ賃借家屋との接合点に特に注意し少しも毀損しておらず、又容易に撤去しうるものである。かりに原告の承諾なしとするもこの程度の契約違反では賃借物返還の際の原状回復義務が残るのみであり、相当額の権利金を收受しながら些細のことに言いがかりをつけ契約を解除せんとするのは権利の濫用である。次に風呂についても事前に承諾があり、かりに之なしとするも、その後原告自身及その家族使用人が、被告方に貰い風呂に事た事実あり、即ち事後に承諾を与えたものである。又工事については風呂の炊口を外側に向けるため、壁を巾一尺五寸高さ一尺程度くり拔き、落し水のはけ口を良くするため基礎コンクリートの角を五、六分の深さで削つた程度の損傷を賃借家屋に与えたのみであると主張した。

(判斷)

原告敗訴

判決は権利金の授受及三疊の間の造作につき原告の承諾があるとの被告主張をいずれも排斥し、一応契約違反の存することを認めたが、之を理由とする契約解除の効果について次のように判示している。

「継続的信頼関係を基礎として存続すべき賃貸借契約に於いては、当事者の一方は信頼関係を著しく破つた相手方に対し、契約関係から脱退せしむべき手段を認められることが正義公平の観念に合する所以であつて、(中略)賃借物件の用法を著しく誤つたとか、賃借物件の実体を破壞し、即ち、その物件の存続を危くするような行為があつた場合には賃貸人に契約解除権を認めることは、公平の観念から相当であるし、かかる行為に出でた賃借人は、契約を解除されても、所謂自業自得であつて、賃借物件の返還を求められても、己むを得ないのである。然し賃貸借契約解除の原因となる背信行為は、飽く迄著しいものでなくてはならぬ。賃借人に些細な違反行為があつたことを理由として契約解除をすることは、権利の濫用の外の何物でもない。」

次で右三疊の工事について

「右造作をするについては、本件家屋の本来の柱や敷居、上り縁等にはのみや鋸を使用せず、右造作に用いた木材を組込むようにして建物の本体を損傷せぬように留意し、吊天井の部分にわずかに釘を打ちつけた程度で、之等の造作を後日撤去する際容易に取除くことができ、本件家屋に損傷を与えることを最少限度に留めるよう注意して右造作を為した事実……」及び被告は昭和二十二年十月賃借当時姉及びその子と同居し、昭和二十三年に妻を迎えたところ、本件家屋は二間しかなく、狹い家での姉との同居生活がうまくゆかず―一旦離婚したが、昭和二十四年末に再婚することになつたので、是非とも一室が必要であり、原告にその造作方の了解を求めたが、心よい承諾を得ることが出来なかつた。しかし結婚の為是非共必要なので、右のように家屋を損傷せぬよう注意して、三疊一間を作り、現在そこを夫婦の居室としている事実を認定した。そして

「右認定事実からすれば、被告の為した本件家屋に対する前記造作は、本件家屋の用法に反するとか、家屋を損傷するとか、家屋の価値を低下せしめるものではなく、本件家屋本来の用法である住宅としての効用を增しこそすれ、決して減ずるものではなく、賃借人である被告として真に己むを得ざるに出でたものであることは、之を推認するに難くない。右の如き事情の下に為された本件造作は、形式的には契約に違反するとは云え、被告側に著しい信頼関係を破る行為があつたと認めることができない。そうすると、前記説明の理由に依り、被告の為した右行為が契約違反であるとし、契約解除を為すことは明かに権利の濫用であつて、許さるべきでない。」と断定した。

更に風呂についても、原告の承諾があるとの被告主張を排斥したが、工事の内容方法についての被告主張事実を認め、右と同様の理由により、契約解除に値する著しい背信行為に非ずとして、原告の請求を棄却した。

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