大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)876号 判決
原告 南園義博
被告 中島三津太郎
一、主 文
被告は原告に対し金三十五万円及びこれに対する昭和二十五年四月三日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支拂うべし。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を被告、その一を原告の各負担とする。
この判決は原告勝訴の部分に限り、原告が金八万円の担保を供するときは仮執行ができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金五十五万円及びこれに対する昭和二十五年四月二日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支拂うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に担保を條件とする仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
原告は被告振出に係る金額五十五万円、振出日昭和二十五年四月二日、振出地大阪市、支拂人株式会社大阪銀行梅田支店なる持参人拂式小切手一通の所持人として同年四月三日支拂人に右小切手を呈示して支拂を求めたが、預金不足という理由で支拂を拒絶せられたので、支拂人より右小切手にその旨の記載をうけた。よつて被告に対し右小切手金及びこれに対する右振出の日以降完済まで年六分の法定利息の支拂を求めるものであると述べ、
被告主張の抗弁事実に対し、被告主張の消費貸借の成立した事実並にその計算関係及び一部弁済の事実はすべて認めるが、被告主張の各貸借は小切手債権に更改されたものであり、仮にそうでないとしても、原告が元金に組入れたのは損害金であつて利息ではないから原告が一且損害金を組入れた以上、利息制限法の適用をうけないと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求原因事実は全部認めると述べ、
抗弁として、本件小切手の振出原因たる原被告間の貸借関係につき、
「被告は原告から(一)昭和二十四年二月二日金二十万円を利息月一割弁済期同年四月二日(二)同年四月二日金五万円を利息前同様、弁済期同年六月二日(三)同年八月二日金五万円を利息前同様、弁済期同年九月末日(四)同年九月末日更に金五万円を利息前同様の各約束で借受けたが、右(一)乃至(三)の借受金に対する利息を支拂わずに借増の都度元金に組入れてきた結果右(一)乃至(三)の元金は同年九月末日現在で金四十九万円に達した。
被告は右元金四十九万円及び右(四)の元金五万円に対する同年十月分より同年十二月分までの月一割の割合による利息は毎月金五万四千円宛支拂を了し、昭和二十五年一月分の利息合計金五万四千円のうち金四万四千円を支拂い、残金一万円の未拂となつていた。そこで、昭和二十五年二月二日右未拂利息一万円を前記元金四十九万円及び(四)の元金五万円の合算額に組入れ、元金五十五万円、利息前同様、弁済期同年四月二日の消費貸借に改めた。本件小切手は右金五十五万円の元金の支拂のために振出されたものである。
右のような次第で、右元金五十五万円のうち被告の実際借受けた元金は金三十五万円で、その余は利息である。しかも被告は前述のようにすでに利息として合計金二十万六千円を支拂つている。從つて原告の本件小切手全額の請求は、利息制限法に違反するばかりでなく、著しい暴利行爲として民法第九十條に違反するものである」と述べた。<立証省略>
三、理 由
原告主張の請求原因事実はすべて被告の認めるところである。
よつて被告主張の抗弁につき考察する。
本件小切手が振出されるに至つた原因関係として、被告が原告から(一)昭和二十四年二月二日金二十万円を利息月一割弁済期同年四月二日(二)同年四月二日金五万円を利息前同様、弁済期同年六月二日(三)同年八月二日金五万円を利息前同様、弁済期同年九月末日(四)同年九月末日更に金五万円を利息前同様の各約束で借受けたことは当事者間に爭いがなく、原告本人訊問の結果並に成立に爭いのない甲第一号証に右事実を合せ考えると、被告は右(一)乃至(三)の借受金に対する利息を支拂わなかつたので、原告は右借増の都度それまでの利息を順次元金に組入れ、右(一)乃至(三)の関係で昭和二十四年九月末日現在における元金が金四十九万円に達したこと、被告が右金四十九万円の元金及び右(四)の元金五万円に対する昭和二十四年十月分より同年十二月分までの利息は毎月合計金五万四千円宛支拂い、更に昭和二十五年一月分の利息中四万四千円を支拂い、同月分の末拂利息一万円を前記元金合計五十四万円に組入れて元金五十五万円とし、利息月一割、弁済期同年四月二日と定めたこと右元金五十五万円につき本件小切手が振出されたことが認められる(尤も利息として組入れた点及び利息として支拂つたとの点を除き爭いがない)。しかも特別の事情の認められない本件では右小切手は前記元金五十五万円の支拂確保のために振出されたものと解すべきである。
ところで、右認定のように、本件では月一割という高利を極く短期間内に順次元金に組入れたため実際の貸付総額が金三十五万円であるのに僅か一年(それも最初の貸付日から起算して)の後に忽ち元金五十五万円の巨額に達したものであつて、利息制限法の精神及び公序良俗の原則に照して考えるとき、かかる組入行爲はたとい債務者の承諾ある場合でも実際の貸付額に対する一年内に利息(遅延損害金の場合でも同様)が利息制限法の制限を超過する範囲において無効といわなければならない。
そこで次に本件の場合原告になお組入をする余地があるかどうかにつき檢討してみるのに、被告が昭和二十五年二月二日までに利息として合計金二十万六千円を原告に支拂つており、この支拂分が昭和二十四年十月分までの利息合計金十六万二千円と昭和二十五年一月分の利息中金四万四千円を包括したものであることは叙上の通りである。從つて、前記(一)乃至(三)の貸付元金に対する各貸付日より昭和二十四年九月末までの利息はまだ支拂われていないような外観を呈するけれども、被告の支拂つた右利息金二十万六千円のうちには無効の組入行爲に基ずいて算出された元金十九万円(前記金四十九万円の元金のうちの)に対する月一割の利息も含まれていることも叙上の通りであるから、この分が右未拂の外観を呈する利息のうち利息制限法の制限範囲内の利息を優に償つて余りあるものというべきである。それゆえ、原告が前記貸付総額三十五万円に対して組入れ得る利息は毫も存しないといわなければならない。從つて前記金五十五万円の消費貸借は金三十五万円の限度においてのみ有効というべきである。
以上の次第で、原告の本訴請求のうち、金三十五万円及びこれに対する呈示の日である昭和二十五年四月三日以降完済まで年六分の法定利息の支拂を求める限度においては理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條、仮執行の宣言につき同法第百九十六條を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 木下忠良)