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大阪地方裁判所 昭和25年(ヲ)19号 判決

申立人が金壱百万円の保証を立てることを條件として、当裁判所が昭和二十五年(ヨ)第二五号仮処分命令申請事件につき同年一月二十七日爲した仮処分決定は之を取消す。

訴訟費用のうち参加に因つて生じた部分は之を参加人の負担とし、その余は全部之を被申立人の負担とする。

この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

申立人代理人は、「保証を立てることを條件として主文第一項掲記の仮処分決定を取消す。」との旨の判決を求め、その申立の理由として、

被申立人はさきに申立人を相手方として当裁判所に対し、「申立人は被申立人の有する特許番号第一七九八五八号ビンゴゲームの競技装置に類似するジヤンボーゲームの競技装置を使用してその営業を爲し以て被申立人の有する前記特許権を侵害している。」と主張して申立人の前記営業を禁止する旨の仮処分命令を求め、当裁判所は右申請を容れて主文第一項掲記の仮処分決定を爲し、この決定は昭和二十五年一月二十八日申立人に対して執行せられ、爲に申立人は同日以降前記営業を行うことができず、その結果(一)申立人が右営業に投下した資本百五十万円が無爲に帰し、(二)右装置がそのままその場所に存置せられていたためにその営業場が他の目的に使用できなかつたことにより同日から同年四月六日迄の間において金二十万七千円(一日三千円)の得べかりし利益を喪失し、(三)古くから大阪市新世界において建築請負営業及び劇場経営をしてきた申立人がその名譽及び信用を失墜せしめられ、(四)右ジヤンボーゲーム営業のために申立人により雇入れられた從業員十余名がその職を失うに至つてその生活に脅威を受け、(五)申立人がこの営業により得べかりし一ケ月金十三万五千円の利益(純益)を喪失し、(六)更にこの種営業の常としてその生命極めて短く申立人が後日本案訴訟において勝訴の判決を受けても、最早その時には社会人心はこの競技に興味を失い、從つて申立人はこの営業を再開し得ない結果となる等回復すべからざる損害を受けている。他方被申立人が本件仮処分によつて保全せんとする権利乃至利益は、右有すと主張する特許権を利用して前記ビンゴゲームの営業を行い以てその收益を挙げんとするにあつて、金銭的補償によりその終局の目的を達しうべきこと勿論であるから、以上述べた各事実を特別の事情として本件仮処分決定の取消を求める。

尚被申立人は本件仮処分決定の爲された後前記特許権を参加人に譲渡し現在においては右特許権を有する者に非ず本件仮処分を維持するにつき利益を有しない者であるから、この点をも併せて特別事情の一として主張する。但しこれは事情変更による取消を併合主張するものではない。

と陳述し、参加人の参加に対し却下の裁判を求め、

参加人は被申立人からその有すと主張する特許権を譲受けたに止まり、本件仮処分の関係においては何等その地位を取得したものではないから、その参加の申出は不適法である。

と述べた。<立証省略>

被申立人代理人は申立却下の判決を求め答弁として、

申立人がその回復すべからざる損害として主張する事実のうち、(一)の資本投下の点は知らず、(二)の損害及び(三)の名譽、信用失墜の各点はこれを否認し、(四)の從業員の失職の点はこの種の仮処分に通常伴う損害であり、(五)の損害及び(六)の点はむしろ申立人の受けることあるべき損害が比較的少額であることを申立人自ら自白せるものというべく、被申立人の立てた保証によつて充分償われうるからこれを援用して申立人に回復すべからざる損害の発生する可能性の無いことの疎明とする。

そうして申立人主張の右(一)乃至(六)の事実が仮りに存するものとしても、それは本件仮処分を取消すべき特別事情たりえないものであるのみならず、右仮処分が取消されるときは申立人が代表取締役たるビーオーエー興業株式会社は直ちにその活動を開始し、前記ジヤンボーゲームの競技装置を使用して全国各地でその営業を行つて被申立人が全国百七ケ所において営業中のビンゴーゲームと不正な競爭を敢行し以て被申立人の右営業に脅威を與え、その從業員千数百名の生計を脅す結果となるから、この点のみを考えても本件仮処分を取消すべき特別事情は存在しないものといわなければならない。

その上(一)申立人は本件仮処分の執行を受ける迄その営業所に実用新案の登録を受けずにその登録あるかの如き表示を爲し、(二)申立人が代表取締役たる前記会社は大阪市内は勿論廣島、金沢等に大々的に本件ジヤンボーゲームの実施権を賣却し特許の登録を受けないのに、その契約書に特許権あるもののように表示し、且つそのように使用料として入場券数に應じて一定の歩合を取得し、(三)更に同会社と契約した相手方のジヤンボー競技場にも競技装置が実用新案権又は特許権あるかのような表示をしているが、以上(一)(二)(三)の各行爲は実用新案法及び特許法に違反する犯罪行爲であり、又刑法第二百三十三條所定の「僞計ヲ用ヰテ人ノ信用ヲ毀損シ若ハソノ業務ヲ妨害シ」たものに該当するものであるから、本件仮処分を取消すことは右犯罪行爲を助長する結果となつて公共の秩序を侵害することになるのは勿論であり、從てかかる行爲を爲さんとしてせられた本件申立はその権利を濫用するものと、いうべくこの一事によつても本件仮処分を取消すべからざる反対事情となるべきものである。

と陳述した。<立証省略>

参加人代理人は、「本件申立を却下する。申立費用は申立人の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

本件訴訟の目的たる第一七九八五八号特許権はもと被申立人においてこれを有していたところ、参加人は昭和二十五年二月十日これを被申立人から譲受け、同年三月二十五日その登録を了した。從て申立人被申立人間の主文第一項掲記の仮処分決定は民事訴訟法第二百七條、第二百一條により参加人にもその効力を有するものであるところ、申立人はその取消を求めるので参加人は同法第七十一條により本訴訟に参加して被申立人の答弁を援用し前記趣旨の判決を求める。

と陳述した。

三、理  由

先ず参加人の本件参加申出の当否について判断する。

参加人は本件仮処分により保全せられる権利を被申立人から譲受け、以て本件仮処分債権者たる地位を承継したとなし、民事訴訟法第七十一條に依る参加の申出に及んだものであるところ、同法第七百五十六條に依り仮処分に準用せられる同法第七百四十九條に依れば、仮処分命令の執行については当事者に承継ある場合に限り執行文を附記することを要するものとせられてあり、このことは仮処分訴訟においては單にその仮処分に依り保全せられる権利を取得したことのみによつて当然に仮処分債権者たる地位を取得するものではなくて必ず執行文の附與を受けてその者のために仮処分の執行が続行せられるに至つて、始めて右債権者たる地位を取得するに至るものとしたものであることを窺うに充分であり、尚仮処分取消訴訟においては仮処分債権者を以て被申立人(正当なる当事者)となすべきこと勿論であるから、本件参加の申出に対する申立人の異議はこの点において理由があり、本件参加の申出は之を不適法として却下しなければならない。

然しながら参加人が本件仮処分に依り保全せられる権利の基本たる特許権を被申立人から譲受けたことは申立人の爭わないところであり、かかる者が本件仮処分取消訴訟の結果に付民事訴訟法第六十四條にいわゆる利害関係を有する者といいうべきこと勿論であつて、本件参加の申出は、参加人が反対の意思であることの認められない本件において、之を同法第七十一條によるものとして不適法である場合には同法第六十四條によるそれと解するのが相当であるから、この点において本件参加の申出は適法であり、之に対する申立人の異議は失当として之を排斥する。

そこで本案について判断する。

被申立人の申請に依る主文第一項掲記の仮処分申請事件に付申立人主張のとおり仮処分命令があり、その執行が爲されたことは被申立人の明らかに爭わないところである。

そうして成立に爭のない甲第一、第二号証の各一、二、第四、第五号証、証人中井正二郎及同林祐三の各証言並同証言に依りその成立を認めることのできる甲第一号証の三、四、第二号証の三乃至七を総合すると、申立人が本件仮処分の執行を受けたことにより(一)その営むジヤンボーゲーム営業に投下した資本が無益に帰し、(二)右営業により取得し得べかりし利益を失い、(三)その名譽信用を失墜し、殊に(四)此種営業がその性質上極めて短日月の生命を有するものであるために、後日本案訴訟において勝訴の判決を受けても最早その営業を再開することができなくなるに至るであろうこと及(五)申立人が右営業において使用していた十数名の從業員がその職を失う結果となり、同人等は一時申立人の営む他の営業に轉用せられているけれども、唯一時の轉用に過ぎず猶も右ジヤンボーゲームの再開を待望んでいるものであることの各事実が一應認められ、この事実が本件仮処分取消申立の理由たる特別事情の一としての回復し難き損害といいうべきこと勿論であり、尚被申立人がその有すと主張する特許権を実施してそのビンゴーゲーム営業を営み、以てその收益を挙げるものであり、この権利を保全するため本件仮処分に及んだものであることは弁論の全趣旨に依り明らかであるから、右被申立人の権利が金銭的補償を受けることによりその終局の目的を達しうべきものであることも亦明らかであり、以上に依つて本件仮処分は之を取消すべき特別の事情あるものといわなければならない。

この点について被申立人は前記認定に係る申立人の損害は此種仮処分に伴う通常のそれであつて特別事情たるべき特別の損害となすに足りないものと主張し、又本件仮処分の取消を受けるときは被申立人が之に依り受くべき損害額が巨大且立証著しく困難であつて、かかる場合には右取消についての特別事情無しとしなければならないと主張するけれども、前者についてはその然らざること既に説明したところであり、後者についてはその保証金の額を考慮することにより取消は可能であるから、右被申立人の主張は何れも失当として之を排斥する。

被申立人は更に、申立人又はその主宰するビーオーエー興業株式会社において特許法、実用新案法に違反し又刑法第二百三十三條所定の犯罪行爲を敢てし從つて本件仮処分を取消すときは右犯罪行爲を助長する結果となるから、之が取消は許すべからざるものと主張するけれども、仮に申立人等がかかる犯罪行爲を敢行しているものであつても、それが申立人の営む業務に必然的に随伴するものということはできないから、かかる行爲の禁止は之を別途に考うべきであつて、そのことの故を以て本件仮処分を取消すべからざるものとすることはできず被申立人のこの主張も亦失当である。

尚申立人は本件取消を求める特別事情の一として被申立人が有すと主張する特許権が参加人に譲渡せられたとの事実を主張するが、右の事実が前記特別事情となりえないことは、参加人が本件仮処分命令に執行文の附與を受けることにより仮処分債権者たる地位を取得し、その執行はこの者のために続行せられうるのであることを考えても明らかであり、右申立人の主張は失当である。

次に証人渡部日出夫の証言に依ると被申立人の取得し参加人に譲渡せられたと主張せられる本件特許権を実施して現在全国各地約六十ケ所においてビンゴゲームの営業が行われていることが疎明せられ、この事実によれば本件仮処分を取消すことに依り申立人自身がジヤンボーゲームの営業を再開することができるのは勿論他にも右ジヤンボーゲームの営業を開始する者が出現して、前記ビンゴーゲームの営業と競爭するに至り、更に他の種類の右競爭的のゲームの営業を行う者の出現し、これらが右ビンゴゲームの営業に相当の打撃を與えるに至るであろうことは看易い道理である。

よつて以上の諸点を総合勘案して本件仮処分は之を取消すべく、右取消につき申立人の立つべき保証を金壱百万円と定め、尚訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條第九十四條仮執行の宣言について同法第百九十六條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内貞次)

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