大判例

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大阪地方裁判所 昭和25年(行)18号 判決

原告 丸一製材株式会社

被告 東成区長

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十五年二月九日原告に告知した金額各十万九千八百円の不動産取得税および同附加税の賦課処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は昭和二十四年二月二十五日設立登記せられた製材および木材販売を主たる目的とする会社であるが、被告は原告が大阪市東成区中道本通二丁目八十二番地上に木造板葺工場建物一棟、建坪九十一坪五合、評価額百十九万八千円(坪当り一万二千円)を昭和二十三年十二月二十五日竣工取得したとして、昭和二十五年二月九日原告に対し不動産取得税および同附加税金額各十万九千八百円の賦課の告知をなした。しかしながら右課税処分は違法である。即ち右の建物は原告会社取締役前田竜一がその長男前田治吉名義で昭和二十三年十一月二十日大阪府知事より建築認可を受け製材工場として建築中、その完成に先立ち許可なくしてその構造を興業場に変更したため臨時物資需給調整法違反として検挙せられたので、右建築の続行を中止した。その後原告会社は昭和二十四年七月二十一日右訴外人より建築中の右建物を譲り受け、大阪府知事に対し建築主変更、設計変更、増築の認可申請をなし、昭和二十五年二月四日その認可を受けたが、未だその工事に着手していないものである。以上の次第であるから、原告会社はその設立以前である昭和二十三月十二月二十五日に本件建物を取得する筈がないのみならず、本件建物は訴外前田竜一が認可を受けた建物としても原告会社が認可を受けた建物としても未だ竣工に至つていないのであるから、原告会社に対しこれによる不動産取得税を賦課すべきではない。かりに原告会社に対し本件建物取得による不動産取得税を賦課することができるとしても、原告会社はもとより訴外前田竜一も製材業者であるから建築資材も安く入手できるし建築に要する労働力も保有している関係上、本件建物は普通より安く建築できたのであつて、坪当り七千円をもつてその課税標準と決定すべきであり、前記の課税標準による本件賦課処分は高額に失する。よつて右賦課処分の取消を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、被告の本案前の抗弁に対し、「本件不動産取得税は府税であり、その賦課権が訴外大阪府にあることは認めるが、訴外大阪府知事がこの権限に基き被告に対し徴税命令書を発し、被告はその命令書により徴税伝令書を調製し、これを原告に交付したのであるから、税の収納の根源が大阪府にあるとしても、原告に対し具体的に不動産取得税の賦課行為をなしたのは被告であつて訴外大阪府知事ではなく、従つて本件不動産取得税の賦課処分の取消を求める訴の被告を被告東成区長とした本訴は適法である。又原告は被告より本件不動産取得税徴税伝令書および右附加税徴税令書を受領するや直ちに被告に対し口頭をもつて異議の申立をし、その後数回に亘つて口頭の異議を繰返したのに拘らず、被告は勿論訴外大阪府知事も今日に至るまで何等異議の決定をしていないのである。地方税法は第二十一条第八項(昭和二十三年法律第百十号地方税法。以下単に地方税法というはこの法律を指す)において地方税の賦課処分に対する異議の決定に関しては地方自治法第二百五十七条第三項の規定を準用することにより文書を要することも明かにしているに反して異議の申立そのものについては何等方式を明定していない点から考えるときは、異議の申立には何等の方式を要せず口頭をもつても足る趣旨であると解すべきである。そしてこのように原告が数回に亘つて異議を申立てたのに拘らず被告が何等の決定を与えなかつたことは行政事件訴訟特例法第二条但書にいわゆる行政庁に対する不服申立の裁決を経ないで訴を提起するに正当の事由ある場合に該当するから本訴は適法である。」と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、その理由として、

「一、不動産取得税はその不動産所在の道府県においてこれを賦課するものである(地方税法第八十八条)から、本件不動産取得税は大阪府知事が賦課したものであり、ただその徴収手続として、市町村が道府県税徴収の義務があるところから(同法第十六条)、大阪府知事が被告に対し徴税命令書を発し、被告が右命令書により徴税伝令書を調製して原告に交付した(同法第十八条)にすぎないのである。従つて府税たる不動産取得税に関する限り東成区長を被告とした本訴は被告を誤つた不適法な訴である。

二、地方税法第二十一条第五項によれば道府県税の賦課について不服あるときは道府県知事に異議の申立を、市町村税の賦課について不服あるときは市町村長に異議の申立を、更に右市町村長の決定に不服あるときは道府県知事に訴願をし、それぞれの裁決を経た後でなければ裁判所に出訴できない旨を定めているが、原告は何ら右の手続を経ないで直ちに本訴を提起したものである。かりに原告は口頭をもつて被告に異議を申立てたとしても、異議申立の方式については何ら定めはないものの、このような場合は一般法である訴願法第五条の定めるところに従い文書をもつてなすべきであつて、このことは法が異議申立を文書をもつてなすことを要求している(地方税法第二十一条第八項、地方自治法第二百五十七条第三項)ところからも明らかであろう。かりに異議申立について口頭をもつて足ると解しても、原告は大阪府知事に対し府税である本件不動産取得税について異議申立を、不動産取得税附加税について訴願を経ていないこと前述の通りであるから、いずれにしても本訴は不適法である。」と述べ、

本案の答弁として、「原告の請求を棄却する。」との判決を求めその理由として、「被告は、訴外大阪府知事が原告に対し本件建物につき不動産取得税として原告主張の通り賦課処分をなしたので、被告は右府税本税を基礎として大阪市条例第六十一条、大阪市税条例第六条第一項第十三号に定める課率により原告主張の不動産取得税附加税を賦課したのであるから、被告の右税の賦課には何らの違法がないのみならず、本件建物は訴外前田竜一が建築し昭和二十三年十二月二十五日劇場として竣成した(同日には本件建物で演劇が催された)ので、昭和二十四年一月中旬頃、右訴外人より提出の不動産取得届に基き同年二月七日右訴外人に対しこれによる不動産取得税および同附加税の賦課処分がなされたところ、原告会社が「右建物は原告会社の所有となり原告会社より不動産取得届を提出するから、訴外前田竜一に対する前記賦課処分は取消されたい。」と申出で、同年三月三十一日改めて本件建物に関する不動産取得届を提出したので、訴外大阪府知事および被告は前記賦課処分を取消し、改めて原告に対し原告主張の不動産取得税および同附加税の賦課処分をなしたのである。以上のように右建物に関する建築許可の内容如何に拘らず既に事実上劇場として竣成した建物をその後において原告会社が取得したものと認めて課税したのであるからこの点において何等の違法がないのみならず、本件建物の評価についても、その時価を客観的に評価すれば足るのであつて、訴外前田竜一や原告会社が製材業者であつて普通より安く建築し得たか否かの主観的事情は考慮する必要がないのである。」と述べた。(証拠省略)

三、理  由

被告が昭和二十五年二月九日原告に対し金額十万九千八百円の不動産取得税徴税伝令書および同額の同附加税令書を交付したこと、そのうち不動産取得税については、訴外大阪府知事が大阪市の事務を分掌する東成区に対し徴税命令書を発し、被告東成区長はその命令書により右徴税伝令書を調製したものであることは当事者間に争がない。

そこで、右不動産取得税賦課処分を不服とする訴訟においてはいずれの行政庁を被告とすべきかについて考えよう。

不動産取得税はその不動産所在の道府県がこれを課するものであるから(地方税法第八十八条)、不動産取得税賦課処分の処分庁は道府県の執行機関である道府県知事であると結論することができよう。道府県知事が市町村に対し徴税命令書を発するのは(地方税法第十八条第一項)、道府県より市町村に対し不動産取得税の賦課処分自体を委任するものではなく、賦課処分の伝達と税金の徴収とを委任するものと解すべきである。行政事件訴訟特例法第三条において処分行政庁を被告とすべき旨を定めているのは、処分行政庁はその行政処分を決定した関係上その訴訟の当事者として訴訟上の攻撃防禦の方法を講ずるのに最も適当であるためにほかならないが、不動産取得税は道府県知事がその内容を決定するものであつて、道府県知事の徴税命令書により徴税伝令書を調製してこれを納税者に交付する市町村長は、その内容に関しては与り知らないのであるから、不動産取得税賦課処分不服の訴の当事者としての責に任ぜしめるのに適しないこというまでもなく、右賦課処分に対する異議の申立について法が道府県知事に対しこれをなすべきことを定めている(地方税法第二十一条第一項)のもこれがためにほかならない。よつて本件不動産取得税賦課処分の処分行政庁は訴外大阪府知事と解すべきであり、従つてその不服の訴は右訴外知事を被告とすべく、東成区長を被告とすべきではないから、本訴は被告を誤つたものである。

つぎに本件不動産取得税附加税賦課処分不服の訴の適否について考えよう。

地方税法第二十一条第五項によれば市町村税の賦課について不服あるときは市町村長に異議を申立て、右市町村長の決定に不服あるときは道府県知事に訴願をし、その裁決を経た後でなければ裁判所に出訴できない旨規定されているが、証人上田清一、和田伝三、米田久夫の証言および原告代表者本人訊問の結果によれば、東成区役所税務課審査係長訴外上田清一は原告が原告主張の建物を取得したことによる不動産取得税課税標準としての当該不動産の価格の査定につき原告代表者高谷喜三郎と度々折衝を重ねたが、両者の評価に差異があつて結局意見の一致を見ず、右訴外人の意見に対する原告代表者の納得のないままにその見積価格を課税標準とする本件不動産取得税および同附加税の賦課処分があつたわけであるが、右賦課処分の後は右訴外人と原告代表者とが個人的に二、三度そのことを話題としたのみで異議申立の意思表示をせずに直接本件訴を提起するに至つたものであることを認めることができる。従つて本訴は前記地方税法第二十一条第五項に違反するものである。

よつて本訴はいずれも不適法としてこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 浜本一夫 鈴木敏夫 坂井芳雄)

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