大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)2354号 判決

原告 古川浩

被告 株式会社新大阪ホテル

一、主  文

被告会社が昭和二十六年八月二十五日大阪商工会議所に於て開催した臨時株主総会に於て為した定款変更決議中第七条第四項第三号「三、全部ヲ一時ニ償還セザルトキハ償還金額ハ特種株式全部ニ按分ス」及び同条第五項中「全額償還ノ場合ハ」「一部償還ノ場合ハ株券ニ其ノ旨ノ記載ヲ受ケ」「全額若クハ残額全部ノ」との部分は無効であることを確認する。

原告その余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は之を四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

二、事  実

原告は「被告会社が昭和二十六年八月二十五日株主総会に於てなした定款変更の決議並に役員報酬増額の決議は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、次のとおり陳述した。

原告は被告会社の五十株の株主であり、被告は大阪市の社会施設として、同市民の熱情によつて設立された資本金三百万円の株式会社であるが、被告会社は昭和二十六年八月二十五日午前十時から大阪商工会議所に於て臨時株主総会を開催し、第一号議案定款変更の件として同会社定款第五乃至第八条を次の如く変更する議案を提出し、同議案は右総会に於て可決された。

定款第五条「当会社ノ発行スル株式ノ総数ハ二十四万株トス。」

第六条「当会社ノ株式ハ額面株式トシ一株ノ金額ヲ金五十円トス。」

第七条「当会社ガ発行スル株式ハ内十二万株ハ普通株式、十二万株ハ特種株式トス

特種株主ハ毎決算期ニ於テ配当シ得ベキ利益金ヨリ券面額ニ対シ年一割ニ達スル迄普通株主ニ優先シテ配当ヲ受クル権利ヲ有シ、若シ当該決算期ニ於ケル配当ガ其ノ金額ニ達セザルトキハ不足額(但シ利息ヲ加算セズ)ハ後ノ決算期ニ於ケル配当シ得ベキ利益金中ヨリ先取スルモノトス。

(第三項略)

特種株式ハ優先株式トシ当社ノ都合ニヨリ左ノ方法ニテ償還シ得ルモノトス。

一、償還ノ期限ハ発行後三年内トシ各配当ノ支払ノ時期ニ於テ償還ス。

二、償還ノ価額ハ一株ニ付金五十円ニ償還ノ時期迄ノ配当不足額ヲ加算セル額トス。

三、全部ヲ一時ニ償還セザルトキハ償還金額ハ特種株式全部ニ按分ス。

償還スベキ株式ノ株主及登録質権者ニ対シテハ償還ノ日ノ三十日前迄ニ之ヲ通知シ、通知後償還ノ日迄ニ当社ハ償還ニ要スル金額ヲ銀行ニ預託シ、被通知者ハ其ノ銀行ニ株券ヲ提出シ、全額償還ノ場合ハ之ト引換ニ一部償還ノ場合ハ株券ニ其ノ旨ノ記載ヲ受ケ償還金ヲ受取ルモノトス。全額若クハ残額全部ノ償還ニツキ預託アリタルトキハ爾後償還スベキ株式ノ株主ハ償還金ノ受領以外一切ノ権利ヲ失フモノトス。

特種株式ヲ償還セルトキハ当社ハ其ノ株式数ト同数ノ普通株式ヲ発行スル事ヲ得。」

第八条「当会社ハ取締役会ノ決議ニヨリ株主ニ対シテ新株ノ引受権ヲ与フルコトヲ得ルモノトス。」

一、定款第八条新株引受権に関する規定について、

被告会社の株式数は従来六万株であつたが、右定款第五条により総数二十四万株まで発行し得ることとなり、その差十八万株がいわゆる授権資本として今後増加される株式となるのであるが、之について商法第三百四十七条第二項により株主に対し新株引受権を与え制限し、又は排除する旨を定款に規定しなければならないのに、右決議に於て、被告はただ右第八条の如き規定をなしたのである。しかし乍ら、右商法の規定の精神は、同事項に関してはあたかも株主総会の特別決議を以て決せしめると同一の趣旨で決定せしめようとするにあると解せられるから、右第八条の如くこれを単なる取締役会の決議によつて与えることができるとすることは、法の精神に反して無効である。もしかかる定款を適法なものとするならば、会社の取締役は新株の発行に関し取締役会の決議を以て専横な処理をなし、以て自ら多数の新株を引受け会社に対する支配力を確定し、同時に株価に対する利益を貪り解散の場合に多額の残余財産を獲得し、若くは会社の目的外の事業を計画する上に於て決定力を得ようとする不正の考えに出る場合もあるであろう。元来、取締役会は株主に新株引受権を附与し、制限し、排除する権能を有しないのである。即ち新法に於て取締役会の権限は拡大されたが、その権能は自ら限定されている。取締役会は会社の意思決定機関であり、その意思決定は法令又は定款により株主総会の権限とされた事項には及び得ない。会社の基礎的事項は当然株主総会の権限に属するが、ただ新法に於て新株発行のように従来基礎的事項とされたもので、業務執行に準じて取締役会の権限に属せしめるに至つたものもないではない。しかし新株発行はさておき、新株引受権については、これは株主の重要な利益に関する事項であるから新法に於ても依然株主総会の権限とされ、定款の規定を以てしてもそれを取締役会の権限に委譲することはできないのであつて、このことは立法に参劃した人々の定説として動かすことのできないものである。而して、新法が新株引受権に関する事項を定款の絶対的記載事項とした趣旨は、それが会社の活動の根本にかかわる事項であるためではなく、株主に与える利害が重大であることによる。被告は右のような規定の仕方は、論理上「当会社の株主は新株引受権を有しない」と云うことを必然の前提とするから結局適法であると答弁するが、「与えることが出来る」と云うことが「有しない」と云うことを必然の前提としており、従つて「与えることができる」との記載が株主の新株引受権を排除したものに相当すると云うことは途方もないこじつけであつて、もし被告会社が左様な趣旨で該定款の議案を株主総会に提出したものであるとするならば、これは明かに株主総会を欺罔したものであると言わねばならない。凡そ会社の定款は裏の裏がある謎のようなものであつてはならない。定款で株主に新株引受権を与えないと規定しておき、後になつて与えることは差支えないと云うのは新法に対する一般的解釈であつて差支えないが、与えるのはあく迄も会社であつて、定款に規定することにより与えらるるものである。従つて仮に被告会社の定款第八条のような規定の仕方で商法にいわゆる株主の新株引受権を排除したことになるとしても「取締役会の決議を以て与うる」と云う事自体が商法に反するのであつて、結局このような定款を議決した株主総会の決議は無効たるを免れない。

二、定款第七条特種株式に関する規定について

次に定款第七条に規定する特種株は優先株であつて、かかる株式の株主は商法第三百四十七条第二項に所謂一般株主以外の「特定の第三者」に該当するものであるが、右定款の規定はこの株主となり得るものの中には普通株主も亦含まれるものであるかどうかを明らかにせず、即ち何人を以て特定の第三者とするのであるかが明らかにされていないから前記「特定の第三者」を規定したものと云えず、結局優先株の新株引受権について明定を欠き、この点に於て同規定は無効である。事実問題として、被告会社は昭和二十六年十一月十五日取締役会の決議を以て普通株主に対しては何ら募集のことを知らせる事なく、右特種株を大阪銀行、三和銀行、大和銀行、富士信託銀行に各一万二千株宛、日本生命、大同生命、国民生命に各二万四千株宛合計十二万株を一株五十円払込で引受けしめたのである。当時被告会社の五十円払込の株は市価九百円であり、之を右特種株発行にあたつては額面通りに、而も一般株主には応募させずに右特定の銀行及び保険会社にのみ引受けしめたのであるから、これは明らかに法律にいわゆる特定の第三者に新株引受権を附与したものであり、定款に規定した上でなければ実行し得ないにも拘らず、被告会社は何らこの点に関し定款に規定するところがないのである。又普通株十二万株に対し、別に十二万株の優先株を発行することは、普通株の株主に対し、その受くべき利益を半減させる上に、常に優先的利益ばかりを冐すこととなり、普通株主が会社創立当時から約束された奪うべからざる固有の権利を冐し、利益を害するものであるばかりでなく、右特種株は株主に配当すべき利益によつて消却される償還株式でもあるから、かかる優先株の発行を認めるためには株主全員の同意を要すべきものであるに拘らず、かかる同意なくして為された定款変更決議は無効である。

更に右定款は償還株式の償還方法につき、一株の金額の内の一部の償還を認めているが、之は会社解散の際の残余財産の分配などとは異り株主の平等を害し、且つ前記定款第六条に反する。

定款第七条は特種株式を償還株式とする旨のみを規定して資本減少の規定に従つて株式の消却を行うのか、或は又株主に配当すべき利益を以て消却するのか、いずれの旨も明らかにしていないから違法である。もし株主に配当すべき利益金を以て消却する趣旨であるならば、特種株主に対してのみ利益金による償還を行うのは株主平等の原則に反する。

定款に償還基金の積立に関する規定を欠き、「当会社ノ都合ニヨリ左ノ方法ニテ償還シ得ルモノトス」と規定して都合により償還することありしない事もあり、と云うような規定をしていることは、償還株式発行の必要条件を完全に規定していないことに帰着する。

定款第七条末項は特種株式を償還すれば、それと同数の普通株式を発行出来ると規定しているが、既に一度発行した以上、それを消却しても再び未発行株式となるものでないから、例えば一たん会社の発行する株式総数の限度一杯に株式を発行すれば、それ以上の発行は法の禁ずるところとなり、右規定は無効である。

以上諸点によつて定款第七条を議決した本件決議は無効である。

三、役員報酬増額について

次に右株主総会に於て、第三号議案役員報酬増額の件として従来半期(六ケ月)につき百五十万円であつた役員報酬を一ケ月四十万円以内の増額するとの議案が可決されたが、当時被告会社の営業の主体たる新大阪ホテルは占領軍に接収使用され会社の事務極めて閑散である上、常勤以外の重役は他に本業を有する人であり、従来の年三百万円の報酬ですら被告会社の資本金と同額である。尚且つその上に役員等は毎半期毎に数十万円の賞与金をとつていたのであり、今この報酬を年にして更に百八十万円も増額する如きは役員等の横暴も甚だしく、右決議は不当である。

又右決議に於て、取締役、監査役の受くべき報酬を一括合計した限度額が議決され、その報酬額を役員間に如何に分配するかは取締役会に一任されたのであるが、これを以てしては、未だ法の規定する取締役の受くべき報酬、監査役の受くべき報酬の額を定めたことにはならない。即ち右決議では報酬の範囲をきめた事にはなつても額をきめたことにはならない。況んや会社と取締役との間の関係については委任の規定が適用され、取締役各人が皆特別利害関係人と云う立場に立たされるので報酬のうちいくらを取締役の報酬とするかは、自ら決定することが出来ないこととなる。又監査役の受くべき報酬の額についても、取締役会には之を決定する権能が与えられていない。監査役が幾何の額の報酬を貰うかの決定が取締役会に一任され、監査役が取締役会のあてがい扶持をもらうなどと云うことは、一般の良識から考えても不都合であるばかりでなく、会社の独立した機関である監査役を恰も会社の傭員である如く扱い。取締役に隷属せしめる結果となり、取締役の横暴を来たし、株式会社の本質を紊すものである。以上いずれの点からみても前記役員報酬増額の決議は無効である。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

原告が被告会社の五十株の株主であること、被告が昭和二十六年八月二十五日臨時株主総会を招集し、商法中一部改正法律施行等に伴い原告主張の如き議案を附議し、原案通り可決したこと。及び原告から第一号議案の第七条と第八条及び第三号議案の内容が違法であるとの異議がのべられたこと、並に被告会社役員の従来の報酬額が原告主張の通りであつて、前記第三号議案可決の際役員各自の取得分は取締役会の決議を以て定めることとの決議がなされたことは、之を認める。しかし乍ら原告が右決議に対し違法、不当であると述べる理由は、次のとおりすべて是認出来ない。

一、定款第八条新株引受権に関する規定について

定款で株主に新株引受権がないとの原則を定めながら、他方新株の発行に当り取締役会が相当と認める場合、その決議を以て株主に新株引受権を与えることが出来ると規定することは、定款で新株の引受権を排除するものであるから適法と解すべく、従つて被告会社の如く「当会社ハ取締役会ノ決議ニヨリ株主ニ対シテ新株引受権ヲ与エルコトヲ得ルモノトス」と規定するのは、明言はしていないが論理上「当会社の株主は新株引受権を有しない」ことを必然の前提とするもので、この規定も改正商法にいう定款で新株の引受権を排除するものに相当し適法である。この解釈は立法に参画した人々や多数学者の意見として殆ど異論の余地がないところと思われ、現に法務省もこの解釈をとつており、被告もその考えに従つたのである。

二、定款第七条特種株式に関する規定について

原告は被告会社の定款第七条の特種株主が改正商法第三百四十七条第二項に言う「特定の第三者」と何か関係があるように主張しているが、右定款は被告が発行する特種株式の内容を規定するにとどまり、右「特定の第三者」とは毫末も関係を有するものではなく、普通、特種両株式ともその新株引受権は定款第八条の規定に従うのみである。そして特種株式に関する右定款の適法、違法の問題と、被告会社が具体的に特種株式を発行した場合その発行が適法かどうかの問題とは全く別個の問題で混同すべきでない。既に発行された特種株式の具体的な帰属を問題とするならば、それは特種株式の存在を認めた株主総会の決議の内容に関する問題ではなく、商法第二百八十条の二の規定による取締役会の発行本項にする決議と代表取締役の募集行為の当否に関するものである。

次に会社が定款を変更して普通株式の外に新たに優先株であり、且つ償還株である特種株式を発行せんとする場合、普通株主全員の同意を得ない限り違法であると云う根拠は会社法上全然存在しない。

又被告が全償還株式に対する一部償還を認めようとするのは、むしろ償還株主の平等待遇を期するものであつて株主間の平等を害することは凡そ反対のものであり、額面金五十円の償還株式に金二十円の償還をしても額面金三十円の株式となるものではなく、金二十円一部償還済の額面金五十円の償還株式が存するのみであり、償還株式に対する配当金額の決定も一部償還済株式の会社資本参加の比率に従つてなさるべきは当然で、その場合株主間の平等を害するものでないことは明白である。そして会社の資本は常に株式の額面金額の総和と一致せねばならないものではなく、償還株式の一部償還にせよ、全額償還にせよ、それによつて会社の資本は何ら減少しないのである。そして償還株式とは利益を以て消却され、利益によるに非ざれば消却し得ない株式であり、償還基金の積立に関する規定を設けなければ違法となる理由は存しない。「当社ノ都合ニヨリ……償還シ得ルモノトス」とは全部を一時に償還しないことがあり得ること、一部償還の場合には一定の償還金額を特種株式全部に按分して償還し得ることにかかる文言であり、全然償還しないことがあり得ることを意味するものでない。又償還株式を償還した場合、償還株式の数だけの未発行株が生じ、その未発行株は取締役会において当然再び発行し得るものかどうかは疑いがないでもないが、定款の規定を以てその点を明白になし、償還がすめば未発行株式として残存し新たに株式を発行し得るとすることは、之を妨げる道理がない。

三、役員報酬増額について

払込済資本金額と役員報酬額との間に常識上多少の関係は認められるとしても、決定的の関係のないことは自明の理である。現在の経済状況の下では、大体生活給と云う観点から役員報酬額を決定すべきであろうと思われる。被告会社では株主総会に於て諸般の情勢を考慮の上、役員としては取締役七名、監査役三名を置くことを相当と認めてこれを選任しているのであるが、この十名に対する生活給として月額金四十万円以内の報酬を支払うことは、他の多数の株式会社の例に比較して当然とされるところであろう。これについては被告会社が本邦最大のホテル会社の一であることも常識的に考慮に入れらるべきである。

原告は被告会社のホテル設備は連合軍に接収されており、事務が閑散だから本件決議のような報酬を支払うことは不当であると主張するが、接収下に於ても相当の事務はあり又遠からず接収解除がある場合に処するために必要な要員役員は確保しておかねばならず、かかる状況の下に於て被告は前記十名の役員を必要として選任したのであり、選任した以上相当の報酬を支払うのは当然である。

又株主総会で取締役及び監査役各自の報酬額を決議することは稀であつて、殆どすべての株式会社にあつては本件決議のように一括した限度額を定め各人の取得額を一々決議しないのを例とする。各人の取得額を決議して世間に公表するのは何ら実益がないのみならず、株主を無視して役員が任意の額を取得することを防ぐのが法の精神であり、この法の目的は限度額をおさえることによつて充分に達せられる。一般的に言つても株主総会はその決議事項の細目に至る迄を自ら決定することを要するものではなく、主眼点だけを決定して細目の決定は取締役会に一任し、または事柄の如何によつて議長或は特定の第三者の判断に一任して差支えないものである。そして役員報酬は取締役及び監査役を通じて一定の枠をきめれば、法が総会の決議事項とした趣旨は充分果されるのであつて、取締役全員に対する枠と監査役全員に対する枠を各別に定めさせたり各員の取得額を各員について定めさせたりせねばならない実際上の必要は更に認め難い。

原告は、取締役会が取締役各自の報酬を決定するのは受任事項に関する双方代理行為に該当するから違法であるとの趣旨を主張するが、このような事は全国的にひろく行われて誰も怪まないところであり、許容せられた一定の枠内での分配と云う事柄であるからその決定は会社の利害と衝突するものではなく、本来双方代理行為禁止の埒外のものである。また仮に双方代理行為禁止の点がこの場合考慮さるべきだとしても、取締役甲、乙、丙、丁、戊を以て構成する取締役会に於て各自の受くべき報酬額を決定するとき、甲取締役の報酬に関する場合は甲は商法第二百六十条の二第二項によつて準用される同法第二百三十九条第五項に従つて決議権を行使せず、取締役乙、丙、丁、戊によつて決議し、乙取締役の報酬については乙は決議権を行使せず甲、丙、丁、戊によつて決議し、丙、丁、戊の報酬も同様に決議するものとみれば違法の点はない訳である。本件株主総会の決議は、このような有効な取締役会の決議方法を前提とすること当然であるから、総会の決議自体は非難の対象となるべきものではない。<立証省略>

三、理  由

民事訴訟法第二百五十七条によると当事者が自白した事実は証拠を要しないと規定しているが、これは民事訴訟に於ては通常その対象が社会公益に関係なく当事者の利害に関するだけで第三者に直接の影響がないことによるものであり、従つて株主総会決議無効確認訴訟の如く判決の既判力が第三者に及ぶ如き性質の訴訟には右原則は適用なく、当事者間に争いなき事実といえども立証を要するものと解するから、本件で被告は原告主張の事実を認めて争わないが、証拠により事実を認定することとする。

その方式並に趣旨により真正に成立したものと認めることができる甲第一乃至第三号証と口頭弁論の全趣旨を併せて考えると、原告が被告会社の五十株の株主であり、被告会社が昭和二十六年八月二十五日大阪商工会議所に臨時株主総会を招集し、商法の一部を改正する法律、同施行法の施行等に伴い原告主張の如き内容の第一号議案(定款変更の件)第二号議案(役員報酬増額の件)を提出附議し、同議案が原案通り可決されたことを認めることができる。

そして本件記録によれば原告は同月三十一日本訴を提起し、右決議の内容に違法があると主張するから、その各点につき、順次次のとおり判断する。

一、定款第八条新株引受権に関する規定について

被告会社が前記定款変更の決議によりその発行する株式の総数を従来の六万株から二十四万株に増加し、株主に対する新株引受権に関しては同定款第八条を以て規定したことは前記認定のとおりである。そこで先ず同第八条の記載自体について考案すると、昭和二十五年法律第百六十七号、同二十六年法律第二百九号によつて、一部改正された現行商法(以下新商法と略称する)に於ては、いわゆる新株引受権なるものは株主又は株主となるべき者の利害に直接関係する会社の基礎的な事項であるので、原始定款か、又は定款変更の手続により変更された定款に記載すべき事項とされ、当然には取締役会の決定し得べき事項でないが、本件の如く株主総会で、取締役会に新株引受権を株主に附与し得る権能を授け、之を定款に記載する場合に於ては取締役会は新株発行の度毎に相当と認める場合株主に対し新株引受権を与え、更に新商法第二百八十条の三、但書によりこれに有利な条件を以て新株を引受けしめる事が出来るようになるのであつて、かかる意味で定款第八条の記載はいわば有益的記載事項とも謂うべきものである。進んで右記載が新商法第三百四十七条第二項の「定款ヲ以テ株主ニ対シ新株ノ引受権ヲ与ヘ制限シ又ハ排除スル旨」を定めた事になるかどうかを按ずると、そもそも新株引受権なるものが株主に固有の権利であるか否かは純理論的に、又立法論的に意見のたたかわされる問題であるが、新商法に於ては之をいずれとも法定せず又理論的解釈に譲ることもなく、各会社がその実情に従つて自由に定め得るように、その有無又は制限的態容を定款に記載すべきことを命じ、その上でその記載されたところに従うべきものとしてこの問題に対し極めて実際的な解決を図つたのである、しかも改正前の商法に於ては、資本の増加は常に増資決議を前提とし、増資決議に於て「新株ノ引受権ヲ与フベキ者及其権利ノ内容」を定め得ることとなつており、従つて株主は資本増加の決定に際して新株引受権を確保する機会を保有し、その結果実際上新株引受権が与えられるのが常であつたのであるが、新法に至り所謂授権資本制度を採用したため発行を予定された枠内に於ける新株の発行権はすべて取締役会の手中に帰し、株主は新株発行の都度新株引受権を確保する機会を喪い、もし敢えて確保せんとするためにはその都度総会を開催せざるを得ず、かくては授権資本制度を認めた趣旨に背反する事となるので、会社が発行する株式の総数を増加する決議をなす場合にはその増加分全部について一律に新株引受権に関する事項を定めておく事が法によつて要求され、且つそれは設立の場合の原始定款と歩調を合わせて、同じく定款の必要的記載事項とされたのである。従つて新商法は増加すべき株式全部についての一般的抽象的な新株引受権が有るか無いか、制限的に有るとしたらその態容等が一般普通人から見て判り得るように明確に記載されることを要求しているものということができる。ひるがえつて本件定款第八条が右要請を充たしているであろうか、被告は右第八条の規定は明言をしていないが、論理上「当会社の株主は新株引受権を有しない」旨の命題を必然の前提としていると言うが、之は遽かに肯認し難いところである、被告主張の如き内容の前提の存すること、若くはそれに限らず、何らかの前提を有しているような記載は他にどこにもなく、そうすれば何らかの前提を有することは第八条の記載自体の中に内在するものとされなければならないが、第八条の規定は形式的にそれ自体で独立し得る文言である。即ち第八条は無前提であるかもしれない。前述したような一般的抽象的新株引受権については何ら触れるところなく、その問題については空白となつていると言えば言える、又何らかの前提があるとしても被告主張の如き前提とばかりは限らない、又「新株引受権については取締役会の定める所による」と云うような前提がかくされているかもしれない、又「新株引受権については別に定めるところによる」とか「株主は取締役会の決議ある事を条件として新株引受権を有する」とか様々の命題を前提に据えても、必ずしも右第八条の規定と符節しないわけでもない。すると被告主張の如き論理的必然性はどこにもない。もし被告主張の如き前提があるとしなければ、第八条の規定が法律上不備となり違法となると云う趣旨とすればまさに論理の顛倒である。当面の問題は或特定の記載又は無記載と云う客観的事実が先行し、然る後それが適法かどうか法律的判断をすべきであつて、法律を先行させ、法律に合わなくなるが故にそれ以外の解釈は許されない、従つて斯く解釈すべきが論理的必然であると云うのは論理の顛倒である。之を要するに定款第八条の「当会社ハ取締役会ノ決議ニヨリ株主ニ対シテ新株引受権ヲ与フルコトヲ得ルモノトス」との規定を以てしては新商法第三百四十七条第二項が要請する新株引受権に関する事項の記載を欠くものと謂わなければならない。然らばこれが故に定款第八条、ひいては会社が発行する株式総数の増加を内容とする決議全体が無効となるのであろうか、ここでもう一度新商法第百六十六条第一項第五条及び第三百四十七条第二項の規定の根本趣旨を考えてみなければならない。先にも若干触れたように新株引受権に関する事項は株式会社の基礎的事項ではあるが、会社の根本組織や根本活動に関すると云うよりも、株主又は株主となるべき者の利害に重大な事項であるから之を定款に記載すべき事が要求されるのであり、従つて、他の定款記載事項とは些かその趣きを異にする。例えば会社が発行する株式の総数などは明確に数を以て表示さるべきであるが、新株引受権の如きはかかる唯一無二の明確性を必要とするものではない、従つて本件の如く定款に形式的には全く新株引受権の有無又は制限に関する記載を欠いている場合でも他の何らかの有効な記載からそれが容易に推知出来るものならば、新株引受権に関する新商法第百六十六条第一項第五号又は第三百四十七条第二項の要求を最少限度充たしているものと解すべきである。そこで本件定款第八条がいわば有益的記載事項である事は冐頭所論のとおりであり、右規定は毎回の具体的な新株発行に際し取締役会が株主に対し新株引受権を附与し得る権能のある事に関する規定であるが、この規定に合理的判断を加えれば逆に一般的抽象的新株引受権が株主にない事が容易に推知し得るのである。けだし株主の新株引受権は新商法では法定されていない代りに、一たん定款で之を認めるやそれは株主の固有権として何人も之を奪つたり不利益に変更したりすることの出来ないものと解するのが至当であるから、もし本件に於て新株引受権が固有権として附与されているならば、何人も如何なる機関も之に干渉したりその意思を加えたりする余地がなく、本件定款第八条の如きも必ずしもこれと矛盾はしないが、全く無意義な規定に堕し去つてしまう結果になるからである。すると本件定款第八条はそれ自体として違法な規定ではなく、又同条があるために定款全体としても新株引受権に関する新商法の要求を最少限度充たし得て適法であると断ぜざるを得ない。すると右第八条並に新株引受権に関し決議無効の原因があるとする原告の主張は部分的には首肯するに足るところもあるが、全体としては当裁判所の見解と相反し採用できない。

二、定款第七条特殊株式に関する規定について

被告定款第七条に規定するいわゆる特種株式は優先償還株で普通株に対応する意味で新商法第二百二十二条の数種の株式中の一種であるが、凡そ優先株や償還株の株主たると、普通株の株主たるとを問わず、株主たり得べきものに法令上又は理論上何らの限定はなく、それを一般に公募するか、定款に定めた上で旧来の株主に引受権を与えるか、又は特定の第三者に引受けさせるか等は、いずれも別個の問題に属する。従つて優先償還株を発行する場合その株主たるものは常に特定の第三者になると云う論拠の上に立つ原告の主張はすべて理由がない。原告が事実問題としてのべるところは特種株の具体的発行に関するもので、既存定款の有効無効には何ら関係しない。而して、右の如き数種の株式の発行は、株式会社の法体系を一貫する原理たる株主平等の原則の例外となるが、これは株式の財産的側面についてのみその内容に差異を設けたものであつて、株式会社の本質に反しない限りのものとして商法が特に認めているものであるから、その発行については新商法第二百二十二条、第三百四十五条等の規定に遵うべく、株主全員の同意を要すべきものではない。

又原告は被告の定款上特種株式は償還株式である旨のみ規定されていて、それが実際には資本減少の規定に従つて消却されるものか、或は株主に配当すべき利益を以て消却されるのが明らかになつていないから違法であると云うが、衆知の如く新法は英米法ことにアメリカ法的制度を大量に継受しているものであり、新商法にいわゆる「利益を以てする株式の消却につき内容の異る株式」とは、アメリカでひろく行われているredeemable or callable stockに該り、之は従来から我国で償還株式と釈されていたのみならず、之をとりいれた我が新商法発足に当つてもこの語を以て広く説明せられ論ぜられ、単に学術界に於けるのみならず実際界に於ても充分に熟している用語であるから、敢えて条文と同じ用語を用いる必要もなく、「償還株式」なる語を以て充分その内容を表現しているものと見て差支えない。又いかに新商法であつても、発行の当初から当該株式のみを減資手続で消却する事を予定しているような種類の株式は認めていないし、且そのような株式は株主平等の原則に反するから定款によつても之を認め得ないものである。又会社が償還株式の償還にあてるため、定款を以ていわゆる償還基金の積立に関する定めをしておく事は、便宜であろうが、それは法律上何ら必要とされているものではないから、之が規定を欠いても差支えない。

そして、償還株式を償還すると否とは全く会社の自由な決定に委ねられてもよく、或は又何らか会社にとつて義務的なものとなすことも可能であり、これらのことは償還に関する条項の中で適宜に定め得るところであるから、この点に関する被告定款が原告主張の通りであつても少しも違法はない。以上の諸点をとらえて本件決議に無効原因ありとする原告の主張は、右判断のとおり失当である。

しかし乍ら、次に被告会社は定款第七条第四項第三号で、特種株式(償還株式)の償還方法に関し、特殊株式全部を一時に償還せざるときは、償還金額は特種株式全部に、按分すと規定し、一株の金額の内の一部の償還が出来るように規定しているが、之は名は償還の過程と云うも、実質は払戻しに類し、新商法が第二百二十二条に於て「株式ノ消却」と明言しているのに反するばかりでなく、明白に株主平等の原則に反し無効である。けだし被告主張の如く一株の金額中の一部償還を認めれば、償還株式の範囲内に於ては、全償還株主にとつて平等な取扱いであろうが、元来償還株式とそうでない株式とは株式の消長について異る取扱を受けるだけであつて、株主権の内容については少しも差別はしないので単に株主平等の原則は数種の株式のグループ毎に認められれば足るのでなく、更に当該会社の全株主をも包摂して支配せねばならぬ大原理であり、配当金額の点で被告主張の如く若干の考慮がなされても、その他議決権等の点で株主平等の原則を冐すものである事は覆うべくもない。もつとも額面以上の金額で償還する場合、その額面超過額を一部償還する場合であれば疑問であるが、本件は額面の金額で償還する株式であるから一部償還が許されないことは論を俟たないところである。従つて本件株主総会決議中定款第七条第四項第三号並にそれに伴い同条第五項中「全額償還ノ場合ハ」「一部償還ノ場合ハ株券ニ其ノ旨ノ記載ヲ受ケ」との部分及び「全額若クハ残額全部ノ」との部分は無効である。

次に原告は同定款の同条末項では、特種株式を償還したときは其の株式数と同数の普通株を発行し得る旨定めているのは無効であると主張するからその当否を判断する。法は償還株式たること自体を優先株式などと同列に置いて数種の株式の一としており、優先株式等に附着する単なる属性とは見ていないのであるから、定款上再発行につき特別の定めがなされていないときは、その定款を議決した株主の意思は将来償還によつて消却せられる運命にある株式の発行を授権したものと解すべく、一度発行されれば株式はその機能を果たし、取締役会は委ねられた権限を行使して了つたと見るべきであるから、償還株式を償還すれば、その数だけ再び未発行株式の数が増加すると云うことにならないことは原告主張のとおりである。しかしながら定款を以て再発行に関し、特別の定をすることが許されるか否かということは又別個の問題である。そして本件定款の如く償還株式を償還したときは、これと同数の普通株式の発行ができる旨の定をすることは償還株式の発行授権と共にこれを償還したときに同数の普通株式を発行することを授権したものであつて、これは新商法の採用せる授権資本制度に反するものではないし、又株主保護の立場から考えても何等弊害がないから法の許容するところであつて、右定款の規定は有効と解すべきであるから、右見解に反する原告の主張は採用できない。

三、役員報酬増額について

役員報酬の決定に関し、商法第二百六十九条及び第二百八十条の法意は、会社の機関たり又最高幹部たる役員らが、もし自己の受くべき報酬を自己の自由に定める場合に於ては、その地位を利用して自らの利益のみを図り、会社の利益を顧みない場合もなきにしも非ずと考え、之を防止するところにあるから、本件の如く株主総会の決議により役員等の報酬の総額又は限度額を定め、且つ役員各自に対する支給額の決定を取締役会に一任し、以て具体的な額の決定方法までも定めたる場合は、右法条の趣旨を全うせられて些かの違法もない。而して之は取締役の報酬と監査役の報酬とを各別に定めるも、はた又一括して定めるも何ら結論を異にすべきものでない。又右の如き場合、取締役会は監査役の報酬支給額を定め得ることは勿論のこと、自己の構成員各自の支給額をも自ら定め得べくこれは何等委任の趣旨に反せず、又新商法第二百六十条の二第二項、第二百三十九条第五項も会社の利益が侵害されることを妨ぐ担保的規定であるから、限られた範囲内の純自治的なかくの如き場合には性質上当然適用がない。

そして当時の経済状態を考えると被告会社が役員報酬総額を一ケ月四十万円以内に増額することが不当であると云う証拠は何ら存せず、名目的な資本金の額と役員報酬額との間に必然的な相関関係が存するものではないことは被告答弁のとおりであり、連合軍の接収下でも利益はあげ得るであろうし、その他原告主張の事実を以てしても、本件役員報酬増額決議が著しく不当であると認めるに足る資料は何ら存しない。

するとこの点に関する原告の主張は失当である。

そこで原告の本訴請求中、償還株式の一部償還を定めた定款の規定は無効であるから、これが無効確認を求める部分は理由があり、これを認容すべきも、右部分の無効は他の部分の効力に影響がなく、他の部分が無効なりとする原告の主張はいずれも理由がないから之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 乾久治 前田覚郎 安井章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!