大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)2419号 判決
原告 大来勝一
被告 松田栄一
一、主 文
被告は原告に対し、原告から金一万四千七百四十六円の支払を受けるのと引換に、大阪市浪速区北日東町二十五番地上亜鉛板葺鉄骨二階建建物を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
原告その余の請求は棄却する。
この判決は金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
第一、当事者の請求の趣旨。
一、原告訴訟代理人は被告は原告に対し大阪市浪速区北日東町二十五番地上亜鉛板葺鉄骨二階建建物を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求めた。
二、被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めた。
第二原告主張の請求原因。
一、訴外中島英晴は訴外豊田治助から賃借していた大阪市浪速区北日東町二十五番地上に鉄骨コンクリート建二階建建物を建築しようとして、その地上に鉄骨を組立て、古い亜鉛板を以て屋根を葺いたまま数年間雨晒のまま放置していたが、原告は昭和二十五年四月九日右鉄骨を有姿のまま金二万五千円で右中島英晴から買受けた。それは原告がこれを取外して自己の営業所兼住宅を建設する目的であつたが、鉄骨取除きの日時は原告の随意に定める処でよく何時取除いても構わぬという定であつた。
二、そこで原告は昭和二十六年一月十日取外しのため検分に行つたところ、鉄骨自体は依然そのまま無事であつたが、意外にも被告が本件鉄骨の古い屋根を除き新しい亜鉛板を以て屋根を葺き鉄骨の外側に板を張つて居るのみならず、更らに大工を以て造作を加え、倉庫用建物にしようとして工事中なることを発見した。調査の結果被告は朝鮮人であるが第三者なる日本人名義で地主訴外豊田治助から前記敷地及びその地上の木造平家建物一棟を買受けたものであることが判明したが、右鉄骨の所有権は原告にあるので、原告はこれが収去のため、被告に対し屋根及側板の撤去を要求したが被告はこれを肯ぜず、その後倉庫用建物として利用している。
而して右は原告の所有なる鉄骨に被告が亜鉛板の屋根及板囲を加工したもので、附合により毀損するに非ざればこれを分離することができなくなつたものであるから、その合成物の所有権は民法第二四三条によつて主たる動産の所有者なる原告に帰属するに至つたものである。蓋し原告所有の鉄骨は原告が買取つて間もなく朝鮮動乱勃発のため騰貴し、被告の右加工当時屑鉄の価格としても約十三万円の価格を有し、又建築素材として現状の位置でそのまま使用するとすれば更に遥に高額のものとなる。被告が支払つた材料代金は合計しても十一万三千八十五円としかならない。
それで原告は所有権に基き被告に対し本件建物の明渡を求めるものである。
第三被告の答弁及抗弁。
一、原告が本件鉄骨を訴外中島英晴から買受けたとの事実は不知である。仮りに同訴外人より買受けたものとしても占有の移転がないから所有権の取得を被告に対抗し得ない。被告が本件鉄骨に亜鉛板を以て屋根を葺き鉄骨の外側に板を張つて倉庫に使用しようとしていたことは認める。然しこれによつて本件物件が不動産に変じたものではない。仮りに然らずとするも、被告は本件鉄骨に十三万円余を投じてこれに加工造作を加えたものであつて、本件鉄骨の価格が原告主張の如き金二万五千円のものとせば民法第二四六条によつて本件鉄骨の所有権は被告に帰したものである。少くとも民法第二四四条によつて被告は共有権を取得したものである。
二、善意取得の抗弁。
被告は本件鉄骨下の敷地百二十坪一合二勺及地上の木造瓦葺二階建一棟を代金十六万円で訴外豊田治助より昭和二十五年十月十三日買受け、昭和二十五年十二月一日代金を完済しその所有権を取得した。而してその売買契約締結当時は本件土地上に本件鉄骨が存置されて居り、且本件土地は訴外中島英晴が賃借権を有していると聞いていたので被告は右訴外豊田治助の代理人浅利輝正に対して右鉄骨の収去及土地賃借権の消滅方を交渉したところ、これを受諾したので被告は昭和二十五年十月十三日本件土地及地上建物につき売買契約を締結し手附金として五万円を訴外豊田に支払い残金は右鉄骨の引取と賃借権消滅と同時に支払うことに決めた。而して当初右訴外豊田は昭和二十五年十一月十五日迄に鉄骨を収去せしめ、賃借権を消滅させるとのことであつたので売買代金の支払期日を昭和二十五年十一月十六日と定めた。然るに右期日に至つても、訴外中島と訴外豊田との間の本件土地の賃貸借は消滅せしめたに拘らず、本件鉄骨は収去しなかつたが、豊田は本件鉄骨は訴外中島所有のもので同人をして昭和二十五年十二月三十一日迄に撤去せしめる。若しこれを撤去せしめないときは土地所有者においてこれを取毀つなり、売却するなり、又これを使用するなり自由に処分されても異存なきことの約定が成立しているから万一同日までに撤去しないときは被告において自由に処分されても差支ないと申入れたので、被告はこれに従い、昭和二十五年十二月一日本件土地又地上建物の代金を完済しその所有権を取得したものである。然るに右約定の同年十二月三十一日に至つても本件鉄骨は訴外中島において収去しなかつたので、被告は前記特約に従い、本件鉄骨の処分権(所有権)を取得したものである。蓋し被告は本件土地買受当時本件鉄骨が訴外中島英晴の所有でありと信じ且信ずるにつき、正当の理由があつたので同人より処分を一任せられていた訴外豊田治助との右特約により本件の処分権(所有権)を取得するのは当然である。
三、損害賠償請求権に基づく留置権の抗弁。
被告が本件土地及地上建物を買受けた目的は本件場所において屑物(繊維類)の売買業を営むためであつて、これが営業のためには倉庫が絶対に必要であつて本件土地の地形上本件鉄骨の存在する場所にこれを撤去して倉庫を建築する目的であつたところ、右鉄骨が収去されなかつたため、倉庫を建築することが出来ず、亦これが撤去に多大の費用を要するため被告は已むなく本件鉄骨に前述の如く十三万余円を投じて造作改造を加えたもので、これを撤去するとせば同額の損害を蒙ることとなる。若し本件鉄骨が原告の所有であるとすれば原告は何等の権限なくして被告所有地上に本件物件を存置しこれを撤去しなかつたために被告の蒙る損害を賠償する責任がある。従つて原告において右損害金を支払うまで被告において本件物件を留置する権利を有する。
四、不当利得請求に基づく留置権の抗弁。
被告は前記事由の下に善意無過失で本件物件に十三万円余の造作改造を加え、而もその価格の増加が現存する以上、原告はこれを償還する義務がある。被告はこれが償還を受けるまで本件物件を留置する権利がある。
第四、被告の抗弁に対する原告の答弁。
一、善意取得の抗弁に対し、
被告の主張事実を否認し、たとえ訴外豊田治助が被告に如何なる約束をしたとしても、当時既に本件鉄骨は原告の所有並に占有に属していたのであるから、それは無効であるばかりでなく、被告の善意は過失に基づくものである。蓋し被告は当時所有者なりと信ずる中島英晴自身に一度も面会もせず又その意思を確めていないからである。
二、損害賠償請求権に基く留置権の抗弁に対し、
原告は鉄骨を引取るべき昭和二十六年一月十日頃現場に赴いたところ被告は暴力を以てこれを拒否したため、引取れなかつたのである。従つて引取らないことは原告の責任ではない。寧ろ被告が不法占拠しているのであるから、原告には損害賠償の責任はない。
第五証拠<省略>
三、理 由
第一原告は本件鉄骨の所有権を取得したものか。
証人中島英晴の証言によつてその成立を認める甲第一、二号証及同証人の証言によつて原告が昭和二十五年四月中に本件鉄骨を当時の所有者中島英晴から買受け、その引渡を受けたことが認められるから(引渡のためには必ずも鉄骨の撤去を要するものではない。)これが所有権を取得したものというべく従つて原告は第三者に対してもその所有権を対抗し得ることとなつた訳である。
第二善意取得の抗弁について。
その成立について争のない乙第一号証によつて被告主張の特約の存在を肯認できるが、これを以て民法第一九二条の保護する取引(法律行為)と解し得るかは疑問である許りでなく右乙第一号証や証人浅利輝正、同大内幾次の各証言によつても被告は善意につき無過失であつたとは認め難いので結局被告の抗弁は採用出来ない。
第三本件物件は不動産か。
当裁判所の検証の結果と各鑑定の結果を綜合するときは本件物件は元の鉄骨に亜鉛板の屋根を葺き板囲いをなし倉庫として利用せられていることが知られるので既に不動産となつたものというべきである。
第四本件物件の所有権は何人に帰属するか。
当裁判所においてその成立を認める乙第三号証の一乃至七、鑑定人三好幸太郎、同岡本佐一、同寛一夫の各鑑定の結果を綜合するときは、本件物件が不動物となつたと見られる昭和二十五年十二月頃の原告所有の鉄骨と被告の造作改造を加えた部分との本件不動産(建物)構成分子としての価格を比較するに鉄骨の部分は十八万五千五百円なるに対し、その他の部分は十三万六千七百八十五円(被告主張価格)以下なることが判明する。他に右認定を覆す資料はない。このような場合、合成物たる建物の所有権を何人が取得するかについて、民法に直接の規定はないが、動産の加工に関する同法第二四六条を類推適用するのが最も合理的と考えられる。然るときは原告が本件不動産の価格の過半の出資者として本件不動産自体の所有権を取得することになる。
第五損害賠償請求権に基づく留置権の抗弁について。
当裁判所においてその成立を認める乙第二号証及証人大内幾次の証言を綜合すれば被告が妻の松田竹子の名義で訴外豊田治助から本物件の敷地を買受け和年二十六年二月二十日その所有権移転登記を為したものであることが認められる。従つて原告としては本件鉄骨撤去の時期についてその譲渡人中島英晴と如何なる合意をなしたとしても同人の借地権消滅後はこれを以て本件敷地の所有者(豊田治助従つてその承継人たる松田竹子)には対抗し得ないものというべきであるから、本件鉄骨を存置しておくときはこれによつて敷地所有者に生ずる損害を賠償する義務がある。然し飜つて本件を見るにその成立につき争のない甲第五号証及乙第一号証並に証人浅利輝正の証言によつてその成立を認める甲第四号証の一、二を綜合するときは原告は被告が本件敷地を占有して間もない昭和二十六年一月十日頃に被告方へ本件鉄骨を引取りに行つたところ、被告はその撤去を拒絶し、本件鉄骨に前段認定の如き造作改造を加え倉庫として使用し来つたことが認められるから、被告には損害を生じたものと認め難い(但し被告が本件建物を明渡したときはその収去に至るまで土地の利用をなし得ないことに基き生ずべき損害の賠償を求め得ると解する余地はある)。従つてこの点に関する被告の抗弁は採用出来ない。
第六不当利得請求権に基づく留置権の抗弁について。
第四に認定した如く原告は本件建物の所有権を取得したものというべきであるが、鉄骨以外の材料は被告の提供したものであるから、鉄骨以外の部分については原告は被告に対し不当利得の法理により現存利益を返還すべき義務がある。而して本件においては、原告の有する現存利益は元来原告において本件建物を解体して他に移築する目的であるから(このことはその主張自体により明かである)、建物その物のとしての価格によるべきでなく、解体の価格によるべきこと勿論である。然るときは鑑定人岡本佐一、同筧一夫の各鑑定の結果を綜合するときは右現存利益は金一万四千七百四十六円であると認められる。右認定を覆す資料は他にない。従つては被告は本件建物を原告より金一万四千七百四十六円の支払を受けのると引換に明渡すべき義務がある。
仍つて原告の本訴請求は以上認定の範囲においては正当として認容すべきであるが、その余を失当として棄却すべきものである。そこで訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条を仮執行の宣言について同法第百九十六条を夫々適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 庄田秀麿)