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大阪地方裁判所 昭和26年(行モ)11号 決定

申立人は「被申立人がA、B及びCと学校法人近畿大学(申立人)との間の昭和二十六年(不)第十八号不当労働行為申立事件について昭和二十六年八月八日交付した命令は原告申立人、被告被申立人間の大阪地方裁判所昭和二十六年(行)第二七号事件の判決確定に至るまでその執行を停止する。」との決定を求め、その申立理由として主張する事実の要旨は、被申立人は申立人が申立人大学の職員であるA、B、Cを昭和二十六年三月十九日申立人大学の就業規則第四十一条第三号「職員たるにふさわしくない非行のあつた場合」に該当するものとして懲戒解雇した行為を労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であるとして昭和二十六年八月八日申立人に対し右A等三名の復職と解雇以後復職までの賃金相当額の金員の支払を命ずる旨の命令を発したので申立人は右救済命令を違法であるとして大阪地方裁判所に右救済命令取消の訴を提起し現に繋属中であるが(同庁昭和二十六年(行)第二七号事件)これに対し被申立人は労働組合法第二十七条第五項に基き右行政事件の判決の確定に至るまで被申立人の命令の全部に従うべき旨の申立をした。しかし右被申立人の救済命令は著しく不公正で重大な事実の誤認をし延いて組合活動の正当性についての法律的判断を誤つている。すなわち右救済命令は申立人が近畿大学教職員組合からの「超過講座料、試験手当、休日出勤手当の支給、給与規定の作成、就業規則の届出等を要求して使用者に団体交渉を求めたが使用者は事を構えて交渉を回避し、又交渉に応じても組合の申入に対して何等の具体的対策を示す等の誠意ある回答をしなかつた。(中略)更に翌昭和二十六年一月二十一日には越年資金要求をも附加したが使用者の回答は何等具体的事項に触れず問題の解決にならなかつた。」となし、次に用語不明確ではあるが申立人理事長aに私的経理支出のあることを肯定し、この二つの前提的事実の下に前記A等三名が文部省並びに大学設置審議会委員宛に「近畿大学理事長a氏学園運営の業績」を添附して陳情書を送りかつ陳情のため上京し「私的経理支出の是正を期待して組合の決議に基いて監督機関の監督権の発動を促した。」のは正当な組合活動でありこれを理由とする解雇は労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であると認めている。しかしながら(1)超過講座料、試験手当、休日出勤手当、越年資金等については昭和二十五年中にすべて解決済であり、就業規則は昭和二十四年八月九日既に届出済みであり、給与規定の変更についてのみ調査の上実施することになつていたもので問題の大部分は既に解決していた。殊に越年資金の要求は昭和二十五年十一月二十一日であり同年十二月十八日既に支給して解決済みであつたにもかゝわらず「翌昭和二十六年一月二十一日には越年資金要求をも附加した。」といつているのは甚しい事実の誤認である。(2)陳情書に列挙されている十三項目の私的経理支出はすべて虚偽である。(3)右陳情は組合総会の意思に基いたものとは認め難く、仮りに組合総会の意思に基いたものであるとしても、前記のように既に問題の大部分が解決している状態の下に虚偽の不正事実を列挙して総長の失脚を目的とする陳情をするような行為は正当な組合活動ということはできない。陳情書本文に三、七〇〇円ベースと記載されているのも全然虚構であり当時の平均給は約一万円であつた。次に前記救済命令が執行され前記A等三名が復職するとこれによつて申立人大学の学園の平和が攪乱される虞が大きく、もしそのような事態が発生すれば将来右救済命令が取消されても申立人は償うことのできない損害を蒙るであろう。すなわち(1)前記A等三名は申立人大学に就職以来学園の平和を攪すことが多かつたが、殊にA、Cの両名は昭和二十三年の学園騒動の際にも主謀者の一人であつたしその後も前記A等は学生を煽動して学園の紛乱を企図したことが屡々あり、例えば昭和二十六年二月一日学生大会の気運を醸成して総長並びに幹部の排斥を企図し、又同年五月七日朝鮮人学生bをして教職員組合の名義で陳情書添附の十三項目をビラにして撒布せしめたことがあり、Bは講義中a総長排撃の言辞を弄して学生を煽動し、或いはクラス会を利用して総長排斥を策動したこともあつた。(2)Bは昭和二十六年七月二日前記A等三名の申請に係る大阪地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第六一二号地位保全仮処分事件の口頭弁論終了直後裁判所廊下において申立人大学総務課員cを殴打し同人に対し治療約十日間を要する挫傷を与え、又Cの近親者dは前記A等三名の申立に係る大阪府労働委員会の不当労働行為救済申立事件の審問終了後同所玄関において申立人大学総務課長eを殴打し同人に対し治療約十日間を要する打撲傷を与えた。(3)申立人大学においては講座担当は毎年四月に決定されるがA及びBの担当科目はいずれも後任者において講義を行つている関係上同人等が復職しても直ちに講義を担当することは不可能であり、又Cが担当していた企画の仕事は現在消滅しているので同人が復職しても担当の仕事がなく、一段と学園の平和攪乱に専念する虞がある。以上の事情であるから行政事件訴訟特例法第十条により前記行政処分の執行停止を求めるというにある。

よつて審按するに労働委員会が労働組合法第二十七条第二項に基いて不当労働行為を認定し使用者に対し一定の作為又は不作為を命ずる救済命令(行政処分)を発した場合にはこれにより使用者に対しその命令の内容に従つて一定の作為又は不作為をなすべき公法上の義務が発生し、救済命令の内容が代替執行に適するものであるときは行政処分の性質上行政代執行法により即時執行することができるし、その内容が代替執行に適しないものであるとき(例えば本件のように原職に復帰を命じかつ賃金相当額の金員の支払を命ずるもの)でも救済命令が効力を発生していることを前提として裁判所は同条第五項により緊急命令を発し、使用者が右裁判所の緊急命令に従わないときには同法第三十二条により過料の制裁を受ける等の法律上の効果を発生するものであるから右のような法律上の効果の源泉である救済命令の効果自体を停止する利益があること勿論であるから救済命令は一個の行政処分として行政事件訴訟特例法第十条の執行停止の対象となり得るものと認めなければならない。

そこで本件について行政事件訴訟特例法第十条の執行停止の要件があるか否かについて判断する。

(イ)  先ず前記救済命令中復職命令について考えてみると、被申立人が右救済命令に対してなした緊急命令の申立は復職命令に関する部分に限り既に却下されているから(当庁昭和二十六年(行モ)第一〇号)、事情の変更がない限り最早緊急命令の発せられる余地はなく、仮りに事情の変更により将来緊急命令の発せられる可能性はないではないにしてもこの程度の可能性を以つて行政事件訴訟特例法第十条第二項に定むる緊急の必要がある場合と認めることはできない。従つて本件復職命令に関する救済命令の執行停止は許されないといわねばならぬ。

(ロ)  次に前記救済命令中賃料相当額の金員支払命令について考えてみると、金員支払命令の性質上これを履行することによつて使用者の蒙る損害は必然的に金銭的損害に外ならないから前示法条第十条第二項に定むる「償うことのできない損害」と認めることはできない。従つて本件賃料相当額の金員支払命令に関する救済命令の執行停止は許されないといわねばならない。もつとも右金員支払命令に関する救済命令に対し緊急命令が発せられ使用者がこれに違反すれば労働組合法第三十二条により過料の制裁を受ける場合が生じ得ることは勿論であるけれども、このような事態を生ずるのは専ら救済命令に対して緊急命令が発せられているにもかゝわらず使用者がその緊急命令に従わないという使用者の独自の行為が介入している結果である以上、使用者において罰則の適用を受けるような事態の発生は使用者にとつて「償うことのできない損害」と認むべきであるとしても、右損害は使用者自身の行為の直接の結果であり救済命令とは間接の関係に立つに過ぎないものであつて、要は使用者において金員の支払を命ずる救済命令に従いさえすればことは足るのであるから、結局金銭的損害を蒙るに過ぎないものと認むべきである。

以上の説明によつて明かなように申立人の本件執行停止の申立は行政事件訴訟特例法第十条第二項の要件を具備していないから到底却下を免れない。よつて申立費用について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 山下朝一 相賀照之 岩崎康夫)

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