大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)1844号 判決
原告 谷野保雄
被告 長尾達行 外一名
一、主 文
被告等は原告に対し各自金百三十万円及これに対する昭和二十六年九月十三日より完済まで被告長尾達行は年六分の、被告鈴木重治は金百円につき一日金五十銭の割合による各金員を支払え。
訴訟費用は被告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として被告鈴木は昭和二十六年八月五日、金額を百三十万円満期を同年九月十二日、振出地及び支払地を各宝飯郡蒲郡町支払場所を蒲郡信用組合と定めた約束手形一通を被告長尾宛に振出し、同被告は同年八月七日支払拒絶証書作成義務を免除して訴外菅甲三に、同人は白地式により原告に順次これを裏書交付し、原告は右手形の所持人として満期に支払場所にこれを呈示して支払を求めたが拒絶された。
尚被告鈴木は右手形振出の翌日手形所持人たる原告に対し、右手形を満期に支払はないときは爾後百円につき一日金五十銭の予定損害金を支払ふことを約したので、被告等に対し夫夫右手形金百三十万円及これに対する満期の翌日である昭和二十六年九月十三日から完済まで被告長尾には手形法所定年六分、被告鈴木には右予定損害金である日歩五十銭の割合による遅延損害金の支払を求めると陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張事実中手形振出、裏書の事実は被告等としてこれを認む、呈示支払拒絶の事実は被告鈴木としてはこれを認めるが、被告長尾としては知らない。予定損害金の支払を約したことは否認する。
本件手形は被告長尾及訴外菅甲三が昭和二十六年三月頃原告の委託を受け、綿糸三十番手十九梱二十玉を被告鈴木に売渡した際残代金支払のため振出されたものであるが、右綿糸は割当証明書と引換に非ず又法定の除外事由もないのに最高販売価格一梱九万七千円を超え二十七万円で売渡されたもので不法原因のための給付であるから、被告等に対しこれが代金支払として振出された本件手形金の支払を求めることができない。従つて被告鈴木に対し予定損害金の支払を求めることもできないと陳述し、
仮りに右売買が原告と被告鈴木との間に行はれたものでなく、被告長尾及訴外菅甲三が原告から資金を借受け、これで買受けた綿糸を被告鈴木に売渡し、右代金の一部として本件手形を取得したものとするも、原告は前記不法原因給付の事実を知りながら、右手形を取得したものであるから原告は悪意の手形取得者として右手形金の支払を求めることはできない。尚原告主張の予定損害金の特約は公序良俗に反する事項を目的とするものであるから無効であると陳述した。<立証省略>
三、理 由
原告主張事実中、被告鈴木が原告主張のような手形一通を振出し、原告がその主張のような順序を経てこれが所持人となつたことは当事者間に争いなく、右手形が満期に呈示せられ、支払拒絶されたことは被告鈴木との関係に於ては当事者間争なく、被告長尾との関係に於ては成立に争いのない甲第一号証によりこれを認めることができる。
被告等は右手形は原告が被告等主張のような代金の一部として交付を受けたものであると主張するが、此点に関する被告長尾、鈴木(一、二回)各本人訊問の結果は信用し難く他にこれを認めるに足る証拠がない。
次に被告等は、原告は悪意の手形取得者であると主張するので原告の右手形取得の経緯を見るに成立に争のない甲第一号証、証人菅甲三、増田忠士の各証言、原告の本人訊問の結果、被告長尾、鈴木(一、二回)の各本人訊問の結果の一部を綜合すると、被告長尾及訴外菅甲三は原告から資金を借受け、これで買入れた呉羽紡三十番手純綿糸十九梱二十玉を昭和二十六年三月二十六日頃被告鈴木に売渡したこと、同被告はこれを他に転売したが、代金の支払を受けることができず、従つて被告鈴木に於ては被告長尾、菅等に対し売買代金を、又同人等は原告に対し貸金の一部を弁済することができず、被告鈴木に於て右代金支払のため約束手形一通を振出し、原告は右貸金の弁済として被告長尾及菅よりこれが交付を受けたこと、本件手形は右手形が書替えられたものであることが認められる。
被告等は原告は右手形が前記売買代金の残代金支払のため振出されたものであり、原告は右取引が統制法規違反のものであることを知りながら、右手形を受取つたと主張するのであるが、この点に関する被告長尾、鈴木(一、二回)の各本人訊問の結果は信用し難く他にこれを認めるに足る証拠はなく、反つて証人菅甲三の証言原告の本人訊問の結果を綜合すると原告は前記経緯を知らずして右手形を受取つたことが認められるから被告等の主張は採用しない。
そして原告の本人訊問の結果、証人増田忠士の証言、右証言により成立を認め得る甲第二号証によると被告鈴木は右手形振出の翌日手形所持人たる原告に対し、右手形を満期に支払わないときは爾後百円につき一日金五十銭の予定損害金を支払うことを約したことが認められる。右認定に反する被告長尾、鈴木(一、二回)の各本人訊問の結果は信用しない。
被告等は右特約は公序良俗に反する事項を目的とするものであるから、無効であると主張するが右特約が現在の経済並に社会状態に照してみるときは、不当に巨額の賠償額を予定したものとも認められなく、他に右特約が公序良俗に反するものであることを認めるに足るような資料もないから右主張は採用しない。
すると被告等は各自原告に対し右手形金百三十万円及これに対する満期の翌日である昭和二十六年九月十三日から完済まで、被告長尾は手形法所定年六分の法定利息、被告鈴木は右予定損害金である日歩五十銭の割合による遅延損害金を支払う義務あり、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 乾久治 前田覚郎 福井秀夫)