大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)206号 判決
原告 寺田燕子夫
被告 株式会社四ツ橋製材所
一、主 文
被告が訴外株式会社山川組に対する大阪地方裁判所昭和二十六年(ワ)第三三一〇号約束手形金等請求事件の執行力ある判決正本に基く強制執行として訴外株式会社山川組を債務者、訴外大阪府中河内郡繩手町を第三債務者として別紙目録<省略>記載の株券引渡請求権につきなされた大阪地方裁判所昭和二十八年(ル)第一〇三号債権差押及び引渡命令の執行を許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本件につき当裁判所が昭和二十八年五月十二日発した強制執行停止決定を認可する。
前項に限り仮りに執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求め、其の請求の原因として被告は訴外株式会社山川組に対し有する約束手形金債権金七十七万円の執行を保全するため、同訴外会社が訴外大阪府中河内郡繩手町に対し別紙目録記載の株券返還請求権を有するものとして債権仮差押を申請し、昭和二十六年十一月六日大阪地方裁判所が同年(ヨ)第一四四五号右債権仮差押命令を発し、其の頃第三債務者訴外繩手町に送達された。しかしながら右株券返還請求権は訴外株式会社山川組が訴外繩手町に対し有するものではなく原告が右第三債務者に対し有するものである。即ち訴外株式会社山川組は訴外繩手町との間に、(イ)昭和二十五年十二月二十九日小学校校舎増築工事、(ロ)昭和二十六年三月五日同町国民健康保険直営診療所並びに同所長公舎新築工事の各請負契約を締結し、右各契約と同時に右(イ)工事につき別紙目録(二)記載株券を右(ロ)工事につき同目録(一)記載株券をいづれも右契約保証金代用として訴外繩手町に差入れたものであるが、右訴外会社が訴外繩手町より右各工事を請負うに当り、契約保証金として差入れる株券の貸与方を原告に懇請したので原告は株券の右用途を限定し、且つ保証事由が止んだとき訴外繩手町より原告が直接返還を受ける約束の下に訴外株式会社山川組に対し原告株主名義の前記記名株券を同訴外会社に貸与し、同訴外会社は訴外繩手町に対し右事情を告げて右各株券を差入れ、これと引換えに受取つた保管書に署名して原告に交付した。従つて右各工事請負契約が完了したときは、原告のみが訴外繩手町に対し右株券の返還請求権を有するところ訴外株式会社山川組が右(イ)増築工事を昭和二十六年七月二日右(ロ)新築工事を同年八月十一日それぞれ完成して訴外繩手町に引渡したので、保証金差入契約に基いて原告のみが右各工事引渡後各九十日の瑕疵修補責任期間経過した別紙目録(二)記載の株券につき同年十月一日限り同目録(一)記載の株券につき同年十一月十日限り訴外繩手町に対し各其の返還を求め得るものである。しかるに被告は訴外株式会社山川組が訴外繩手町に対し右株券の返還を求め且つこれを処分する権利を有するものであるとの誤つた前提の下に被告の右訴外会社に対し有する前記金銭債権の執行を保全するため、訴外繩手町を第三債務者として右株券返還請求権を仮差押したので、原告は被告に対し本訴異議の訴を提起し所有権に基いて右違法な仮差押の執行排除を求めたところ、訴訟係属中被告は右被保全債権につき主文第一項掲記の債務名義を得てこれに基いて昭和二十八年五月七日主文第一項掲記の債権差押及び引渡命令を得、右命令が第三債務者訴外繩手町に送達せられたから茲に本件株券の所有権に基いて被告に対し右強制執行の排除を求めると陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中訴外株式会社山川組が原告主張の各建築工事請負契約保証金として原告主張の株券を訴外繩手町に差入れたこと、被告が右訴外会社に対する原告主張の手形金債権の執行保全のため其の主張の株券返還請求権につき債権仮差押命令を得、次で原告主張の債務名義に基いて右株券引渡請求権に対し原告主張の強制執行をしたことはいづれもこれを認めるけれども、右株券が原告の所有であつて原告が直接第三債務者訴外繩手町に対し右株券の引渡請求権を有するとの原告主張事実を否認する。本件株券は債務者訴外株式会社山川組の所有であつて同会社が原告主張の工事請負契約による保証金として訴件繩手町に差入れたものであるから、右契約当事者である訴外株式会社山川組のみが訴外繩手町に対し其の返還を請求し得るものである。
仮りに本件株券が原告の所有であつて原告主張の契約に基いて右株券を訴外繩手町に交付したものとするも訴外繩手町は善意無過失且つ平穏公然に右株券の占有を始め、右株券の上に行使する権利を取得したものであるから原告はこれを以つて訴外繩手町に対抗することができない。原告は前記請負契約の保証金として訴外繩手町に差入れることを承諾して訴外株式会社山川組に対し本件株券を任意に交付したものであるから、善意無過失且つ平穏公然に其の占有を取得した訴外繩手町が右株券の所有権を取得したのである。しかも原告は右株券が訴外株式会社山川組の訴外繩手町に対する右請負契約上の債務履行のために処分せられることを承諾するばかりでなく、右訴外会社の一般債権者の共同担保として換価処分せられることにある危険を予測しながら任意に右株券を交付したものであるから右過失ある原告はたとい本件株券につき実体上の権利を有するとしても訴外株式会社山川組の第三差押債権者に対し右株券上の権利を行使することは信義の原則上許されない。従つて原告が右株券の所有者であり、且つ訴外繩手町に対し直接其の返還を求め得るものであることを前提とする原告の本訴請求は失当であると陳述した。<立証省略>
三、理 由
被告が訴外株式会社山川組に対する原告主張の手形債権の執行を保全するため、原告主張の日時債務者右訴外会社の第三債務者繩手町に対する別紙目録記載の株券返還請求権につき原告主張の債権仮差押命令を得、其の頃右命令が訴外繩手町に送達せられ次で被告が右手形金債権につき債務者訴外株式会社山川組に対する勝訴の確定判決を得これを債務名義とする強制執行として原告主張の日時右仮差押の目的である本件株券返還請求権につき、執行裁判所において原告主張の債権差押及び引渡命令が発せられ、右差押及び引渡命令が第三債務者訴外繩手町に送達せられたこと及び訴外株式会社山川組が原告主張の各日時訴外繩手町との間に原告主張の各建築工事請負契約を締結すると共に、右各契約保証金の代用として別紙目録記載の株券を訴外繩手町に差入れたことはいづれも原被告間に争がなく、訴外株式会社山川組が原告主張の各日時各々請負工事を完成して訴外繩手町に引渡し、右保証金差入契約において定められた工事引渡後九十日の差入証拠金による瑕疵担保期間経過したことにより本件株券に対する担保の原因消滅したことは被告の明かに争わないところである。成立に争のない甲第一号乃至第八号証及び証人寺田豊三郎、同山川新太郎、同木村能秀の各証言に依れば原告の代理人訴外寺田豊三郎が訴外株式会社山川組から同会社が訴外繩手町より請負つた前記建築工事請負契約により将来負担することある債務履行を確保する保証金代用として使用するにつき株券を貸与せられ度い旨の申入を受けてこれを承諾し、原告株主名義である別紙目録記載の記名株券を右訴外会社に貸与し、同訴外会社が原告主張の各日時訴外繩手町にこれを交付し右記名株式につき質権を設定したことが認定できる。被告は訴外繩手町が本件請負契約保証金として訴外株式会社山川組より本件株券の交付を受け、善意無過失且つ平穏公然に右株券の占有を取得したから其の所有権を取得した旨抗争するけれども、原告の代理人訴外寺田豊三郎が昭和二十五年法律第百六十七号による商法改正前において本件記名株券に白紙委任状を添付し、若くは株券に裏書署名して予め質権の実行方法によらないで右記名株式の処分を承諾して訴外株式会社山川組に交付したものであることはこれを認むべき何等の証拠がなく、又記名株券はこれに化体する株主権と遊離して証券自体につき民法第百九十二条の適用を見るべき余地ないことが明白であるから被告の右抗弁は採用できない。しかして訴外株式会社山川組が右請負契約に基いて訴外繩手町から返還を受くべき本件記名株券につき何等の処分権をも有せず、原告との前示貸借契約に基いて其の所有権者である原告に対し、右株券を引渡すべきものであることは叙上認定事実により明かであるから、右訴外株式会社山川組が原告のために訴外繩手町より本件記名株券の引渡を受ける以前において右訴外会社に対する債権者が金銭債権の強制執行として同訴外会社の訴外繩手町に対し有する右株券を目的とする引渡請求権を差押えた場合、原告は其の目的である株券の所有権に基いて民事訴訟法第五百四十九条に則り右差押債権者に対し異議の訴を提起できることは疑を容れない。果してそうであるならば原告が第三債務者訴外繩手町に対し、契約上直接に本件係争株券の返還請求権を有するものであるか否かにつき判断するまでもなく、被告に対し前記株券の返還請求権に対する前示強制執行の排除を求め得ることは明かであるから原告の本訴請求を正当として認容すべきものとし、民事訴訟法第八十九条第五百四十八条第一、二項に則り主文の通り判決する。
(裁判官 南新一)