大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)2492号 判決
原告 福島安次郎
被告破産管財人 今堀孝人
被告補助参加人 安藤勝三
一、主 文
被告は原告に対し別紙目録<省略>記載の物件を引渡すべし。
訴訟費用中参加に因り生じた部分は参加人の負担とし其余は被告の負担とす。
本判決は原告が金二十万円の担保を供するときは仮に執行することを得。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
原告は鉄鋼類の売買を業とする商人であり、破産者酒井興産株式会社は鉄鋼類の販売を業とする会社であつたが昭和二十七年七月七日大阪地方裁判所の決定を以て破産宣告を受け被告今堀孝人は其の管財人に選任せられた。
原告は昭和二十七年六月四日右酒井興産株式会社から別紙目録記載の鉄鋼アングル型十六噸九百四十五瓩を一噸当り金三万五千円合計五十九万三千七十五円にて買受け即日代金全額を支払い右物件の所有権を取得した。而して右物件は右会社が訴外大浪運輸倉庫株式会社に寄託中であつたので、原告は右倉庫会社宛の荷渡依頼書の交付を受け之が引取の交渉中酒井興産株式会社は前記の日に破産宣告を受けた処その破産管財人たる被告は原告の買受けた前記物件は破産財団に属するものとして昭和二十七年七月十八日大阪地方裁判所執行吏をして之が差押を為した。
然し乍ら右物件は特定物であり右破産宣告前である同年六月四日原告が善意で買受けて代金の支払を了し既に所有権は原告に移転したものであるから破産財団に属する物件ではない。而して右物件は原告が簡易引渡を受けたものであり、然らずとするも荷渡依頼書は寄託者と倉庫営業者が予め協定し一定の書式によつて寄託物の表示を為し其の持参人又は指図人に対する寄託物の簡易の占有移転方法として広く業者間に行われる商慣習であつて、原告は荷渡依頼書の交付を受けることによつて占有の引渡を得たものである。又右荷渡依頼書には有効期間は昭和二十七年六月十五日迄なる記載があるが右期間経過後と雖も売買の効力並に引渡義務に消長はなく期間経過後は単に寄託者に於て倉庫料負担の義務は存しないことを意味するに過ぎない。
仮に右物件の引渡がないものとしても破産債権者或は破産管財人は右物件につき引渡の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者ではない。
以上の理由により別紙目録の物件は原告の所有に属し破産財団に属するものでないから之が引渡を求めるため本訴に及んだ。
と述べた。<立証省略>
被告は原告の請求を棄却すべき旨の判決を求め、答弁として、
原告が酒井興産株式会社より原告主張の日に別紙目録の物件を買受けて代金の支払を了したこと、右物件は右会社が訴外大浪運輸倉庫株式会社に寄託中であつて右会社は原告に荷渡依頼書を交付したこと、右会社は原告主張の日に破産宣告を受け被告がその破産管財人に選任されたこと、被告が右物件を差押えたこと、はいずれも認める。然し原告は右荷渡依頼書の有効期間である昭和二十七年六月十五日迄に右訴外倉庫会社より右物件の引渡を受けず被告破産管財人が之に封印を施す迄現品の引渡は勿論保管名義人変更の手続もしなかつたのである。
右物件は原告又はその代理人が占有していた場合でないから簡易の引渡のあり得る筈はなく、又荷渡依頼書は貨物引換証、倉庫証券等と異り、之を有効期間内に倉庫業者に呈示して現品の引渡を受けるか又は寄託名義人変更の手続をしたときに始めて引渡の効力が生ずるものであつて原告主張のような商慣習は確立されていない。本件物件は売買契約により右破産会社は原告に対しその所有権を移転すべき義務を負うに過ぎず、仮に当事者間に於て所有権が移転したとしても前記の通り引渡がなかつたのであるから民法第百七十八条によりその所有権を破産債権者に対抗できない。よつて本件物件は破産財団に属するものであるから原告の本訴請求は失当である。
と述べた。<立証省略>
被告の補助参加代理人は、
所謂出荷依頼書は寄託者と受寄者との間に予め成立した寄託契約に基き、寄託者が受寄者に対して特定の第三者に寄託物を引渡すべきことを指図する書面であつて常に一定の有効期間が明記されており、譲渡性はなく又有効期間経過後はその効力を失うものである。尤も有効期間経過後に於ても多くの場合寄託者が期限の延長に応じ紛議を生ずることが少いから出荷依頼書の交付を以て物件の現実の引渡があつたと同様の取扱がなされているが、寄託者が出荷依頼書を発行した後その有効期間内に於ても受寄者に対して引渡の中止を申出た場合は受寄者は之に応ずるのが常であり、期限経過後にあつては依頼書の再発行又は期限の訂正或は口頭による寄託者の承諾がない限り受寄者は絶対に寄託物の引渡に応じないのであつて、この点倉荷証券とその性質が根本的に相違している。仮に荷渡指図書の交付により物権変動に関する意思表示のほか、占有移転の効果を生ずるものとしても、それは有効期間内に受寄者から引渡を受けることを条件とするものであつて、期間内に引渡を受けなければ遡つて占有移転がなかつたことになるものと解すべきである。と述べた。
三、理 由
原告が昭和二十七年六月四日酒井興産株式会社から訴外大浪運輸倉庫株式会社に寄託中の別紙目録記載の物件を代金五十九万三千七十五円にて買受け即日右代金の支払を了し右倉庫会社宛の荷渡依頼書の交付を受けたこと、酒井興産株式会社は同年七月七日破産宣告を受け被告今堀孝人がその破産管財人に選任されたこと、被告が右売買物件を差押封印したことについては当事者間に争がない。
被告は、右売買契約の結果売主たる右破産会社は売買の目的物件の所有権を原告に移転すべき義務を負担するに過ぎないと抗争するが証人酒井春王、同小川喜八の各証言によれば本件物件の売買は前記倉庫会社が保管中の現品を点検の上契約が成立したものであつて売買の目的物が現存し且つ特定している場合であることが認められるから、売買の意思表示のみによつてその所有権は買主たる原告に移転したものであつて、特に所有権移転を目的とする意思表示(物権行為)を必要とするものではなく、且つ所有権移転には物の引渡を必要としないことは民法第百七十六条により明らかであるから、被告の右主張は理由がない。
原告は前示売買成立と同時に本件売買物件の保管者たる右倉庫会社宛の荷渡依頼書の交付を受けたものであるところ、一般に荷渡依頼書は物の寄託者が受寄者たる倉庫業者等に対し、依頼書に表示された寄託物を依頼書の所持人に引渡すべきことを指図した証券であつて、受寄者は荷渡依頼書の所持人に証券面記載の寄託物を引渡せば寄託者に対し右引渡の結果につき免責されるという趣旨の一種の免責証券的性質を有するに過ぎず、倉庫業者が発行する倉庫証券等とは異り、荷渡指図書の交付は物の引渡と同様の効力を生ずるものとは言えない。従つて原告が本件売買物件の荷渡指図書によつて前記倉庫会社より現実に物件の引渡を受けるか或は右倉庫会社が原告のため之を保管する旨の意思を表示しない限り本件物件の占有は未だ原告に移転したものと云えない。
而して成立に争のない甲第一号証によれば原告が交付を受けた荷渡依頼書には有効期間が昭和二十七年六月十五日迄と記載されてあるところ、前顕各証人の証言並に証人須藤克巳の証言によると、原告は右有効期限経過後二三日して引渡を求めたが依頼書の有効期間経過後であるのと倉庫料が未払である等の理由から右倉庫会社は本件物件の引渡を拒絶したが、そのような場合に於ても依頼書の書換を受けるか或は寄託者より口頭による引渡の承諾によつてさしたる故障もなく引渡が行われるのを通例とするけれども、その頃の破産会社の状態として倉庫料の支払ができず且つ破産会社の印鑑等は債権者等が保有していた関係から依頼書の書換を得ることができなくて引取が延引しているうち破産会社は前示の日に破産宣告を受け破産管財人に選任された被告は本件物件を右倉庫会社に於て差押封印を執行した事実が認められる。然し乍ら荷渡依頼書の有効期間内に引渡を受けなかつたからと言つて売買による本件物件の所有権移転の効力に影響のないのは勿論売主たる破産会社の売買物件引渡義務に消長を来すものでもない。依頼書の有効期間は倉庫料負担の時期的関係に意味を有するに過ぎないことは前示甲第一号証の荷渡依頼書に、有効期限後は荷役賃及期限後の保管料は引取人の負担たるべき旨の記載があることによつても明らかである。
前認定の通り本件物件は破産宣告当時に於てその所有権は原告に属していたものであるから破産財団に属しないことは明瞭であり、又原告が本件物件の引渡を受けなかつたことも前認定の通りであるが破産管財人たる被告或は破産債権者は右引渡の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に該当しないから被告は之が引渡を拒否すべき何等正当理由は存しない。よつて原告が被告に対し本件物件の引渡を求める本訴請求は正当であるから之を容認し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十四条仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 三上修)