大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)3438号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕昭和二十六年十月初頃訴外山田忠義が原告に対し、被告が亜鉛華の取引を同訴外人と希望しているので被告振出の手形によつて取引してほしいとの申出があつた。そこで原告は右訴外人に対し同月十二日亜鉛華を金二十九万五千円で売却し被告振出にかかる手形の交付を受けその後該手形は被告によつて支払はれた。そして更に昭和二十七年二月八日右訴外人より前同様被告振出の手形による亜鉛華売買の申込があり原告は今回の取引も履行せられるものと信じ、亜鉛華五瓲を金百三十六万五千円で売買する契約をし、即時被告宛現品を発送した。しかるに同年四月末頃山田は金額三十万円の被告振出の手形を原告会社に持参交付したが、その残額については同訴外人の説明により次の様な事情が判明した。即ち、右訴外人は被告に対し塗料取引によつて、金百五、六十万円の負債を生じたが、その支払能力がないので、同訴外人が原告から毎月十瓲前後の亜鉛華を買入れ、これを被告に売却しこれによつて生ずる利益をもつて順次右債務の返済に充てる話合が右訴外人と被告間に成立し、その試みとして前述十月十三日の取引をした。ところが、本件第二回目の取引により被告は原告から亜鉛華五瓲の送荷を受けるや、突然右前言を飜し、右取引により同訴外人が被告に対して有するに至つた代金債権と被告が山田に対して有していた右債権とを勝手に計算して対等額で相殺し差額金三十万円の右手形を振出したのみで残額についてはその支払をしないので山田は原告に対し残代金百六万五千円を支払うことが出来なかつたものである。―中略―仮に右の詐欺が成立しないとするも前記訴外山田が被告に対するいわゆるゴゲッキ債務金百八万円を同訴外人と原告間の取引による利益金をもつて順次なしくずしにする昭和二十六年十月頃の特約は本件商取引の決済をその都度履行し旧債務と相殺しない旨の特約であるところ、山田には支払能力がないのであるから、被告が右不相殺の約定を守らなければ訴外人は原告に対し代金の支払をなし得ず、原告が代金相当額の損害を蒙るべきことを被告は充分知悉しておりながら原告に商品を出荷させた後に至つて右不相殺の特約に違反し、敢えて山田に対する旧債権と本件取引上の債務とを一方的に相殺し、原告の山田に対する商品代金請求権を履行不能ならしめ原告の債権を侵害して右代金残額相当の損害を原告に与えたから金百六万五千円の賠償を求めると主張した。
被告は、原告が主張する被告による一方的示相殺及び不相殺の特約の存在を否認し、右は被告と訴外山田間の相殺契約によるものとし且つ原告の訴外人に対する本件代金債権は厳存しているから原告に何等の損害がないと主張して債権侵害を否定した。
〔判断〕原告敗訴
判決は被告と右訴外人間の相殺契約を認定した上で次のように判示している。
山田は無資力であるから、原告の自認する如き形式上原告が訴外山田に対して本件売買残代金債権を有しても前示相殺により、事実上右債権の回収は著しく困難となり、而も証人住田義照の証言によれば被告は右事情を相殺直前に充分認識していることが認められるけれども、右相殺は訴外人と被告間の合意によるものであるから、原告主張の如く、被告に不相殺の特約違反の事実なく、且つ相殺契約は正当な法律行為であり、悪意により積極的に該相殺契約をもつて原告の代金債権を侵害したとの立証なき本件においては、右相殺は未だもつて原告の債権侵害による不法行為とは断ぜられないから原告の本主張も採用し難い。