大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)3493号・昭28年(ワ)2343号 判決
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〔事実と判断〕原告は昭和二七年(ワ)第三四九三号事件において、「『梅花堂』なる本件登録商標の所有者であつたAは昭和一七年勅令第五〇三号企業整備令によりその営業をやめたのであるから右商標は商標法一三条により消滅している。だからその後同人より右商標を譲り受けた被告等は本件登録商標権を有しない。」と主張した。
判決は、次の理由により、右の場合は商標法一三条の「営業の廃止」にあたらないと判断した。
「登録主義をとる我が商標法の下においては商標の登録に当つて出願人が既に営業していることを条件とせずただ将来営業をする意思を有することを条件としているに過ぎないのであるから営業は出願者の意思に委ねられているということができる。従つて商標権者において営業を廃止する意思がない限り営業をしていないという事実があつたとしても、それは商標法第一三条にいう営業の廃止があつたものといい得ないこと勿論である。換言すれば同条の営業の廃止とは商標権者が自発的且つ積極的にその営業を廃止する意思を有し、しかも客観的にも営業をしていないという事実が存在する場合をいうものである。今本件についてこれを見るに、Aが昭和一九年二月企業整備令に基きその営業をやめたことは前示の通りであつて、今次大戦中の企業整備令による企業の統合廃止は、当時の労働力並びに物資の不足を克服し、戦争目的完遂の為、業者の欲すると欲しないとに拘らず強行されたものであることは当裁判所に顕著なところであるから、このように企業整備令により廃業したような場合は、特段の事情がない限り、自発的且つ積極的に営業を廃止する意思を有しなかつたものと認めるを相当とする。」
被告等は昭和二八年(ワ)第二三四三号事件において、被告等が前記昭和二七年(ワ)第三四九三号事件における本件登録商標を有すること前提として原告に対し、原告が本件登録商標と同一又は類似の標章を使用することの禁止を求めた。これに対し原告は商標法九条に基く先使用権を有する旨抗弁した。
判決は、次の如く事実を確定した上、斯る事実関係のもとでは原告に先使用権ありと判断して原告の抗弁を認めた。
「原告が昭和二四年二月本店の所在地を神戸市生田区、商号を梅花堂食品工業株式会社として設立され、昭和二五年八月支店を大阪市南区に開設し、昭和二七年二月から現在の商号に改めた羊羮の製造販売を目的とする会社であつて、設立以来その商品に本件商標と同一の『梅花堂』という商標を使用していること、原告の代表者K個人が昭和七年神戸市において『梅花堂』という商標を使用して羊羮の製造販売をしていたCからその営業を譲り受け、じらい同市営業所においてその製品に『梅花堂』という商標を使用していたこと……はいずれも当事者間に争いがない。
当裁判所が真正に成立したと認める乙第一号証、証人C、Dの証言、原告代表者、被告代表者各本人尋問の結果を総合すると、『梅花堂』という名称はAの先代Eの創始したものであつて、同人は大正五年大阪市において『梅花堂』という商号、商標を使用して羊羮の製造販売を始め、大正一三年同人の隠居によりAがこれを承継し、昭和一〇年八月二六日右商標の登録出願をし、昭和一一年四月一四日その登録を経て、昭和一九年二月営業をやめるまでこれをその製品に使用していたこと、他方Kは昭和元年以来A方の店員として働いていたが、昭和七年Aの承認を得て神戸市内において独立して羊羮の製造販売を始めるに当り、前示の通りCからその営業の譲渡を受け、……Cは大正八年以来『梅花堂』という標章を使用していた……次で昭和二四年二月原告会社を設立するに当りAの了解を得て右標章使用権をその営業とともに原告に譲渡したことが認められ、被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は信を置かない。そうすると、原告は本件商標が登録出願される以前から既に広く使用され周知の状態にあつた本件商標と同一である『梅花堂』という標章の先使用権を不正競争の目的なく善意で譲り受け、その使用を継続している標章の先使用権者であるから、被告等の本件商標権が存在するに拘らず『梅花堂』という標章を適法に使用することができるものといわねばならない。」