大判例

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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)4428号 判決

原告 前田忠一

被告 池田勤 外一名

一、主  文

被告池田勤は原告に対し金七万円を支払うべし。

原告の被告池田勤に対する其余の請求及び被告大阪小型自動車株式会社に対する請求を棄却す。

原告と被告池田勤と間に生じた訴訟費用は之を七分し、その六は原告の、その一は被告池田勤の負担とし、原告と被告大阪小型自動車株式会社との間に生じた訴訟費用は原告の負担とす。

本判決は金二万三千円の担保を供するときは原告勝訴の部分に限り仮に執行することを得。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告等は各自原告に対し金五〇万円を支払うべし、訴訟費用は被告等の負担とす」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

被告会社は小型自動車及びスクーターの販売を業とし、被告池田は被告会社の使用人で販売係の職にある者であり、原告は前田忠義、前田富子の長男で昭和二十三年二月二十二日生の児童である。昭和二十七年九月二十一日午前十一時三十分頃、被告池田は被告会社の業務に関し、原告方より約一〇〇米離れた関西塗装株式会社に赴くためスクーターに乗車して、阪神電車福島駅より北方に通ずる車道歩道の区別なき人馬の往来のはげしい巾九米四〇糎の道路を北方に向い時速四五粁にて進行し、大阪市福島区上福島北二丁目六番地先原告方前の道路にさしかかつた際、原告が自宅と北隣の家屋との間の路地から出て右道路を東に横断せんとして道路上に約二米歩み出たのを約九米手前に於て発見したが、被告池田は方向転換の措置を構ぜず、漫然速度を制限して急停車せんとしたが及ばず、被告池田が原告を認めた地点から一〇米二〇糎進行した道路の中央で原告に衝突し、更に原告を約六米三〇糎引摺つて進行した後スクーターは転倒して停止した。凡そスクーターを運転する者は制限速度を守り、特に往来のはげしい車道歩道の区別のない道路を運行するに当つては、警笛を鳴らし、絶えず前方を注視し、何時にても急停車又は方向転換をなし以て交通事故を未然に防止すべく注意すべき義務があるに拘らず、被告池田は警笛を鳴らさず、原告を発見すると同時にハンドルを右に切つて方向転換の措置を構ずれば右事故は防止し得た筈であるのにその措置を構じなかつたものであり、又被告池田が制限外速度を運行していたことは、原告を発見して急停車の措置を構じてから原告に衝突し更に原告を引摺つてスクーターが転倒して停車するに至る迄一六米五〇糎進行している事実からみて明らかである。

右衝突事故により原告は加療六ケ月を要する頭蓋骨折、右大腿骨折、右耳介部挫創、背部擦過創の傷害を蒙り、大阪中央病院に入院し、一時生命危篤に陥つた程である。原告は大腿骨折観血手術を受け現在ギブス装用中であり、銀線除去迄に二〇万円の治療費を要するのみならず、右各傷害のため甚だ奇型を呈するに至つたので、之が精神上の苦痛に対する慰藉料は三〇万円を相当とする。被告池田は前記不法行為により原告に加えた右損害を賠償すべき義務があると共に、被告会社は被告池田を使用するものであつて被告池田の前記加害行為は被告会社の業務執行中生じたものであるから、被告会社も亦原告に対し右損害を賠償すべき責任がある。よつて被告両名に対し五〇万円の支払を求めるため本訴に及んだ。と述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は原告の請求棄却の判決を求め、

被告池田の答弁として、

被告池田が被告会社の使用人であること、原告主張の日時場所において被告池田の運転するスクーターが原告に衝突し原告が負傷した事実は認めるが、右衝突事故は被告池田の過失に因るものではない。右事故発生当日は日曜日で、一般会社と同様被告会社も休日であり、被告池田は自己所有のシルバーピジヨン一九五一年式スクーターに乗車し私用にて尼崎市の知人を訪問する途中、出入橋の被告会社営業所に立寄つた後、市電浄正橋停留所を北へ大仁本町より阪神電車北大阪線、国鉄西成線を越え、国鉄のガードを抜けて、時速二十五、六粁の速度を以て警笛を鳴らしつつ原告主張の道路を北進中、突然原告が道路上に飛出したので、直ちに急停車措置を構ずると同時に、衝突を避けるためハンドルを右に切つたが、原告が避けようとしたスクーターの方向に勢よく走つてきたので遂にスクーターに接触して負傷したのである。原告は当時原告宅と北隣の家屋との間の巾約三尺の小路にて洗濯たらいで水遊びをしていたが、道路の向側の空地で洗濯物を干していた母親の所に行かんとして右小路を急に飛出して道路を横断しようとしたものである。被告池田が原告を認めたときはスクーターの先端と原告との距離は約八米であり、急停車の措置をとつてから約八米スリツプして原告に衝突し、原告を約一米半引摺つて停車したのであるが、時速三十粁前後の速度を以て進行中のスクーターが急停車の措置を構じてからスリツプして停車する迄の距離は普通一二米乃至一四米位であるから、被告池田の採つた急停車並にハンドルを右に切つた処置は右の場合最善の方法であつて、被告池田に過失はなく、本件事故の発生は不可抗力である。仮に被告池田に過失があつたとしても、原告の如き幼児を交通頻繁な場所に遊ばせながら保護者は監督義務を怠り、又原告はパンツ一枚の裸体であつたが若し衣服を着用していたなら被害も軽傷の程度に止つたものと言うべく、この点においても保護者に過失があるから、過失相殺により被告池田は損害賠償の責任を免るべきものである。

と述べ、

被告会社の答弁として、

被告会社が被告池田を販売係として使用していることは認めるが、本件交通事故は被告会社の休日に被告池田自身の私用のため自己所有のスクーターを運転中に惹起したもので、被告会社の業務執行には何等関係はないから、被告会社がその責任を負はねばならない理由は存しない。

と述べた。<立証省略>

三、理  由

昭和二十七年九月二十一日午前十一時三十分頃、被告池田がスクーターに乗車して大阪市福島区上福島北二丁目六番地先道路を北に向つて進行中、原告方家屋前の道路上に於て原告と衝突し、原告が負傷した事実は当事者間に争がない。そこで先づ衝突事故は被告池田の過失に因つて生じたものであるかどうかを判断する。証人向井清の証言並に被告池田本人の供述及び現場検証の結果を綜合すると、右道路は車道歩道の区別のない巾八米八二糎の鋪装した諸車の往来のはげしい平面道路であつて、被告池田は道路の中央よりやや左寄りを時速約三十粁の速度で北方に進行中約九米前方において原告が西側から東へ道路を横断しようとして道路上に約二米走り出たのを発見したので、被告池田は急停車の措置を採つたが、スクーターは一〇米二〇糎進行し道路の略々中央に於て原告と衝突し、更に約六米三〇糎原告を引摺つて進行した後スクーターは転倒して停車した事実が認められる。而して右向井証人の証言によればスクーターの制限速度は車道歩道の区別のない道路に於ては時速二五粁であり、乾燥平面道路において時速二五粁にて進行中のスクーターが急停車の操作をしてから停車する迄の進行距離は約一〇米であり、時速三〇粁の場合は一四米四〇糎であることが認められる。然る処被告池田が急停車の措置を構じてから一〇米二〇糎進行した地点で原告と衝突しスクーターは更に六米三〇糎進行して停車している事実をみると、右衝突事故の発生は被告池田が制限速度を超過した時速三〇粁以上で運行していたことに一の原因があるものと考えなければならない。即ち若し制限速度以内で運行していたとすれば急停車の操作をしてから約一〇米で停車する筈であつて、原告に接触する直前に停車したか或は接触したとしても停車直前のことであつて後に認定する原定する原告の負傷の程度の事故は発生しなかつたことは明らかである。而して又検証の結果によると、被告池田が急停車操作をした地点は道路の西側境界線から東へ約四米一三糎の所であり、衝突した地点は西側境界線から東へ約四米五三糎の所であるから、急停車の操作をしてから衝突する迄一〇米二〇糎進行する間に僅か四〇糎東に寄つているに過ぎないのであつて、被告池田が原告との衝突を避けるため方向転換の措置が採られたものとは認められない。尤も証人向井清の証言や被告池田本人の供述にある如く、スクーターはその性能上進行中方向の急転換をなすときは運転者自身に危険が伴い、事実上急激な方向転換は不可能であるとしても、原告の歩行の方向、速度等を判断して或程度右或は左に方向を転じて衝突を避ける措置を採るのが当然であるにも拘らず、単に急停車の操作をしたのみで、そのまま殆ど真直に進行して遂に原告と衝突するに至つたことは、事故の発生を防止するための万全の措置を採つたものとは言い難い。

之を要するに被告池田はスクーターの運転者として所定の制限速度を遵守し、特に本件道路のように車道歩道の区別なく、しかも往来の頻繁な道路にあつては速度の加減に一段の考慮を払い、何時でも急停車或は方向転換等必要な処置を構じ得るよう細心の注意を以て運行すべき義務あるに拘らず、如上の義務を尽さなかつたため原告との衝突事故を惹起し、以て原告を負傷させたもので、被告池田の過失に因るものというべく、被告池田はよつて生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。

よつて原告の損害額について判断する。成立に争のない甲第一号証によると、原告は本件衝突事故により頭蓋骨折、右大腿骨折、右耳介部挫創、背部擦過創の傷害を受け、直ちに大阪大学医学部附属病院において治療を受けた後即日大阪中央病院に入院し、昭和二十七年十月二十日退院迄一ケ月間同病院に於て加療したものであるが、右大腿骨折の手術により同年十一月十日頃迄ギブスを装用し、仮骨形成後約四週間マツサージを為す必要があり、手術後銀線除去迄に約六ケ月を要する状態であつたものと認められる。而して原告の親権者前田忠義の供述によれば、現在原告はギブスは既に除去し歩行には差支なく、他の負傷部分についても耳の後頭部と耳介部に傷痕を止めるのみで殆んど完全に治癒し、只銀線を除去する必要があるかどうかについて問題が残つているに過ぎないことが認められるが、原告が右負傷により且つその治療中に於いて受けた精神的、肉体的の苦痛は大なるものがあつたと認められ、又傷痕による今後の精神的苦痛も少しとしないから、右の事情並に原告の年令等を考慮して、被告池田が原告に支払うべき慰藉料は一〇万円を以て相当と思料する。

原告は負傷の治療並にそれに関連して支出し且つ将来支出を必要とする金員は二〇万円なりとし、その損害の賠償を求めるが、原告は昭和二十三年二月二十二日生れで本件事故による負傷当時は四歳七ケ月の小児に過ぎないから、右治療費等は原告の親権者前田忠義或は前田富子が支出したものと推認するのを相当とする。

然らば治療費等については右親権者が自ら請求するなら格別、原告からその賠償を求めるのは失当であると謂はざるを得ないからその金額につき判断する迄もなく、この部分についての原告の請求は棄却を免れない。

被告は、原告の如き幼児を交通頻繁な場所に遊ばせ乍ら保護者たる両親はその監督義務を怠つた過失があり、又原告をパンツ一枚の裸体としておいたため負傷の程度を重くしたことについても保護者に過失があると主張するから按ずるに、本件事故の発生した九月二十一日頃は日中に於ては未だ暑気の去らない時期であるから、幼児である原告をパンツ一枚の裸体で遊ばせていたとしても保護者たる両親に過失があるとは言えない。然し当時僅か四歳七ケ月に過ぎなかつた原告は往来頻繁な道路を横断するについての危険を充分弁識する程度の能力を有しなかつたものとみるべきであるから、道路附近で遊んでいた原告に対しては保護者たる者は原告が単身道路上に出て或は道路を横断するが如きことのないよう監督すべき義務があり、殊に右前田忠義の供述によれば、本件事故発生当時原告の母親は道路の向側の空地で洗濯物を干していたと言うのであるから、原告は幼児のことでもあつて或は道路を横断して母親の側に赴こうとする可能性も考えられ、更に一段の注意を加うべきであつたにも拘らず、原告の保護者等はその監督義務を尽したものと認められないから、本件交通事故については被害者たる原告側にも過失があつたものと言はねばならない。よつて前認定による被告池田が原告に支払うべき慰藉料額は原告の右過失を斟酌して七万円に減額するを相当とする。

次に原告の被告会社に対する請求について判断する。被告会社は被告池田を販売係として使用する者であることは当事者間に争のない所であるが、本件事故発生当日は日曜日であつたことは暦日上明らかであり、証人早川勝一の証言及び被告池田本人の供述によると、被告会社は日曜日は休日として業務を行はず、被告池田は当日私用を果すため自己所有のスクーターに乗車中に原告との衝突事故を惹起した事実が認められるのであつて、右認定を左右するに足る証拠はないから、被告池田の原告に対する加害行為は被告会社の業務の執行とは何等関係なく生起されたものとみるの外なく、然らば被告会社は被告池田の右行為につき責任を負担すべき筋合でないから、原告の被告会社に対する本訴請求は理由がない。

以上の通りであるから原告の本訴請求は被告池田に対する七万円の限度を以て正当として容認し、被告池田に対する其余の請求及び被告会社に対する請求は理由がないから之を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 三上修)

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