大判例

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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)4524号・昭27年(ワ)4587号 判決

原告 角嶋友明

被告 中山仲市 外一名

一、主  文

被告中山仲市は原告に対し金七万五千円及び之に対する昭和二十七年十二月十二日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし。

被告佐々木俊虎は原告に対し金七万五千円及び之に対する昭和二十七年十二月二十六日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし。

原告の被告等に対する其余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

原告が被告等に対し各金二万五千円の担保を供するときは原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

二、事  実

原告は、被告両名は原告に対し夫々金八万五千円及び之に対する各訴状送達の翌日より年五分の割合による金員を支払うべき旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

原告は宅地建物の取引業者であるが、昭和二十七年八月十四日被告佐々木から同被告所有の大阪市此花区春日出中六丁目八番地の土地百十四坪及び同地上木造瓦葺共同住宅(アパート)延床面積九十五坪八合四勺の売却の周旋の依頼を受けた。よつて原告は右委託に基き大阪朝日新聞、大阪毎日新聞、大阪夕刊新聞、産業経済新聞等に広告すると共に右物件の売却に奔走努力し、新聞広告代のみでも二万三千三百円を支出したのである。ところが同年十月十二日被告中山は原告のなした新聞広告により右物件の買受希望を原告に申出でたが、被告中山の住所は当時の被告佐々木の住所の近くであつたので、原告は名刺に要領を記載して被告中山を被告佐々木に紹介した。其後被告等から何等の話もなかつたので、売買の話は成立しなかつたものと推察し、他に売却の努力をしていた処、後日に至り、被告両名は通謀して原告の仲介を故意に回避して原告に何等念達することもなく、前記建物を代金百七十万円で売買したことが判明した。原告は宅地建物の取引業者であるから、仲介の労に対し当然所定の手数料を売主買主双方より支払を受くべきものであるが、右の場合のように、売主買主が仲介業者の仲介を故意に回避した場合も完全に仲介したものとして所定の手数料の支払を受ける慣習である。

而して昭和二十七年八月一日業者間の申合せにより、仲介の手数料として売主買主双方より売買価格の百分の五宛支払を受けることとなつているから、被告等から夫々右売買価格百七十万円の百分の五に相当する八万五千円宛の支払を求めるため本訴に及んだ、

と述べた。<立証省略>

被告佐々木は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、原告が宅地建物取引業者であり、被告が原告に対し被告所有に係る原告主張の土地建物の売却を依頼したこと及び其後被告がその建物を売却した事実は認める。被告は右土地建物の売却方を原告に依頼するに当り、代金二百万円以上で売却すること、二百万円以上で売却した場合は二百万円超過分は手数料として原告の取得とすること、若し二百万円以下の場合は原告のなした新聞広告料は勿論手数料も支払わない旨を特約した。其後被告は昭和二十七年十一月十日原告の紹介による被告中山に右建物を代金百五十万円で売却したから、原告に手数料を支払う義務はない。

と述べた。

被告中山は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、

被告が新聞広告を見て原告方を訪れたこと及び被告佐々木から原告の主張する被告佐々木所有の建物を代金百五十万円で買受けた事実は認める。被告は原告から単に一片の紹介の名刺をもらい、被告単独で被告佐々木を訪れたが、代金の点で売買が成立しなかつた。其後四十五日を経過して被告佐々木から申出があつて建物のみを百五十万円で買受け所有権移転登記を完了したのである。右の次第であるから、右売買の成立に関しては原告は単に被告を佐々木に紹介したに過ぎず、しかも、原告の斡旋による当初の売買の話は一時打切られたのであるから、手数料百分の五の請求は著しく失当である。

と述べた。

三、理  由

原告が土地建物の取引業者であること、被告佐々木が昭和二十七年八月頃その所有に係る大阪市此花区春日出中六丁目八番地の土地百十四坪及び同地上の共同住宅(アパート)の売却方を原告に依頼したこと、原告の為した新聞広告をみて被告中山が原告方を訪れ原告から右物件の告知を受け被告佐々木を紹介されたこと、同年十一月頃被告両名間に於て右建物のみについて売買が成立したことはいづれも当事者間に争がない。

被告佐々木は、本件土地建物の売却の仲介を原告に依頼するに当り二百万円以上に売却できなかつたときは新聞広告料は勿論手数料も支払わない特約であつた、と主張し、原告本人尋問の結果によれば右の如き特約の存在したことが認められる。而して原告は右建物は被告等間に於て代金百七十万円で売買されたと主張するところ、之を認めるに足る証拠はないから、被告等の自認する通り代金百五十万円で売買されたものと認めるの外はない。ところで被告佐々木は売買代金が百五十万円であつたから右特約に従つて原告に手数料を支払う義務はないと主張するけれども、売価が二百万円以下の場合は手数料を支払わない旨の特約は、土地建物を合しての金額を言うものであることは同被告が土地建物の一括売却を依頼したことに徴して明らかである。然るに同被告は建物のみを百五十万円で売却したものであるのみならず、右特約は原告の仲介によつて代金が決定し売買が成立した場合であることは被告佐々木の主張自体から明らかであるから、同被告が原告の仲介を排して直接買主と交渉して代金を決定したような場合は、たとえ売買代金が二百万円以下であつても右特約の場合に該当せず、それによつて当然手数料の支払を拒絶し得る理由とはならない。被告佐々木が原告に対し手数料の支払義務があるかどうかは別の観点から考察しなければならない。一般に商人である宅地建物の取引業者が宅地建物の売買の仲介の委託を受けその委託事務を処理したときは、商法第五百十二条によつて報酬に関し特約がなくても当然相当の報酬を請求することができるのであるが、右業者が宅地建物の売買の委託を受けた場合は、売買の相手方の誘引、売買条件の決定、契約書の作成、代金の授受並に所有権移転登記手続等売買完結に至る迄一連の事務を処理するのが通例であつて報酬もそれによつて支払われるのが普通である。ところが本件においては被告佐々木は原告に前示不動産の売却方を委託し、原告は委託に基き新聞広告等により買手として被告中山を得て之を被告佐々木に紹介したところ、被告両名は爾後原告の仲介を排して直接売買取引を完了したものであるが、斯様な場合に於ても原告の仲介により取引が成立したものとして被告両名は原告に対し相当額の報酬を支払うべきものとするを相当とする。蓋しそうでないとすれば、委託者は業者の設備、経験、手腕等を利用して売買成立の機縁を作らしめながら最後の段階に於て当事者の直接交渉によつて容易に業者に対する報酬の支払を回避し得ることとなり、業者の出費労力に対し不測の損害を蒙らしめることとなつて著しく信義誠実の原則に反するからである。被告中山は原告から単に一片の名刺によつて被告佐々木の紹介を受けたに過ぎず、又そのときの売買の話は一応中絶し後日売買が成立したものである旨主張するが、原告の紹介によつて売買が成立したものである以上、前示の理由によつて報酬の支払義務は免れないと謂はねばならない。

そこで原告が被告等から受くべき報酬の相当額如何について考察するに、宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第一七六号、同年八月一日施行)第十七条第一項によれば「宅地建物取引業者が宅地建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は都道府県知事の定めるところによる。」と規定し、原告が被告佐々木から前記土地建物の売買の媒介の委託を受けたのは同法施行後であるから、原告が被告等から受くべき報酬額は都道府県知事の定めるところに従うべきものであるところ、大阪府知事は昭和二十八年四月六日大阪府告示第一七一号を以て前記法律の規定する報酬額につき、取引の金額二百万円以下の部分は百分の五以内、二百万円をこえ五百万円以下の部分は百分の四以内、五百万円をこえる部分は百分の三以内と定め、右告示が同年四月十三日から施行されたことは当裁判所に顕著な事実であるけれども、本件建物の売買の成立したのは右告示の施行前である昭和二十七年十一月頃であるから、右告示による報酬額は当然には適用されない。従つて原告の受くべき報酬額は諸般の事情を考慮して決定しなければならないのであるが、証人山浦徳史の証言並に原告本人の尋問の結果によれば、宅地建物の取引業者が宅地建物の売買の委託を受けて売買を成立せしめたときは、売買の当事者から取引額の百分の五相当の手数料を徴することは右業者間の申合せとして一般に慣行されていた事実が認められるし、大阪府知事が前示の通りの報酬額を定めたことからみて、取引額が二百万円以下の場合に右業者が売買の当事者双方から受くべき報酬は百分の五を以て相当とするものと認めなければならない。然らば本件に於て原告が被告佐々木からの委託によつて売買の仲介をした前示土地建物の内建物が代金百五十万円で被告中山との間に於て売買が成立したことは冐頭に認定した通りであるから、被告両名は原告に対し夫々百五十万円の百分の五に相当する七万五千円宛を支払わねばならない。

よつて原告の被告等に対する本訴請求中被告等に対し各七万五千円宛及び被告中山に対しては同被告に訴状が送達された翌日である昭和二十七年十二月十二日以降、被告佐々木に対しては同被告に訴状が送達された翌日である同年十二月二十六日以降右金額に対して夫々年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるから之を容認し、其余の請求は理由がないから棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 三上修)

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