大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)2916号・昭28年(ワ)4222号 判決
被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金五万円及び之に対する昭和二十八年四月十一日以降年六分の割合による金員を支払うべし。
被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する反訴請求を棄却する。
訴訟費用は本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。
原告(反訴被告)が金一万五千円の担保を供するときは第一項につき仮に執行することができる。
二、事 実
原告(反訴被告、以下単に原告と称す)は主文第一項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
被告(反訴原告、以下単に被告と称す)は昭和二十八年二月五日額面金五万円、支払期日同年四月八日、支払地振出地共に大阪市支払場所千代田銀行北畠支店なる約束手形一通を訴外七福産業株式会社宛に振出し、右訴外会社は之を白地式裏書により訴外川井伊三郎に譲渡し、同訴外人は拒絶証書作成義務免除の上之を原告に裏書譲渡し、原告は更に第一電業株式会社に譲渡し、右第一電業株式会社は右手形を株式会社協和銀行玉川町支店に取立委任をして支払場所に適法に呈示したが預金不足の理由でその支払を拒絶された。そこで原告は右第一電業株式会社に右手形金を支払つて手形を受戻し、同年四月十日公証人下条小野右衛門をして拒絶証書を作成せしめた。よつて被告に対し右手形金の支払を求めるため本訴に及ぶ。
と述べ、被告の抗弁事実を否認し、原告は被告が主張する二馬力バイクモーターは訴外七福産業株式会社から預り保管中であつて本件手形の決済のため受取つたものではない。
と述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、
原告主張の本件手形は、被告が訴外七福産業株式会社に対し五万円余に相当する自転車空気入部品及び泥除け等を注文するに当り右訴外会社の要求により右訴外会社が鉄板を購入する資金の前渡として鉄板屋へ廻すことを条件として振出交付したものである。然るところ甲第一号証の本件約束手形の裏書人は七福産業株式会社取締役中村弘であるが、中村弘は代表権限を有しない取締役であつて右訴外会社の裏書とは言えないから、本件手形は裏書の連続を欠くものであり、従つて原告は本件手形の正当所持人ではないから、被告は本訴請求に応ずる義務はない。仮に然らずとしても右訴外会社は被告発注の商品を引渡さないから被告に本件手形の支払義務はなく原告は被告が本件手形を振出した前記の事情を知つて取得した悪意の取得者であるから被告はその支払に応ぜられない。仮に被告が本件手形の支払義務があるとしても、被告が昭和二十七年三月右七福産業株式会社に二、三週間の約束で貸与した被告所有の二馬力バイクモーター一台をいつの間にか原告が占有しており、被告は昭和二十八年三月頃原告に対しその返還を求めたが、未だ返還をしないので、原告の履行遅滞により被告は商品運搬等に支障を来し、一ケ月九千円相当の損害を蒙りつつあり既に金五万円以上の損害額に上つているから、右賠償請求権と原告の本訴請求金額と対当額に相殺を主張する。
と述べた。<立証省略>
次に反訴請求として、「原告は被告に対しゼフアー型中古二輪自動車(車輛番号第六二九四八号)一台を引渡せ、若し右引渡不能又は修理をしなければ使用不能の場合は金五万円を支払え。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
右本訴答弁に於て主張した通り被告は昭和二十七年三月頃反訴請求趣旨に記載の物件を訴外七福産業株式会社に貸借名下に譲渡したものを、原告は被告に無断で右訴外会社よりその占有を承継したものである。被告は昭和二十八年三月原告に対し右物件の返還を請求したが今日に至る迄返還に応じない。ところが右物件は原告が擅に乗り廻しバイクモーターとして廃品同様になつていることが判明したので反訴請求に及ぶ次第である。尚右物件は原告の手許に在つた当時に於ては時価五万円相当である。
と述べた。<立証省略>
本訴答弁並に反訴の立証として乙第一号証の一乃至三を提出し、証人中村弘の証言並に被告本人訊問の結果を援用した。
原告は反訴に対する答弁として、反訴請求棄却の判決を求め、被告主張のバイクモーターは、原告と取引のあつた訴外七福産業株式会社の取締役中村弘の兄中村正次が昭和二十七年十月初旬頃原告に対し、バイクモーターが右訴外会社の倉庫に放置してあるが全然動かず修理を要するも原告に於て使用するようにと申出で原告方に持参したので、原告は之を修理して使用していた処、右中村正次は原告所有の新品自転車を一時借用方を申入れて之を使用して返還しないので、原告は右バイクモーターの返還を申出でると同時に右自転車の返還を請求したが之に応ぜず今日に至つているのである。従つてバイクモーターは本訴手形金請求と何等関係はなく、被告の反訴請求は失当である。
と述べた。<立証省略>
三、理 由
一、本訴についての判断、
被告が原告主張の本件約束手形を訴外七福産業株式会社宛に振出した事実は被告の認めて争わないところである。
そこで第一に被告の主張する裏書連続の欠如の抗弁について判断するに、成立に争のない甲第一号証の本件手形によれば、その受取人は訴外七福産業株式会社であり、第一裏書人として右訴外会社取締役中村弘なる表示の記名捺印があるところ、証人中村弘の証言により、右訴外会社の代表取締役は川井伊三郎であつて、中村弘は代表権限のない取締役であることが認められるけれども、更に同証人の証言によれば、右訴外会社に於ては中村弘は所謂専務取締として経理を担当し且つ右訴外会社の銀行取引は同人の名義で為されていた関係で、代表取締役の承認の下に同人が訴外会社のため手形の振出、裏書等の行為を為していた事実が認められる。従つて右訴外会社の代表取締役川井伊三郎は取締役中村弘が訴外会社のため手形行為を為すことを授権していたものと謂うべく、斯様に代表取締役の授権のあるときは代表権のない取締役の手形裏書でも会社の裏書として有効であると解すべきである。而して代表取締役から授権された取締役が手形行為を為すに当り、取締役の資格のみを表示したとしても、会社の代理関係の表示として適法であると言わねばならない。してみれば本件手形の第一裏書は受取人七福産業株式会社の裏書として有効であつて裏書の連続に欠けるところがないから、原告は本件手形の裏書の連続による正当の所持人と謂わねばならない。
次に被告から訴外七福産業株式会社に対抗し得る事由を知つて原告は本件手形を取得した所謂悪意の取得者であるとの主張についてみるに、被告本人の訊問の結果によれば、被告が右訴外会社に商品を注文するに当り、訴外会社が被告の注文に係る商品の製作に要する材料の購入資金として本件手形を訴外会社に融通のため交付したものであるところ、右訴外会社は遂に注文の商品を被告に納入しなかつたことが認められるから、被告は訴外会社に対しては本件手形の支払義務を負担しない筋合であるけれども、原告が被告と訴外会社間の右のような手形授受の関係を知つて之を取得したことを認め得る証拠はないから、被告の右訴外会社に対する人的抗弁を以て原告に対抗することはできない。
次に被告の相殺の抗弁についてみるに、証人中村弘の証言並に被告本人の訊問の結果によれば、被告は被告の主張するバイクモーター一台を訴外中村正次に貸与したところ、同訴外人は之を故障したまゝで原告に預けた事実が認められ、現在原告が之を保管していることは原告の自認するところであるが、成立に争のない乙第一号証の一、二によれば、右バイクモーターは訴外林俊二の所有であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。而して被告が原告に対して主張する右バイクモーターの引渡請求は所有権に基く請求権を主張するものと推認できるから、被告にその所有権が認められない以上、被告の原告に対する之が引渡請求権を認めるに由なく、従つて右引渡義務不履行に因つて生じた損害賠償請求も容認できないのであつて被告の右損害賠償請求権の存在を前提とする相殺の抗弁は理由がない。
以上の通り被告の抗弁はいづれもその理由がない。而して甲第一号証によれば、本件手形は最終被裏書人たる第一電業株式会社に於て支払期日に支払場所に呈示したが預金不足の理由で支払を拒絶されたので、原告は之を受戻して拒絶証書作成期間内たる昭和二十八年四月十日公証人をして拒絶証書を作成せしめたことが認められる。従つて原告が被告に対し本件手形金五万円と之に対し右拒絶証書作成日の翌日から年六分の割合による手形法所定の利息金の支払を求める本訴請求は正当であるから之を容認する。
二、反訴請求についての判断、
本訴に於ける被告の相殺の抗弁について判断した通りの理由によつて、被告の主張する本件バイクモーターについて被告の所有権が認められない以上、被告の所有権に基く之が引渡請求並に右引渡不能の場合その引渡に代る金銭賠償の請求はいづれもその理由がないことに帰するから、被告の反訴請求は棄却する。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。
(裁判官 三上修)