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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)3250号 判決 1955年10月25日

原告 三国自動車株式会社

被告 佐藤重男 外一名

主文

被告両名は、原告に対し、各自金一六〇六九四円及び之に対する被告佐藤は、昭和二八年八月一日以降右支払済に至る迄年六分の割合による金員を、被告横山は、同月二一日以降右支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

被告横山に対する原告の其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は、全部被告等の負担とする。

此の判決は、原告が、被告両名に対し、夫々金五〇、〇〇〇円の担保を供するときは勝訴部分につき仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告等は、原告に対し、各自金一六〇六九四円及び之に対する被告佐藤は、昭和二八年八月一日以降、被告横山は、同月二一日以降夫々右完済に至る迄年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として、「原告は、自動車等の販売及び修繕業を営む会社である。原告は、被告佐藤に対し、昭和二七年一二月二七日原告所有のオリエント号自動三輪車トラツク一台登録番号六-四三一六〇番を代金二四九九五〇円で、次の約定の下に売渡した。即ち、被告佐藤は、右代金中同日金三万円、昭和二八年一月一五日金三万円、同年二月五日金三万円、同年二月二五日から同年六月二五日迄毎月二五日に金三万円宛、同年七月二五日金九九五〇円を支払うこと、万一被告佐藤が、右分割金の支払を一回でも遅滞した時は、分割支払の利益を失い残金を一時に支払わねばならぬこと、第一回支払金を控除した残金二一九九五〇円の債務については、自動車抵当法による順位第一番の抵当権を設定すること、被告佐藤は、原告の承諾なくして、前記車両の現状変更をせず、その常置保管場所は被告佐藤営業所たる大阪市福島区草開町六三番地とし、右車両を他に譲渡貸与其の他の一切の権利の設定若しくは処分を為さぬこと車両の使用及び保管については、善良なる管理者の注意を用いること、車両の滅失、毀損、盗難、紛失其の他一切の損害については、賠償することを約定した。そして、原告は、被告佐藤に対し右契約に基き、同日右車両を引渡すと共に、前記抵当権設定の登録手続を経由した。しかるに、被告佐藤は、原告に対し、第一、二回の分割金合計金六万円、第三回の分割金の内金二万円以上合計金八万円を支払つたのみで、残金一六九九五〇円の支払を為さなかつたから、約旨により分割弁済の利益を失つた。そこで、原告は、前記抵当権実行の為、大阪地方裁判所に競売の申立を為し同裁判所は、同庁昭和二八年(ケ)第三〇号事件につき昭和二八年二月二〇日競売開始決定を為し、その競売手続を進行せしめんとした。しかるに、これより先、被告佐藤は、前記のように分割弁済を怠つて居り、且つ、約旨に反し、原告の承諾を得ることなく、右競売を妨げる目的を以つて、被告横山に対し、右車両を入質し被告横山は、右車両の所在を不明ならしめ、且つ、他に於いて之を使用収益するに至つた。その為、前記競売事件に於いて右自動車の引渡を受けることを著しく困難ならしめ、(原告の仮処分執行を不能ならしめた)従つて、競売手続の完結を著しく困難ならしめ「一時殆ど不能であつた)、且つ、遅延せしめた。その間、被告横山は、本件自動車を酷使し、其の価値を低下せしめ、遂に大修繕を要する程度のものとなつた。本訴提起後、被告横山は、本件自動車を被告佐藤に返還したので、原告は、直ちに執行吏をしてその占有を得せしめ、昭和二九年一一月五日競売が実行なした結果、同年一二月三日売得金一六〇〇〇円から競売費用金六七四四円を差引いた残金九二五六円を受領した。本件自動車は、前記競売開始決定のあつた昭和二八年二月二〇日当時に於いては、原告が、被告佐藤に対し有していた前記残金一六九九五〇円以上の価値を有して居たが、被告佐藤は、被告横山に対し、前記のように本件自動車を不法に入質し、被告横山も亦本件自動車の所在を前記のように不明ならしめ、その間之を酷使し、その価値を著しく低下せしめた為、原告は、右競売開始決定当時直ちに競売を実行すれば当然得べかりし前記債権の満足を得ることができず、前記売渡金中から受領した金九二五六円と前記債権額との差額金一六〇六九四円の損害を被つた。被告横山は質屋営業を営んで居り、自動車は、質権の目的とすることができないこと(自動車抵当法第二〇条)を知悉しながら、被告佐藤から本件自動車を質権の目的として交付を受け、故意にその所在を不明ならしめたのみでなく、原告から昭和二八年七月八日附書留内容証明郵便(甲第三号の一)を以つて、本件自動車には第一順位の抵当権が設定してあり目下競売手続開始決定により競売手続進行中であること及び本件自動車の引渡を求め、同書面到着の日から七日間内に之を履行しない時は、原告の被る損害金(残代金)一八九九五〇円の損害賠償請求を為すべき旨の書面を同月九日受領したにも拘らず、之に応じなかつた。そして、被告佐藤は、現在殆んど無資産であつて、同被告から原告は弁済を受けることは不可能である従つて、被告横山の右行為は、原告の前記抵当権を侵害する不法行為であり、被告佐藤の前記入質行為と相俟つて共同不法行為となることは明かである。そこで、原告は、被告佐藤に対し、前記代金債務の履行を求めると共に、被告横山との右共同不法行為に基き、被告横山に対し、不法行為を原因として、各自金一六〇六九四円及び右金員に対する被告佐藤は訴状送達の日の翌日である昭和二八年八月一日以降、被告横山は、訴状送達の日の翌日である同月二一日以降各完済に至る迄夫々年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。」と陳述し、被告等の主張に対し、「原告が、被告佐藤から本件自動車の代金につき、同被告主張の如き約束手形の交付を受けたことは認めるが、右は、代金の支払の為に交付されたもので、更改されたものではなく、且つ、右手形は、原告の認める金八万円を除いて其の余の分は、何れも満期に支払を拒絶された。その余の同被告及び被告横山の主張事実中原告の主張に反する部分は之を否認する。」と述べた。<立証省略>

被告佐藤は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、「原告の主張事実中、原告が自動車等の販売及び修繕業を営む会社であること、被告佐藤が、原告からその主張の約定で本件自動車を買受けたことは認めるが該自動車に対し、抵当権設定契約を為したことは之を否認する。被告佐藤は、原告から買受けた右自動車代金の支払に代え、被告佐藤振出原告宛の約束手形数通を原告に交付し、右代金債務は、右手形金債務に更改されたから、原告の本件請求は失当である。仮に、更改されて居らず、且つ、右約束手形の内不渡を生じたものがあるとしても、昭和二七年一二月二六日、昭和二八年一月一五日、同年二月一五日を支払期日とした合計金九〇〇〇〇円の約束手形と、同年三月一七日を支払期日とした金二万円の約束手形は、何れも支払われているから、本件債務は、差引金一三九九五〇円残存しているに過ぎない。従つて、右金額を超過する原告の請求は失当である。」と陳述した。<立証省略>

被告横山は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、「原告の主張事実中、被告横山が、質商を営んでいること、原告主張の自動車を被告佐藤から質権の目的物として交付を受けたこと、原告から被告横山に対し、その主張の日その主張の如き内容証明郵便が送達されたことは之を認めるが、其の余の原告の主張事実は知らない被告横山は、被告佐藤の申出により、同被告に対し、昭和二七年一二月二八日金一〇万円を貸与し、本件自動車を質物として交付を受けたが、その際乙第一号証検査証の交付を受け、同検査証により調査したところ、右自動車は被告佐藤の所有物であることが確認されたので、之を質物として受取つたのである。そして、三輪自動車は、自由に売買及び質権の設定を為し得るのであり、被告横山は、前記のように調査した上善意無過失で質権を取得したのであるから、被告横山が、本件自動車を質物として受領したことは、固より不法行為を構成しない。原告から本件自動車の引渡を請求されたことはあるが、被告横山は、昭和二七年一二月二八日被告佐藤から本件自動車の所有権の譲渡を受けて居るし、仮にそうでないとしても、前記のように本件自動車を質物として占有し、訴外深井充に一時預けて居り、昭和二八年五月頃原告会社の社員志村盛弥から本件自動車の引渡を求められたが、当時右自動車は、既に流質期間を徒過し、完全な所有権を取得して居たので、被告横山は、その引渡を拒絶したのであつて、引渡を拒んだことは、何等不法行為を構成しない。昭和二九年一月一六日に至り、被告横山は、被告佐藤代理人弁護士金星武三から、前記貸付金一〇万円の支払を受けたので、本件自動車を被告佐藤に返還した。右の次第で原告が損害を受けたとすれば、その責は、被告佐藤にあり、被告横山には何等責任はないのであるから、原告の請求は失当である。」と陳述した。<立証省略>

理由

原告が自動車等の販売及び修繕業を営む会社であること、原告が、昭和二七年一二月二七日被告佐藤に対し、原告所有のオリエント号小型三輪自動車一台登録番号六-四三一六〇番を代金二四九九五〇円で、原告主張の代金支払の約定の下に売却したことは、原告と被告佐藤間に争いがない。原告と被告佐藤間に成立に争いのない甲第一号証の一、同第二号証によると、右売買契約を為すに当り、被告佐藤は、原告に対し、右代金の内第一回の支払金三万円を控除した残金二一九九五〇円の分割支払を担保する為右自動車に第一順位の抵当権を設定し、その登録手続をすること、被告佐藤は、車両の現状変更をせぬこと常置保管場所を被告佐藤の営業所とすること、車両を他に譲渡貸与その他一切の権利の設定又は処分を為さぬこと等を約し、昭和二七年一二月二七日その旨の登録手続を経由したことを認めることができる。被告佐藤が前記代金二一九九五〇円の支払につき、各分割弁済金に相当する被告佐藤振出の原告宛約束手形を原告に交付したことは、原告と被告佐藤間に争いがない。被告佐藤は、前記代金の支払に代えて原告に右各約束手形を交付したのであるから、更改により代金債務は消滅したと抗争するが、被告佐藤が、前記代金の支払に代えて右約束手形を振出し原告に交付したことを認めるに足る証拠はないから、右約束手形は、代金の支払の為に原告に交付されたものと認めるを相当とする。従つて、右抗弁は理由がない。次に被告佐藤は、右手形の内その主張する如く合計金一一万円支払を完了したから、残金は、一三九九五〇円に過ぎないと抗弁し、被告佐藤が支払つたと主張する金員の内第一、二回分の支払金として金三〇〇〇〇円宛、第三回分の支払金三〇〇〇〇円の内金二〇〇〇〇円合計金八〇〇〇〇円を支払つたことは、原告の認めるところであるが、其の余の支払を為したことを認めるに足る証拠はない。そうすると、被告佐藤は、約旨により分割弁済の利益を失い、原告に対し、右金員の支払を為しても尚代金二四九九五〇円から金八〇〇〇〇円を控除した残金一六九九五〇円を一時に支払うべき債務を負担していたことは明らかである。そして、裁判所作成の文書であるので真正に成立したと認める甲第一号証の二によると、原告は、本件自動車の競売事件により昭和二九年一二月三日競売代金一六〇〇〇円を交付され、内金六七四四円の費用を要していたので、実際上右費用を差引いた残金九二五六円を弁済として受領したことを認めることができる。そうすると、結局原告から被告佐藤に対する債権は、差引金一六〇六九四円残存することとなる。従つて、被告佐藤は、原告に対し、右残金及び之に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明白である昭和二八年八月一日以降支払済に至る迄年六分の割合による遅延損害金の支払義務があることは明白であるから、その支払を求める原告の同被告に対する請求を正当として認容する。

被告横山が、質商を営んで居り、昭和二七年一二月二八日頃被告佐藤から本件自動車を質物に取り金一〇万円を貸与したことは被告横山の認めるところである。被告横山は、本件自動車は、自由に質権の目的となし得るものであつて、善意無過失で之を質物として交付を受けたと主張するが、本件自動車は、小型三輪自動車であることは、当事者間に争いがないのであるから、自動車抵当法第二条、道路運送車両法第二条、第三条、道路運送車両法施行規則第二条の規定により、自動車抵当法の適用のある自動車であることは明らかである。従つて、本件自動車は、抵当権の目的とすることができるが、(自動車抵当法第二条)、質権の目的とすることができない(同法第二〇条)ものである。そうすると、本件自動車を質権の目的とした被告両名間の質権設定契約は、被告横山が、本件自動車が被告佐藤のものであると信じ、且つ、之を信ずるにつき相当の調査をなしたと否とに拘らず自動車抵当法第二〇条の規定により無効であると解すべきである。従つて、前記の如く本件自動車の抵当権者である原告に対し、被告横山は、右自動車につき質権を以つて対抗することができないことは明らかである。原告は、被告等が、本件自動車につき、質権を設定する旨の契約を為し、被告佐藤から被告横山に本件自動車を交付したことが、不法行為となる旨主張し、被告佐藤に於いて前記売買契約の条項(甲第一号証の一)に違反し、且つ、抵当権を設定した本件自動車を被告佐藤に質物として交付し、その質権設定契約が前記のように無効であつても、本件自動車が、第三者に転々として渡り、その所在不明となり抵当権の実行を著しく困難ならしめる虞があることは容易に推認し得るところであるから、被告佐藤の右行為は固より不法行為となることは明らかである。しかし被告横山が、本件自動車を質権の目的として、被告佐藤から交付を受けた行為は、質権設定契約が無効であつて、本件自動車に対し権利を有する者に対し、質権を主張し得ないに止まり、直ちに不法行為を構成するものと解することはできない。しかしながら前掲甲第一号証の一、同第二号証、証人志村盛弥、同河野一郎の各証言及び原告会社代表者本人尋問の結果を綜合すると、原告は昭和二七年一二月二七日被告佐藤に対し、前記認定の如き約定で本件自動車を売渡し、同日直ちに抵当権設定の登録を為したことしかるに、被告佐藤は約旨に反し、内金八万円を支払つたのみで残金一六九九五〇円を支払わなかつたので、約旨により期限の利益を失い、原告は、右抵当権実行の為昭和二八年二月大阪地方裁判所に対し、競売の申立を為し、同裁判所は、同月二〇日本件自動車に対し、競売開始決定を為し、原告は、同庁所属岡本執行吏に委任し、被告佐藤方に赴かしめ、本件自動車の引渡を求めしめたところ、自動車は被告佐藤方に存在せず引渡を受けることが不能となり、抵当権の実行は一時不能となつたこと、その後原告は本件自動車の所在につき調査した結果、大阪市福島区吉野町薪炭商訴外深井充方の納屋に在ることが判明したので、岡本執行吏は更に深井方に赴き自動車の引渡を求めたが、深井は、「本件自動車は、阪神商会(被告横山の屋号)から買う為に一時預つたが、買う意思がなくなつたので、同商会に返す心算であるが、一時預つて置いて呉れと言つて預つているのだから、引渡すことができない」と言い引渡を拒んだので、被告横山を其の場へ呼んで尋ねたところ、被告横山は、本件自動車の検査証を示し、「本件自動車は、被告佐藤から質物として取つたもので、流質期間の三カ月を徒過し、自分のものとなつている。」と言つて引渡を拒絶したので、岡本執行吏は、「本件自動車には抵当権がつけられている」旨話し、深井及び被告横山に引渡すよう要求したが、遂に引渡をせず、その後原告は、大阪地方裁判所から深井宛に仮処分命令を得て、その執行をせんとしたがその執行の前日被告横山が引取つてしまい、深井方には自動車はなく、右仮処分の執行は不能となり、爾後本件自動車は所在不明となり、抵当権の実行は一時不能となつたことを夫々認めることができる。そして、原告と被告横山間に成立に争いのない甲第三号証の一、二によると、原告が被告横山に対し、昭和二八年七月八日附内容証明郵便で、「原告は、佐藤重男に対し、昭和二七年一二月二七日オリエント号自動三輪車トラツク一台登録番号六-四三一六〇番を代金二四九九五〇円で売渡し、右代金支払の担保として自動車抵当法に基き順位第一番の抵当権設定登録を為した。しかるに佐藤重男は、右代金の支払を怠り残代金一八九九五〇円の支払を為さぬので、原告は大阪地方裁判所に右抵当権実行の為競売の申立を為し、同裁判所昭和二八年(ケ)第三〇号競売手続開始決定があり、同裁判所に繋属中のところ、被告横山は、右自動車の競売を妨害する為佐藤重男から右車両を質物として引渡を受けながら、その所在を不明ならしめ、競売も不能で、原告は迷惑している。ついては、本書到着の日から七日間内に右自動三輪車一台を原告又は原告の委任した大阪地方裁判所執行吏東役場執行吏岡本照雄に引渡相成度く、万一之を為さぬ時は、原告は、被告横山に対し、金一八九九五〇円及び競売申立費用等損害賠償として請求するから、右了承されたい。」旨通知し、右書面が、被告横山に同月九日到達したこと(右書面の到達したことは、被告横山の認めるところである)を認めることができる。被告横山は、前記のように、本件自動車につき適法に質権を取得することができないのであるから、本件自動車に対する抵当権者である原告が、抵当権実行の為競売の申立を為し、昭和二八年二月二〇日競売開始決定があり、その直後執行吏から抵当権実行の為に自動車の引渡を求められたのであるから、当時本件自動車を引渡すべきであつたのである。被告横山は、昭和二七年一二月二八日に被告佐藤から本件自動車の所有権を取得し、仮にそうでないとしても、本件自動車を質物として取得し、流質期間を経過し、その所有権を取得したから権原に基き占有して居たのであると主張するが、被告横山は、その提出の乙第二号証が真正に成立したことを何等立証しないから、之を以つて、被告横山が、昭和二七年一二月二八日に本件自動車の所有権を取得したことを認めることはできないし、被告横山は、本件自動車を被告佐藤から質物として交付を受けたと主張していること及び弁論の全趣旨からすれば、被告横山は、本件自動車を質物として受取つたことは明らかであるから、その他の事由で、本件自動車の所有権を取得したことを認めることはできないし、又既に認定したとおり本件自動車は、質権の目的物となし得ないのであるから被告横山は、流質期間を経過したことを理由として本件自動車の所有権を取得することができないものと謂わなければならない。そうすると、被告横山は、本件自動車を権原に基かず、即ち不法に占有し、本件抵当権者たる原告及びその委任した執行吏の引渡請求に応じなかつたものと謂わなければならないから、被告横山の右主張を採用することができない。又被告横山は、前記の如く執行吏の引渡に応じなかつたのであり、自動車の競売の場合には引渡に応じない場合には抵当権の実行を為すことができないことは、自動車強制執行規則第一二条、第七条の規定により明らかであるから、結局被告横山は、本件自動車を権原に基かず占有し、(自己が直接占有すると前記のように深井に占有せしめ間接に占有するとに拘らず)本件自動車の競売を妨げたものと謂うべく、少くとも原告から前記のように期間を定めて引渡を求められ、引渡を為さぬときは、之に因つて生じた損害の賠償を請求すべき旨の通告を受けた後に於いては、被告横山は、自己が本件自動車を引渡さぬ場合には原告に損害を生ずることあるべきことを知り、又は知り得べかりしに拘らず、敢て権原に基かず本件自動車を占有し引渡に応じなかつたもの、即ち、故意に、少くとも過失により占有を継続し、引渡に応じなかつたものと謂うべきである。被告横山の右行為が、不法行為となる為には、原告の権利を侵害したことを要する。そこで、被告横山の右行為が、原告の権利を侵害したかを検討することを要する。原告は、被告佐藤に対し、前記認定の如く金一六九九五〇円の債権を有し、後本件自動車の競売により売得金を取得した結果残金一六〇六九四円の債権を有するのであるから、被告横山の前記行為に因つて債権を侵害されたと謂うことはできない。何となれば、被告佐藤が、本件自動車以外に尚財産を有する場合には、本件自動車の競売により満足を得られなかつた残債権については、之につき債務名義を得て、被告佐藤所有の他の財産に対し、強制執行を為すことができるからである。しかし、被告佐藤に本件自動車以外に強制執行の目的となるべき財産がない場合には、本件自動車の抵当権者たる原告は被告佐藤に対する債権の弁済を得る為には、本件自動車に対し強制執行を為し満足を得る外なく、その執行を妨害されその間に自動車の価格低下し、(証人志村盛弥の証言、鑑定人田中源太郎の証言によると、自動車は使用して年月を経た場合は勿論、使用せずそのままで置いても日時の経過により、自然に価格低下することが認められる)、直ちに競売した時と比較して売買金が減少する如き場合には、その差額の範囲で抵当権の侵害となるものと解するを相当とする。そして、証人佐藤徳美の証言及び弁論の全趣旨によると、被告佐藤は、現在本件自動車以外に強制執行の目的となるべき財産を有しないことが認められるから、被告横山が前記のように本件自動車の引渡を拒み、その結果として本件自動車の競売を妨害した行為は、明らかに前記範囲で、原告の本件抵当権を侵害したものと謂うべく、固より不法行為を構成し、被告横山は、その為原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。

そこで、原告の被つた損害の数額につき判断することとする。原告と被告横山間に成立に争いのない甲第一号証の二、証人志村盛弥、同佐藤徳美、鑑定証人田中源太郎の各証言、鑑定人田中源太郎の鑑定の結果及び弁論の全趣旨を綜合すると、被告横山は、本件自動車をその後被告佐藤に返還し、被告佐藤は、之を執行吏に引渡したので、ようやく競売手続を進行することができるようになり、本件自動車を競売した結果、原告は、昭和二九年一二月三日売得金一六〇〇〇円の交付を受けたが、その内競売費用金六七四四円を要したので、之を差引くと、原告が、弁済を得た金員は金九二五六円であること、本件自動車の価格は、本件競売開始決定当時の昭和二八年二月二〇日当時は、金二〇万円乃至金二一万円、原告から被告横山に前記の如く引渡請求の内容証明が送達された当時は、金一七万円乃至一八万円であつたこと、被告佐藤は当時から病気で現在も病床に在り、資産はなく、担保に入れることのできるものはすべて担保に入れて居り弁済の資力は全然ないことを夫々認めることができる。そうすると、競売開始決定のあつた昭和二八年二月二〇日から通常の競売手続の通常の経過の下に、本件競売手続が進行されたならば、その間に自動車の価格の下落も僅少であり、少くとも、原告の被告佐藤に対する残償権金一六九九五〇円の金額を満足するに足る丈の代金で競売することができたであろうことは容易に推認することができる。しかるに被告横山は、前記のように本件自動車の引渡を権原なくして拒み本件競売手続の進行を妨害し、その間に本件自動車の価格の低下を来したのであり、自動車が年月を経過するに従い価格の低下を来すことは、何人も容易に知り得るところであるから、被告横山も之を知り又は少くとも之を知り得べかりしものと認むべく、且つ、被告佐藤は、前記のように本件自動車を原告から月賦支払の約束で買受け、直ちに被告横山に入質する如き人物であるから、(被告佐藤が買受けたのは、昭和二七年一二月二七日であり、被告横山が質物として交付を受けたのは、被告横山の主張によると同月二八日であり、成立に争いのない乙第一号証によると、本件自動車は、一九五二年型であり、自動車検査証の日附は昭和二七年一二月二六日であることが認められる)、被告横山としては、通常の注意を以つてすれば、被告佐藤が資力のない者であることを予知し得たであろうことは、容易に推認することができる。そうだとすれば、被告横山は、原告に対し、原告の被つた金一六〇六九四円(債権額金一六九九五〇円から本件自動車の売得金九二五六円を差引いた残金)を賠償する義務があることは明白である以上の理由で、原告の被告横山に対する請求は、金一六〇六九四円及び之に対する訴状送達の翌日であることが記録上明白である昭和二八年八月二一日以降完済に至る迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度に於いて正当として認容するが、不法行為に因る債権は、商事債務ではないから、年六分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は失当として之を棄却する。

仍つて、民事訴訟法第九二条第八九条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡野幸之助)

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