大判例

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大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)3974号 判決

原告 岡慶次

被告 藤岡末明 外一名

一、主  文

一、原告に対し、

(一)  被告藤岡末明は大阪市旭区生江町三丁目四十五番地上所在木造瓦葺二階建一棟及木造瓦葺平家建工場一棟を収去し、その敷地百四坪一合八勺を明渡し、且つ昭和二十七年二月一日以降右明渡済に至る迄一ケ月金四百七十八円二十銭の割合による金員を支払え。

(二)  被告斎藤文吾は前記木造瓦葺二階建一棟及び木造瓦葺平家建工場一棟より退去せよ。

二、訴訟費用は被告等の負担とする。

三、この判決は、被告藤岡末明に対して金三万円、被告斎藤文吾に対しては金一万円の各担保を供するときは夫々仮にこれを執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、陳述した事実の要旨は、

原告は昭和二十五年六月二十八日、訴外真野俊一から大阪市旭区生江町三丁目四十五番地宅地百四坪一合八勺を買受け、その所有権を取得した。当時該宅地は同訴外人がこれを被告藤岡末明に賃貸し、同被告は右宅地上に主文掲記の各建物を建設所有して、これに居住していたものである。原告は該宅地の所有権を取得すると共に、右訴外人の賃貸人たる地位を承継し、被告藤岡に対し、賃料一ケ月金四百七十八円二十銭、毎月末原告方に持参支払うべき約定にて期間の定なくこれを賃貸した。然るところ被告藤岡は昭和二十七年二月一日以降の右賃料の支払を為さないので、原告は同被告に対し昭和二十八年三月十二日到達の書面を以て、右延滞賃料をその到達の日より一週間以内に支払うべき旨の催告をしたが被告は依然これが支払をしなかつた。よつて原告は右賃料の不払を理由として、昭和二十八年六月九日同被告に到達の書面を以て右賃貸借契約を解除した。よつて同被告は原告に対し賃借物たる右宅地を原状に復して返還する義務があるから、右地上建物を収去してその敷地を原告に明渡すべきは当然である。然るに同被告はこれが返還義務の履行を怠り、該地上に本件建物を依然所有してこれを不法に占有しているので、本訴において原告は被告藤岡に対し右地上建物を収去して該土地の明渡を求めると共に昭和二十七年二月一日以降右解除の日である昭和二十八年六月九日に至る迄の間の一ケ月金四百七十八円二十銭の割合による賃料並に右解除の日の翌日である同年三月二十日以降右土地明渡済に至る迄、右賃料額相当の損害金の各支払を求めるものである。

被告斎藤文吾は原告に対抗しうる何らの権限なく前記宅地上に存する木造瓦葺二階建一棟及木造瓦葺平家建工場一棟を現在占有使用し(被告藤岡は本件建物より退去している)、原告の該敷地所有権の行使を妨害しているので、原告は被告斎藤に対し右建物よりの退去を求めるものであるというにある。

被告藤岡末明は肩書最後の住所地において本件訴状並に答弁書催告状及び口頭弁論期日(昭和二十八年十月二十六日及びその延期期日たる同年十二月十一日)の呼出状の送達をうけながら当該期日に出頭せず、その後何れかに転出し、所在不明となつたため昭和二十九年九月二十八日の本件口頭弁論期日は公示送達による呼出をうけたが依然該期日にも出頭せず、その間答弁書その他の準備書面の提出もしなかつた。

被告斎藤文吾(又はその訴訟代理人)は適式な呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せず且答弁書その他の準備書面の提出もしなかつた。

三、理  由

被告等はいずれも本件口頭弁論期日に出頭しないから民事訴訟法第一四〇条によつて原告が主張した事実を自白したものとみなされる。ただ本件において被告藤岡は訴状が陳述された口頭弁論期日(昭和二十九年九月二十八日)に公示送達による呼出をうけたものであるから同条第三項但書によつて同被告に対しては原告の立証なくしてその主張事実を肯認することは出来ないとの論が考えられるので、当裁判所がこの場合右但書の場合に該当せず、同項本文の適用ある場合と解する所以を今少し詳論しておく。

すなわち民訴法第一四〇条第一項には「当事者カ口頭弁論ニ於テ相手方ノ主張シタル事実ヲ明ニ争ハサルトキハ其ノ事実ヲ自白シタルモノト看做ス、但シ弁論ノ全趣旨ニ依リ其ノ事実ヲ争ヒタルモノト認ムベキ場合ハ此ノ限ニ在ラス」と、いわゆる擬制自白の認められる場合を規定しているが、これはあくまでも対席を原則とした規定であつて、いわゆる「欠席判決」の制度を認めない現行法の下では裁判はすべて対席でまかなう建前をとり、ただこの場合最初になすべき口頭弁論期日に欠席者の弁論の皆無を補うためにその者の提出にかゝる書面を陳述したものとみなすと共に(民訴法第一三八条)、かゝる書面の提出のない欠席者に対しては同条(民訴法第一四〇条)第三項を設け、右「第一項ノ規定(擬制自白)ハ当事者カ口頭弁論期日ニ出頭セサル場合ニ之ヲ準用ス」として、相手方の主張事実を欠席者において明かに争わないもの、自白したものと看做すとしているのである。而して他方欠席者が自白したものとみなされる事実の範囲を考えてみるに、出席者といえども準備書面に記載しない事実は相手方在廷しないときは口頭弁論において主張することを得ない結果(民訴法第二四七条第三五七条第三項)欠席者が自白したものとみなされる事項の範囲は相手方すなわち出席者の準備書面によつて予告されている事項に限られる。いいかえれば、相手方の準備書面が欠席者に既に送達されており、且つその準備書面に記載された内容について相手方が口頭弁論において陳述した場合に限つて、欠席者がこれを自白したものとみなされるのである。これが欠席者について擬制自白のみとみられる現行法上の枠である。しかもこの枠内である限り欠席者がそれを自白したものとみなすも通常は欠席者に酷な結果をもたらすものでない。何となれば欠席者は既に準備書面の送達により相手方の主張事実を予知しておりこれに対し答弁書その他の準備書面を提出して争うは勿論期日に出頭して反証をあげ或は更に進んで抗弁を提出する機会さえもあたえられているのに敢てこれをしないからである。

これに反し公示送達による呼出をうけた場合は相手方の主張事実を予知しているとはいえないので、抗弁や反証の提出はもちろん相手方の主張事実に対し答弁する機会さえ現実にあたえられていないことが多い。(勿論公示送達も適法な送達方法であり、これによつて受送達者に書類を何時でも交付すべき旨を掲示し或は呼出状を提示して、受送達者にその内容を知らしめる機会をあたえるものであるが、現実の交付ないしは予知の有無を論ぜず送達の効果を生じ、而も実際問題としては交付又は予知されないで終ることが多い。)そこでかゝる場合にも擬制自白の規定が適用されるものとせば欠席者の予知しないと推測される事項についてもこれを一律に自白したものとみなすことになり、これは欠席者に酷に失するので改正法(昭和二三年法律第一四九号)では同項但書を設けて「但シ口頭弁論期日ニ出頭セサル当事者カ公示送達ニ依ル呼出ヲ受ケタルモノナルトキハ此ノ限ニ在ラス」として、かゝる場合には相手方にその主張事実について立証をなさしめることゝしたのである。しかしこの場合と雖も右但書によつて欠席者に反証をあげたり抗弁を提出する機会までも保障するものではないことはいうまでもない。以上の如く但書の趣旨とするところは相手方の主張事実について欠席者が予知していないと推測される場合にこれを救済せんとするにあつて、公示送達によらずして現実に訴状並に呼出状の交付送達をうけている如き場合には、その延期期日の呼出がたとえ公示送達による場合でも該訴状に記載された内容に関する限り欠席者において自白したものとみなして少しも差支ないものといわねばならぬ。右但書には「公示送達ニ依ル呼出ヲ受ケタル場合」とあるも、これは呼出と共に該期日に陳述さるべき準備書面(訴状等)の送達も公示送達によつている通常の場合の立言であつて、その趣旨とするところはむしろ呼出が公示送達によつたか否によるというよりも出席者の陳述した準備書面が公示送達によつて欠席者に送達されているか否にいみがあり、これが公示送達による場合はこれを擬制自白の対象より除外せんとする点に意味があるものといわねばならぬ。従つて異例の場合であるが、(一)本件被告藤岡の場合の如く、当初所在判明しておつて、訴状並に答弁書催告状、期日の呼出状が本人に交付送達されており、その後行方不明となり、これがためにその延期期日の呼出が公示送達によつてなされた場合でも、該期日に陳述された訴状が公示送達によらずに交付送達によつて適法になされている場合は右但書の適用はないものというべく、又(二)被告に対し公示送達によつて訴訟手続が開始進行中(すなわち右但書の適用の下に立証段階にあるとき)被告の所在判明したので公示送達によらずに爾後の施行期日の呼出がなされ被告がなお欠席した場合でも、従前の原告の主張事実についての準備書面が欠席者たる被告に公示送達以外の方法で送達されていない限り、該施行期日には依然として(すなわち呼出が公示送達によらないでなされたに拘らず)右但書は適用あるべく(被告が該施行期日に欠席し、その期日呼出交付送達によつてなされているとの事を以て一挙に同項本文の適用あるべきではない。)これに対しその本文を適用して被告の欠席の故に擬制自白をみとめんとするには該施行期日までに原告の従前陳述した。又は該期日に新に陳述せんとする準備書面を被告に交付送達しておく必要がある。

以上説示した如き理由により被告斎藤は本件延期された口頭弁論期日には公示送達による呼出をうけて出頭しなかつたものであるが、該期日前既に訴状、答弁書、催告状、期日呼出状の交付送達をうけながら該期日に出頭せず且つ答弁書その他の準備書面の提出もしなかつたものであるから、たまたまその延期期日の呼出が公示送達によつてなされた場合でも民訴法第一四〇条第三項本文第一項により原告主張事実を自白したものとみなされる。

而して原告主張事実によれば被告等に対する本訴請求はいずれも理由あるからこれを認容し、同法第八九条第一九六条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 増田幸次郎)

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