大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)5710号 判決

原告 岡本英男

被告 井内仙太郎 外一名

一、主  文

被告両名は原告に対し大阪府中河内郡巽町大字矢柄一五一番地上木造瓦葺二階建倉庫一棟建坪十四坪一合四勺二階坪十三坪七合二勺を明渡すべし。

訴訟費用は被告等の負担とす。

本判決は原告が金三万円の担保を供するときは仮に執行することを得。

二、事  実

原告は主文と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

原告は被告井内と親友の間柄であるが、昭和二十一年頃同被告は住家がなくて家族と共に困つていたので、原告は之に同情して原告所有の主文第一項記載の本件家屋に返還期を定めず無償で居住させていた。ところが原告は鉄工業経営のため之が使用の必要に迫られ、被告井内に対し約二年前右使用貸借の解除を申入れ、之が明渡の請求をしてきたが同被告は之に応じないのみか却つて女婿に当る被告宮藤夫婦も同居させて明渡拒否の態度をとつているから、原告は被告両名に対し所有権に基き本件家屋の明渡を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ、被告の抗弁事実を否認し、原告岡本英男本人の尋問の結果を援用した。

被告等は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、

被告井内が原告主張の本件建物を原告から借受けて居住している事実及び約二年前原告から明渡の要求を受けた事実並に被告宮藤が昭和二十六年五月頃より本件建物に同居するに至つた事実はいづれも認めるが、本件建物の貸借は使用貸借ではなく賃貸借である。即ち被告井内は原告の依頼により本件建物の所在する工場の留守管理を依頼されその代償として受ける筈の報酬と家賃金とを相殺勘定にしていたものである。

と述べた。

三、理  由

被告井内が主文第一項記載の本件建物を原告から借受けて之に居住していること、被告宮藤が本件建物に被告井内と同居するに至つたことはいずれも当事者間に争がない。

被告等は本件建物は使用貸借ではなく被告井内が原告から賃借したもので、賃料は同被告が本件建物の所在する工場の留守管理を原告から依頼されそれにより受くべき報酬と相殺勘定にしていたと主張するが、右事実の認められる証拠はなく却つて原告本人の供述によると、被告井内は北海道の出稼ぎから大阪に帰つて来て奈良方面の親戚の家屋を借り受けて住んでいたところ右家屋の明渡を要求されて困つていた際、原告方の雇人であつた被告井内の兄井内万吉から原告に頼んだ結果昭和二十三年頃原告は好意的に無償で被告井内を本件建物に居住せしめたものであつて、同被告に工場の留守管理を依頼したような事実はないことが認められるから、本件建物の貸借は使用貸借であると言わざるを得ない。

而して本件建物の使用貸借につき期間の定めのなかつたことは被告等の明らかに争わないところであるが、民法第五百九十七条によれば期間の定めのない使用貸借にあつては借主の使用収益の目的が終了したときは借主は即時之を返還することを要し、又使用収益を為すに足るべき期間を経過したときは貸主は何時にても之が返還請求を為し得るものであるところ居住を目的とする期間の定めのない建物の使用貸借にあつては借主が現に居住して使用を継続している限り使用収益の目的が終了したとは言えないし、又使用収益を為すに足るべき期間を経過したものと認めることにも困難があつて、斯くては借主が自ら進んで返還をしない限り貸主はいつまでも返還の請求ができないこととなつて著しく公平を欠く結果となるから、期間の定めのない建物の使用貸借にあつては貸借当時の事情、借主の使用期間、貸主が返還を必要とする事情等を斟酌して貸主に使用貸借の解約ができるかどうかを決するのを相当とする。本件についてみるに前認定の通り本件建物の使用貸借は被告井内のさし迫つた住宅問題の窮状を打開するため為されたものであり、しかも貸借契約以来満五ケ年余を経過しており、尚原告本人の供述によれば本件建物は原告の経営する鉄工業の従業員の宿舎として使用していたが、被告井内に貸した当時は休業中で空家であつたけれども現在は事業を再開し工員の宿舎として使用する必要を生じた事実が認められるのであつて、右のような事情に於ては原告は使用貸借の解約を為し得るものと言うべく、被告井内は原告の返還請求に応じて本件建物を明渡すべき義務がある。

而して被告宮藤は本件建物に居住し使用すべき何等正当権限のないことは多言を要しないから、所有権者たる原告に対し之が明渡義務のあることは当然である。

よつて原告の被告等に対する本訴請求は正当であるから之を容認し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき、同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 三上修)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!