大阪地方裁判所 昭和28年(行モ)1号 決定 1953年5月11日
大阪府中河内郡柏原町大字法善寺一二七ノ一
申請人
柏原精機株式会社
右代表者清算人
近藤泰蔵
右代理人弁護士
梅木敬一
八尾市大南町二七五
被申請人
大阪国税局 八尾税務署長
大蔵事務官
馬場海雄
申請人は被申請人より申請人に対する別紙第一、第二課税決定目録記載の課税決定につき取消たる別紙第一、第二目録記載の物件に対する差押解除の訴を提起し且その公売処分の執行を停止せられ度旨申立てた。
当裁判所はその申立を理由ありと認めて左の通り決定する。
主文
(イ)別紙第一課税決定目録に基く別紙第一目録記載の物件(ロ)別紙第二課税決定目録に基く別紙第二目録記載の物件に対する公売処分の執行は大阪地方裁判所昭和二八年(行)第一二号課税決定取消事件の本案判決を為すに至るまで之を停止する。
(裁判長裁判官 相賀照之 裁判官 鈴木敏夫 裁判長 石川恭)
第一課税決定目録
滞納者 柏原町大字法善寺一二七ノ一
柏原精機株式会社
滞納金額
年度 税目 税額
23 法人 二四四、七八七円
23 源泉 一〇九、九四三円
24 〃 九、三八二円
25 〃 六、二九〇円
第一物件目録
名称 数量 物件所在
一、田 二七歩 柏原町法善寺一二七ノ一
一、宅地 一、四九一坪七九 〃
一、宅地 二、〇六〇坪九三 〃
一、畑 四畝二八歩 〃
一、畑 二畝一二歩 〃
一、建物第一号工場平家 一五、三三坪 〃
一、建物第二号工場平家 四〇、二五坪 〃
一、建物第三号工場平家 二〇、四四坪 〃
一、建物第四号工場平家 二〇、四四坪 〃
一、建物第五号工場平家 二五、五六坪 〃
一、建物第六号倉庫平家 一五、三三坪 〃
一、建物第七号事務所二階建 一階二一、七二坪 〃
二階一七、八九坪 〃
一、建物第八号工場平家 五七、三〇坪 〃
以上
第二課税決定目録
一、滞納者 中河内郡柏原町法善寺一二七ノ一
住所氏名 柏原精機株式会社
一、滞納金額
年度 税目 税額
23 法人 二四四、七八七円
23 源泉 一〇九、九四三円
24 〃 九、三八二円
25 〃 六、二九〇円
26 〃 一一、五〇〇円
27 法人再評価 一、七五〇円
以上
第二物件目録
<省略>
(参考)
競売執行停止命令申請
大阪府中河内郡柏原町大字法善寺一二七ノ一
申請人 柏原精機株式会社
右代表者清算人 近藤泰蔵
大阪市東区内本町二丁目二十四番地
右申請人代理人弁護士 梅本敬一
八尾市大南町二七五
被申請人 大阪国税局八尾税務署長
大蔵事務官 馬場海雄
申請の趣旨
申請人に対する別紙目録記載の課税決定に基く差押競売執行は右当事者間の課税決定取消しの本案訴訟確定に至る迄之を停止すとの決定を求める。
申請の理由
一、本訴請求の原因事実を総て之を援用する。
二、僅か金参拾七万円足らずの税金で多額の本件差押物件を競売せられては償うことの出来ぬ損害を生ずるので至急停止を求める必要があるので本申請す。
証拠方法
一、 疏第一、二号証を以つて差押の事実を(登載省略)
二、 疏第三、四、五号各証明書を以つて競売の事実を疏明する。
附属書類 委任状壱通
資格証明壱通
昭和二十八年三月十九日
右申請代理人 弁護士 梅本敬一
大阪地方裁判所民事部御中
証明書
一、私は元柏原精機株式会社の元取締役支配人であつたのであります。現在は会社は清算に移つて居り清算人は元会社の取締役の近藤泰蔵氏でありますが同人は京都市右京区花園大藪弐拾五番地に居住して居るので私が現在八尾市に居住して居るので、時々工場の現場を見に行つて居ります。
二、柏原精機株式会社は昭和十四年三月二十五日資本金拾八万円也で銃砲弾丸類の製造を目的として設立し、本店並に工場を中河内郡柏原町大字法善寺及び拾七番地の一地上に建設して戦時中、軍の監督工場として盛大にやつて居たが、終戦と同時に時計の製造に転換して居た処、昭和二十三年四月頃特別立法による戦時補償特別税金弐百八万円也余が突如決定課税せられたので、此の税の性質からしても到底営業の持続が困難となつたので昭和二十三年六月頃現実に一切の営業を一時中止し、直ちに其旨を所轄税務署に届出で其後よい案もないので同年末に正式に廃業届をしたのである。
三、二十三年度の法人税は右会社の昭和二十一年一月より同年十二月迄の営業利益に対する課税決定でありますが、それに対して昭和二十三年の月日不詳(目下調査中)に通知が来たので直ちに口頭で異議申立をした処、書面で出せとのことであつたので再調更正方の詳細なる計算と理由を添え審査請求を適法期間内に提出したのであります。税務署にその書面が受付けされて居たことは間違いなく、私は度々税務署に交渉に行つた際に見て知つて居ります。
四、右異議申立後再三再四係員と交渉した結果、前記戦時補償特別税が貸借対照表なり計算書に脱落して居たので係官の好意ある摘旨によつて夫等を訂正して更に提出しそれによつて会社は多額の欠損となるので係員は前記決定を取消更正決定すると言明せられたので私は全部解決したものと信じて爾来今日に至つたのであり、又夫れ以前夫れ迄の税金は一日の遅滞もなく全部完納したものに相違ありません。
五、処が其後一片の通知も一口の督促もなくして、昭和二十七年五月十四日突如として別紙第一物件表記載の不動産を差押えしたことを後日知つたのである。通知は清算人の処へ来ないので工場の中に抛り込んであつたのを見て知るし其処で調べて見ると二十三年法人税二四四、七八七円、源泉税二十三年度一〇九、九四三円也同二十四年度九三八二円同二十五年度六、二九〇円とあるので驚いて早速所轄八尾税務署に行つて右法人税に付ては取消する旨の了解済であるから今日迄一度の請求もなかりしこと源泉に付て何らの決定通知も来て居らぬのは勿論昭和二十三年六月営業中止迄の分は完済して居り、其後は一人の工員も居らぬのであり現実に営業もして居らぬのであるから全く税務署の机上決定である旨を強く述べとりあえず正式に異議の申立書を提出して以来今日迄幾回となく交渉中である。其間税務署の係員も度々変り事情は充分了解するが正式に取消決定がなければ徴収係はどうも出来ぬと云うので私は課税する方と徴収する方の双方の係員に再三再四交渉して、大体話がついて居た処、意外にも更に昭和二十八年一月二十六日五、六名の税務署の者は施錠して何人も居らぬ工場に窓を明けて(多分鍵をこわしてか)其処より乱入して中に在る機械全部を差押したと云つてその調書を会社と何の関係もなく只会社の家の一部を貸して居る(工場の前の)魚島千代子の処へ抛り込んで返つた由でその書類を後日私は同人より受取つて居りましたが、これとても正式に会社に通知せられたものでも又会社の立会でもなく、勝手無断に不法に工場に侵入してなされたものである。
六、依つて私は直ちに税務署に行つて此の不法を詰つたのであります処が、税務署は競売はせぬから早く話を交渉して呉れと云つていたのに其後更に六、七人の朝鮮人を連れて行つて又候誰れも居ない工場に窓より乱入して機械の評価をなした形跡があるのです。(他人の目撃者より聞知する。」其処で私は更に税務署に交渉に行つた処、係員は前記の如き交渉の経過や事情を無視して本月二十日には競売をすると無暴の言明をなして居るのであります。
七、其処で税務署が第一回に差押を執行した第一物件目録の土地建物の価格でも時価金六百万円也以上であり、税額は合計金参拾八万円也足らずであるのに更に第二回目第二物件目録記載の機械類が時価四百万円以上あり、如此弐回の執行は不備の甚敷いものである。会社としては実質的にも税務上からも現実に支払義務のない不当の税金であるから一応正式に異議の申立なし更に情理を尽して取消し方の交渉中である。然るに之れを無視して再度に亘り、更に競売せんとするが如きは全く官権乱用による脅迫的の行為と信ずるものであります。
右事実良心に誓いて相違なきことを証明する。
昭和二十八年三月十八日
八尾市八尾六十一番地
武田準二
証明書
一、私は大阪府中河内郡柏原町大字法善寺百弐拾七番地ノ壱地上柏原精機株式会社の工場の前の家一部を清算人より借りて居住して居るものであります。従つて会社の雇人でもなく、又工場の管理人でもありません。
二、昭和二十八年二月二十六日八尾税務署の人が四、五人突如来られて右会社の中に立入られた当時の事情は私の知つて居る処では左記の通りであります。
当時私は工場の内に入るに立会へと言われたが私は会社に何の関係もなく錠も預つて居らぬから立会うことは出来ぬ。会社の人は誰も今居られぬからあなた方から会社の人に話してからにして呉れとかたく度々言つたがそれを聞入れずに勝手無断にて錠をはずして中に入つてしばらくしてから帰る時に差押調書と言う書類壱通を私の処へ置いて帰つたのである。私としては斯様の書類を貰う理由がないから持帰る様度々言つたが税務署の方は抛つておいて帰つたのである。その後元会社の支配人であつた武田さんが来られたので右調書を前記の事情をお話ししてお渡ししました。
右良心に誓いて事実相違ないことを申上げます。
昭和二十八年二月十八日
大阪府中河内郡柏原町字法善寺一二七番地の一
魚島千代子
証明書
一、私は住宅に困つて居たので現住して居る中河内郡柏原町大字法善寺百弐拾七番地ノ壱元柏原精機株式会社の工場側の会社の家屋の一部を借つて居住して居ります。而し私は会社の雇人でもなければ又管理人でもありません。
二、昭和二十八年二月七日及び二月十二日突如六、七人の人が来て、誰れも居ない前記会社の工場に窓をあけて其処から中に入り込んだので丁度それを目撃した私は不審に思い、早速行つて聞いた処、其の一人は自分は八尾税務署の者だと威高に言つたので仕方なく見て居た処、後は朝鮮人らしい者でそれを連れて中に入り、工場においてある会社の機械を見せてそれぞれ評価をさして居りました。そして暫くして又窓から出て帰りました。右工場には夫々錠を掛けてあると聞いて居るのに出入した窓の錠はこぢあけてこわしたものと思われます。窓から朝鮮人等が出入すると今後物騒だと思つて居りました処、其後元会社の支配人であつた武田氏が見えたのでその事情を話して知らしてあげた次第です。
右事実、絶対に相違なくここに証明いたします。
昭和二十八年二月十八日
大阪府中河内郡柏原町大字法善寺一二七番地ノ一
戸井田一郎
意見書
申請人 柏原精機株式会社
被申請人 八尾税務署長 大蔵事務官 岩田善雄
右当事者間の御庁昭和二八年(行)第十二号課税決定取消請求事件について申請人はこの課税決定処分に伴う滞納処分の執行停止を求めるため本申請に及んだもののようであるが、該課税決定処分は違法でないのみならず本件申請は次の理由により許容さるべきでない。
一、行政事件訴訟特例法第十条によれば行政処分の執行は原則として出訴によつて妨げられるものではない。ただ同法第二項にいうその処分の執行により生ずべき償うべからざる損害とはひつきよう金銭をもつて償うことのできない場合をいうことは学説並びに従来の裁判例に徴して明白である。
本申請において申請人は被申請人のなした課税決定を違法処分であると断定し、それに基く滞納処分もまた違法であり、その執行を受けることによつて償うことのできない損害を受けるといつている。すなわち、申請人は被申請人の申請人に対する昭和二十三年度法人税の課税決定については昭和二十三年十二月五日付で被申請人に対し審査の請求をなしており、当時の係官もこれにより課税を取消す旨の言明をなしていたのにかかわらず現在に至るもなお、この課税取消もなされず、かつ審査の決定も未了であり、また、昭和二十三、二十四、二十五年度分源泉所得税の課税決定については、昭和二十七年五月二十日付で、昭和二十六年度分源泉所得税の課税決定については昭和二十八年二月一日付で、それぞれ被申請人に対して審査の請求をなしたが、これも裁決未了のまま現在に至つているとし、この違法な課税決定についての審査の裁決が未了であるのに、被申請人は昭和二十七年五月十四日及び昭和二十八年一月二十六日の二回にわたり申請人所有の不動産(申請書添付疏第一号証別紙物件目録参照)及び動産(申請書添付疏第二号証別紙物件目録参照)を差し押え、昭和二十八年二月二十日に差押動産を競売に付すると言明したといい、わずか金参拾七万円足らずの税金で多額の本件差押物件を競売せられては償うことのできない損害を生ずると主張している。
しかしながら、申請人の右のような主張事実はそうでない点がある。すなわち、申請人が現在滞納中の
(一) 昭和二十三年度分法人税金弐拾四万四千七百八拾七円也は被申請人が申請人の申告に基き昭和二十三年十月二十八日付で決定決議をなし同月三十一日付でこの決定通知書を発した(〔注〕この決定通知書と同時に送達した納税告知書記載の納期日は同年十一月三十日である。)ものであるが、これに対する申請人の納付は全くなくその調定金額が滞納となつている。
〔注〕(督促状発付昭和二十三年十二月二十三日、指定納期限昭和二十三年十二月三十日)
(二) 昭和二十三年度分源泉所得税金拾万九千九百四拾参円也は被申請人が昭和二十三年十二月八日に申請人に対する実施監査をなした結果、申請人につき昭和二十一年九月以降調査日現在までの間における従業員に対する時間外給与等支給額総計金八拾弐万六千弐百九円也にかかる源泉所得税不徴収の事実を摘発したため、この不徴収税額金拾五万九千九百四拾参円也を昭和二十三年十二月十日付で調定(〔注〕決定通知書と同時に送達した納税告知書記載の納期限は昭和二十四年一月十日である。)したもので、これに対して申請人は昭和二十三年十二月十四日付で金五万円也を納付したのみで、残税額金拾万九千九百四拾参円也が滞納となつているものである。
〔注〕(督促状発付昭和二十四年一月二十日、指定納期限昭和二十四年一月二十七日)
(三) 昭和二十四年度分源泉所得税金九千参百八拾弐円也は被申請人が昭和二十四年七月三十一日に申請人に対する実施監査をなした結果、またまた申請人につき源泉所得税不徴収税額金四万九千六百参拾弐円五拾銭也があるのを発見し、これを同日付で調定(〔注〕この決定通知書と同時に送達した納税告知書記載の納期日は昭和二十四年八月三十一日である。)したもので、これに対して申請人は同年九月七日より同十一月八日までの間、五回にわたり計金四万弐百五拾円五拾銭也を納付したのでこの残税額金九千参百八拾弐円也が滞納となつているものである。
〔注〕(督促状発付昭和二十四年九月二十二日、指定納期限昭和二十四年九月二十九日)
(四) 昭和二十五、二十六年度分源泉所得税計金壱万七千七百九拾円也はいづれも被申請人の認定による決定分であつて、これに対する申請人の納付は全然なく、従つてその調定全額が滞納となつているものである。
内訳次表のとおり。
(年度) (税目) (税額) (決定年月日) (納期) (督促状発付) (指定納期限)
二五 源泉所得税 一、二九〇円 二五・一二・二五 二六・一・三一 二六・二・七 二六・二・一五
二五 〃 五、〇〇〇円 二六・ 二・二八 二六・三・三一 二六・四・三 二六・四・一四
二六 〃 一一、五〇〇円 二六・ 六・一八 二六・七・三一 二六・八・一一 二六・八・二一
なお、申請人は前記(一)に掲げた昭和二十三年度分法人税の課税決定については昭和二十三年十二月五日付で、同(二)ないし(四)に掲げた昭和二十三、二十四、及び二十五年度分源泉所得税の課税決定については、昭和二十七年五月二十日付で、同(四)記載の昭和二十六年度分源泉所得税の課税決定については昭和二十八年二月一日付で、それぞれ被申請人に対して審査の請求をしたというが、このような事実は全然ない。従つて、被申請人としてはこれらの課税決定が適法な手続にもとづき決定せられ、なんら違法な点が認められないので、現在に至るまで、申請人に対しこの滞納税金の納付方を極力しようようして来たが、申請人はいたずらにその納付を遅延し、本件差押処分の執行時までの間、被申請人の数次にわたる納税催告にも応ぜずその納税に対する誠実性は全く認めることができなかつたため、この滞納処分として申請人所有の不動産(申請書添付疏第一号証別紙物件目録参照)(〔注〕差押登記済の土地、建物とは物件名、坪数に若干不符合がある。)を昭和二十七年五月十四日付で、同じく動産(申請書添付疏第二号証別紙物件目録参照)を昭和二十八年一月二十六日付で、それぞれ差し押えたのである。
本申請において申請人は本件差押処分が違法であることを主張し、公売処分の執行停止を求め、その理由として
(ア) 動産差押に際して、物件所在地に何人も居らないのを幸いとして執行官吏が旋錠を破損して窓から侵入し、立会人もないままに差押を執行せられたこと。
(イ) 動産及び不動産にかかる差押調書の滞納税目、税額に相違があること。
(ウ) 滞納税金の課税につき審査請求中であるのにかかわらずその滞納処分として僅少なる価額で競売せられる虞があること。
(エ) さらに滞納税額が僅か金参拾七万円足らずであるのに時価約壱千五百万円(不動産壱千万円、動産五百万円)の財産を差押えられたこと。
を挙げているが、
被申請人は申請人の主張する理由のみでは本件差押処分を直ちに違法な処分であると認めることができず、本申請の場合、処分の執行によつて償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるとはいえないと考える。
すなわち、前記の
(ア)についての事実は全然なく、その主張に理由がないし、
(イ)については動産及び不動産の差押調書記載の税目、税額に一部脱記があることは事実であるが、このことのみをもつては差押処分の取消原因となるような違法性は考えられない。
また、(ウ)については前示のごとく本件滞納税金の課税につき申請人は審査の請求をなした事実がないし、滞納処分は審査の請求のなされると否とにかかわらず続行されるものであるからこの主張にも理由がない。
さらに申請人が公売処分によつて差押財産が売却せられた場合いわゆる時価より不当に低廉な換価価値しか得られないということも失当である。
(エ)について、申請人の現在滞納額は本税額その他付帯経費(延滞金、延滞加算税額、利子税額、滞納処分費等)を合して総計六拾七万八千八百参拾四円であるが、本件差押物件の価格は被申請人の見積によれば申請人のいうように時価約壱千五百万円もする程高価なものでなく申請人の時価評定はいささか過大に偏すると考えられる。
〔注〕(差押物件を換価する場合の見積価格は(1)時日の経過に伴う損耗、または変質により(2)経済的事情に伴う需給関係の変動により本来変動する要素をもつもので、特に需給関係において顕著に現われる売手価格と買手価格に左右されることに留意しなければならない。)
被申請人として本件差押執行時における差押財産の換価予定価格に関する職権上の認定が申請人のいうほど不当なものでなく、本件差押処分そのものに違法性があるとは考えない。
なお、もし被申請人が本件差押財産の公売決行に際して、その見積価格が徴収すべき税額に比較して著しく高価であると認定した場合は分割公売等により徴収すべき税額の限度において換価処分を行うことはもちろんであつて、このことは行政上の通常の措置である。
さらに、本案訴訟において仮りに被告敗訴の判決をみたとしても国は該処分によつて申請人に与えた損害を金銭をもつて賠償するのであつて(国家賠償法参照)申請人の蒙つた損害はこれによつて完全に償われるべきであるから本申請の場合償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるとはいえないのである。
二、被申請人が申請人に対してなした本件財産差押のみによつていわゆる滞納処分の執行停止が容易に許されるとすれば厳正かつ、公正であるべき徴税事務の運営を著しく阻害する虞がある。この公正の見地さらに国家の財政収入確保の見地からも本件執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすものといわねばならないから、行政事件訴訟特例法第十条第二項但書前段の規定の趣旨にかんがみ本申請は許容さるべきでない。
三、本案訴訟は行政事件訴訟特例法第二条本文〔訴願前置主義〕に掲げられた要件をみたすことなく提起せられた不適法な訴であることは明りようである。このような訴において行政事件訴訟特例法第十条による処分の執行停止は成立し得ないと解すべきであるから本申請はすみやかに却下されるべきである。
(追記)
なお、付言するが被申請人は申請人に対する前記昭和二十八年一月二十六日付動産差押処分を昭和二十八年四月二十五日付で解除し、同年同月二十七日付で新たに申請人所有の動産を差し押え、同日この差押処分にもとづく公売公告(公売予定月日28、5、7)をなしている。
(別紙、差押調書(写)、差押物件引揚明細書(写)及び捜索調書(写)参照)
(注、別紙登載省略)
昭和二十八年五月一日
右被申請人
八尾税務署長 大蔵事務官 岩田善雄
大阪地方裁判所第二民事部御中