大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)2386号 判決
原告 越智肥料鉱業株式会社
被告 岡本麿輝夫
一、主 文
被告は、原告に対し金二十八万三千五百円及びこれに対する昭和二十九年四月二十五日から支払ずみまで年六分の金員の支払をせよ。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、金十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、
「原告は肥料の製造販売を業とする会社であるが、昭和二十九年一月六日溝口寛に対しマンガン肥料五貫入八百十俵を代金二十八万三千五百円(一俵の単価金三百五十円)で売り渡す契約をなし、現品は同年一月十一日貨車(番号ワム三九三七二号)で発送して同人に引渡を了した。しかして、右代金は支払期限を同年四月二十四日と定め、被告は原告に対し、右代金債務の保証をしたところが、溝口は右代金の支払をしないので、保証人である被告に対し右代金及びこれに対する弁済期の翌日から支払ずみまで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。」と述べた。<立証省略>
被告は、本件口頭弁論期日に出頭しないで、移送申立書を提出した、その記載によると「本件債務の義務履行地は岡山県笠岡市であるから、本訴は管轄違として民事訴訟法第三十条により当然岡山地方裁判所笠岡支部又は被告住所地を管轄する同裁判所玉島支部に移送されるべきものである。然らずとするも、本件審理のために必要な証人の多くは被告の居住地区に在住し、まだ同地区において検証鑑定をなす必要があるところ、遠隔の当裁判所で審理するときは多額の費用を要し訴訟の遅延を免れないから、民事訴訟法第三十一条により本件を岡山地方裁判所玉島支部に移送されたい。」というにある。
三、理 由
まず管轄の有無について考えるのに、本訴は保証債務の履行を求める財産権上の訴であるから民事訴訟法第五条により義務履行地の裁判所が管轄権を有することは明らかであるところ、原告代表者越智善太郎本人尋問の結果により成立を認められる甲第一号証及び、同人の供述によれば、本件売買契約は商事上のもので代金は現品引渡後に支払の約定であつたことが認められるから、別段の定がなければ、商法第五百十六条に従い代金の支払場所は債権者たる原告の営業所と解すべきものである。もつとも右契約において代金支払は約束手形によることを定め、その後右代金の支払方法として支払地笠岡市、支払場所中国銀行笠岡支店と定められた溝口振出被告引受に係る為替手形一通を原告が受け取つていることは、前掲の証拠資料に越智の供述により成立を認め得る甲第二号証を照合してこれを認められるけれども、右手形支払の約定とそれに基く為替手形の授受は、隔地者間の支払手段としての手形機能を利用する趣旨に出たものであつて(ことに右の如く銀行を支払場所とする手形にあつては取引銀行を介し容易安全に取立ができるから支払地の如何は債権者にとつて格別の関心事とならないのが通常であらう。)、右手形が不渡となつた場合すなわち手形が支払手段として固有の利便性を発揮し得なかつた場合において、当事者間に本来の代金債務の履行地まで変更する旨の合意が成立したものと解するのは相当でない。上記手形が不渡となつたことは甲第二号証によつて明らかで、支払場所につき他に格別の合意が認められない本件において、不渡後における代金債務の履行地、従つてその保証債務の履行地は原則に従い原告の現時の営業所たる表記肩書地(本件記録中原告会社の登記事項証明書によつて認められる。)というべきであるから、同地を管轄区域とする当裁判所が本訴につき管轄を有することは、明らかである。
次に被告は民事訴訟法第三十一条による移送の申立をしているがその理由として漫然被告側の証人の多数が被告居住地附近に在住し検証鑑定を同地区でする必要があるからというだけで、それらの証拠方法やそれによつて立証しようとする事実についてはなんら具体的な表示もなく、隔地者間の取引に関する争訟において証人等の証拠方法が両地に分れて所在することは通例のことに属し本件において、これを当裁判所で審理することにより著しく訴訟費用を増加し又は甚しく訴訟が遅延すると認むべき格別の資料もないから、右移送申立はこれを却下すべきである。
よつて、本案について判断するに(弁論の全趣旨から被告は原告の主張事実を争うものと認められる。)、前記甲第一、二号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告の請求原因事実は一応すべてこれを認めるに足り、これに対する反証はないのであるから、右事実に基く原告の請求を理由ありと認め、これを認容すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 橘喬)