大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)4286号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕原告は、訴外松村朝次郎(被告であつたが訴訟中に破産宣告をうけたため管財人が被告になつている)と取引を開始するに際し、松村との間に、同人所有の不動産を目的として代物弁済の予約を締結したのであるが、登記簿上は売買予約の仮登記をして、代物弁済の予約完結による所有権移転本登記は売買を原因としてする旨の特約を結んだ。そして松村に対し合計三、一二二、七六〇円の繊維品を売渡した。その後松村は、原告に対し、右不動産を原告において随時買掛代金債務中二、三六五、〇〇〇円の代物弁済として取得するも異議ない旨承諾した。しかして松村は内金五一、九八〇円を支払つたのみで残金の支払をしなかつた。そこで原告は右不動産を代物弁済として受領する旨の予約完結の意思表示をなし、その到達によつて右不動産は原告の所有となつた。よつて前記特約に基き売買を原因として仮登記に対する本登記手続を求める。
〔判断〕裁判所は、原告が松村と取引を開始するに際し締結したと主張する代物弁済の予約は証拠上認められなく、かえつて当時原告と松村との間に売買予約が成立していたと認められる。そして売買代金は代物弁済の評価と同額の二、三六五、〇〇〇円とする趣旨だつたと認めるのが相当である。原告主張の代物弁済の予約は仮登記の時ではなく右評価の時にはじめて締結されたと認めるべきで、結局、原告は同一不動産につき売買予約と代物弁済の予約との二個の所有権移転請求権を取得するに至つたものである。」と認定した上、本件で原告が行使した完結権がいずれであるかについて次のように判断している。
「ところで売買や代物弁済の予約による所有権移転請求権は債権であるから、同一目的物について同一当事者間に数多存しうると考えるのであるが、それが同一の債権を担保する目的をもつている場合、完結権者がいずれの完結権を行使したかを判定するには、それにより完結権者の企図する目的が目的物の所有権の取得という同一の法律効果に向けられていることと、一方の完結権の行使が他方の完結権の行使を不能ならしめる関係にあることより考えて、特に完結権者が一方の行使を固執する理由のない限り、単に表示上の文言のみにとらわれることなく、完結権者にとつてより有利な結果をもたらす方を選択したと解すべきであつて、一方につき仮登記がなされている場合には、仮登記の順位保全の効力を考慮し、原則として仮登記によつて保全されている請求権を完結する趣旨と認めるのが相当である。いま本件について考えてみると、前に認定したように、書面上は代物弁済予約完結の意思表示をしたようにみえるけれども、別紙目録記載不動産について、同一の発生原因に基く債権を担保する目的で、売買予約と代物弁済の予約とが締結されており、売買予約については仮登記があるが、代物弁済の予約については、それがないばかりか売買予約の仮登記後約五ケ月を経て締結されており、ことに弁論の全趣旨によると、完結権者である原告は、仮登記がなされた当時、原告と松村との間に代物弁済の予約が成立していたと考えていたのであつて、もし当時代物弁済の予約が成立していなくて前に認定したように売買予約が成立していたことを知つていたならば、当然売買予約の完結権を行使したであろうとの事実が認められ、原告が本訴において主張しているのも、要は、仮登記当時即ち昭和二六年八月末日頃原告が松村に対し有することになつた所有権移転請求権による所有権の取得ということであると解せられるから、原告が右書面によつて表示しようとしたのは、前に認定した仮登記の原因である売買予約に基いて別紙目録記載不動産を代金二、三六五、〇〇〇円で買受ける旨の売買予約完結の意思表示と認定すべきである。」