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大阪地方裁判所 昭和29年(行)30号 判決 1962年3月23日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(双方の申立)

一、原告訴訟代理人は「被告は原告に対し、訴外西進一郎に対する昭和二五年度所得税及び昭和二六年度富裕税等の滞納処分として国税徴収法(明治三〇年三月二九日法律第二一号)第四条の七により原告所有にかかる別紙目録記載の不動産についてなした差押処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(原告の請求原因)

一、原告会社は、肩書地に本店を有し、紡績業及びこれに附随する一切の事業を営むことを目的とする株式会社であつて、昭和二六年五月二三日の募集設立にかかり、設立当初は資本金一五〇万円であつたが、爾後同年一〇月一三日附一五〇万円、同年一一月七日附三〇〇万円、同月一二日附三〇〇万円の各増資をなした結果、現在資本金九〇〇万円を擁する株式会社となつた。

二、原告会社の代表者は創立以来訴外西進一郎であるが、同訴外人は別紙滞納税額一覧表記載のとおり合計金七、二七四、六八〇円の国税を滞納していたところ、被告は昭和二八年七月一三日附納付通知書を以て原告会社を右訴外人の第二次納税義務者、すなわち国税徴収法(明治三〇年三月二九日法律第二一号、以下旧国税徴収法と略す)第四条の七第一項該当者と認定し、原告に対し同年七月三一日までに右滞納国税全額を納付すべき旨通知した。

三、原告は被告の右認定は不当なりとして、昭和二八年八月五日附を以て旧国税徴収法第三一条の三、同法施行規則第三一条の三の二にしたがい、被告に対し審査請求書を提出したところ、被告は前記訴外人の滞納国税徴収のため同年八月四日附を以て原告に対し別紙目録記載の不動産に対し差押処分をなしたので、原告はこれに対しても同年九月二日附を以て右差押処分の不当を述べ、前同法条にしたがい審査請求書を提出したところ、被告は昭和二九年二月二四日附大局徴整(二)第二六号審査決定通知状により、原告の二度にわたる審査請求をいずれも理由なしとして棄却した。

四、しかして、右棄却の理由として挙示されているところは、

(1)  昭和二五年度所得税が事実上滞納となつたのは、滞納者西進一郎が修正確定申告書を提出した昭和二六年六月一九日以降であるから、旧国税徴収法(昭和二六年法律第七八号)施行後であつて、施行前よりの滞納でない。

(2)  原告が滞納者の第二次納税義務者として当局よりその納付通知をなし、原告がこれを受領した昭和二八年七月一五日現在においては、法人税法第七条の二に規定されている同族会社であり、原告の非同族会社であるという主張は認められない。

(3)  当局が差押えた不動産については、原告がその取得に関し滞納者から詐害行為により取得したものと認められる。

(4)  原告が滞納者から滞納者の資産負債を継承するに際して、金九、五七九、八六〇円相当額の低額譲渡をなしたものと認められる。

というのであるが、これらの理由は、いずれも原告において肯認できないところである。

五、すなわち、

(1)  訴外西進一郎において昭和二五年度所得税を滞納しているとはいえ、同年度の確定申告当時は同訴外人の父西米楠名義でその所得を金四〇五、三〇〇円として申告されていたところ、その納期であつた昭和二六年二月二八日を経過した同年六月一九日に至り、被告において納税義務者は訴外人の父ではなくその長子である訴外人なりと認定し、所得金額も金一、一〇〇万円として修正確定申告書を提出させたものである。従つて、その納税をせん延せしめた責任は一に被告にあり、これが滞納処分について昭和二六年四月一日以降施行せられた旧国税徴収法第四条の六あるいは同法第四条の七により第二次納税義務者に納税義務を課することは、実質的に法律に遡及効を認めたことになり、不当である。また、所得税法によればその納期は昭和二六年二月二八日であつて、本件の如く後日修正確定申告をなした場合においても、右納期以後現実に支払われるまでの利子税を払わねばならず、従つて税の納期は本件の場合にも変りないというべきであるから、結局昭和二六年二月二八日の納税分について同年四月一日以降施行の法規を適用することとなる。

(2)  原告において、前記二度にわたる審査請求に際し、いずれも原告自身滞納者西進一郎の同族会社ではない旨主張しているのであるが、もとより同族会社なりや否やはわが国所得税法が申告納税制度を採用している関係上、その判定権はむしろ納税者にあり、その判定時期は国税滞納処分をなす時の現況によるとあるから、本件の場合原告に対する納付通知当時の現況において納税者から同族会社なりや否やの申告が前もつてなされているべきであり、該申告なくしてほしいままに徴税権者により同族会社なりと判定し、納税義務を課することは失当である。仮りに原告が訴外西進一郎の同族会社なりとし、かつ、旧国税徴収法第四条の六の適用ありと仮定するも、右の規定にしたがい納税人の同族会社に対して有する株式を再度公売に付するなどの措置をまず以て講ぜねばならないところ、本件の場合これらの措置をも講ぜず、直ちに全額の納付通知をなし、差押処分の挙に出たことは違法である。

(3)  被告は原告所有の別紙目録記載の不動産は原告において滞納者西進一郎より詐害行為により取得したものとして旧国税徴収法第四条の七第一項により原告に対し納付通知をなし、さらに差押処分をなしたのであるが、被告の主張するとおり原告は決して滞納者の財産差押を免れるため贈与をうけ、または著しく低い額で譲渡をうけたものでないのみか、原告は同族会社でないのであるから、被告の主張は不当である。

(4)  原告が別紙目録記載の不動産を詐害行為により取得したものでないとせば、原告は滞納者より金九、五七九、八六〇円の低額譲渡をうけた旨の被告の認定も根拠のない暴論である。

六、被告の原告に対する本件差押処分は失当であるにかかわらず、被告は昭和二九年二月二四日附で審査の請求を棄却したので、原告は旧国税徴収法第三一条の四に則り、本件差押処分の取消を求めるため本訴請求に及んだ。

(被告の答弁及び主張)

一、請求原因第一項は不知。同第二、第三、第四項は認める。同第五項(1)の事実中、訴外西進一郎の昭和二五年度分所得税として総所得金四〇五、三〇〇円の確定申告が同訴外人の父西米楠名義で所轄泉佐野税務署長に対してなされたこと、同訴外人が同人名義で昭和二六年六月一九日附で同税務署長に対して同年度分の所得税として総所得金額一、一〇〇万円の修正申告をなし、この申告税額が現在滞納になつていることは認めるが、その余は争う。訴外西進一郎は昭和二六年六月一九日附を以て所轄泉佐野税務署長に対して昭和二五年度分所得税として総所得金額一、一〇〇万円、税額五、八九七、〇五〇円の同訴外人名義の修正確定申告(所得税法第二七条第一項)をなしたのであるから、この修正により増加した所得税額は所得税法第三二条第一項の規定により当該申告書を提出した日、すなわち、昭和二六年六月一九日に納付しなければならないのであるが、同訴外人はこれを納付しなかつたため、右の修正により増加した所得税額は昭和二六年六月二〇日より滞納となり、現在に至つているものである。従つてこの滞納税金(付帯金を含む)については、旧国税徴収法附則(昭和二六年法律七八号)第一項及び第七項により旧国税徴収法第四条の七の適用あることはいうまでもない。原告は「被告が訴外人に前述の修正確定申告をなさしめたことにより同訴外人の納税を遅延せしめたものであり、この責任は被告にある」というが、被告としてはこれより先に同訴外人の同年分の所得税確定申告が前述の如く同訴外人の実父西米楠の名義でなされていたが、この申告額に多額の脱漏があることを被告の調査官が実額調査により発見したので、この点を同訴外人に指摘、説明し、納得させた上、申告納税制度の建前からあえて更正処分をなさず、同訴外人より自主的に確定申告を修正させたものである。請求原因第五項(2)の事実中、旧国税徴収法第四条の七第一項の適用に当り、同条にいう同族会社なりや否やの判定は国税滞納処分をなす時の現況によることは認めるが、その余は争う。同第五項(3)の事実中、被告が旧国税徴収法第四条の七第一項及び同法施行細則第七条第二項の規定により原告に対し納付通知書を発し、本件差押処分をなしたことは認めるがその余は争う。同第五項(4)の事実は争う。

二、原告は本訴において被告が原告を旧国税徴収法第四条の七第一項によつて第二次納税義務者としてなした差押処分の取消を求めているが、本件差押処分は同法施行細則第七条第二項による納付通知に基いているもので、該通知は納税の告知及び督促の両性質を兼ねており、第二次納税義務者に対し納税義務を負わしめる手続上の要件となるものである。ところで、右の納付通知はそれ自体独立の行政処分であつて、これに基く後行処分たる差押処分との間においては、「賦課処分」と「滞納処分」との間におけると同様違法性の承継が認められないから、本件の場合、仮りに先行の昭和二八年七月一三日附納付通知が違法処分であるとしても、この取消がない限り、後行の昭和二八年八月四日附本件差押処分が当然に違法であると主張することはできない。従つて、原告が本訴において被告のなした先行処分たる納付通知に基く処分の取消を求めることなく、これに基く後行処分たる差押処分の取消を求めることは、この処分自体の違法性が認められない限り失当である。

原告は、納付通知に係る処分と滞納処分による差押とは別個の行政処分ではなく「告知及び督促の両性質を有し、これなくして直ちに滞納処分にでることのできないもので、滞納処分という一個の手続中の一段階を構成する各行政処分とみるべきである」と主張するが、元来旧国税徴収法第四条の七第一項による第二次納税義務は、同条所定の要件が存在するだけではたらず、税務官庁の認定により具体的にこれを確定させる行政処分を経由することを必要とするが、旧国税徴収法施行細則第七条は右処分を納付通知書を以て行うこととしているのである。すなわち、納付通知書による処分は納税告知処分と同様に法定の要件に該当することによつて生ずる抽象的租税債務を具体的に確定する行政処分の性質を有するのである。もつとも、同施行細則第七条によれば、右納付通知には納付すべき期限、納付場所を記載することと定めており、旧国税徴収法第九条第一項の督促の性質をも兼備せしめているが、これは第一次納税義務者が既に滞納の状態にあるから、第二次納税義務を確定させると同時に第二次納税義務者に対しても同じく滞納処分可能の状態におかんがためであつて、このように納付通知書にかかる処分は第二次納税義務を具体的に確定せしめる処分と督促処分との二個の行政処分を同時に行う処分である。しかして第二次納税義務を具体的に確定せしめる処分は、一般の租税の賦課処分の場合と同様に租税の強制徴収手続たる滞納処分とはその性質を異にするのである。原告主張のように右処分が滞納処分という一個の手続の一段階を構成する行政処分の一ということはできない。

原告は、また、仮りに納付通知にかかる処分と滞納処分による差押処分とが別個の手続に属する別個の処分であるとしても賦課処分の違法が該処分を当然無効たらしめるような場合は何人も直ちに滞納処分の違法を争うことができると主張するが、被告が原告に第二次納税義務を負わしめた処分には、無効原因たりうるような瑕疵はない。けだし原告に第二次納税義務が存するかどうかの本件における争点は、原告がいわゆる同族会社であるか否かと、財産の譲渡行為が差押を免れるための贈与又は低額譲渡であるか否かの二点に帰着するところ、前者については原告の株主名簿には仮設人名義により、あるいは他人名義の株主の記載があることは原告の自認するところであり、このような場合何人が真実の株主であるかどうか、また後者の訴外滞納者西進一郎がいかなる意図及び態様のもとに財産を譲渡したのかは、ことがらの性質上いずれも外観上明白でないから、仮りにこの点について被告の認定に誤りがあつたとしても、処分の当然無効を招く重大かつ明白な瑕疵とはいえない。

三、訴外滞納者西進一郎は、その財産の差押を免れるため、同訴外人が株式を有する同族会社たる原告に対し、別紙目録記載の不動産を贈与したものであつて、右訴外人について滞納処分を執行するも徴収すべき国税及び滞納処分費に不足するものと認められ、原告が現に有する右不動産の価額は右訴外人の滞納税額を下らないものであるから、原告は右訴外人の滞納税額全額を納付すべき義務あるものというべく、右は旧国税徴収法第四条の七に該当すること明らかである。すなわち、

(一)  訴外滞納者西進一郎は原告に対し別紙目録記載の不動産を贈与したものである。

別紙目録記載の土地六筆は次のとおり昭和二三年頃より昭和二五年秋頃までの間にそれぞれ訴外西進一郎が前所有者より譲受け、これを工場敷地として別紙目録記載の建物を新築したものであり、その後右訴外人は原告の設立(昭和二六年五月二三日)直後である昭和二六年五月三一日右土地建物(別紙目録記載の不動産)を原告に贈与したものである。すなわち、被告の調査したところによると、訴外西進一郎は(1)泉南郡〓井町二八一番地宅地一三〇坪を昭和二三年頃前所有者泥舟勇より譲受け、(2)同所二八二番地宅地五四坪を昭和二四年前所有者城野態雄より譲受け、(3)同所二八三番地宅地六六坪を昭和二五年秋頃前所有者岸敏男より譲受け、(4)同所二八四番地宅地一三〇坪、同所二八五番地宅地三一四坪を昭和二四年九月前所有者奥村富美子より譲受け、(5)同所二五一番地の一宅地一一六坪を昭和二五年秋前所有者納谷まつより譲受け(右の売買に伴う訴外西進一郎の所有権移転登記は(1)の宅地を除き未登記のまま放置していた)、右訴外人は右宅地上に別紙目録記載の工場建物を昭和二五年一一月七日新築し(当時は登記されなかつた)、その後昭和二六年五月二三日に至り個人企業を法人組織に切りかえ、原告に所有権を移転した((2)ないし(5)の土地は中間省略登記をしており、別紙目録記載の工場建物は昭和二六年一二月一日附で原告に所有権保存登記されている)。この所有権移転について登記簿上土地についてはいずれも売買を原因としているが、原告の帳簿によれば売買の事実は認められない。また工場建物は原告に保存登記されているが、この建物新築当時は未だ原告は設立されてなく、訴外西進一郎が新築したことは明らかであるから、本来この工場建物は右訴外人に保存登記すべき物件である。よつて、別紙目録記載の不動産はいずれも訴外西進一郎より原告に贈与されたものである。

(二)  本件贈与は滞納処分を免れるために行われたものである。

訴外西進一郎は昭和二五年秋より自己の事業たる特殊紡績業を綿紡績業に切替える計画をたて、同年秋頃までに別紙目録記載の土地を工場敷地として買収し、同所に新工場(別紙目録記載の建物)を建築し、その後機械を設置するなど操業準備をととのえつつ、昭和二六年五月二三日に到り原告会社を設立し自ら代表取締役に就任すると共に同年五月三一日を期して個人営業に属する全財産について閉鎖のための決算整理を行い、同年六月一日以降右訴外人の資産はことごとく原告に引継ぎ、さらに前記新設の土地建物(本件差押物件)をも原告に贈与した。他方訴外人は個人営業にかかる昭和二五年度分の所得税の申告納付について、実質上自己に帰属する莫大な同年度分の事業所得があつたにかかわらず、これを故意に実父西米楠名義で昭和二六年二月二八日泉佐野税務署長に対して過少申告することにより脱税を意図したが、同年四月大阪国税局収税官吏の実額調査をうけこれを看破されたため、同年六月一九日修正確定申告のみなしたが、修正確定申告の際には当該申告書提出の日に増加税分を納付すべきにかかわらずこれを納付しなかつた。

もつとも、訴外西進一郎の昭和二六年五月三一日現在における帳簿上の記載(乙第六号証の二)によれば、次表のとおりの残余財産があるかのように記載されている。

残余資産表

<省略>

しかしながら、右は現実に存在しないか、または存在しても回収不能のものであつた。すなわち

(1) 積立金二六八、〇〇〇円について、

株式会社住友銀行〓井支店に対する訴外人名義の普通預金勘定出入記入帳によれば、これに対応する金額が昭和二六年四月一二日現在残高として残存していたが、昭和二六年六月五日これに預金利息一、四五三円を附加した合計二六九、四五三円を引出している事実があり、これは他の残存現金三二、六八二円及び普通預金一、五三八円と共に会社設立のために費消されたものと推察され訴外人の手許になかつた。

(2) 売掛代金一、六一四、七〇〇円について、

訴外人の最終の貸借対照表(乙第六号証の三)によればこれは株式会社三信商会に対するものであるが、同社は昭和二五年一二月一日より昭和二六年五月三一日間及び昭和二六年六月一日より同年一一月三〇日間事業年度はいずれも相当額の欠損を計上しており、右の後期の法人税額の確定申告書が所轄泉佐野税務署に提出された昭和二七年四月二二日当時においては、債務超過のため、事実上休業状態にあつたため、到底取立の見込みなく、訴外人の貸倒れ損金として処理さるべきであつた。

(3) 有価証券一五四、六五〇円について、

この内訳は松竹株式会社一、五〇〇株、七五、〇〇〇円及び南海電鉄株式会社一、五〇〇株、七九、六五〇円計一五四、六五〇円であるが、昭和二七年九月二五日附被告の収税官吏の調査報告書によると、これはいずれも昭和二六年八月頃大和証券株式会社を通じて他に売却済となつていた。

(4) 什器六二、六五〇円について、

この内訳はオート三輪車一台四〇、〇〇〇円及び自転車四台二二、六五〇円計六二、六五〇円であるが、昭和二七年一〇月七日附被告の収税官吏の報告書によれば、オート三輪車は訴外人の実父西米楠の所有名義の登録であり、訴外人の所有物件でなく、自転車四台のうち二台は破損甚しく使用に耐えず、当時使用中の二台も中古品として換価価値は僅少であつた。

(5) 機械一、二六五、四〇〇円、建物一、一二八、八四〇円、土地一〇、〇〇〇円について、

いずれも訴外人の実父西米楠の所有物件である。

(6) 所得税三五一、三八〇円について、

これは昭和二六年五月三一日におけるはもとより、現在に至るまでの間においても、訴外人に過納による還付金債権が発生した事実は全くない。

(7) 店主二五〇、〇〇〇円について、

これも訴外人の営業外の私用手許金としてすべて費消されていた。

以上のとおり、訴外人は昭和二六年四月頃における税務当局の調査により脱税の意図が看破され、約六〇〇万円余の納税をなさねばならぬことが当然予期されるに到つた直後の昭和二六年五月二三日から同年六月一日までの間において、訴外人の積極財産の全部を訴外人自身が支配的地位にある原告会社に贈与などの処分をなしたのである。このような事実は訴外人が租税債権の一般担保となるべき責任財産を皆無としこれによつて被告の訴外人に対する滞納処分として執行さるべき差押の免脱をとげようとしたものであることを明らかに推断せしめるものである。

(三)  原告会社は旧国税徴収法第四条の七第一項の同族会社である。

昭和二八年七月一三日現在(本件納付通知時)における原告会社の株主構成は、

<省略>

となつており、この各区分別の比率をみると、BのAに対する割合は人員で六九%、株数で六五、六%、CのAに対する割合は人員で一五%、株数で一九、八%、DEのAに対する割合は人員で一六%、株数で一四、六%となつている。しかもこのBの仮設人名義株及び他人名義株合計一一八、〇〇〇株は昭和二六年一一月七日附原告会社の取締役会における増資決議ならびに同年同月一二日附臨時株主総会及び取締役会における増資決議により発行されたもので、この仮設人名義又は他人名義を冒用したものは訴外人であり、同人がこれらの株式の実質的な株式申込人(株式引受人)である。仮りに訴外人でないとしても、右決議に参画した右訴外人の同族である西米楠かあるいは中野首一である。被告としてはこのように仮設人の名義を利用し、また無断で他人名義で株式の引受をした者がある場合において、何人がその株式申込人であるかは実質によつて決定さるべきものと考えるし、法もまたこのような行為をした者が株式引受人としての責任を負うものとしている(商法第二〇一条第一項)。従つて、被告が前記B、CのAに対する株式金額の割合、すなわち、八五、三%が法人税法第七条の二第一項第一号(昭和二五年法律第七二号)による三〇%以上に相当し、原告会社が旧国税徴収法第四条の七第一項にいう同族会社と判定したことに誤りはない。

(四)  原告が贈与により取意した別紙目録記載の不動産の価額は納付通知にかかる税額を下まわるものではない。

旧国税徴収法第四条の七第一項にいう「当該財産の価額」とは、納付通知書を発する時の当該財産の時価をいうものと解すべきところ、本件において被告が原告に対し納付通知書を発した日である昭和二八年七月一三日における本件贈与にかかる不動産の時価は合計一六、六九〇、六九六円であるから、右不動産は前記納付通知にかかる税額七、二七四、六八〇円(他に附帯税額あり)を下まわるものではない。従つて、原告は滞納税額全額について第二次納税義務を負うものである。

(被告の主張に対する原告の反ばく)

一、被告は納付通知及び滞納処分は別個の行政処分であると主張しているが、両者は賦課処分と滞納処分の如く別個の行政処分というべきでなく、被告自身肯定している如く納付通知は告知及び督促の両性質を有し、これなくして直ちに滞納処分にでることのできないもので、滞納処分という一個の手続中の一段階を構成する各行政処分とみるべきである。仮りに被告主張の如く別個の手続に属する別個の行政処分であるとしても、先行処分が違法として取消されるならば、その処分は遡つて存在しないことになり、従つて納付義務も遡つてなくなり、たとえ滞納処分がその余の手続の点でいかに完全に行われても非納税義務者に対する滞納処分として違法たるを免れない。しかも、本件納付通知にかかる処分の違法は単に取消原因たるに留らず当然無効ならしめる違法と解すべきである。賦課処分が違法である以上これに基く滞納処分も違法であるが、賦課処分の違法が単に取消の対象となるにすぎないものである場合にはその取消を前提としてのみ滞納処分の違法を争いうるにすぎず、賦課処分をそのままにして滞純処分だけを争うことは許されない。しかし賦課処分の違法が該処分を当然無効ならしめる場合は何人も直ちに滞納処分の違法を争うことができると解すべきである。いずれにしても、原告はその請求の趣旨で差押処分のみを捉えているが、以上の理由から、さらに納付通知をも取消すとの判決を求める要なく、納付通知の違法はその理由において判断を得ればよい。

二、被告は、訴外西進一郎の滞納国税について、原告が旧国税徴収法第四条の七の規定に基く第二次納税義務者としてその滞納税額全額を納付すべき義務があると主張するが、被告の主張するような処分要件は存しない。すなわち、

(一)  訴外滞納者西進一郎は原告に対し別紙目録記載の不動産を贈与したものではない。

別紙目録記載の土地六筆を買受け、右土地上に別紙目録記載の工場建物を建築したのは訴外西進一郎個人ではなく、同訴外人がこれを原告に贈与したものではないのであつて、右訴外人が原告会社設立発起人組合の代表者たる資格において別紙目録記載の土地六筆を買受け、右土地上に原告会社の株主の出資せる建築資金を以て別紙目録記載の工場建物を建築したものである。従つて、別紙目録記載の不動産は会社設立と同時に原告会社の所有に帰するものであり、これを贈与とみるのは誤りである。株式会社を設立するためには発起設立にしても募集設立にしても、その準備が必要でしかも原告会社の如く綿紡績業を営むを目的とする限り、会社設立登記完了までに創立事務所を設け、発起人組合において工場敷地を獲得し、工場を新設し、機械器具を購入備付け、設立と同時に営業を開始するのが通常であつて、これらの準備のための仕事は発起人組合代表者が当然これに当るべきものである。訴外西進一郎もまた原告会社発起人組合の代表者たる資格において前記土地六筆を購入しこれに前記工場建物を新設したものであつて、被告は右訴外人の行為をその個人のためのものと錯覚されたのである。

(二)  滞納者西進一郎は滞納処分を免れるために被告の主張するような贈与、個人財産の引継ぎをしたものでない。

昭和二六年五月二三日資本金一五〇万円を以て原告会社を設立し、訴外西進一郎が代表取締役に就任したこと、昭和二五年度分所得税の確定申告等が実父西米楠名義で昭和二六年二月二八日所得金額四〇五、三〇〇円、税額八三、〇〇〇円の申告をなしこれを泉佐野税務署に納付したこと、同年四月実額調査の結果実質上昭和二五年度事業所得は訴外西米楠ではなく、訴外西進一郎に帰属するものであり、その所得金額は一、一〇〇万円、税額は五、八七七、五八〇円と認定された結果、同年六月一九日訴外西進一郎名義で修正確定申告手続をしたが、納付できなかつたことならびに被告が主張する訴外西進一郎の昭和二六年五月三一日現在の帳簿上の残余財産中建物一、一二八、八四〇円、土地一〇、〇〇〇円が訴外西米楠の所有物件であることは認めるがその余の被告の主張事実はすべて争う。訴外西進一郎は前述したように原告会社発起人組合の代表者たる資格において前記土地六筆を購入し、これに前記工場建物を新設し、機械器具を購入備付けたものであつて、原告会社設立と同時に原告の財産に帰属するものであるから、右訴外人が滞納処分としての差押の免脱をとげようとして贈与などの処分をしたものではない。

(三)  原告会社は旧国税徴収法第四条の七第一項の同族会社ではない。

被告は仮設人名義株及び他人名義株を訴外西進一郎、同西米楠、同中野首一を含む親族の同族株と合算し、その株式金額の合計は金七、六八五、〇〇〇円に達するとして、総株式金額九、〇〇〇、〇〇〇円に対する比率を算出し、原告会社を旧国税徴収法第四条の七第一項にいう同族会社であると主張するが世俗を無視した推論である。株主において徴税攻勢の酷しい世評に戦き、所得税賦課に重きを加えるを恐れ、ほとんどの者は自己の氏名を秘し、偽名あるいは変名して株式申込をなし、払込を了しているのが通例であるといつてよく、原告会社の場合も被告が挙示する仮設人名義株及び他人名義株は右のような事情などよりして原告会社株主名簿に自己の氏名を偽りあるいは他人の氏名を借り株主として記載せられているものというべく被告の主張するように仮設人名義株及び他人名義株が訴外西進一郎ないしはその親族に帰属するものではない。

(四)  別紙目録記載の不動産の価額は納付通知にかかる税額を下まわるものである。

別紙目録記載の不動産の価額は納付通知にかかる税額を下まわるものであるから、仮りに原告会社が旧国税徴収法第四条の七第一項に基く第二次納税義務を負担するとしても、滞納者西進一郎の滞納税額全額を納付すべき義務はない。昭和二八年七月一三日当時における本件不動産の価額が合計一六、六九〇、六九六円であるとの被告の主張は争う。

(証拠関係)(省略)

理由

一、原告会社の代表者は創立以来訴外西進一郎であるが、同訴外人は別紙滞納税額一覧表記載のとおり合計金七、二七四、六八〇円の国税を滞納していたこと、被告は国税徴収法(明治三〇年三月二九日法律第二一号、以下旧国税徴収法と略す)第四条の七第一項の規定に基き原告会社を右訴外人の第二次納税義務者と認定し、昭和二八年七月一三日附納付通知書を以て、原告に対し右滞納税額全額を同年七月三一日までに納付すべき旨通知したこと、原告は右滞納税額全額を右の納期に納付しなかつたところ、被告は同年八月四日附を以て原告所有にかかる別紙目録記載の不動産に対し滞納処分として差押処分をなしたこと、原告は右納付通知書に基く処分及び差押処分を不当として、それぞれ旧国税徴収法第三一条の三、同法施行規則第三一条の三の二に則り、前者については同年八月五日附を以て、被告に対し審査の請求をなしたところ、被告は原告の二度にわたる右審査の請求を棄却する旨の決定をなし、昭和二九年二月二四日附大局徴整(二)第二六号審査決定通知状により原告に通知したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争がない。ところで原告は、本訴において、被告が昭和二八年八月四日附を以て原告所有にかかる別紙目録記載の不動産に対し国税滞納処分としてなした差押処分を違法として、その取消を求めるものであるから、以下本件差押処分の当否を検討することとする。

二、原告は、旧国税徴収法第四条の七第一項の処分要件について左記に認定するところにより明らかなごとく、同法条に基き訴外滞納者西進一郎の第二次納税義務者として、その滞納税額全額(合計金七、二七四、六八〇)を納付すべき義務あることが明らかであるから、被告が原告を右訴外人の右法条に基く第二次納税義務者と認定したのは相当であり、昭和二八年七月一三日附納付通知書を以て、原告に対し、右滞納税額全額を同年七月三一日までに納付すべき旨通知してなした処分は適法であつて、不当違法のかどはないものというべく、右納付通知書を以てなされた処分を前提とする本件差押処分は、この処分自体に違法性が認められないかぎり、適法であるといわなければならない。すなわち、旧国税徴収法第四条の七第一項の処分要件について左記に認定したところに徴すると、訴外滞納者西進一郎は、その財産の差押を免れるため、同訴外人が株式を有する同族会社たる原告に対し、別紙目録記載の不動産を贈与したものであつて、右訴外人について滞納処分を執行するも徴収すべき国税及び滞納処分費に不足するものと認められ、原告が現に有する右不動産の価額は右訴外人の滞納税額全額を下らないものであるから、原告は右訴外人の滞納税額全額を納付すべき義務があり、右は旧国税徴収法第四条の七第一項に該当すること明らかである。

(一)  贈与について、

成立に争のない乙第八号証の一(登記簿謄本)によれば、(1)大阪府泉南郡〓井町二八一番地宅地一三〇坪について、訴外西進一郎が前所有者泥舟藤三郎より昭和二五年一二月一〇日附売買を原因として同月一九日所有権移転登記を経由し、ついで原告が右西進一郎より昭和二六年七月一日附売買を原因として同月二三日所有権移転登記を経由したこと、成立に争のない乙第八号証の二(登記簿謄本)によれば、(2)同所二八二番地宅地五四坪について、原告が前所有者城野敏雄より昭和二六年五月二三日附売買を原因として同年六月一四日所有権移転登記を経由したこと、成立に争のない乙第八号証の三(登記簿謄本)によれば、(3)同所第二八三番地宅地六六坪について、原告が前所有者岸徳松より昭和二六年五月二三日附売買を原因として同年六月一四日所有権移転登記を経由したこと、成立に争のない乙第八号証の四(登記簿謄本)によれば(4)同所二八四番地宅地一三〇坪について、成立に争のない乙第八号証の五(登記簿謄本)によれば(5)同所二八五番地宅地三一四坪について、それぞれ原告が前所有者奥村源蔵より昭和二六年六月一日附売買を原因として同年六月一四日所有権移転登記を経由したこと、成立に争のない乙第八号証の六(登記簿謄本)によれば、(6)同所二五一番地の一宅地一一六坪について、原告が前所有者納谷まつより昭和二六年五月二三日附売買を原因として同年六月一四日所有権移転登記を経由したこと、成立に争のない甲第八号証の七(登記簿謄本)によれば(7)同所二〇〇二番地の一、二家屋番号同所第四五四番の二の建物について、成立に争のない甲第八号証の八(登記簿謄本)によれば(8)同所二八一番地、二八二番地、二八三番地、二八四番地、二八五番地、二五一番地の一家屋番号同所第六〇二番の工場建物について、それぞれ原告が昭和二六年一二月一日所有権保存登記を経由したことが認められ(以上(1)ないし(6)の宅地及び(7)(8)の建物は別紙目録記載の不動産である)、各成立に争のない甲第一〇号証の一ないし五(いずれも土地売渡証)は(1)ないし(6)の宅地の登記原因に符合するものである。しかしながら、成立に争のない乙第九号証の一ないし五、乙第一〇号証、文書の方式、趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第九号証の六、証人奥村源蔵、同泥舟春子の各証言を綜合すれば、訴外西進一郎は、原告会社設立(昭和二六年五月二三日)の以前である昭和二三年頃より昭和二五年秋頃までの間において、前記(1)ないし(6)の宅地をそれぞれ前所有者より交換または売買によりその所有権を取得し、昭和二五年初頃(1)ないし(6)の宅地を工場敷地として建築業者谷村隆男に工場建物の建築を請負わしめ、同年二月上棟式を経て同年一一月七日前記(7)(8)の工場建物を建築完成したことが認められ、成立に争のない乙第七号証の一、二(原告会社の昭和二六年六月一日現在の貸借対照表及び財産目録)、乙第一一号証(原告会社の第二期中間営業報告書)によれば、原告会社はその会計帳簿上に前記(1)ないし(6)の宅地及び(7)(8)の工場建物の登記原因に照応する事実を記帳していないことが推認できるから、訴外西進一郎は前記のように所有権を取得した(1)ないし(6)の宅地及び(7)(8)の工場建物を原告会社設立に際して原告会社に無償で贈与し、原告会社設立後前記甲第一〇号証の一ないし五を作成した上(1)ないし(6)の宅地については前記のような所有権移転登記を、(7)(8)の工場建物については前記のような所有権保存登記をそれぞれなしたものと認めるを相当とする。原告は、前記(1)ないし(6)の宅地を買受け、その地上に前記(7)(8)の工場建物を建築したものは、訴外西進一郎個人ではなく、同訴外人が原告会社設立発起人組合の代表者たる資格においてなしたものであつて、右不動産は原告会社設立と同時に原告会社の所有に帰するものである旨主張し、原告代表者本人尋問の結果中には、原告の右主張に符合するところがないでもないが、右供述は採用しがたいところでありその他前記認定を覆して原告の右主張を肯認するにたる的確な証拠はない。しかも、株式会社設立準備中の発起人が設立中の会社の執行機関としてその資格において権限の範囲に属する行為をなしたときは、その行為から生ずる権利義務はその後設立すべき会社に当然帰属すると解すべきであるが、その権限の範囲は厳に会社を設立させるために必要な行為に限ると解すべきところ、発起人代表が設立中の会社のため前記認定のように工場敷地を買収し、工場建物を建築するがごときはいわゆる設立せらるべき会社の開業準備行為に属し、到底会社設立に必要な行為とみることはできないのであるから、原告が主張するごとく訴外西進一郎がなした前記(1)ないし(6)の宅地の売費、(7)(8)の建築請負契約から生ずる所有権取得の効果がその後設立した原告会社に帰属するものということはできない。

(二)  詐害意思について、

訴外西進一郎がその昭和二五年度分所得税について、実父西米楠名義を以て昭和二六年二月二八日所轄泉佐野税務署長に対し、所得金額四〇五、三〇〇円、税額八三、〇〇〇円の確定申告をなしたところ、同年四月大阪国税局収税官吏の実額調査をうけ、実質上昭和二五年度事業所得は訴外西米楠ではなく、訴外西進一郎に帰属するものであり、その所得金額は金一、一〇〇万円、税額は金五、八七七、五八〇円となることが判明された結果、訴外西進一郎が同年六月一九日前記税務署長に対し自己名義を以て所得金額、税額を右のとおり修正して修正確定申告をなしたが、増加した税額については納付しなかつたことは当事者間に争のないところである。そして、訴外西進一郎がその所有に属する別紙目録記載の不動産(前記(1)ないし(6)の宅地及び(7)(8)の建物)を昭和二六年五月二三日原告会社が設立されるに際して原告会社に無償で贈与したことは前認定のとおりであるが、成立に争のない乙第六号証の一ないし四、証人松浪庄造、同久山弘志の各証言によれば、大阪国税局収税官吏は昭和二七年九月頃より訴外西進一郎の滞納国税徴収のため、その財産状態を調査し、同年一一月二七日同訴外人は右調査に応じて昭和二六年一月一日より同年五月三一日までの試算表(乙第六号証の一)、貸借対照表(乙第六号証の二)、昭和二六年五月三一日現在の財産目録(乙第六号証の三)、損益計算書(乙第六号証の四)を提出したことが認められるところ、右財産目録によると右訴外人は昭和二六年五月三一日現在において(1)現金三二、六八二円三一銭(2)当座預金八三、二四一円一七銭(3)普通預金一、五三八円二六銭(4)積立金二六八、〇〇〇円(5)売掛金一、六一四、七〇〇円(6)有価証券一五四、六五〇円(7)製品二、四六四、〇〇〇円(8)仕掛品三〇、〇〇〇円(9)原料六五六、五〇〇円(10)什器六二、六五〇円(11)機械一、二六五、四〇〇円(12)建物一、一二八、八四〇円(13)土地一〇、〇〇〇円(14)建設仮勘定一〇、一三〇、〇〇〇円(15)所得税三五一、三八〇円(16)店主二五〇、〇〇〇円合計一八、五〇三、五八一円七四銭の残余財産があるように記載されているが、(4)積立金二六八、〇〇〇円については、成立に争のない乙第一二号証によると右金銭に対応する金額が昭和二六年四月一二日現在株式会社住友銀行〓井支店普通預金口座に入金されていたが同年六月五日預金利息とともに合計二六九、四五三円が引出されていること、(5)売掛金一、六一四、七〇〇円については、前記乙第六号証の三によるとこれは株式会社三信商会に対するものであつて、成立に争のない乙第一三号ないし同第一五号証によると被告の主張するように貸倒れ損金として処理されるべきものであること(6)有価証券一五四、六五〇円については、成立に争のない乙第一六号証によると右有価証券は昭和二六年八月頃大和証券株式会社を通じて他に売却済みとなつていること、(7)製品二、四六四、〇〇〇(8)仕掛品三〇、〇〇〇円(9)原料六五六、五〇〇円(14)建設仮勘定一〇、一三〇、〇〇〇円については、成立に争のない乙第七号証の一、二によると右はいずれも昭和二六年六月一日原告会社にそのまま引継がれていること、(10)什器六二、六五〇円については、前記乙第一六号証によると右はオート三輪車一台及び自転車四台であるが、オート三輪車は訴外西米楠の所有物件であり、自転車四台のうち二台は破損甚しく使用にたえず、使用可能の二台も中古品で換価価値が僅少であること(11)機械一、二六五、四〇〇円については、成立に争のない甲第一三号証、乙第一七号証によると右は訴外西米楠の所有物件であること、(12)建物一、一二八、八四〇円(13)土地一〇、〇〇〇円については、右が訴外西米楠の所有物件であることは当事者間に争がないこと、(15)所得税三五一、三八〇円については成立に争のない乙第一八号証によると訴外西進一郎が昭和二六年五月三一日現在において所得税の過納による還付金債権が発生した事実が全くないことがそれぞれ認められる。以上の認定の事実関係と証人松浪庄造、同久山弘志の各証言によれば、滞納者西進一郎は、昭和二六年四月頃大阪国税局収税官吏の実額調査をうけた結果、その昭和二五年度分所得税について税額約六〇〇万円の納税をしなければならないことを当然予期しながら、同年五月二三日原告会社が設立するに際して別紙目録記載の不動産を原告会社に無償で贈与したほか、個人資産のほとんどを原告会社に無償で譲渡し、個人資産を皆無に等しい状態にしたことが認められるのであるから、右西進一郎は国税滞納処分による差押を免れようとして故意に別紙目録記載の不動産を原告会社に贈与した後において国税を滞納したもの、すなわち、その詐害の意思を推認するに十分である。そして、右訴外人について滞納処分を執行するも徴収すべき国税及び滞納処分費に不足するものであることもまた明らかである。

(三)  同族会社について、

旧国税徴収法第四条の七第一項にいわゆる同族会社とは同項の処分をなすとき(納付通知をなすとき)の現況により法人税法第七条の二第一項(昭和二五年法律第七二号)の同族会社に該当する会社をいうものであるが、原告会社に対し納付通知がなされた昭和二八年七月一三日現在の原告会社の株式の構成状況は、総株式一八〇、〇〇〇株、株主八〇名、総株式金額九、〇〇〇、〇〇〇円であつて、(A)訴外西進一郎を同族会社の判定の基礎となる株主として選定した場合における法人税法第七条の二第一項第一号の親族と認められるものは株式三五、七〇〇株、株主一二名、株式金額一、七八五、〇〇〇円、(B)株主中所在不明であつて株式の引受及び払込の事実がなく仮装株主と認められるものは株式七〇、四〇〇株、株主二九名、株式金額三、五二〇、〇〇〇円、(C)株主中実在する株式の引受及び払込の事実がなく仮装株主と認められるものは株式四七、六〇〇株、株主二六名、株式金額二、三八〇、〇〇〇円であることが成立に争のない甲第三号証、甲第六号証の一、二、乙第一号証の一ないし二八、乙第二号証の一ないし九、乙第三号証、原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第六号証の三ないし一〇、証人西村秀夫、同秋月午郎、同金子正親、同長谷川利一の各証言により認められるところ、右各証拠を綜合検討すれば(B)の株式七〇、四〇〇株、及び(C)の株式四七、六〇〇株合計一一八、〇〇〇株は訴外西進一郎が主宰する昭和二六年一一月七日附原告会社の取締役会における増資決議ならびに同年同月一二日附臨時株主総会及び取締役会における増資決議により発行されたもので、右訴外人が仮設人名義又は他人名義を冒用して株式の申込、引受をしたものと推認することができる。原告代表者本人尋問の結果によつても右認定を覆すことができず、他にこれを左右するにたる証拠はない。右認定の事実によれば、前記(A)(B)(C)の株式金額合計七、六八五、〇〇〇円の総株式金額九、〇〇〇、〇〇〇円に対する比率は八五・三%となり、法人税法第七条の二第一項第一号にいう三〇%以上に相当するから、原告会社は同法条にいわゆる同族会社、すなわち旧国税徴収法第四条の七第一項にいう同族会社であることが明らかである。

(四)  別紙目録記載の不動産の価額について、

旧国税徴収法第四条の七第一項に基く同族会社の納付責任額は贈与または譲渡によつて得た財産の時価相当額を限度とし、その「当該財産の価額」とは納付通知書を発する時の当該財産の時価をいうものと解すべきところ、文書の形式、内容により真正に成立したと認める乙第二〇号証(鑑定書)によれば、別紙目録記載の不動産の昭和二八年七月一三日当時(原告に納付通知書を発した日)における時価は合計一六、六九〇、六九六円であることが認められ、この認定を左右する証拠はないから原告は訴外西進一郎の滞納税額七、二七四、六八〇円の全額について第二次納税義務を負担するものである。

三、国税徴収法第四条の七の規定は国税の徴収権確保を目的とするものであつて、国税について新たに納税義務を課するものではないが、同条所定の要件が存在することから当然に同族会社の具体的納付義務が発生するのではなく、同族会社をして滞納者の滞納税金を納付せしめるためには、国税徴収法施行細則(明治三〇年六月二六日大蔵省令第一〇号)第七条第二項の規定により(一)当該納税人の氏名及び住所または居所(二)納付すべき国税及び滞納処分費ならびに当該国税の所属年度及び納期区分(三)納付すべき期限及び納付場所(四)納付せしむる事由を記載した納付通知書を発しなければならないのであるから、この通知書の交付により同族会社の納付義務が具体的に確定するのである。従つて、この納付通知書の交付は賦課処分の納税告知に相当するものであつて、賦課処分が納税告知によつて成立し、具体的に納税義務を確定するのと同様に、この納付通知書の交付により同族会社の納付義務を具体的に確定する処分が成立するのであるが、この納付通知書には前述のように納付すべき期限、納付場所などを記載することに定められているから、この納付通知書の交付は督促状により納付期限を指定するのと同一の効力を帯有するものである。このように納付通知書の交付によつて同族会社の納付義務を具体的に確定する処分と督促の二個の行政処分が同時に行われるのであるが、督促が滞納処分を適法に成立せしめる前提要件となるに反し、同族会社の納付義務を具体的に確定する処分は、強制力を以て納税義務の内容を実現する滞納処分とはその目的を異にし、それぞれ別個独立の法律効果を目的としているのであるから、その間に違法の承継を認めることはできない。いわゆる違法の承継を認めるためには、先行、後行の関係にある数個の行政行為が連続して一の手続を形成し、その結合によつて特定の法律効果の発生をめざしているような場合にかぎるべきである。同族会社の納付義務を具体的に確定する処分と具体的に確定した納付義務を強制力を以て実現する滞納処分とは、いずれも国税の徴収権確保を目的とすることにおいて関連するところがあるが、右各処分が目的とする法律効果は、前者が納付義務の具体的確定であり、後者が、納付義務の強制的実現であるから、原告の主張するように「滞納処分という一個の手続中の一段階を構成する各行政処分」とみることはできない。そうすると、納付通知書の交付により旧国税徴収法第四条の七の規定に基く同族会社の納付義務を具体的に確定する処分が無効あるいは違法として取消された場合にあつては、その処分を前提とする滞納処分としての差押処分は無効あるいは取消されるべきであるが、同族会社の納付義務を具体的に確定する処分が違法であつても、それが取消されずに存続している以上、滞納処分としての差押処分は、それ自体に瑕疵がない限り、何ら違法となるものではないのである。ところで、被告が原告会社に対し旧国税徴収法第四条の七第一項の規定に基き滞納者西進一郎の第二次納税義務者と認定し、昭和二八年七月一三日附納付通知書を以てその滞納税額全額(合計金七、二七四、六八〇円)を同年七月三一日までに納付すべき旨通知してなした処分が適法であつて、何ら違法不当のかどの存在しないことは前記二において既に詳細に認定したとおりであるから、昭和二八年七月一三日附納付通知書を以てなされた同族会社の納付義務を具体的に確定する処分はもとより督促処分についても、無効原因はもとより取消原因となるような違法性は存在しないのであり、昭和二八年七月一三日附納付通知書を以てなされた処分が行政庁の処分によりあるいは確定判決によつて取消されずに存続していることは弁論の全趣旨により極めて明白であるから、被告が昭和二八年八月四日附を以て原告所有にかかる別紙目録記載の不動産に対して滞納処分としてなした差押処分は、それ自体に違法性がないかぎり、違法となるものでない。しかるところ、原告は同族会社の納付義務を具体的に確定する処分の違法のみを主張して本件差押処分それ自体の違法性については何ら主張するところがないのであるから、本件差押処分は違法であつて、取消原因となるような瑕疵は存しないものといわなければならない。

しかるに原告は、昭和二八年七月一三日附納付通知書を以てなされた同族会社の納付義務を具体的に確定する処分には、次のような違法があつて、その処分を当然無効ならしむるものであるから、本件差押処分は違法であると主張するのであるが、その理由のないことは次に述べるとおりである。すなわち、

(一)  原告は、まず、訴外西進一郎においてその昭和二五年度分所得税について同訴外人の父西米楠名義で所得金額を金四〇五、三〇〇円として確定申告をなし、その納期は昭和二六年二月二八日であるところ、同年六月一九日被告の実額調査の結果右訴外人名義で所得金額を金一、一〇〇万円として修正確定申告をなしたのであるが、その納税をせん延せしめた責任は被告にあること、修正確定申告にかかわらず納期以後現実に支払われるまでの利子税を払わねばならないから、その納期は依然として昭和二六年二月二八日であることの理由により、昭和二六年四月一日以降施行された旧国税徴収法第四条の七を適用して原告会社に第二次納税義務を課することは法不遡及の原則に反すると主張する。

しかし、訴外西進一郎は昭和二六年六月一九日附を以て所轄泉佐野税務署長に対して昭和二五年度分所得税として総所得金額一、一〇〇万円、税額五、八九七、〇三〇円の同訴外人名義の修正確定申告(所得税法第二七条第一項)をなしたのであるから、この修正により増加した税額は所得税法第三二条第一項の規定により当該申告書を提出した日、すなわち昭和二六年六月一九日に納付しなければならないのであつて、右訴外人が右増加した税額を納付しなかつたことは既に認定したとおりであるから、右の修正により増加した所得税額は昭和二六年六月二〇日より滞納となるものである。従つてこの滞納税金(付帯金を含む)については旧国税徴収法附則(昭和二六年法律第七八号)第一項及び第七項により旧国税徴収法第四条の七が適用されることはいうまでもない。原告は「納税をせん延せしめた責任は被告にある」と主張するが、本件全証拠によつても、被告が故意に訴外西進一郎の修正確定申告を旧国税徴収法第四条の七の施行の日である昭和二六年四月一日以降にせん延せしめた事実は全く存しない。また原告は、所得税の納付が遅延した場合には、原則として法定の納期限の翌日から納付の日までの期間に応じて、未納の所得税額に対して利子税額とあわせて納付しなければならない定めになつているところから(所得税法第五四条)、確定申告または修正確定申告にかかわらず、確定申告書などの提出期限の翌日から滞納となるものであると主張するようであるが所得税法第五四条の利子税額は法所定の納期に所得税を納税しなかつたためにその本税に附加して課せられる附加利子的課税であり、納税または申告の実をあげるため税の形式で課せられる税法上の行政罰であつて、確定申告または修正確定申告によつて具体的に確定した所得税の本税額が確定申告書の提出期限の翌日に遡つて滞納となることを当然の前提としているものではないのである。

(二)  原告は、次に、申告納税制度の下においては旧国税徴収法第四条の七が規定する同族会社なりや否やの判定権は納税者にあつて、徴収権者にはその判定権はないから、納付通知の現況において納税者から同族会社なりや否やの申告が前もつてなされることが必要であり、該申告なくして徴収権者が同族会社と判定するのは違法であると主張する。

しかし、原告主張のように解すべき根拠は全くない。旧国税徴収法第四条の七の規定は徴収権者がその処分要件を調査認定 し、その要件に該当すると認定したときは、同族会社に対し納付通知書を交付することによつて具体的納付義務を確定せしめるものであつて、もとより同族会社なりや否やの認定は徴収権者によつてなさるべきことは当然である。

(三)  原告は、また、原告会社が同族会社でないこと、滞納者西進一郎が差押を免れるため別紙目録記載の不動産を原告会社に贈与したものでないこと、要するに、旧国税徴収法第四条の七の要件に該当しないことを主張して処分の当然無効を主張する。

しかしながら、処分要件の誤認にすぎない場合は取消原因となりえても当然には無効原因とはなりえないのであつて、処分要件の誤認が重大かつ明白であつて、そのため処分の内容の実現が法律上不能であるような場合に限つてその処分を当然無効ならしめるものと解すべきであるから、単に処分要件の誤認を主張するだけでは、無効原因の主張としてはそれ自体理由がない。しかも、旧国税徴収法第四条の七の処分要件については、前記二において既に詳細に認定したとおりであつて、何らの不当違法のかども存在しないのである。

四、以上説明したとおり、原告は、本訴において、被告が昭和二八年八月四日附を以て原告所有にかかる別紙目録記載の不動産に対し国税滞納処分としてなした差押処分を違法として、その取消を求めるものであるが、その前提となる昭和二八年七月一三日附納付通知書を以てなされた処分は適法であつて、原告の主張するような無効原因はもとより取消原因となるような違法も存在しないのであるから、本件差押処分それ自体の違法性について何らの主張も立証もない本件にあつては、本件差押処分は適法であつて、取消原因となるような瑕疵は存しないものというべきである。よつて、原告の本訴請求を失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙滞納税額一覧表、物件目録省略)

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