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大阪地方裁判所 昭和30年(モ)1844号 決定 1955年8月12日

申立人 玉船冷蔵株式会社 外九名

被申立人 芙蓉製氷冷蔵株式会社

主文

申立人等の申立はいずれも却下する。

理由

本件仮処分執行取消申立の要旨は大阪地方裁判所は被申立人よりなしたる仮処分命令申請事件(同裁判所昭和三十年(ヨ)第一四八六号事件)に付昭和三十年七月十六日別紙物件目録<省略>記載の物件に付申立人等(右仮処分申請事件における被申請人以下同じ)の占有を解いて之を被申立人(右仮処分申請人、以下同じ)が委任する執行吏に保管させる。執行吏は被申立人の申出があつたときは被申立人に右物件の使用を許さなければならない。との仮処分決定をなし、被申立人は右決定に基き大阪地方裁判所々属執行吏に委任して右仮処分の執行をなした。そこで申立人等は右仮処分決定に対し異議の申立をなしたのであるが右仮処分決定はその執行により被申立人をしてその権利の執行の保全を得しむるに止らず之をして既に権利の終局的満足を得しめ、一方申立人等は右執行に因り回復することのできない損害を蒙むるものである。

即ち申立人玉船冷蔵株式会社(以下単に玉船会社と略称する)は本件仮処分の対象たる建物その他の諸施設を自ら占有使用して製氷販売等の営利事業を経営する権利を有するに拘らず本件仮処分執行の結果右建物を始めその他の附属諸施設の占有使用による製氷事業の実行の途を塞がれたものであるが時期偶々製氷販売事業にとり年間の利得の大部分を収得すべき七、八月の盛夏に際会したため右執行に因る営業不能は玉船会社が右期間に得べかりし製氷販売の利益の喪失を招来せしめるに止らず延いては之がため会社継続の資金獲得不能に帰し重大なる損害を蒙つたものである。又爾余の申立人等も本件仮処分の執行に因り職を奪はれ生活に困苦するに至りその損失は極めて重大である。仍て民事訴訟法第五百条及第五百十二条に則り右執行の取消を求めるため本件申立に及ぶというにある。

仍て按ずるに凡そ仮処分命令申請事件に付裁判所が該申請を容れ如何なる内容の仮処分を命ずるかは具体的場合に応じ当該裁判所の自由なる判断を以て之を決定し得るものなることは民事訴訟法第七百五十八条の明定するところであつて、若しかくて現に発令されたる仮処分命令の内容にして当該具体的場合に於ては尚権利保全に必要なる限度を超えたるものと認むべき場合はもとより之が取消変更をなすべきも、これは飽迄上訴の場合と異なり同一審級の継続たる仮処分異議手続に於て審理上該仮処分命令自体の当否として判決を以て判断さるべきものであるから未だ異議の手続の終結せざるに先立ち既に仮処分命令の当否を云為しこれを前提としてその執行の取消を求むる如きことは許されないものと解すべく、或は又当該具体的場合の如何を問はず一般的に仮処分命令の内容にして所謂断行命令の型態に属するものなる場合は常に之を不当視しその執行を取消すべきものとは到底解することを得ない。次に申立人等がその主張の如く本件仮処分命令の執行に因り償うべからざる損害を蒙るとの主張に付按ずるに申立人玉船会社が本件仮処分執行に因り蒙るべき損害となすところは従来被申立人会社が之に拠つて製氷冷蔵事業を経営して来た別紙目録記載の建物その他の諸施設をその後右申立人会社において自ら占有使用して製氷等の営利事業を経営する権限を取得するに至つたに拘らず本件仮処分執行の結果右建物その他諸施設の占有使用による製氷販売事業の実施の途を塞がれたるところ時期偶々製氷販売事業において最も利益を挙げ得べき盛夏の候に際会したため右営業不能により甚大なる損害を蒙るというにあるところ玉船会社にその主張の本件仮処分建物等占有使用の権限ありとは之を認むべき疏明はなく、加之本件仮処分は正に被申立人において玉船会社の前記建物等の占有使用の権原の存在を争い、自己にその所有権ありと主張し右所有権保全のため之を申請し仮処分決定を得たものなること一件記録に徴し極めて明であるから今直ちに玉船会社の右占有使用の権限の存在を肯定し之を前提としてのみ発生するものと認むべきその主張の如き前記損害ありとは到底なすことを得ないし、爾余の申立人等が本件仮処分執行により蒙るべきものと主張する損害の一部は玉船会社が正当に右建物等を使用して製氷事業を営み因て順調に営利の実を挙げうるものなることを前提とし、同会社の従業員として被傭就労するに因る賃金等の収益の喪失を謂うものであるから之を以て直ちに本件仮処分執行に基く損害となすことを得ず、右以外の損害の発生についてもその程度態様に付償うべからざるものありと認むべき疏明ありとなし難いから申立人等の右主張は何れもその理由がない。

仍て本件申立は却下すべきものとして主文の通り決定する。

(裁判官 藤城虎雄 日野達蔵 角敬)

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