大阪地方裁判所 昭和30年(ヨ)1095号 決定 1955年12月17日
申請人(九九名選定当事者) 秋元隆成
被申請人 カルケツト食品株式会社
主文
被申請人は申請人に対し、別表川村昭外二八名の選定者(月給者)については別表D欄各記載の金額合計金一五一四、八三一円及び昭和三〇年一二月一日以降右各選定者の雇傭関係が消滅するに至るまで一ケ月につき別表B欄各記載の金額の割合による金員を、また別表中世古末次郎外六九名の選定者(日給者)については別表D欄各記載の金額合計金一八二一、五四八円及び昭和三〇年一一月二一日以降右各選定者の雇傭関係が消滅するに至るまで一ケ月につき別表B欄各記載の金額の割合による金員をそれぞれ昭和三〇年一二月二五日を初めとして毎月二十日限り仮に支払わなければならない。
申請人のその余の申請を却下する。
申請費用は被申請人の負担とする。
(注、無保証)
申請の趣旨
被申請人は申請人に対し別表川村昭外二八名の選定者(月給者)については昭和三〇年五月一日から別表E欄各記載の一ケ月合計金三四一、七八五円、別表中世古末次郎外六九名の選定者(日給者)については昭和三〇年四月二一日から別表E欄各記載の一ケ月合計金三九八、三四六円の各割合による金員を各選定者の雇傭関係が消滅するに至る迄毎月二十五日限り仮に支払え。
理由
当事者双方の提出した疏明資料により当裁判所が一応認定した事実関係並にこれに基く判断は次のとおりである。
一、紛争の経過
被申請会社(以下単に会社という)はカルケツトその他の菓子製造を業とする会社であり、また別表九九名の選定者は被申請会社大阪支店の従業員で、且同支店従業員一一〇名中約一〇〇名をもつて組織する被申請会社大阪支店労働組合(以下単に組合という)の組合員である。
1、会社は昭和二八年一〇月経営者が更迭し、その後大谷重工業株式会社の社長大谷米太郎が会社の社長を、また同社専務取締役大谷竹次郎が会社の専務取締役をそれぞれ兼務し、西村覚が常務取締役として同社大阪支店に常駐する等、大谷系の資本と経営によつて業界に乗り出したが、近来営業不振のため多額の借財を重ねて経営難に陥り、その苦境打開策として、昭和三〇年四月二七日ごろ組合に対し賃金の一割引下げ及び退職金規程―退職金の算出は勤続一年に付退職当時の本俸月額の二倍(日給者は日給に二五を乗じたる金額を本俸月額とする)に職階手当を加算したものに別表支給率(勤続年数一〇年までの者についていえば、会社の都合による退職のときは、任意退職の場合の支給額の三割を加算する)を掛けたる割を以て勤続年数を乗じたる金額とする(第四条)等の諸規定があり。昭和二八年八月一日より実施中のものである―の改訂を申入れたが、組合に拒否せられた。
2、会社はすでに四月分の従業員の給料の一部約二〇万円の遅配や四月末に退職した者の退職金の未払の事態を生じていたばかりでなく、五月初めごろからは、原材料の入荷がないため、五月一〇日過ぎには工場従業員は仕事するにも仕事がなく生産は殆んど停止し、加えて会社大阪支店の幹部からは、大阪工場閉鎖の噂が流布されていたため、従業員間には不安が募るばかりで、組合としても、会社の当時の状況から大阪工場の閉鎖、人員整理は必至の情勢にあるものとして対策を樹てざるを得ない破目に立至つた。
3、かかる折柄五月一七日会社は組合に対し口頭をもつて翌一八日より五月末日まで大阪支店工場を休業する旨の申入をしたので、組合は同日夕刻組合大会を開いて右申入につき討議した結果、(一)休業期間中の休業手当の増額(六〇%増し)、(二)四月分以降の未払賃金、休業手当金及び将来予想される人員整理に伴つて発生する退職金を含むいわゆる労務債権確保の措置を会社側において即時講ずる、(三)会社が将来工場閉鎖、人員整理を行う場合は事前に労資協議の上行う(昭和二八年七月一三日付覚書の再確認)、という三条件を会社が受けいれる場合には休業を了承し、会社再建に協力する旨決議し、併せて原則的には休業に反対しない旨確認し、この決議に基いて、同日午後七時ごろ及び翌一八日午後五時ごろの二回に亘り会社側の西村重役等と団体交渉を重ね、右三条件の裏付を求めたが、会社側は一八日の休業を取消したのみで、右団交の席上では終始五月三一日に東京本社で開かれる予定の株主総会の結果を待たなければ確定的な回答はできない旨を繰返し、結局翌五月一九日より月末に至る間休業する旨通告し、翌一九日には、工場内に「事業の都合により五月一九日から三一日まで休業し、休業中の給料は六割を支給する」とのビラを掲示して休業を実施するに至つた。組合はこれに対して五月二一日附の書面をもつて、会社の右休業は会社大阪支店と組合との間に結ばれた昭和二八年七月一三日付覚書による協定
「会社は事業場の閉鎖若くは縮少等従業員に重大なる影響を及ぼす事項に就ては事前に組合とそれが具体的な方法について協議の上決定したる後それを行う」
に違反するものであつて、あくまで無效であると認める旨を会社に通告した。
4、前記1、乃至3、に説示した通り会社の右休業申入に前後するころには従業員並に組合にとつて如何にも危機到来を思わせる状態に立至つたので、組合は会社に対してそのころ次のような措置を取つた。すなわち、
(イ) 前記2、に説示した情勢において五月一四日(土曜日)の午前組合長の秋元隆成は西村常務に対し四月分の未払給料約二〇万円の支払方につき交渉したが、同常務は小野里経理部長に話してくれといい残したまま雨宮英夫営業主任と共に上京した。秋元が小野里経理部長にただすと、そんなことは知らん、何もきいていない、しかし支払わなければならないんだから、河合と相談する、とのことであつた。一六日の月曜日に秋元が会計係の河合にきくと、経理部長から何もきいていない、との返事だつた。丁度そのとき、秋元は、営業係員の汐月伸吾が雨宮の命を承けて会社の取引先の鈴木商店より小切手一通(額面一〇六、七七六円)及び成田屋商店より現金三六、四四〇円を集金して来ていたのを売上帳簿記帳係として入金記帳するため受取保管していた。そこで秋元は西村常務が帰阪すればこの分を四月分の遅払給料に充てるよう交渉する腹で一時入金記帳を控えていた。その矢先の一七日、帰阪の西村常務から前記の通り休業の申入れがなされ、大阪工場の閉鎖問題が旬日の後に控える株主総会の爼上にのぼつて近々のうちに人員整理が断行されるべき必至の情勢にあるに拘らず、賃金、休業手当及び、退職金を含めての労務債権の支払確保の措置については、なんら誠意ある確答が得られないまま、情勢とみに急迫を告げるに至つた。四月分の遅払給料こそ一八日に支給されはしたものの、その他の労務債権の支払についてはその見通しがたたない有様だつたので、秋元は一八日に取引先の塩田商店より代金支払のため書留郵便で送られて来た約束手形四通(額面合計五四八、四七二円)及び同様高須商店よりの約束手形一通(額面三〇万円)を前同様売上帳簿記帳係として保管中、これらの手形を右小切手並に現金と共に会社に引渡すことなく、前記労務債権確保の担保として組合において一時保管することとし、秋元組合長より五月一九日付書面をもつてその旨会社に通告した。
(ロ) 組合は前記労務債権確保の必要上会社の現有する製品、原料等の逃避散逸を防ぐため五月一八日午後一時ごろ倉庫係発送係主任高田正夫が八幡市の塩田商店に向け受註に係る製品カルケツト三〇石を発送係の弥永利邦に命じて出荷しようとしたが、組合員数名が出荷を中止させた。
(ハ) 同日午後二時半ごろ会社の原材料問屋である曉商事社が会社の返品する原材料を受領するため、会社係員がオート三輪車に乗つて来社し、返品の砂糖その他の原料を積載して午後四時ごろ出門しようとしたところ組合員数名が右(イ)(ロ)と同様の目的から右搬出を阻止した。
(ニ) 五月一九日組合員有常美和、同杉田清八の両名は将来の退職金債権保全の為当庁に動産仮差押の申請をなし該決定を得てそのころ会社所有の製品に仮差押の執行をなした。
(ホ) 五月二〇日ごろ組合は会社の特約店である大阪市内の松風屋商店、大信商店に対し電話で会社の集金係が行つても金を払わぬようにと申入をした。
組合が右(イ)乃至(ホ)記載の行動をとつている間にも前記三条件をめぐつて団体交渉が続けられていたが、要領を得ず、会社側は五月二〇日ごろからは大谷重工業から屈強な相撲部員一〇数名を会社に派遣させて警備配置につかせる一方、五月二十二日書面をもつて組合に対し退職金規程の会社改訂案を提示するから五月二五日までに回答されたいと申入れておき乍ら、その回答期限の前の五月二四日更に書面をもつて組合は争議に突入しているので、会社はこれに対抗するため五月二四日午前一〇時三〇分をもつて工場閉鎖する旨のいわゆるロックアウト通告をなし実力をもつて工場出入口を閉鎖すると共に現経営者の引継いだ昭和二八年一〇月一日前における会社対組合間の諸協約及び諸取極め事項は現在会社の実状に添わぬから全部廃棄する旨を通告した。
5、なお、五月三一日の株主総会に於て大阪支店工場を閉鎖し、東京本社に於て生産販売する旨の決議がなされ、次いで六月二日会社は組合に対し全従業員を解雇したい旨を申入れ、その後数次に亘る団交をもつたものの、未だ妥結に至らない。労使双方の言い分を摘記すると、会社は五月一八日までの給料及び五月一九日より同二三日までの平均賃金の六〇%の休業手当の支払を認める外、ロックアウト後の賃金乃至手当の支給を拒み、会社の銀行預金が五月二八日組合員等から仮差押をうけているため、従業員に対し未払賃金及び解雇予告手当を支給して解雇したくても解雇できないのであり、退職金については前記退職金規程による支給額の約半額乃至それ以下の大谷重工並みの規準を要求するものであるに対し、組合は前記休業及びロックアウトの違法を主張し、退職金については右規程通りの支給方を強く要求すると共に解雇するのなら一日も早く正規手続に従つて解雇することを要望し、解雇するでもなし給与等を支給するでもなしの生殺しの状態からの脱却を会社の責任において速かに処置せんことを要求するものである。
二、本件休業の性格
1、会社が本件休業に入るに至つた前記事情に照らすと、本件休業は不可抗力或は組合従業員等の責に帰すべき事由によつて招来されたものでは勿論ないが、さりとて会社幹部等の故意過失によつて惹起されたものと認めるに足る疏明もないのであつて、むしろ前記のように会社の営業不振、金融難等に起因するいわゆる経営障害による休業の場合に該当すると考えるのが相当である。
2、申請人は本件休業は昭和二八年七月一三日付覚書による取極めに違反し組合と協議することなくなされたから違法であると主張し、被申請人は右覚書は本件の如き短期間の休業には適用せられる趣旨ではないから、なんら組合と協議決定する必要がないという。この点につき、昭和三〇年五月三一日の会社の株主総会において前記の如く大阪工場閉鎖が議案として討議せられ同日右閉鎖決議がなされているのであるから、総会招集のために必要な期間並に準備態勢を要する事実と前記の如く五月中ごろには右閉鎖の噂が大阪支店の幹部から流布されていたことと思い合わせると、少くとも本件休業を申入れた五月一七日には会社における大阪工場閉鎖、これに基く人員整理の方針は確定していたものと推認せられるのである。してみれば、本件休業は大阪工場の閉鎖に連繋発展する休業たることを本然の姿とするものであつて、かかる休業こそ、まさしく右覚書にいわゆる「事業場の閉鎖若くは縮少等従業員に重大なる影響を及ぼす事項」に外ならない。従つて、会社はかかる休業につき事前に組合と協議するを要することも右覚書の通りであるから、被申請人の右主張は理由がない。
3、申請人は会社は本件休業につき組合となんら具体的協議をせず、また協議をなす意思すらなかつたから、本件休業は違法であると主張するのであつて、成る程会社側が休業の申入及びこれに次ぐ二回の団交においてなんら具体策を明示せず、ただ漠然と五月三一日に予定されている株主総会の結果をまたなければなんとも言明できないとか会社の経理内容を知らせるわけにはいかないとかいう程度の説明に終始しているところからすれば、申請人の主張する通り前記覚書にいわゆる「具体的な方法について」十分意を尽して「協議」したとはいいかねるものがあり、かかる説明のみで会社が本件休業に入つたことは、いかにも強引に過ぎる嫌いを否み得ないけれども、会社側には協議の必要を完全に無視して一部組合員を苦しめる目的で休業を命じるような故意はなく、兎も角五月一七日に休業を申入れて以来二回に亘り、組合と交渉しており、会社の企業自体が経営障害により大阪工場の閉鎖にまで持込まれるような客観的状勢にあつたことや休業申入当時生産部門は殆んど停止し組合自身も会社の休業申入に対して窮極において労務債権の保障さえ得られれば休業に原則的に反対しないという程に会社の経営悪化の事実を認識していたことを併せ考えると、会社にこれ以上の協議を強いることは苛酷であるといわざるを得ないのであつて、右程度の話し合いの上でなされた会社の休業も所詮やむを得ないというの外なかろう。
4、従つて本件休業は民法第五三六条第二項にいうところの使用者の帰責事由としての故意過失を欠くから同条項の適用は受けないが、しかし労働者の生活保護の目的から設けられた労働基準法第二六条所定の使用者の責に帰すべき休業の範疇には属するものと解するのが相当である。
三、ロックアウトが違法であるとの申請人の主張について
会社は、組合が前記説示のように会社の申入れた賃金一割引下げ及び退職金規程改訂の提案並に休業申入に非協力的態度に終始したことと合せて組合が前記一の4に説示した如く会社の集金に係る現金、小切手等を組合側に一時抑留保管したり製品原料等の出荷を阻止し次いでこれらを仮差押した行為を目して組合の争議行為といい、会社はこれに対抗する争議手段としてロックアウトをなしたというのである。しかしながら、組合のかゝる諸行為が被申請人の主張するように争議行為であるかどうかは、その行為の行われた背景を熟慮して検討しなければならない。
前記認定の各事実に徴すれば右行為の行われたころは、工場の生産部面は原材料の入荷がないため殆んどその機能を停止し賃金の遅配現象も生じ、会社は近く大阪支店工場を全面的に閉鎖するとの噂が会社幹部の口からも流布せられている有様であつて、会社は全員整理を伴う永久的工場閉鎖の計画を着々進めており乍らなんら組合と協議することもなかつたので、従業員達は来るべき危機を予感して不安に包まれていたのであるが、五月一七日における会社の休業申入によつてその噂が現実となり、しかもその後の団交において従業員の未払賃金、退職金等の労務債権の支払について会社から規程通り完全に支払われるかどうかその見通しさえつかぬという会社側の回答によつて従業員は不安のどん底に追いやられた。仕事をしたくても仕事はなく、会社手持の製品や原材料は日を追うて処分されて行く現況に直面し、かつまた現経営者の従来の労務対策を想到してこのまま拱手傍観的態度に止まつていたならば従業員の労務債権の確保は到底覚つかないという気持が忽ち支配的となつた。このようにして組合は守勢的立場から従業員のすでに取得し又は近く取得すべき労務債権確保のためやむなく前記各行為に出たものである。
しかも、会社の従業員は会社に対し、雇傭される労働力の面で争議、自救行為の場合を除き通常会社の労務指揮権に服する関係において債務者の地位に立つと同時に、その雇傭労働力の対価としての賃金、退職金等の労務債権の面では逆に債権者の関係に立つ。この労務債権の債権者という地位は会社に対する他の債権者となんら異るものではないばかりか、商法第二九五条、民法第三〇八条第三〇六条等により、先取特権という強力な法的保護さえ与えられている。会社の経営が順調で労使の関係が円滑である場合は兎も角、経営が窮迫化し工場の閉鎖、人員整理等の事態に直面すれば、従業員が未払賃金、退職金等につき債権者として強力に権利主張するのも、自然の成りゆきであつて、譲歩のいろがないからといつて、法的非難を加えることはできない。
このようにみてくると、組合の右各行為は結局傘下従業員の労務債権確保の為法的手段に訴えるまでの間の緊急非常の手段として執つた自救行為と見るのが相当であり、会社側がロックアウトをもつて対抗すべき組合の争議行為乃至争議状態と目すべきでないと考える次第である。
更にまた会社のロックアウトは前記認定の通り会社の経営障害による休業中になされるという異常事態の下でなされたものであつて、しかも右休業が工場の永久的全面的閉鎖、従業員全員の永久的解雇に連繋発展する予定計画の線上でなされていることに鑑みると、もしこのロックアウトが正当なものとすれば、ロックアウトによつて従業員こそ休業手当を失うこととなつても、すでに工場の永久的閉鎖を予定している会社はなんらの苦痛犠牲も感じないという妙な結果になつて、ロックアウトによつて労使のうげるべき利害は著しい均衡を失することになるのであり、これらの点と会社自ら給与一割引下げ、退職金規程の改訂を組合に申入れておきながら、その回答期限を待つことなしに卒如としてロックアウトの挙に出ると共に現経営者の引継前の労使間の協約等の破棄通告をしたことを思い合せると会社のかかるロックアウトは名をロックアウトに藉り従業員を苦しめ休業手当の支払を免れんとする違法の措置といわれても仕方ないであろう。
会社のロックアウトはいずれの角度からみても違法といわざるを得ない。
四、労務債権の存否について
まず未払賃金につき考えてみるに、会社の従業員のうち月給者については当月分を当月の二五日に、日給者については前月二一日より当月二〇日締切の分につき当月二五日に給料を支給することに定められていることが認められ、別表選定者川村昭外二十八名の月給者が昭和三〇年五月一日から同月一八日までの賃金請求権を有すること及び別表選定者中世古末次郎外六十九名の日給者が同年四月二一日から五月一八日までの分の賃金請求権を有することは被申請人の自認するところである。そして右選定者等の支給をうけるべき額が月額として少くとも別表E欄各記載の金額に達することが窺われるから、右選定者等の各賃金額が別表A欄各記載の通りであることは計数上明かである。
次に休業手当につき考えてみるのに、会社が同年五月一九日から経営障害のため使用者の責に帰すべき休業に入つたこと、会社が同年五月二四日行つたロックアウトが違法なことは前に述べた通りである。そして、会社が右ロックアウトにより事実上工場を閉鎖し、次いで五月三一日の株主総会において大阪工場の永久的全面的閉鎖が決議せられ、今日に至るまで会社大阪支店が事実上閉鎖状態にあり、しかもそれが窮極において経営障害に基因するものである以上、五月二四日以後の閉鎖状態は五月一九日より五月二三日までの休業に準じこれと同様に取扱うべきものと解するのが相当であつて、違法なロックアウトによつて休業手当の支給を免れ得ないことは勿論であるから会社は五月一九日以降選定者の雇傭関係が消滅するに至るまで労働基準法第二六条所定の休業手当を支払う義務あるものといわなければならない。その休業手当の額は平均賃金を下廻るものと一応推認せられる別表E欄各記載の右五月分賃金を基準として少くともその一〇〇分の六〇に相当する別表B欄各記載の金額通りと認め、その支給日も特別の事情の認められない限り賃金支給の場合と同様に解するのが相当である。
従つて、会社は申請人に対し本件選定者のうち前記月給者については同年五月一日から同月一八日までの前記賃金及び五月一九日から同年一一月三〇日までの休業手当を合計した分として別表D欄記載の各金額を、また前記日給者については同年四月二一日から五月一八日までの五月分賃金及び五月一九日から同年一一月二〇日までの休業手当を合計した別表D欄記載の各金額をそれぞれ履行期の到来した分として支払うべきであると共に、また各選定者について別表B欄記載の各休業手当額を雇傭関係の消滅するに至るまで毎月二五日限り支払わなければならない。
五、仮処分の必要性
本件選定者は現在まだ会社の従業員たる地位を有するに拘らず、会社は同人等に対し前記五月分の賃金はじめ休業手当についても、全然支払わず、また予告手当等を支払つて解雇する措置にも出ないため、本件選定者は失業保険の給付も受けられず、さりとて会社のいうように、本件選定者等が将来の退職金債権に基いて仮差押の執行をなしている会社の銀行預金債権につき執行を解放するときはこれを予告手当等にふり向けて会社より或いは解雇の措置が執られるかも知れないが、そのときには、その退職金債権の支払の引当を失うというジレンマに陥るために従業員としてその去就を決しかねているのが実状である。会社が従業員たる選定者をこのように極めて不安定な状態におき、名ばかりの従業員にとどめ実質的には失業の痛苦を嘗めさせていることは、経営者として誠意を欠くものというべく、このため賃金生活者たる選定者が生活逼迫の窮状にあえいでいることは十分に想像されるところである。選定者等が五月分の賃金債権に基いて会社所有の動産を仮差押していることは当裁判所に顕著であるけれども、かかる仮差押の手段によつては選定者等の直面する生活危機を到底切り抜け得ないことも亦明かであつて、金員給付を命ずる仮処分の方法により当面する生活危難を緊急に排除する必要があるものといわなければならない。
六、結論
以上の次第で、申請人の本件仮処分申請中主文第一項記載の限度で理由があるから、無保証でこれを許容し、その余は理由がないから却下することゝし、申請費用については、民事訴訟法第九二条を適用して全部被申請人の負担とし、主文の通り決定する。
(裁判官 木下忠良 日高敏夫 中島一郎)
別表<省略>