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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)3118号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は、別紙第一の登録商標(登録第二九〇六四〇号の一、指定商品第三六類メリヤス製被服その他本類に属する商品、但し帽子類を除く)について、昭和一二年六月二日登録を受けてから同三〇年三月二二日訴外会社に譲渡するまでの間その商標権者であつた者であるが、被告東伸莫大小株式会社が同二七年二月頃から同三〇年三月二一日までの間別紙第二の商標を用いたメリヤス製被服を製造販売しているところ、同被告の右商標が原告の右登録した商標に類似していることを前提として、右商標権侵害の不法行為を理由に損害賠償の請求をした。同被告は、右商標の類似の点を争うとともに「同被告は、昭和二七年二月頃別紙第三の登録商標の権利者である訴外株式会社加納善商店から、その使用許諾を得、さらに同二九年一二月一日同商標を同会社と共有するに至つたのであるが、右使用許諾は、右別紙第三の登録商標そのものの使用行為ではなく、これを商標の一構成部分として取り入れ、他の図形及び文字を結合させて別個独立の結合商標を構成し、これを使用することの許諾である。被告東伸は、右使用許諾による使用を実施するにあたり、右別紙第三の登録商標と区別するために別紙第二の商標を構成したものであるから、右別紙第二の商標の使用は、別紙第三の登録商標の使用許諾及び共有に基く権利の適法な行使である。」と主張した。

これに対する裁判所の判断は、次のとおりであるが、本件は結局原告の損害額の立証がないとして、原告の請求は棄却された。

「原告が、昭和一二年六月二日から昭和三〇年三月二一日まで登録商標(一)(註・別紙第一、登録商標)の商標権者であつたこと、被告東伸が昭和二七年二月頃から昭和三〇年三月二一日まで商標(二)(註・別紙二の商標)を付したメリヤス製品被服等を製造販売し(註・中略)たことについては、いずれも当事者間に争いがないので、進んで、登録商標(一)と商標(二)(これらが、それぞれ別紙第一、第二に表示されたとおりのものであることについては、当事者間に争がない)の類似の有無を判断する。

まず、右各商標から生ずる称呼について考えてみる。登録商標(一)については、別紙第一に表示されているとおり、その中段上寄りに顕著に記されたCapitol Knitの文字から、「キヤピトルニツト」なる称呼が生ずることはもちろん、なお、右部分は、CapitolとKnitとの二語からなるものとして、特にKを大文字にして表記してあること、右Knitは右商標の付せられるべき商品たる編物、メリヤス等を表示することばとしても使用せられるものであること、簡易迅速を尊ぶ取引の実際等を考え合せると、単に「キヤピトル」なる称呼をも生ずると認めるのが相当である。そして商標(二)については、別紙第二に表示されているとおり、その中央に大きくCapitalの文字があり、その右下にやや小さくToshinの文字があるところから、一応「キヤピタルトーシン」の称呼が生じ得るものと考えられるけれども、右各語の表記のしかたからすれば、Capitalの文字とToshinの文字とが不可分の一体をなすものとは考えられず、中央に顕著に記されたCapitalの文字のみから「キヤピタル」の称呼が生じ、むしろこれがより広く慣用されるものと認められる。かように登録商標(一)からは「キヤピトル」なる称呼が、商標(二)からは「キヤピタル」なる称呼が、それぞれ生ずるものと認められるところ、両者は、「ト」と「タ」において四音中一音を異にするけれどもこの差異は、同行音間の微差に過ぎず、これを全体として一連に呼称するときは音調相通ずるものがあるというべきである。従つて、両商標は、その称呼において類似するものといわざるを得ない。

次いで、右各商標から生ずる観念について考えるに、両商標とも、その要部に、国会議事堂またはこれと相似た建物の図形を含んでいることから、共通して議事堂印なる観念が生ずるものと認むべきである。もつとも、被告等は、商標(二)を構成する図形は随所に見られるような洋風建物を表わしたものであると主張し、(註・証拠によると)、商標(二)に表示されている建物の図形は、国会議事堂ではなく、普通ありふれた洋風の建物の図形であつて、被告東伸は、大阪市北区堂島浜通にある訴外東洋紡績株式会社、仙台市役所の建物等を見本として右図形を構成したことを認めることができるが、図形から生ずる観念が同一又は類似するかどうかは、図形を構成した主観的事由により決すべきものではなく、取引の実際における経験則に照らし混同誤認の虞があるかどうかにより決せらるべきものと解すべきところ、取引の実際における客観的認識からすれば、右図形によつて表わされるような中央塔を有する建物として、日本においては、国会議事堂が殊に著名である事実にかんがみると、右図形を要部に含む商標は、一般取引上、議事堂印なる観念を生ずるものと認めざるを得ない。従つて、観念の点からも、右両商標は類似するものと認められる。

最後に、右商標の外観についてみるに、これを相並べて対比するときは、別紙第一と第二に表示されているとおり、登録商標(一)においては、文字と図形とが分離して表示されており、商標(二)においては、両者が重つて表示されている等、多少の差異がないではないけれども、商標が類似するかどうかを決するには、当該各商標を目前に並置して対比観察するのではなく、いずれかの商標のみに基き、いわゆる離隔的に観察して誤認混同を生ずる虞があるかどうかを標準として定めるべきものと解すべきところ、いわゆる離隔的観察方法によるときは、両商標ともに国会議事堂を示すような図形とローマ字との組合せにより構成をされていることからして、誤認混同を生ずる処があると解すべきであるから、両商標は、必ずしも類似しないものというを得ず、少くとも、前記称呼、観念における類似性を排して、両商標を別異のものとして明らかに看取せしめるに足るような顕著な差異は存在しない。

以上認定のとおり、右両商標は、互に類似するものと認むべきであるから、次に、被告等の本件商標の使用行為について、違法性および故意過失の有無を判断する。

思うに、商標権は、商標権の経済的価値の保障と同時に、商標を信頼して取引をなす一般取引者の利益を保護せんとする目的をも有するのであつて、この目的からすれば、商標使用権の範囲と商標侵害権排除権の範囲とはおのずから異らざるを得ず、後者は類似商標一般におよぶべきであるけれども、前者は当該登録された商標についてのみ、これをおよぼせば足りると解せられる。従つて、自己の登録商標又は登録商標の権利者から使用許諾を得た登録商標であつても、これらに変更を加えることにより他人の登録商標に類似するに至つた場合は、もはやその商標を使用することは許されず、これを使用した場合には、他人の登録商標を侵害したものと解すべきである。これを本件についてみるに、(註・中略)右商標(二)が登録商標(一)に類似するものであることは、既に認定したとおりであるから、前示の理由により右登録商標(三)(註・別紙第三の登録商標)の使用許諾があり、その後これを共有するに至つたからといつても、被告等が商標(二)を使用することは、原告の本件登録商標(一)の商標権を侵害するものというべく、被告等は、右商標(二)の使用行為につき違法性を阻却されないものと解すべきである。」

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