大判例

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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)478号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は、被告に対し、被告は、その発行にかかる新聞に、「我が子七人連れ家出、夫に丸坊主にされた妻」なる見出のもとに「歳末も押詰つた二八日夜、夫に頭を丸坊主になされ主婦がたまりかねてわが子七人を連れて家出、自殺か親子心中の恐れがあると知人の大正区大正通一の六一会社員Yさんが二九日午後三時ごろ西成署に保護願を出した、Yさんの話によると西成区‥…拳斗家S氏(四八)の妻A子さん(四〇)と次女S子さん(一八)長男K君(一六)次男T君(一四)三女Sさん(一一)三男K君(五つ)四男T君(三つ)四女Tちやん(一つ)の母子で、原因はさる二〇日ごろ長女K子さん(二一)が阿部野区に住む愛人のM某氏のもとへ家出したのはA子さんの罪だと怒り二八日殴るけるのあげく、丸坊主にしたものでたまりかねたA子さんが同夜九時過ぎ子供七人をつれて家出したもの」なる記事を掲載はん布し、原告が理非をわきまえぬ暴虐非道のやからであるかのような印象を読者に与えたが、原告の妻A子が子供を連れて家出したのは真実であるけれども、これは原告の暴行に原因するのではなく、このため原告の名誉は毀損された。これは、被告新聞社の被用者たる取材記者およびデスクの不法行為に基くものであり、被告は民法第七一五条によつて責任を負うべきであると主張し、謝罪広告掲載を求めて本訴におよんだ。

被告は、右新聞記事が被告新聞社社会部記者の取材によりデスクを経て掲載はん布されたものであることを認めたが、本件記事は真実を報道したものであり、仮に記事中多少の過誤があつたとしても、本件記事は家出人の救出保護を目的とするものであつて、性質上迅速性が要求され、真実把握のための慎重な調査をつくす余裕が許されない場合であつたので、やむを得ないものである。仮にその真実性が遂一立証できなくとも、取材記者およびデスクが右記事を真実であると信じたことについて相当な理由があつたし、かつ本件記事は公共の利害に関する事実にかかりその目的が専ら公益を図るに出たものであつて、原告に筆ちゆうを加えようとの意図でなされたものではないから、正当な業務行為として違法性がなく従つて不法行為とならないと抗争した。

本判決は、右新聞記事の掲載はん布により原告の名誉が毀損され、その社会的声価が減ぜられたことは疑いないと判断したうえ、被告の抗争に対し、先ず一般論として「本件記事は、夫の暴行に原因する妻子の家出を中心に取扱つたものであるから、犯罪に関係すると共に一個の社会問題として公共の利害に関する事項であることはいうまでもない。このように公共の利害に関する事実を公表することによつて、他人の名誉を毀損した場合においては、その公表された事実が真実なることの証明があつたときは、特に人を害する目的で名誉を毀損するような事実を公表したものでない限り、不法行為上の責任はなく、又真実性の証明のない場合においても、その事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があつたときは不法行為上の責任を免れるものと解するのが相当である。ところで新聞記事の真実性を立証するにあたつては、被告の主張するように新聞報道の迅速性の要求から考えて、表示された事実がすべて真実であることの立証を要求するのは難きを強いるものであるから、その主要な部分において真実であることを立証すれば足りるものと解すべきである。」と判示し、証拠を検討した結果真実性の立証はないとし、更に、取材記者およびデスクが右記事記載の事実を真実であると信ずるにつき正当の事由があつたか否かの点について「証拠を綜合すると、昭和二七年一二月二九日午後四時頃、N記者は取材のため大阪市西成警察署に赴いたところ、当日の当直であつた同署庶務係巡査Sより、同日原告の代理人Yによつて原告名義で家出人保護願がなされていることを聞知し、右家出人保護願を見せてもらい、原告名義でその妻子九名に対する保護願がなされていることと右保護願には、原告の妻A子が夫に頭髪を切られて丸坊主になつている、A子は原告が傷害事件で勾留されている間に起つた長女K子の家出につき原告から責められてこれを苦にして家出したものである等の記載があることを確認し、更に同署刑事係警察官から原告の人柄や、原告が傷害事件で同署の取調を受けていること等を取材したが、みずから原告やYに面接し、又は同人等方(大阪市大正区大正通一丁目六一番地)に赴いて調査することもなく、警察で知つた右各事実を綜合し、これに主観的判断を加えて本件記事の原稿を作成して、これをデスクに提出したところで、デスクも本件記載の真実性や正確性について何ら調査することもなく、そのまま整理編しうして、これを昭和二七年一二月三〇日付の大阪読売新聞市内版に掲載したことが認められる。そして以上認定の諸事実に、前記家出人保護願が前記の如く願出人たる原告本人又はその代理人Yの署名も押印もなく、その記事が疑う余地のない程正確なものではないことが容易に理解しうるものであり、しかも右保護願には原告がA子に対し殴るける等の暴行を加えた趣旨の記載が全くないこと、当時被告新聞社は夕刊を発行しておらず、翌日の朝刊市内版に掲載すべき記事の原稿の締切時間は同日の午後八時ないし九時であつたから(このことはN証人の供述によつて認められる)、新聞報道における迅速性の要請を考慮に入れても、なお本件記事が調査を尽くして真実把握に慎重を期する余裕を許さない程緊急を要するものではないこと及び新聞の惹起する巨大な影響力に鑑み、新聞記事の取材及び編しうの担当者には報道の正確性を確保するために重い注意義務が要求され、殊に人の名誉に関係する記事については特に慎重なる取扱が要請せられること等を考え合わせると結局N記者及びデスクが本件記事の中、原告がそれによつて名誉を毀損されたと主張する事項を真実であると信じたとしても、これを一般に首肯させるに足りる相当な理由があつたものと認めることはできない。」旨判断し、結局、被告新聞社の被用者たる取材記者およびデスクの不法行為の成立を肯定し、被告に民法第七一五条の責任ありと結論した。

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