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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)5038号 判決 1974年9月30日

原告 近江商事株式会社

右代表者代表取締役 福永潔

右訴訟代理人弁護士 今堀孝人

補助参加人 株式会社中央相互銀行

右代表者代表取締役 渡辺脩

右訴訟代理人弁護士 倉橋春雄

被告 川崎繁三

右訴訟代理人弁護士 保津寛

右訴訟復代理人弁護士 鍛治巧

同 露口佳彦

被告(取下前の被告滝北静男引受参加人) 住田徳市

右訴訟代理人弁護士 石橋利之

主文

被告川崎繁三は別紙第一目録記載の建物につき、大阪法務局今宮出張所昭和二九年一月八日受付所有権保存登記の、被告住田徳市は同日受付第一三三号所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用(参加により生じたものを含む)は被告らの負担とする。

事実

原告代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因として、

一、原告は大阪市南区日本橋筋二丁目五八番地および五九番地の土地約一〇〇坪で貸ビル業を営むべく、昭和二八年四月長谷川工務店に別紙第一目録記載のような鉄筋コンクリート四階建ビルの建築の設計、施工を請負わせたが、同年六月基礎の掘下げ工事を終えたところで合意解除し、川西仁三郎の紹介で、同月二〇日川崎組こと被告川崎との間で右建築続行につき、別紙第二目録記載の建物のとおりに設計変更し、代金につき坪当り六万五〇〇〇円、総額二四二二万三二〇〇円とし、これを建物完成後入居する賃借申込人からの協力金や完成建物を担保とする金融機関からの借入金で支払う約束でその建築請負契約を締結した。そして同被告は七月初旬右工事に取りかかったが、当初から資金に窮していて進行がはかばかしくなく、原告も資材を購入補給するなどしてこれを助けていたが、結局同年一〇月始めころ構造躯体の四分の一に当る一階コンクリート部分を完成した段階で工事を中止してしまい、その続行ができなくなった。そこで原告は川西仁三郎の世話で資材の買入れや人夫の雇入れをし、更に川崎組の建築技術者を使ってその賃金等も直接支払い、やがて補助参加人中央相互銀行から融資が受けられるようになって自ら工事を進行し、昭和二九年二月九日には構造躯体が完成したので、右建物につき同日付で原告を所有者とする保存登記(大阪法務局今宮出張所第二三一五号)を了し、同年六月内外装も終ってその使用を開始した(以下これを本件建物という。)。

このように、原告は建築資材の殆んど特に被告川崎の前記工事中止後はそのすべてを自ら購入して直接工事を進行完成させたものであり、しかも同被告に対してはその施工した一階コンクリート部分につき、本件請負代金中その六割に相当する構造躯体の価格の四分の一に当る三六三万三四八〇円を上廻る五五五万九五九八円を昭和二八年一二月末日ごろまでに支払ったから、たとえ同被告に当初その工事部分の所有権があったとしても、原告の前記工事や代金支払によって遅くとも右同日ごろには原告の所有に帰属し、本件建物は完成とともに原始的に原告が取得していたものである。

二、ところで、被告川崎は昭和二八年七月始めころ当時の原告代表者福永武雄に対し、滝北静男から二〇〇万円を借受けるためその保証人になってほしい旨依頼し、福永も個人としてこれに応じることにして、滝北に見せるためということで、注文者を福永武雄、請負人を同被告とする建築請負契約書や委任状等の書類を便宜作成していたところ、同被告は同月二三日福永不知の間に同人および被告川崎を連帯債務者とする前記二〇〇万円の貸借、および本件建物を同被告から滝北に対しその借入金の担保として譲渡する旨の公正証書を作成した。そして滝北は右譲渡担保契約に基づき本件建物の権利を取得したと主張して、同年一二月二一日同被告を相手方として大阪地方裁判所に本件建物の所有権移転請求権保全の仮登記仮処分命令を申請し(昭和二八年(チ)第一六九号)、同月二八日同裁判所はこれを認容して大阪法務局今宮出張所に右仮登記を嘱託した結果、昭和二九年一月八日本件建物につき、建物表示を別紙第一目録記載のとおりとして被告川崎を所有者とする職権による保存登記、および滝北を権利者とする前記仮登記(受付第一三三号)がなされた。次で滝北は昭和三二年一月一四日被告住田に右仮登記上の権利を譲渡し、同被告は同年二月二七日右仮登記の所有権移転請求権移転の付記登記を了した(受付第四一五九号)。

三、以上のとおり本件では実際上の同一建物につき前記仮登記仮処分に基づく保存登記(以下第一登記という)と原告申請にかかる保存登記(以下第二登記という)がなされているが、第一登記の名義人である被告川崎と滝北との間の前記公正証書作成当時にはまだ本件建物はなく、また既述のとおり本件建物の所有権が同被告に帰属したこともなかったのであるから、被告川崎の本件第一登記はもとより、同被告の所有権を前提とする滝北ひいて被告住田の前記各登記は、いずれも実体上の権利を伴わない無効のものというべきである。なお第一登記当時本件建物はまだ未完成で登記できる状態になく、しかも右登記は前記設計変更前の建築確認書によるもので現実の本件建物とは別構造のものであるから、この点からも第一登記、およびこれに基づく前記仮登記の効力はない。

四、よって原告は本件建物の所有権に基づき、被告らに対しそれぞれ前記所有権保存登記および所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続を求める。

と述べ、後記被告らの主張に対し、

五、第二登記において本件建物の所在地番が当初五四番地となっていたことは認めるが、それは登記申請書の単なる誤記によるものであって、その後別紙第二目録記載のとおりに更正登記されており、滝北からの前記借入金も実際受渡されたのは八〇万円程度で、それも本件建物の建築工事には使用されておらず、原告はもとより福永も本件第二登記当時第一登記や滝北の仮登記のことなど全く知らなかったものである。

と述べた。

被告川崎代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および主張として、

一、請求原因事実中、被告川崎が原告主張のころから本件建物の建築工事を行ったこと、原告主張の内容の公正証書に基づきその主張の経緯で仮登記仮処分による本件第一登記および滝北の仮登記がなされ、次で被告住田が右仮登記上の権利を譲受けてその付記登記手続をしたこと、および本件建物につき原告による本件第二登記がなされていることは認めるが、被告川崎の前記工事が未完成に終ったこと、右工事の注文者が原告であって、原告が建築材料の殆んどを提供または自ら工事を実施し、本件建物が原告の所有に属するとの点はすべて否認する。

二、本件建物は被告川崎が注文者福永武雄との請負契約に基づき施工完成させたものであり、原告には何らの権利もない。即ち同被告は昭和二八年七月八日福永から、長谷川工務店が敷地に板囲いをしただけで手を引いた後の本件建物の建築工事を、材料費込みの代金を二七二七万〇五〇〇円とし、契約時に一〇〇万円を、その余は工事の進行に応じ逐次支払い、福永が工事材料を提供したときはその代金額を請負金額より控除すること、本件建物の所有権は工事完成後代金完済と同時に同人に移転することの定めで請負い、着工した。ところが福永は当初から前渡金の支払ができず、その資金繰りのため同月二三日同被告と連帯して滝北から二〇〇万円を借りることになって、右三者間で、前記請負契約特に所有権移転に関する約定の点を再確認し、担保として同被告所有の工事物件をその進行の程度に従い滝北に信託譲渡すること、同人からの借入金完済と同時に右所有権を同被告に復帰させ、更に請負代金の完済によってこれを福永に移転することを約束し、被告川崎と福永が連帯して前掲二〇〇万円を同年一二月末日支払の約束で借受けた。そして福永から一部資材の提供を受けたこともあったが、主たる材料は被告川崎が自ら調達して本件建物を完成させたのであって、前記請負代金は昭和二八年一二月当時二〇〇〇万円位、現在なお九〇〇万円以上が未払となっており、滝北に対する借入金も弁済未了である。したがって本件建物は依然譲渡担保のままの状態にあり、原告は勿論福永にもその所有権はない。

と述べた。

被告住田代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁および主張として被告川崎代理人と同一の陳述をなしたほか、

一、被告川崎と滝北静男との前記譲渡担保契約当時、本件建物は既に一階コンクリート部分が出来上っていたのであって、本件のような工事進行の程度に従って刻々出来る集積形成物体の権利の譲渡を無効とする理由はなく、また右権利は同被告と福永武雄との前記請負契約に基づき、また本件建物建築につき同被告が資金、労力、資材等を供与したことにより、その引渡による所有権移転までは同被告に属しているものであるから、右所有権および譲渡担保契約に基づく本件第一登記および仮登記はすべて有効であり、被告住田は本件建物につき一二〇〇万円以上を支弁して前記仮登記上の権利を譲受けたものである。

二、なお第一登記当時本件建物は土地に定着した独立の建造物として不動産登記をなしうべき条件を具備していたものであり、他方原告の第二登記こそ実体的権利のない無効のものであるのみならず、手続上も、同一物件に対する二重の登記であり、原告は右登記申請の却下をさける為ことさら所在地番を真実と一致しない五四番地とし、第一登記の物件と別物の如く装い登記官を欺罔して前記第二登記に至ったのであるから、右登記は不動産登記法四九条二号にも該当する不適法なもので抹消されるべきである。

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一  昭和二八年七月始めころから被告川崎が本件建物の建築請負工事を施工したこと、同月二三日同被告および福永武雄が滝北静男から連帯して二〇〇万円を借受けること、および同被告から本件建物を滝北に対し右借入金の譲渡担保に供する旨の公正証書が作成され、右公正証書に基づき滝北が同年一二月二一日大阪地方裁判所に同被告を相手方とするその所有権移転請求権保全の仮登記仮処分命令を申請し(昭和二八年(チ)第一六九号事件)、同月二八日これが認容されて、昭和二九年一月八日別紙第一目録表示の本件建物につき被告川崎を権利者とする職権による所有権保存登記(第一登記)および滝北を権利者とする嘱託による前記仮登記がなされたこと、次で同年二月九日別紙第二目録表示(但し所在地番は五四番地)の本件建物につき原告の申請によるその所有権保存登記(第二登記)がなされ、その後被告住田が滝北から前記仮登記上の権利を譲受けて昭和三二年二月二七日その付記登記手続をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  原告は、本件建物建築請負の注文者は原告であり、被告川崎は右請負契約の一部を履行したにすぎず、その工事部分についても資材の殆んどは原告が支給し工事代金も支払済みであるから、同部分の所有権が当時同被告にあったと否とに拘らず本件完成建物は当初から原告の所有で、これが同被告の所有に属したことはないから、本件第一登記は勿論、前記公正証書の譲渡担保契約に基づく滝北の仮登記も無効であると主張するところ、被告らはこれを争い、本件建物は被告川崎が福永武雄との請負契約により建築完成したもので、その代金の支払や建物引渡による権利移転も未了であるから、原告はもとより福永にもその所有権はなく、前記各登記は実体的権利関係に符合する有効なものであると主張するので、検討するに、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  福永武雄はその弟中川三郎、同福永潔とともに大阪市南区日本橋筋二丁目五八番地および五九番地計約一〇〇坪の地上建物でしていた道具店の経営が不振のため、これを取毀してその跡に貸ビルを建築営業すべく、昭和二八年一月二六日自ら代表取締役となって設立した原告会社(当時の商号は株式会社中川商店、同年六月二〇日周防商事株式会社、更に同年一一月三〇日現在の近江商事株式会社と変更)を注文者として同年五月ころ長谷川工務店と、目的建物を別紙第一目録記載のとおりの鉄筋コンクリート造四階建事務所とし同年一〇月一五日までに完成すること、工事代金を坪当り七万五〇〇〇円とし、完成後入居すべき賃借申込人から協力金名義で坪当り七万円ないし八万七〇〇〇円、既に一階の賃借予定済みの東海銀行からは同様坪当り八万五〇〇〇円をそれぞれ借受けて支払い、不足分は完成建物を担保とする金融機関からの融資金で清算することなどを内容とする請負契約を締結した。そして原告は前記賃借人の募集を始め、一方同工務店は前記旧建物を収去して地下の基礎部分の掘下げ工事をしたが、その段階になって東海銀行が他にもっと広いところを求めるということで賃借を断念したため、将来に不安を抱いて工事続行の熱意を失い、原告と協議の結果それまでの工事代金を放棄することで前記請負契約を解消した。

2  原告は他に請負人を捜していたところ、同年七月初旬川西仁三郎から川崎組こと被告川崎の紹介を受け、同被告に前記残工事を頼むこととしたが、その際目的建物の規模を多少大きくして別紙第二目録記載のとおりにし、階段の位置や外観も変更すること、代金については既に基礎掘りが出来ていることから材料込みで坪当り六万五〇〇〇円、合計二四二二万三二〇〇円とし、その支払は前記長谷川工務店の場合と同様賃借希望者からの協力金等でその借入れができ次第逐次すること、工事資材等の調達については原告もできるだけ応援し、その場合右代金額を請負代金より控除することなどを約束して、その請負契約を締結した。当時同被告は資金状態が良くなく、福永の融通手形や自己手形等で金策したり別の工事材料を流用したりして、鉄筋、セメント等を集めて階下基底部から工事を始め、原告もこれら材料の一部を自ら購入したりその代金を代払いするなど二〇〇万円以上を支出して工事の進行を助けてきたが、同年九月ころ漸く一階のコンクリート躯体部分が完成したところで同被告は資金が涸渇し、人夫らに対する労賃の支払いもできなくなって工事を中止し、一時所在を晦ますなど請負契約履行の見通しがたたなくなった。

3  原告は仕方なく川西に相談して当面の資金繰りや資材補給の世話をして貰うとともに、自らも金策に奔走し、一方被告川崎と協議して以後原告が資金資材の一切を出して自ら工事を遂行すること、なお所轄官庁への届出や登録の関係で工事人は従前どおり同被告名義としておき、同被告はその技術関係の従業員や下請労務者らの一部を引続き原告の右工事に従事させてこれに協力することなどを約束し、同年一〇月中旬ころ前記工事を再開した。そして川西や同被告らの協力による工事進展の結果、同年一二月原告は前からの関係取引銀行であった補助参加人から本件建物完成次第これを担保とする約束で一〇〇〇万円以上の大口融資を受けることにも成功して、それまでの経費を概算清算し、本件建物敷地の買受契約もして、同月末ころには別紙第二目録どおりの本件建物のコンクリート外郭部分が大体八、九割程度出来上り、翌二九年一月塔屋のコンクリート部分や窓のサッシュが取り付けられ、同年二月本件第二登記とともに補助参加人への極度額一五〇〇万円の根抵当権設定登記がなされ、同年三月以後更に補助参加人に根抵当権を設定し、その追加融資により内外装工事が続けられて同年六月完成し、原告においてその使用を開始した。

4  ところで、被告川崎は前記請負契約締結にあたり、資金捻出のため金融を受けるについて原告にその保証人となるよう依頼し、原告側では福永武雄が個人としてこれに応じることになって、同被告の持参した金額、目的物件等内容白地の連帯借用証書、根抵当権設定契約証書、公正証書作成委任状用紙等(乙第三号証の一ないし六)、および金主に見せるためといって同様作成してきた注文者を保証人の福永、請負人を同被告、請負代金を水増して二七二七万〇五〇〇円、とし、その支払は業界の標準にしたがい、うち一〇〇万円を契約時に、その余は工事の進行に応じてするなど、実際とは異る記載のされた請負契約書(乙第一号証)に押印した。同被告はこれら書類を滝北静男に提示し、自らおよび福永の代理人として滝北との間で既述のような金銭消費貸借譲渡担保契約公正証書を嘱託作成したが、その際右貸借金二〇〇万円はこれを限度として同被告および福永武雄が連帯して必要に応じ借受けること、返済期日は同年一二月末日とするが一階部分の完成により早期返済が可能であること、担保物件である本件建物はその完成引渡まで請負人である同被告の所有であり、同被告はこれを工事進行の程度に従い全部滝北に提供譲渡していくことなどを約束し、その保管にかかる前記設計変更前長谷川工務店当時申請の本件建物の建築確認通知書等建築許可に関する書類も受領とともに滝北に交付した。滝北は前記約束により同年九月ころまでの間に数回に合計一七五万円を被告川崎に交付したが、工事の進展にも拘らずその返済がなかったことから、前記公正証書や建築確認通知書等を資料に仮登記仮処分の申請をして既述のとおり昭和二九年一月八日本件建物につき第一登記および仮登記がなされた。一方原告はこれら登記のことを知らないまま補助参加人の督促で登記を急ぎ、設計変更後の本件建物につき被告川崎が手続をして改めて建築確認通知書を得、同被告の尽力で所管官庁の竣工検査を経て前掲第二登記および根抵当権設定登記をし、その後所在地番に登記申請書の誤記による誤りのあることが分って、同年一二月一三日その更正登記手続をした。

≪証拠省略≫中右認定に反する部分は、その余の前掲各証拠に照して採用し難く、≪証拠省略≫にかんがみ、その記載内容特にセメント、鉄筋、セパレーターの使用量等に疑問があるばかりでなく、同被告が実際これらセメント等を購入支弁したとしても、その時期、数量等の点からして、その全部が本件建物建築工事のために使用されたものと即断することもできない。そして前出乙第一号証、第三号証の一ないし六は既に述べたように福永が被告川崎の金融の保証をするために作成されたものであり、その他≪証拠省略≫も前記認定を左右することはできず、他にこれを覆えして本件建物請負契約の注文者が福永武雄であること、または被告川崎がその資材費用の大半を提供して右請負工事を完成したことを認めるに足りる十分な証拠はない。

三  そこで本件建物の所有権の帰属について考えるに、原告と被告川崎の請負契約では原則として材料提供者を同被告とし代金も工事進行とは別に借入金で支払うことにしてその清算が建物完成後になることも予定されていたのであって、これら諸点からみても、当初目的物件の所有権はその引渡または代金完済まで同被告が留保することになっていたものと解するのが相当であるけれども、前記のとおり同被告は契約の一部を履行しただけでその続行ができなくなり、原告との話合いで以後原告が材料の全部を調達し、同被告の協力の下に自ら工事を遂行完成させることになったのであるから、この段階で前記請負契約は合意解消され、工事物件も同被告から原告に引渡されたものというべく、また本件建物建築の全過程を通じ原告は材料の主要部分を供給し、その価格が被告提供の材料価格を著しく超えることも明らかであるから、同被告施工部分に対する代金の支払が一部残っていると否とに拘らず右経過および民法二四六条の加工の法理からして、完成された本件建物の所有権は原始的に注文者たる原告に帰属するものといわねばならない。したがって被告川崎を所有権者とする本件第一登記は無権利者の登記として無効というべきであり、滝北の本件仮登記は右第一登記を前提とするものであるばかりでなく、被告川崎との前掲譲渡担保契約による権利も当初の効力は兎も角として、その目的物件に対する同被告の権利がなくなった以上消滅を免れず、これがそのまま原告所有の本件建物上に存続しているということはできないから、右仮登記譲受の付記登記名義人である被告住田においてその抹消登記手続をする義務があるものというべきである。

四  よって他に特段の主張立証のない本件において、原告の本訴請求は爾余の点を検討するまでもなくすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒川正昭 裁判官 青木敏行 裁判官南敏文は出張中のため署名押印することができない。裁判長裁判官 黒川正昭)

<以下省略>

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