大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)5191号 判決
原告は、右富秋が被告会社を代理して手形を振出す包括的代理権がなかつたとしても、会計担当者として、手形振出に関し或る程度の権限があり単に権限踰越の行為をしたに過ぎず、原告は訴外富秋に被告会社を代理して手形を作成する権限があるものと信じ、かつかく信ずるにつき正当の理由があつたのであるから被告会社に責任があると、主張する。
証拠によると被告会社では約束手形を振出すには、まず経理係において、所要事項を記載した振替伝票を作り、直接上司である経理担当者の認印と専務取締役の認印を貰つた上社長の決裁をうけ、該振替伝票に基ずき、経理係がさらに、手形用紙に額面、支払期日、支払地、支払場所、振出地、振出年月日の各欄に所要事項を記入し、会社の住所社名印と、取締役社長村上勇の記名木印を押して、経理担当者に廻付し、経理担当者が保管する会社の角印を振出人表示の箇所に押し、額面金額の上部にその責任を示す認印をして、社長の手許に提出し、社長は振出人名下に自ら保管する丸印を押すことによつて、振出手形の完成を見ることになつているのであるが、訴外富秋はこの末端の経理係として、直接の上司である経理係主任山口静生の監督指揮下にあつて、右振替伝票や手形用紙に所要事項を記入するなどの機械的労務に従事していたものであること、したがつて富秋は手形振出の代理権限はなく、これを有するものは社長村上勇か、その代理者である専務取締役中積治一のみであつたことが認められる。
すると、訴外富秋に代理権(全部又は一部)があることを前提とする原告の右主張は採用することができない。
よつて進んで原告の民法第七一五条に基く損害賠償の請求について考察する。
本件手形が被告会社の被用者である訴外富秋の偽造したものであることは、さきに認定したとおりであり、証拠によると、原告は昭和二九年一一月二日頃訴外三洲鋼材株式会社から丸鉄売却の代金として本件手形を受取り、支払期日に支払銀行にこの手形を呈示したところ支払期日が「昭和三〇年二月五日」と重複して記載されてあることを指摘され、右訴外会社に連絡し、同社はさらに紹介人訴外四本祥太郎に本件手形を持参させ、被告会社の社員富秋から所要箇所の訂正をうけた事実が認められるのであるが、訴外富秋にはかかる訂正を為す権限もなく、又社長から手形振出に必要な社長印の保管を託されていたのでもないことは前認定のとおりであるから、同人のした本件手形行為は被告会社の業務の執行とは何等関係がなく、被告会社は富秋の行為により責任を有するものではない。