大阪地方裁判所 昭和30年(行)22号 判決 1955年7月14日
大阪市東区横堀二丁目二七番地
原告
伊藤元次郎
大阪市東区大手前之町
被告
東税務署長
山田寛
右指定代理人
大蔵事務官 高橋俊彦
同
遠蔵忠雄
同
坂口一郎
同
上田尾優
右当事者間の昭和三十年(行)第二二号所得税決定処分取消事件につき次の通り判決する。
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告が原告の昭和二十七年度所得税につき、総所得金額を四十一万円、所得税額を六万八千九百円(後に審査決定で総所得金額を三十七万三千円、所得税額を五万六千三百円と変更)とした更正決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。
「原告は昭和二十七年度所得税につき総所得金額を十八万円とした確定申告をしたところ、被告は請求趣旨記載のような更正決定をしたが、右決定は被告が充分な調査も行わず、一方的に割出したものであり、原告の営業を無視した課税である。即ち原告は喫茶店を営んでいるが、戦前は商店街の店員に支えられていたのが戦後は附近の平野町商店街が壊滅したため客がなくなり、現在では営業は非常に困難である。被告の右決定はこの実情を無視した過大な決定であり、適正な課税とはいえないので、その取消を求める。なお原告が大阪国税局長からの審査決定の通知を受けたのは昭和二十九年十二月五日であつて、本訴は右通知を受けた日から三ケ月内に提起した適法な訴である。」
被告指定代理人は本案前の答弁として「原告の請求を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、また本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、次の通り述べた。
「原告はその肩書地で喫茶店を営んでいるものであるが、その昭和二十七年分所得税につき、(一)昭和二十八年三月十四日総所得金額を十八万円、所得税額を五千円とする確定申告をした。(二)被告は右確定申告が過少であるため、調査したところにより総所得金額を四十一万円、所得税額を六万八千九百円、過少申告加算税額を三千百五十円とする更正処分をして同年五月十五日附で原告に通知した。(三)原告は右更正処分を不服として同年六月十三日再調査の請求をしたが、(四)被告は右調査の請求の全部についてその理由がないものと認め右請求を棄却する決定をして同年九月四日附で原告に通知した。(五)原告は右再調査の決定を不服として同年十月二日大阪国税局長に審査の請求をし、(六)大阪国税局長は右請求に対し協議団の協議を得た結果、その請求には一部理由があつたので、総所得金額を三十七万三千円、所得税額を五万六千三百円、過少申告加算税額を二千五百五十円とする一部取消の処分をして、昭和二十九年十二月二日附で原告に通知した。
そして右(六)の審査決定に係る通知は昭和二十九年十二月二日に発送し、その翌三日には原告に到達しているので、原告主張の更正処分の取消を求める訴は所得税法第五十一条第二項の規定により右通知を受けた日から三ケ月以内に提起することを要するのに、本訴が提起されたのは昭和三十年三月四日であつて、本訴は出訴期間経過後に提起された不適法な訴である。
また本件課税の経過は前記の通りであるが、被告の決定が過大に失するという原告の主張はこれを争う。
証拠として被告は乙第一号証の一、二、第二、三号証を提出し、原告は乙第一号証の一、二、第二号証は不知と述べた。
理由
被告が原告の昭和二十七年分所得税につき原告主張のような更正決定をしたことは当事者間に争いがなく、右決定に対する再調査の請求、また右再調査の決定についての審査の請求、これに対する大阪国税局長の決定が被告主張の通りにせられたことは、審査の決定に係る通知が原告に発送及び到達した日の点を除いて、原告の明かに争わないところである。
そして大阪東郵便局または同郵便局杉山分室が職務上作成したものと認められるので真正に成立したものと推定すべき乙第一号証の二(特殊郵便物受領証)及び乙第二号証(郵便物配達証明書)によれば、本件審査決定に係る通知は特殊郵便物として昭和二十九年十二月二日大阪東郵便局杉山分室において引受けられ、その翌三日原告に配達せられていることが認められる。
そうすれば本件のような所得税の更正決定の取消を求める訴は審査の決定に係る通知を受けた日から三ケ月以内にこれを提起することを要するのであるから、原告は右通知受領の日である昭和二十九年十二月三日から三ケ月の期間内である昭和三十年三月三日までに訴を提起することを要した訳である。ところで本訴の提起せられたのは同月四日であること本件記録上明かであつて、右計算からゆけば一日だけではあるが出訴期間経過後の訴といわざるを得ないのであり、本訴は不適法な訴としてこれを却下せざるを得ない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 山下朝一 裁判官 鈴木敏夫 裁判官 萩原寿雄)