大阪地方裁判所 昭和31年(行)43号 判決 1956年11月30日
大阪市阿倍野区阿倍野橋筋八丁目三〇番地
原告
内外塗料株式会社
右代表者代表取締役
徳田倉吉
右訴訟代理人弁護士
小林憲美
大阪市東区杉山町
被告
大阪国税局長
原三郎
右指定代理人
朝山崇
馬場正夫
西村秀夫
右当事者間の昭和三一年(行)第四三号強制執行異議等請求事件について、当裁判所は昭和三一年一一月一二日終結した口頭弁論に基いて次の通り判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告が昭和二七年五月二八日大阪市阿倍野区阪南町八丁目三一番宅地七四坪に対してした国税滞納処分による差押が無効であることを確認する。右宅地が原告の所有であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
被告は昭和二七年五月二八日人見哲二に対する国税滞納処分として請求の趣旨記載の宅地の差押をした。しかしながら、右宅地は原告(当時成和興業株式会社と称していた。)が昭和二三年五月四日人見から右宅地外三筆合計四〇九坪を買い受け、他の三筆については所有権移転登記を経由したが、右宅地だけは権利証書が紛失したため移転登記がなされなかつたものである。そこで原告は昭和二七年一〇月二七日被告に対し国税徴収法一四条の規定に基き右宅地が原告の所有に属することの証明資料を添えて取戻を請求したものであつて、被告が少しく事実の調査をすれば、右宅地が原告の所有であることは容易に判明するにかゝわらず、登記簿上の記載に従つて人見を所有者と判定したのは、公平な国家機関としてなすべき処置ではない。そうすると、被告が人見に対する国税滞納処分として右宅地に対してなした差押は無効であり、右宅地は原告の所有であることは明白であるのに、被告はこれを争うから、その確認を求める。
と述べ、
証拠として、甲第一号証から第六号証まで提出した。
被告は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、
被告が人見哲二に対する国税滞納処分として原告主張の日その主張の宅地の差押をしたこと、右宅地が登記簿上人見の所有名義であること、原告がその主張のような財差取戻の請求をしたことは認める。しかし、人見は右宅地を昭和二一年一〇月二三日売買により取得し所有権移転登記を経由しておるものであり、人見は右宅地を原告に譲渡したような事実はない。仮に譲渡の事実があつたとしてもその旨の登記がなされていないから、これをもつて被告に対抗することはできず、被告が人見に対する国税滞納処分として右宅地の差押をしたのは相当であつて、何等違法の点はない。
と述べ、
甲号各証の成立を認めた。
理由
被告が人見哲二に対する国税滞納処分として昭和二七年五月二八日原告主張の宅地の差押をしたこと、右宅地が登記簿上人見の所有名義であることは当事者間に争がない。
原告は、右宅地は原告が昭和二三年五月四日人見からこれを買い受け所有権を取得したものであると主張するけれども、民法一七七条の規定は国税滞納処分による不動産差押の関係においても適用があるものであつて(最高裁判所昭和二九年(オ)第七九号昭和三一年四月二四日判決民集四一七頁参照)、租税債権を有する国は登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者にあたるものと解するを相当とするから、原告が右宅地について人見から所有権取得登記を経由しない以上、その所有権取得をもつて国に対抗することはできない。従つて被告が人見に対する国税滞納処分として右宅地の差押をしたことをもつて無効のものということはできず、また原告は被告に対して右宅地が原告の所有に属することを主張することもできない。そうすると原告の本訴請求はすべて失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 中島孝信 裁判官 倉橋良寿)