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大阪地方裁判所 昭和32年(わ)674号 判決 1960年2月27日

被告人 南佐兵衛 外六名

主文

一、被告人南佐兵衛は無罪。

二、被告人今仲竜三を懲役一年に

被告人山崎国蔵を懲役一年に

被告人佐野信一を懲役三年に

被告人真壁史朗を懲役一年に

被告人村上辰雄を懲役一年に

被告人魚井太喜次を懲役一年に

各処する。

三、被告人今仲竜三、同真壁史朗、同魚井太喜次に対しては本裁判確定の日から何れも三年間右各刑の執行を猶予する。

四、未決勾留日数中被告人佐野信一に対しては百二十日を、被告人山崎国蔵に対しては二十五日を右各本刑に算入する。

五、訴訟費用中証人杉山嘉市、同犬石養太郎、同鈴鹿長雄、同正井辰男に支給した分は被告人今仲竜三、同山崎国蔵、同真壁史朗、同村上辰雄、同魚井太喜次等の負担とし、証人矢ノ内安次郎、同森[金小](昭和三十三年二月二十五日支給分)に支給した分は被告人佐野信一の負担とし、証人浜米吉、同橋上真一、同山口辰郎に支給した分は被告人山崎国蔵の負担とし、証人森[金小](昭和三十四年一月十四日支給分)に支給した分は被告人今仲竜三の負担とする。

六、本件公訴事実中被告人今仲竜三、同山崎国蔵に対する農業協同組合法違反の点については被告人両名は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

大阪府信用農業協同組合連合会(以下大信連と略称する。)は、主たる事務所を大阪市東区内本町二丁目十二番地の二に置き、その事業として(一)会員の事業に必要な資金の貸付、(二)会員の貯金又は定期積金の受入(三)会員のための手形の割引(四)国、地方公共団体又は農林中央金庫、若しくは農林漁業金融公庫に対して会員の負担する債務の保証(五)農林中央金庫又は農林漁業金融公庫の委任を受けてするその債権の取立、(六)農林中央金庫及び農林漁業金融公庫の業務の代理(七)本会の目的を達成するために、これに附帯して行うことを通常必要とする範囲の(イ)会員の行う金融事業に関する指導及び連絡、(ロ)会員の構成員たる組合員に対する金融に関する教育及び情報の提供(ハ)会員のための有価証券の保護預り(ニ)その他必要な事業を行い、所謂員外利用については、会員の利用に差し支えない限り、会員以外のものに前掲(一)乃至(三)の事業並びにこれらの事業に附帯する事業を利用させることができるものとし、(もつともこの点については、当初定款制定の昭和二十三年八月二十七日当時においては右(一)の事業に限られたが、昭和二十六年六月八日の改正において(一)(二)の事業の利用を可能とし、昭和三十年十月二十八日の改正において(一)乃至(三)の事業竝びにこれらの事業に附帯する事業の利用を可能と改め次いで昭和三十一年九月十一日の改正においては右(三)の事業を削除すると同時に条件を附しこの利用についてはこの会の地区内に住所を有する営利を目的としない法人又は団体であつて理事会の承認を得たものに限る。但し特別の事由により理事会において特に認められたものはこの限りでないとされたのである。)その余裕金の運用については、農林中央金庫、銀行若しくは郵便局への預金又は国債証券、地方債証券、農林中央金庫その他の金融機関の発行する債権の取得以外の目的には運用することができない規制のもとに運営されて来たものであるが、被告人南佐兵衛は昭和二十六年四月一日より昭和三十二年三月三十一日に至る迄の間右大信連の会長理事としてその業務一切を統轄主掌していたもの、被告人今仲竜三は昭和二十六年六月十二日より昭和三十二年三月二十九日に至る迄の間右大信連の理事兼副会長として同会の会長を補佐し、同会の余裕金の運用を含む業務一般を統轄していたもの、被告人山崎国蔵は昭和二十七年九月二十二日より昭和三十一年十二月一日に至る迄の間右大信連の専務理事として会長及び副会長を補佐し、前記業務を掌理していたもの、被告人佐野信一は昭和二十三年十二月六日より昭和二十九年八月三十一日に至る迄の間右大信連参事として会長に代り、現金、預金等の出納、保管に関する事務、本支部間の資金操作に関する事務等を含む前記大信連の業務一般を執行していたもの、被告人真壁史朗は昭和二十七年七月より昭和二十九年二月に至る迄の間右大信連の経理課長として同会の余裕金の運用を含む経理事務一般を掌理していたものであつて夫々右大信連の運営に当つていたものであり、被告人村上辰雄は昭和二十二年十月十五日より昭和三十年九月十八日に至る迄の間右大信連から融資を受けていた神戸市生田区北長狭通四丁目高架下一一〇号井ゲタ証券株式会社の代表取締役であつたもの、被告人魚井太喜次は昭和二十三年六月十五日より昭和三十年九月十八日に至る迄の間右井ゲタ証券株式会社の常務取締役であつたものであるところ、

第一、被告人今仲竜三、同山崎国蔵、同佐野信一、同真壁史朗は共謀の上昭和二十八年三月下旬頃右大信連が証券業大谷証券株式会社外一名に対して有していた焦付不良債権合計三千九十万円を、前記井ゲタ証券株式会社に債務引受をさせることを条件として同会社に対し限度額二千五百万円の新規信用供与するに際し、余裕金運用の方途によることとしたが、被告人等は余裕金の運用は右大信連の定款の定めるところにより前掲の如く農林中央金庫、銀行若しくは郵便局への預金又は国債証券、地方債証券、農林中央金庫その他の金融機関の発行する債権の取得以外の目的には運用することが禁じられておることを熟知しながらその任務に背き同会社に対し恰も金融債購入を委託しその購入資金の前渡金を交付するが如く仮装して順次同会社に資金を交付貸付け、同会社の利益を図らんことを企て、昭和二十八年四月七日前記大信連事務所において、右会社常務取締役であつた被告人魚井太喜次を介し、同会社に対し、金一千万円の余裕金を金融債購入資金の前渡金名下に不法に交付貸付けた外、同日より同年十一月二十一日に至る迄の間接続して合計百三十五回に亘り総合計三十一億六千万円を不法に交付貸付け、その間償還金の受入に際しては、同会社の小切手が自己振空小切手であるのみならず、神戸市内の取引銀行宛のものであるため、交換決済まで二日乃至五日間を要することに乗じ、所謂「日中過振り」の商慣習を濫用し、償還小切手の受入を以て現金償還と看做しその都度償還額相当の担保株を擅に返還する取扱をなして右会社の利益を図り、順次これを繰返したため、遂に同年十一月二十一日同会社の経営不振に因り合計一億七千二百四十万円の貸付金の回収不能を招来せしめ右大信連に同額の損失を蒙らしめて背任行為をなし

第二、被告人村上辰雄、同魚井太喜次は共謀の上、右被告人今仲竜三、同山崎国蔵、同佐野信一、同真壁史朗が前記の如くその任務に背き井ゲタ証券株式会社のため放慢な不正資金の交付貸付をなすものであることを認識しながら執拗に前記の如き不当融資を請託して前掲第一記載の通り不当な資金の交付貸付をなさしめ焦付きの結果遂に合計一億七千二百四十万円の損害を右大信連に蒙らしめ以て被告人今仲竜三等の背任行為に加功し、

第三、被告人佐野信一は、自己が業務上保管に係る右大信連所有の貸付資金である公金を大信連本部から大信連中河内支部等に送金したごとく仮装し又は同大信連泉南支部から送金されて業務上保管していた資金を本部金庫に入金しない等の方法により公金を帳簿外に浮かし他に貸付けて業務上横領せんことを企て、昭和二十七年四月十日頃から昭和二十八年二月二十五日頃に至るまでの間別表(第一)記載の通り五回に亘り、自己が業務上保管していた右大信連所有の金員合計千八百五十万円を擅に大阪市北区絹笠町五十番地堂ビル内所在の三友株式会社に貸付けて業務上横領し

第四、被告人佐野信一は武政竜雄と共謀の上

(一)  右武政竜雄において、被告人佐野信一から同被告人が業務上保管している右大信連所有の国庫債券を秘かに大信連の経理から浮かせて交付を受け他に売却処分して資金化せんとし被告人佐野信一にその旨懇請するや同被告人は之を承諾し茲に被告人佐野信一は武政竜雄と共謀の上昭和二十六年六月上旬頃大阪市東区北久太郎町一丁目有恒信用組合事務所において被告人佐野信一は自己が業務上保管していた大信連所有の額面十万円、利率年三分六厘五毛、償還期限昭和三十一年十月十五日、イ号特殊国庫債券四十二枚合計四百二十万円を擅に右大信連の経理より浮かせて武政竜雄に交付し之を受領せしめて業務上横領し

(二)  右武政竜雄において日新耐火工業株式会社代表取締役藤戸翼より金融の依頼を受けたところから、被告人佐野信一に請託して、同被告人が業務上保管している大信連所有の公金を秘かに大信連の経理から浮かせて同会社に貸付けるよう懇請し来るや被告人佐野信一は之を承諾し茲に被告人佐野信一は武政竜雄と共謀の上、被告人佐野信一は前記大信連本部から中河内支部に対する送金を装い大信連の経理から浮かした大信連会長理事南佐兵衛名義、大阪銀行備後町支店支払、額面三百万円の小切手一通を作成した上、昭和二十七年十一月二十五日頃大阪市東区内平野町二丁目二十二番地五島継方において擅に前記日新耐火工業株式会社の使者としての武政竜雄に交付し之を受領せしめて業務上横領し

第五、被告人佐野信一は、自己が業務上保管にかかる大信連所有の公金を大信連本部から大信連支部に送金したごとく仮装して帳簿外に浮かしもつて業務上横領しようと企て

(一)  昭和二十七年二月一日頃前記大信連事務所において、大信連北河内支部に送金するごとく装つて、大信連会長理事南佐兵衛振出名義、大和銀行平野町支店支払、額面三百万円の小切手一通を作成して業務上保管していた前記銀行の大信連の当座預金口座より三百万円を引出して帳簿外に浮かした上、前同日頃擅に右小切手をもつて大阪市南区安堂寺橋通り二丁目四十五番地の一所在の太道相互銀行大阪支店に森正海名義の普通預金として預け入れて着服し

(二)  同年十二月三十一日頃前同様の方法により大信連本部から大信連泉南支部に送金するごとく装つて前同様の額面百万円の小切手一通を作成しその頃右大信連事務所において擅にこれを森川政治郎に交付して貸付け

もつてそれぞれ業務上保管にかかる金員を横領し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人大井勝司、同岡田善一、同尾上実夫の主張の要旨は、本件背任罪について訴因が不明確である。

被告人山崎国蔵等が井ゲタ証券株式会社に対し金融債購入の前渡金名義で金員を交付貸付けたことを背任としながら更に擅に担保株を返還したことをもつて損害の発生とし前者と後者との関係が明らかでないのみならず、数個の訴因を一括して昭和二十八年四月七日から同年十一月二十一日に至る迄の間百三十五回の行為を包括的に記載し、各回の貸付金額、償還期日、担保返還の有無等について具体的に何等の記載がないから全く訴因の特定を欠くものと謂わなければならない。従つて本件公訴は刑事訴訟法第二百五十六条第三項に違反する無効のものであるから公訴を棄却されるべきものであると謂うにあるから判断する。

惟うに被告人山崎国蔵等が井ゲタ証券株式会社に対し金融債購入の前渡金名義で金員を交付貸付けた行為自体前掲大信連の定款第五十七条の規定に違反した任務違背の行為であり、右井ゲタ証券株式会社の需に応じその利益を図るために貸付けたのであるから損害の発生の有無は暫く措くとしても尠くともその危険があるからには、背任行為が存し、金員の交付貸付と担保返還とは相互に関連があり、金員交付貸付の際に、既にその支払期日に右貸金の償還と引換に担保物件を返還することは当然予想されているのであるから、その両者を区別するのは相当でない。従つて擅に担保物件を返還した行為は右金員の交付貸付の背任行為に包摂されていたものと謂わなければならない。而して被告人山崎国蔵等の右行為たるや、昭和二十八年四月七日から昭和二十八年十一月二十一日迄の間百三十五回に亘り回を重ねて行われたものであるが、その情況から観れば、単一又は継続の意思の発動によるものであることを推認することが出来、而かも右行為により合計一億七千二百四十万円の損失を右大信連に蒙らしめたものであつて、被害法益は明らかに単一であり、いずれも同一の構成要件に該当するところからしてこれを包括して一個の罪を構成するものと断ずるのが相当である。かように考察すると包括一罪の起訴は違法のものではなく、訴因の明確性を欠くものとして公訴の無効を云為するに値しないから、弁護人等の本件公訴棄却の主張は排斥しなければならない。

(法令の適用)

被告人真壁史朗、同今仲竜三、同山崎国蔵の判示所為は何れも刑法第二百四十七条第六十条罰金等臨時措置法第二条第三条に、被告人佐野信一の判示所為中業務上横領の点は各刑法第二百五十三条(判示第四については更に刑法第六十条)に、背任の点は刑法第二百四十七条第六十条罰金等臨時措置法第二条第三条に、被告人村上辰雄、同魚井太喜次の判示所為は何れも刑法第二百四十七条第六十条第六十五条罰金等臨時措置法第二条第三条に夫々該当するが、被告人等の各背任罪については何れも所定刑中懲役刑を選択し、被告人佐野信一の各業務上横領罪と背任罪とは刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条第十条に則り最も重き判示第五(一)の業務上横領罪の刑に従つて法定の加重をなし、以上被告人等に対しては夫々所定刑期範囲内において主文第二項掲記の各刑を量定して処断すべきところ、被告人真壁史朗は大信連の経理課長として上司の指示するところに従つて本件犯行に及んだものであり、被告人魚井太喜次は井ゲタ証券株式会社の社長村上辰雄の意図するところに従つて本件犯行に関係するに至つたものであり、被告人今仲竜三は大信連の副会長でありながらその実権は寧ろ専務理事山崎国蔵に移りその発案に追従したるが如き状態の下に本件犯行を敢えてなしたものであること等諸般の情状に鑑み被告人真壁史朗、同今仲竜三、同魚井太喜次に対しては右各刑の執行を猶予するのを相当と認め刑法第二十五条に則り右被告人三名に対しては本裁判確定の日から何れも三年間右各刑の執行を猶予すべきものとし、刑法第二十一条に則り未決勾留日数中被告人佐野信一に対しては百二十日を被告人山崎国蔵に対しては二十五日を右各本刑に算入することとし、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して被告人等に対し主文第五項掲記の通り夫々負担せしむべきものとする。

本件公訴事実中被告人南佐兵衛は右大信連の会長理事、被告人今仲竜三は右大信連の副会長理事、被告人山崎国蔵は右大信連の専務理事として、いずれも同大信連の運営に当つていたものであるが右大信連の会員以外の者に対する貸付は農業協同組合法第一条の趣旨に則り農業生産力の増進と農民の経済的、社会的地位の向上に関連する農業関係業者に限られ、しかも法定の貸付限度額は一口十万円であつたにもかかわらず、被告人南佐兵衛、同今仲竜三、同山崎国蔵は共謀の上

第一、右大信の会員でない大阪市南区西櫓町四十六番地所在の料理飲食営業道頓堀土地建物株式会社の代表取締役社長田中清一郎より食堂ビル建設資金として同会社に会員外貸付をされたい旨懇請されてこれを応諾し、昭和二十九年十二月四日頃より昭和三十年十二月十五日頃に至る迄の間前記大信連において、別表(第二)記載の通り前記会社に対し食堂ビル建設資金として合計七千万円を貸付け、

第二、右大信連の会員でない同市東区北浜一丁目二十三番地証券売買業大井証券株式会社の専務取締役石井源一より同会社の運営資金として同会社に会員外貸付をされたい旨懇請されてこれを応諾し、昭和二十九年九月二十七日頃より昭和三十一年十一月二十七日頃までの間右大信連において別表(第三)記載のとおり前記会社に対しその運営資金として合計二億七千百八十万円を不法に貸付け、

第三、昭和三十一年六月中旬頃坂本長作より右大信連の会員でない和歌山県西牟婁郡白浜町続千五百六十七番地所在の観光旅館業株式会社白浜電気旅館に旅館建物増築資金として六千万円を会員外貸付されたい旨懇請されてこれを応諾し、同年七月十日頃より同年十二月十七日頃までの間五回に分けて、右大信連において別表(第四)記載のとおり前記会社に対し、旅館増築資金として合計六千万円を不法に貸付け

もつて夫々右大信連の事業の範囲外において不法に貸付をなしたものであるというにあるから之を審究する。

先ず被告人南佐兵衛が大信連の会長理事、被告人今仲竜三が大信連の副会長理事、被告人山崎国蔵が大信連の専務理事であり、以上三名は相謀つて右大信連の会員以外の道頓堀土地建物株式会社に食堂ビル建設資金として七千万円、大井証券株式会社に運営資金として二億七千百八十万円、株式会社白浜電気旅館に旅館建物増築資金として六千万円を夫々貸付けた事実は、全般につき被告人南佐兵衛に対する検察官作成の昭和三十二年五月二十七日付、同年六月二十五日付(添付の大信連経理課長岡部洋治作成の明細表、貸付課長犬石養太郎作成の明細表二通共)各供述調書、被告人今仲竜三に対する検察官作成の昭和三十二年五月十六日付、同年六月七日付、同年六月十四日付、同年六月二十四日付(添付の北村敏男作成の員外貸付一覧表)各供述調書、被告人山崎国蔵に対する検察官作成の昭和三十二年五月九日付、同月十日付、同月十三日付、同月十七日付、同月二十一日付、同月二十四日付、同年六月十九日付(添付の員外貸付一覧表共)、同月二十六日付(添付の土山正雄作成の金融債大井証券株式会社各年別残高表共各供述調書、更に道頓堀土地建物株式会社関係につき

一、大阪法務局法務事務官中井竜一作成の道頓堀土地建物株式会社登記簿謄本

一、道頓堀土地建物株式会社代表取締役社長田中清一郎作成の定款

一、田中清一郎に対する検察官作成の昭和三十二年五月二十日付、昭和三十二年五月二十二日付各供述調書及び司法警察職員作成の昭和三十二年五月十日付、同月十一日付各供述調書

一、古家誠一に対する検察官作成の昭和二十二年五月二十一日付供述調書

一、株式会社泉州銀行難波支店支店長末田豊作成の大阪府警本部捜査第一課宛回答書

一、株式会社近畿相互銀行作成の大阪府警本部捜査第一課宛回答書

一、久保元勝に対する検察官作成の昭和三十二年五月二十日付供述調書

一、牧野忠に対する司法警察職員作成の昭和三十二年五月十七日付供述調書

一、犬石養太郎に対する司法警察職員作成の昭和三十二年四月三十日付供述調書及び検察官作成の同年五月二十日付、同年六月十五日付(添付の一覧表共)各供述調書

大井証券株式会社関係につき

一、中島正に対する司法警察職員作成の昭和三十二年六月一日付供述調書及び添付の明細表

一、石井源一に対する検察官作成の昭和三十二年六月十五日付供述調書及び司法警察職員作成の昭和三十二年五月三十一日付供述調書竝に添付の明細表

一、大矢六郎に対する検察官作成の昭和三十二年六月十八日付供述調書及び司法警察職員作成の昭和三十二年五月六日付、同年六月四日付(添付の明細表共)各供述調書

一、松尾寿夫に対する検事作成の昭和三十二年六月十七日付供述調書及び添付の明細表竝に司法警察職員作成の昭和三十二年六月三日付供述調書及び添付の明細表

一、犬石養太郎に対する検事作成の昭和三十二年六月十九日付供述調書

株式会社白浜電気旅館関係につき

一、坂本長作に対する検察官作成の昭和三十二年五月三十一日付供述調書

一、坂本義正に対する検察官作成の昭和三十二年五月三十日付、同年六月二十九日付各供述調書

一、林清に対する検察官作成の昭和三十二年五月三十日付供述調書及び添付の一覧表

一、北田騰造に対する検察官作成の昭和三十二年六月八日付供述調書

一、中沢安次に対する検察官作成の昭和三十二年六月八日付供述調書

一、渡辺義次に対する検察官作成の昭和三十二年六月八日付供述調書

一、犬石養太郎に対する検察官作成の昭和三十二年六月十五日付供述調書及び添付の一覧表

を夫々綜合して明らかであるが、

以上の各貸付が何れも農業協同組合法第九十九条に所謂「組合の事業の範囲外の貸付」に該当するや否やについて検討する。

惟うに農業協同組合法(以下法と略称する)第九十九条に所謂事業の範囲については、法第十条第一項において第一号から第十二号までに具体的に列挙する外、所謂組合員外利用(以下員外利用と略称する)に関しては同条第三項に「組合は定款に定めるところにより組合員以外の者にその施設を利用させることができる。但し一事業年度における組合員以外の者の事業の利用分量の額は、当該事業年度における組合員の事業の利用分量の額の五分の一を超えてはならない。」と規定し、之を受けた大信連の定款においては、昭和三十一年九月改正前の定款第五十五条に「この会は、会員の利用に差支えない限り会員以外のものに第二条第一号第二号及び第三号の事業並びにこれ等の事業に附帯する事業を利用させることができる。」と規定し、その第二条第一号は「会員の事業に必要な資金の貸付」と規定するのである。もつとも該規定(第五十五条)は、昭和三十一年九月十一日附定款改正後には「員外貸付には理事会の承認を必要とする」旨の規定に改められたのであるが、尠くとも大信連においては、法に則つて員外者に対する貸付をなし得る行為能力を附与されていることは明瞭である。而して行為能力を附与された範囲における事業の員外利用については、員外利用者の資格、対象となる業種(もつとも昭和三十一年九月定款改正後においては原則として非営利事業とする。)について何等の制限もないのみならず員外利用者の住居、事業場等についての地域的制限もないのである。成程法第二十八条には定款の必要的記載事項として「地区」を記載すべきことを定めて居り、その第十二条に組合員の資格として一農民、二、当該農業協同組合の地区内に住所を有する個人で当該組合の施設を利用することを相当とするもの(以下省略する)と規定するが右は組合員たる資格要件を定めたものであつて、組合の事業活動の範囲を制限したものではないと解するのが相当である。何となれば、前掲員外利用の規定に何等の制限がないところから当然であるといわなければならないからである。又法第八条においては「組合は、その行う事業によつて、その組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行つてはならない。」と規定するけれども、この規定は、法「第二章農業協同組合及び農業協同組合連合会」中「第一節通則」中に位置し、その条文の文言及び体裁からいつて、組合運営上の一般原則を示したものであつて、訓示的な規定であると解するのが相当である。何となれば之を強行規定であるとするならば、営利を目的とした貸付は、貸付自体強行法規違反となつて法律上無効となり、延いては貸付金の回収不能に陥る結果を招来することとなり不合理であるからである。従つて結局員外利用者に対する貸付については、利用者の資格に対する制限、地域的な制限は存しないのみならず対象業種に対する制限は、之が違反に対して刑罰をもつて臨むといつた厳格な制限の下に存しないものと断じなければならない。

そこで員外利用者の利用分量(貸付制限額)の制限の関係について見ると、法第十条第三項但書は「一事業年度における組合員以外の者の事業の利用分量の額は、当該事業年度における組合員の事業の利用分量の額の五分の一を超えてはならない。」と規定して員外利用者に対する貸付制限額を定め、更に組合の財務について政令に委任する旨を定めた法第五十二条の三「第十条の三乃至第十条の五及び前三条に定めるものの外、組合員が、当該組合とその組合員との間の財務関係を明らかにし、その他組合員の利益を保全するためにその財務を適正に処理するための基準として従わなければならない事項は、政令でこれを定める。」との規定に基いて制定された昭和二十五年政令第三三七号農業協同組合財務処理基準令は、貸付基準として、その第六条第三項(但し昭和三十二年二月十二日改正前)には、「信用事業を行う組合が、その組合員に対して行う貸付の基準は左のとおりとする。」と規定し、その第二号には「一組合員に対する貸付金の額が、当該組合員の当該組合に対する出資金と出資予約金との合計額の二十倍に相当する金額を超えないこと。」と規定し、この規定は、同条第五項によつて農業協同組合連合会についても準用され、更に、同条第六項には、「信用事業を行う組合又は連合会が、その組合員又は会員以外の者に対して行う貸付についてはその者が、当該組合又は当該連合会に対して出資一口を有するものとみなし、第三項の規定を準用する。」と規定する。而して大信連の定款第十八条には「出資一口の額は五千円とする。」と規定しているから、結局、大信連の場合においては、員外利用者に対する貸付の最高限度額は、右政令及び定款の規定によつて、一員外利用者について十万円であることが明らかである。そこで以上の法令及び定款による制限額を超過する貸付が直ちに、法第九十九条に所謂「事業の範囲外における貸付」に該当するや否やを考察して見なければならない。惟うに法第十条第三項但書、第五十二条の三、及び之に基く農業協同組合財務処理基準令の規定は、組合の放慢な貸付を抑制するための貸付基準を設定しているけれども、事業の利用分量の算定基準については、利用分量の算定を各対象事業毎に行うべきことは当然としても、対象事業毎に全体として算定すべきものなりや、数事業年度に亘る場合は一事業年度毎に累積算定すべきものなりや、殊に一事業年度間に数百万円、数千万円といつた制限外貸付をなしても当該事業年度末において制限内貸付であれば適法なりや、或は又各貸付毎に算定すべきものなりやが明瞭でない。かような本質的に不明確な規定を強行規定なりとして、その違反について組合の行為能力を否定し又は制限すべきものとし、更に刑罰をもつて臨むことは、それ自体相当でない。又之を強行規定であるとするならば、事業の利用分量の範囲を超えて員外利用を行つた場合には、その員外利用はそれ自体又は制限外の利用部分は法律上当然に無効となり、組合の存立上、反つて不利益な結果を招来するといつた本質的な不合理がある。以上の諸点から、之等の法令は寧ろ訓示的な規定に過ぎないと解するのが相当である。従つてかゝる制限外の員外利用がなされた場合においては、行政監督によつて、行政処分を受けることはあつても、直ちに組合の事業の範囲外の貸付として、法第九十九条の罰則の適用を受けて刑罰の対象になるとは断じられないところである。かように考察して来ると、本件農業協同組合法違反の点に関する限り爾余の点を判断するまでもなく罪とならないから、被告人南佐兵衛、同今仲竜三、同山崎国蔵に対しては、何れも刑事訴訟法第三百三十六条を適用して無罪の言渡をなすべきものとする。

仍て主文の通り判決する。

(裁判官 竹沢喜代治)

(別表略)

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