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大阪地方裁判所 昭和32年(タ)78号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕原告の実母(亀井米子、日本人)は、韓国人高承甫と同棲しているうち、昭和二五年三月二日原告を分娩した。そして高承甫においても、原告を認知することを希望しながら手続不案内のためこれをせず時日を徒過するうち、原告を認知しないまゝ昭和三〇年三月三一日死亡した。それで昭和三二年九月一一日訴を提起し、検察官を被告として、原告が高承甫の子であることの認知を求めると主張する。

(判断)判決は、まず、法文の体裁上では死後認知制度を認めているかどうか明らかでない韓国法制下の韓国人を父とする、原告(日本人)の死後認知請求について、次のとおり結局法例第三〇条を適用すべきものと考えたうえ、原告の主張する事実を認めて、原告の右請求を認容している。

「認知の許否その他認知の要件については、法例第一八条により各当事者の本国法を結合的に適用すべきものであるところ、日本国民法第七七九条は「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる」ものとし、同第七八七条は、その父又は母が任意に認知しないときは、「子その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴を提起することができる。但し、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない」旨を定め、死者に対する認知請求(死後認知)を認めるに対し、原告がその父であると主張する高承甫の本国法である韓国民法第八二七条は「私生子ハソノ父又ハ母ニ於テ之ヲ認知スルコトヲ得、父カ認知シタル私生子ハ之ヲ庶子トス」と規定し、父又は母が任意に認知しない場合については、その第八三五条は「子、其直系卑属又ハ此等ノ者ノ法定代理人ハ父又ハ母ニ対シテ認知ヲ求メルコトヲ得」と定め、昭和一七年法律第七号による改正前の日本国民法第八二七条、同第八三五条と同文の規定をしているにすぎないので、右韓国法が死後認知を認める趣旨であるかどうか考えてみなければならない。

本来、認知の訴をもつて、認知の意思表示を求める訴(給付の訴)であると解するかぎり、死者の意思表示はありえないわけであるから、これに対する認知請求を認める余地はないものといわなければならないが、これを、事実上の親子関係が存在することに基く法律上の親子関係の確定若しくは創設の宣言を求める訴(確認の訴ないし形成の訴)と解するならば、必ずしも父又は母の生存をその要件と考える必要はなく、死後認知の合理性も承認されうることとなる。しかし死後認知の制度は、認知者の意思いかんを問わず、親子としての自然の血のつながりが証明されるかぎり、それに副う法律上の親子関係の成立を認めようとするいわゆる血統主義ないし事実主義を前提としてのみ是認されうるものであるから、それは、認知者の意思に重きをおき、その意思表示によつてのみ法律上の親子関係の成立を認めるいわゆる意思主義とは、その制度的基盤を全く異にするものといわなければならない。従つて、一国の認知制度において、これを定める明文なしに、死後認知を認める趣旨であるかどうかは、結局、広く認知制度全体のよつて立つ基盤において考えてみる必要がある。韓国民法が、認知に関し、意思主義を前提としてのみ合理的に位置づけられうる諸規定をおき、たゞ父母の捜索を許す限度で事実主義への譲歩を認めているにすぎないことは昭和一七年法律第七号による改正前の、我が民法におけると同様であり、明文のない以上、さらに一歩進めて死後認知を認めることによつて、事実主義をその制度としてとり入れているものとは解せられない。また、認知の訴を広く親子関係の創設又は確定の訴と構成することがより合理的であり、あるべき理念により合するとしても、現行認知制度のよつて立つ基盤を離れて抽象的理念的にこれを構成することはできないから韓国民法における認知の訴を広く親子関係創設又は確定の訴として死後認知をこれに包摂するものと考えることはできない。

そうだとすれば、認知の一方の当事者たる父の本国法たる韓国法において死後認知を許さないかぎり、法例第一八条の適用上、子たる原告の本国法たるわが民法においてこれを許していても、原告は、これを請求できないこととなる。

しかしながら、我が国において、嫡出でない子にとつてその父が何びとであるかを定め、法律上の親子関係を設定することは、身分法上極めて重大な意義を有する事柄であり、それ故にこそ、昭和一七年の民法改正により子の救済のために事実主義へ大きく譲歩(もつとも出訴期間の定め等一定の範囲においてではあるが、)して死後認知を許しているのに、現在、親子としての自然の血のつながりが証明されるのに、親がすでに死亡したというたゞその一事によつて、法律上父母の捜索の途を絶ち、嫡出でない子にとつて法律上の親子関係を成立させうる唯一の方法である認知の訴を許さず、法律上の親子関係を全面的に否定するということは、条理に合わないばかりか、我国の現在の身分制度における公序に反するものといわなければならない。そうだとすれば、死後認知を認めない韓国民法は、法例第三〇条に則り、我が国においてこれを適用することはできないからすべて我が民法第七八七条を一方的に適用すべきものというべきである。」

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