大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)150号 判決
滋賀相互銀行
近畿相互銀行
第一、被告滋賀相互銀行及び引受参加人らに対する原告らの請求について。
中西正一がその所有の本件建物について昭和三〇年五月三一日、原告主張どおりの根抵当権設定契約及び代物弁済の予約を締結し、同年六月二日に根抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全仮登記をなした事実はいずれも当事者間に争いがない。
原告らは、右について被担保債権は、製紙会社が昭和三〇年五月三一日に金一六五、〇〇〇円を弁済期同年八月二三日特約遅滞した場合の損害金日歩五銭なる約束で借受けた貸付債権にすぎずと自認し、被告銀行及び引受参加人らにおいて右自認額をこえる債権の存在することを主張しないので、前根抵当権及び代物弁済予約完結権の被担保債権は原告らの自認額というべきである。
そして証拠により認定した事実に徴するときは、被告銀行と製紙会社との間における与信契約は終了したので被担保債権は金一六五、〇〇〇円の前示貸付債権に特定し、この債権は原告主張の弁済供託により消滅したので、本件根抵当権及び代物弁済予約完結権は当然消滅したというべきである。
第二、被告岡田に対する原告の請求について。昭和二六年五月二六日中西正一が、近畿相互銀行より金一、六一二、五〇〇円を原告主張の約で借受けるにつき、原告主張の抵当権設定契約をし、その登記をしたこと原告主張のとおり、右抵当権について順次譲渡を原因として(イ)昭和二九年一二月四日受付(ロ)昭和三〇年四月一二日受付(ハ)昭和三〇年一二月四日受付の移転の付記登記がなされていることは当事者間に争いがない。
証拠によれば、有限会社の近畿相互銀行に対する前記被担保債務は、昭和二九年一一月二二日現在五四二、九七五円であつたこと、同日製紙会社において三〇万円、中西正一において二四万数千円を工面して右被担保債権全部を完済したこと、右同日訴外銀行、有限会社、製紙会社及び物上保証人中西正一間に協議の上後日製紙会社が他より前記出えん額三〇万円の範囲で金融を受ける場合における便宜に備えて、訴外銀行がその債権及び抵当権を製紙会社に譲渡した形式を用いて抵当権譲渡の付記登記をしたこと、抵当権設定登記と(イ)の付記登記との間にこれに利害関係を有する第三者の登記がなされなかつた事実が認められる。
元来抵当権は、被担保債務の消滅により当然消滅し、従つて未だ抹消せられない登記はもはやその効力を有しないわけであるが、本件のごとく無効登記の流用の時までに第三者が存しない場合には抵当権設定登記は抵当権消滅によつてその効力を失つたものであつても、なお形式上抵当権を反映しているのであるから、後に第三者なる製紙会社が同一不動産上に同一債権額の範囲である金額三〇万円につき抵当権を取得するときは、その登記に譲渡の付記登記をなすことにより、その登記は現在の真実と符号することとなるのであり、従つて右無効登記の流用はこの場合には債権額変更の登記がなくとも、債権額三〇万円として有効と解すべきである。けだし、登記は有効に存在する担保物権の第三者対抗要件にすぎないし、有効な担保物権の存在はこれを担保する主たる債権の存在を前提とするからである。
そして証拠によれば、有限会社の製紙会社に対する前認定の債務は、弁済により一〇万円に減じたこと、その後である昭和三〇年四月一二日製紙会社は被告銀行より、有限会社中西商店保証の下に金一〇万円を弁済期同年六月二七日、遅滞した場合の損害金日歩五銭の割合の約束で借受けるにつき、右同日右債務を担保するために、新たに抵当権を設定するに代え、前示(ロ)の抵当権讓渡の付記登記をしたこと、製紙会社において期限を経過するも返済しないため、被告銀行は同年九月一五日被告岡田に対し右債権と共に本件抵当権を譲渡し前示の抵当権譲渡の付記登記がなされた事実がそれぞれ認められる。
被告岡田は、製紙会社の被告銀行に対する債務の保証人として被告銀行に製紙会社の債務の支払を余儀なくされ、譲受債権以外に三〇数万円の求償債権を有するので、この支払いをもうけなければ本件抵当権は消滅しないと主張するが、抵当権は設定契約において債務者と特定せられた人の債務のみを担保することを目的とするものである。本件抵当権の被担保債権の債務者は有限会社中西商店であつて、製紙会社ではないから、第三者たる製紙会社に対する債権は本件抵当権の対象外であるから、この点に関する被告岡田の主張は、それ自体理由がないというべきである。
被告岡田において他に被担保債権を有するとの主張がないので、本件抵当権の被担保債権は、製紙会社がさきに被告銀行より金一〇万円を弁済期昭和三〇年六月二七日遅延損害金日歩五銭の割合なる約定で借受けた貸付債権というべきである。証拠によると、それは中西正一が物上保証人としてした原告主張の弁済供託により消滅したことが認められるので、本件抵当権の被担保債権はこの弁済供託により消滅し、本件抵当権も当然に消滅したというべきである。従つて、訴外銀行の抵当権者たる地位を承継した被告岡田において右抵当権を抹消すべき義務がある。