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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)4594号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一 当事者間に争いない事実

請求原因一の事実(註、原告が被告に昭和三二年八月限り本件家屋を明渡すこと、右期日明渡のときは、被告は明渡と同時に原告に五万円を支払うことを定めた調停が成立した事実等)および被告が昭和三二年九月一一日、臨時に雇つた人夫四人とともに本件家屋(原告方)に赴き、右家屋にあつた家財道具(但し本件物件がそれに含まれることまでは認めない)を戸外に搬出したことはいずれも当事者間に争いがない。

二 不法行為および態様

<証拠>ならびに弁論の全趣旨を総合すると、

(1)原告において、前出調停で定められた期限に本件家屋を明渡さず、かつ明渡さないまま昭和三二年九月一一日午前に被告に対し電話で、被告が前記調停におけるもう一人の相手方である原告の兄三宅芳一に対し一万円を提供して任意明渡を〓けたことを問詰し「出すぎたことをしてくれたなあ、俺の方はどうしてくれるんだ」と話しかけ、被告が「八月三一日に明渡さなかつたら払わなくても良いと弁護士が言つているから払わない」と返答するや「俺は俺で勝手にするからお前はお前で勝手にやれ」と述べて電話をきつたこと

(2)右電話での話合いが喧嘩別れになつたのは前記調停の内容を原告においては被告より移転料を受領したのち明渡せばよいと考えていたためであり、被告においては期限内に明渡が約定どおりなされ、その後に移転料を支払えばよいと考えていたためであること

(3)右電話による話の内容およびそれまでの原告の態度に立腹した被告は、かねて友人より、裁判できまつたことを相手方が履行しない場合は権利者において自力で執行してもかまわないときいていたところから法的無知のあまりこれをたやすく信じ、前記九月一一日正午頃、大工道具を携え臨時に雇つた人夫四人をひきつれて原告方に赴き、表入口を閉したうえ、子供三人とともに二階で食事中の原告の妻三宅和子(当三〇才)に対し「話がついたから家財道具全部を出してしまう」と申向けたものの、子供が食事中だから階下で待つていたこと

(4)一方同女は近所に住んでいる原告の実母三宅タニエに救いを求めるべく階下へ降り、出入口まで進んだところ、そのあたりにたむろしていた被告および人夫らは和子の前に立ち塞り、かつ「今出て貰つたら困る」とか「出られるかな表は閉めてあるのに」と口々に叫んで同女の意図を物理的心理的に制圧し、たまたま二階に居た子供が泣きはじめたこともあつて同女は義母に急を告げることを諦め子供のいる二階へひき返したこと

(5)そこで被告は人夫四人を指図して本件家屋にあつた原告およびその家族所有と思われる家財道具類の大部分を表の小路に運び出し、降雨中の右戸外にそのまま放置したこと、なお右搬出するについて畳の上にあつたものはかき集め押入等の中のものもひつぱり出して箱等につめたうえ運び出したもので、二階より下ろす際は人夫らがかなり乱暴な取扱いをしたこと

(6)他方原告の子供の泣声を耳にした前記タニエ(当六三才)は、原告方方へかけつけて右事態を知り、被告や人夫らが右家財道具類を表へ運び出すのを制止しようとしてもみあううち二階への階段の三段目あたりから下りかける拍子に被告および人夫らのうちの誰かに押されて落ち、階段下の窪に左足を突込んで加療五日間を要する左第三趾括傷の傷害を受けたこと

以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は前掲証拠と対比してたやすく信用し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はみあたらない。右事実によると被告は原告に対し違法に損害を加えたものというべく、右不法行為により原告の蒙つた後記損害を賠償する義務があるものといわざるをえない。

三 原告の蒙つた物的損害

((一)から(四)まで、略)

(五)よつて被告は原告に対し結局金一二万一、〇一五円の物質的損害に対する賠償義務を免れないものというべきである。

四 信用失墜などによる慰藉料

<証拠>により認められる原告は関西大学専門部を二年で中退し、貿易会社次いで自動車会社に各勤務し、昭和二八年以降は大阪府会議員丸井栄次郎の秘書をつとめるかたわら、自民党大阪府連の常任委員遊説部長の仕事をも担当していたものであるが、被告の本件加害行為を右丸井や自民党大阪府連に知られて、喧嘩は両成敗だお前も悪いとか自民党の品位を傷つけるとかいわれ、また近隣の人人よりも喧嘩して負けたんだとささやかれて、原告は右議員や自民党大阪府連ならびに隣人に対してそれまで有していた信用をかなり失墜したこと及び本件加害行為の態様、被告の害意、原告の母および妻子が本件加害行為により暴行を受け、意思、行動の自由を制圧されたことを原告が知つてうけた心痛および立証困難ないし不能な原告の損害(例えば雑損)その他一切の事情(但し本件加害行為の動機および原告の過夫を除く)を斟酌するとその慰藉料額は金八万円を相当とするものといわななけれならない。

五 過失相殺による賠償額

被告において以上三および四の損害額会計二〇万一、〇一五円の賠償義務を負うべきところ、本件加害行為の動機をみると、原告もまた調停による約定をまもらず、かつ従前原告が一年余にわたつて滞納した家賃を免除してまで結婚のため本件家屋明渡を切望していた被告の立場を顧慮せず、高等小学校出の同人をともすれば軽視する態度を示したことが窺われ、法的に無知な被告をして本件不法行為にふみきらせた決定的な動機である当日の電話内容をも検討するとき、原告は右加害行為を発生させるにつき直接間接の原因をつくつていたものといわざるをえず、原告の右過失を考慮すると、被告は原告に対し右物質的損害及び慰藉料の合計のうち金一〇万一、〇〇〇円損害賠償義務を負うものというべきである。

六 結論(略)(亀井左取 三宅純一 今枝孟)

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