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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)794号 判決 1958年11月14日

原告 小久保豊徳

被告 南江株式会社

主文

被告は原告に対し別紙目録記載(一)の株券を引渡せ。

右執行不能のときは被告は原告に対し一株について金一八五円の割合の金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は十分しその一分を被告の負担としてその余を原告の負担とする。

この判決は金六、〇〇〇円の担保を供するときは原告勝訴の部分に限り仮に執行できる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し別紙目録記載(一)(二)(三)の株券を引渡せ。右執行不能のときは被告は原告に対し一株について別紙目録記載の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「(一) 原告は被告に対し昭和二九年三月六日株式会社大丸(大丸)株式六〇〇株の株券(旧株四〇〇株、新株二〇〇株)を預けた。(消費寄託)

(二) 原告は被告に預けた大丸株式六〇〇株の株券の中、五〇〇株は被告に売却を委託した。(内四〇〇株の売却は昭和三〇年一二月一日一株金三〇〇円)

(三) 原告は昭和三〇年一二月二日、被告に委託して三菱地所株式会社(三菱地所)株式二〇〇株を一株金五〇七円で買付け(右代金は(二)記載の大丸株式四〇〇株の代金で支払)右株券を被告に預けた。(以下寄託契約は消費寄託契約)

(四) (三)記載の三菱地所株式二〇〇株(昭和三〇年一二月九日午後四時現在の株主)に割当交付された四〇〇株の株券は被告が原告のため預つている。

(五) 原告は被告に委託して昭和三〇年八月一二日日本軽金属株式会社(軽金属)株式一、〇〇〇株を清算取引買建をした。

(六) 原告は(五)記載の軽金属株式一〇〇株を現引して右株券を被告に預けた。

(七) (五)記載の軽金属株式一、〇〇〇株に対する無償交付株一〇〇株の株券は被告が原告のため預つている。

(八) (五)(六)(七)記載の軽金属株式一、一〇〇株に対する無償交付株(昭和三〇年九月期)一一〇株の株券は被告が原告のため預つている。

(九) (五)(六)(七)(八)記載の軽金属株式一、二一〇株に対する無償交付株(昭和三一年三月期)一二一株の株券は被告が原告のため預つている。

(一〇) (六)(七)(八)(九)記載の軽金属株式四三一株に対する無償交付株(昭和三一年九四三月期)株の株券は被告が原告のため預つている。

(一一) 原告は被告との取引はすべて被告代理人(被告会社取締役)川端善友との間にした。

(一二) よつて原告は被告に対し消費寄託契約に基き大丸株式一〇〇株の株券の三菱地所株式六〇〇株の株券軽金属株式四七四株の内四五五株の株券の各引渡、右執行不能の場合、一株について別紙目録記載の株式時価による損害金の支払を求める。」

と述べ、

被告主張の抗弁に対し

「被告主張の抗弁事実を否認する。」

と述べた。

証拠として、甲第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第八号証を提出し、証人小久保敏子の証言、原告本人の供述(第一回、第二回)を援用し、乙第一号証の一ないし四の成立を認め第一号証の五の成立を否認し、第二、第三号証の成立は不知と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「(一) 原告主張事実中(一)の事実(二)の事実中、川端が被告の取締役であつた事実は認めるがその余の事実は否認する。

(二) 被告は、昭和二九年一〇月二三日原告に対し原告主張(一)記載の大丸株式六〇〇株の株券を返還した。」

と述べ、

証拠として、乙第一号証の一ないし五、第二第三号証を提出し、証人川端善友の証言、被告川端善友の供述、被告会社代表者南江義郎の供述を援用し甲第一号証第五号証は川端善友個人の作成に係るものである。その余の甲号各証の成立を認める、

と述べた。

理由

原告主張の(一)記載の事実は被告の認めるところである。

被告は、昭和二九年一〇月二三日原告に対し原告主張(一)記載の大丸株式六〇〇株の株券を返還したと主張するけれどもこの点に関する乙第三号証の記載被告代表者の供述は後記の証拠に照らし信用し難く、乙第一号証の四によつても後記の理由により被告主張の事実を認めるに足りず他に右事実を認めるに足る証拠なく、かえつて証人川端善友の証言、原告本人の供述(第二回)によれば、大丸株式の新株旧株の区別がなくなつたので原告は、昭和二九年三月六日付大丸株式六〇〇株の株券預証(旧四〇〇株新二〇〇株)(乙第一号証の四)を返還すると引換えに昭和二九年一一月一日付大丸株式六〇〇株の株券預証(甲第三号証)を受取つたのであつて、被告主張の日に大丸株式六〇〇株の株券の返還を受けていない事実を認めることができる。

よつて被告は原告に対し大丸一〇〇株の株券を引渡す義務がある。

原告は原告主張の(三)記載の通り被告に委託して三菱地所株式二〇〇株を買付けたと主張するけれども、被告川端善友の供述、証人川端善友の証言によれば川端善友は原告の被告に対する取引として原告主張の買付けを実行せず、原告の大丸株式四〇〇株の売却代金は川端個人の他の証券業者に対する株式投機取引に費消し従つて被告会社は寄託の目的物である原告主張の(三)(四)記載の三菱地所株式六〇〇株の株券を受取つていない事実を認めることができる。

原告は原告主張の(五)記載の通り被告に委託して軽金属株式一、〇〇〇株の清算取引買建をしたと主張するけれども、被告川端善友の供述証人川端善友の証言によれば、川端善友は原告の被告に対する取引として原告主張の買建を実行せず原告より交付を受けた株式代金は、川端個人の他の証券業者に対する株式投機取引に費消し従つて被告会社は寄託の目的物である原告主張の(六)(七)(八)(九)(一〇)記載の軽金属株式四七四株の株券を受取つていない事実を認めることができる。

よつて原告の消費寄託契約履行を求める本訴請求中、大丸株式一〇〇株の株券の引渡を求める部分は正当として認容しその余は失当として棄却する。

つぎに原告は株券引渡の請求にあわせて株券引渡執行不能の場合の履行に代る損害賠償(填補賠償)として株券の価格に相当する金員の支払を求める。

本件の如く、不特定物としての代替物の一定数量の給付の執行不能の場合の填補賠償は、現在給付義務の存在する本来の給付の変形として将来発生する請求権であるから、右の請求は将来の給付を求めるものとして、口頭弁論終結当時の本来の給付の価額の限度において許される。(大審院昭和一五年三月一三日判決、民集一九巻五三〇頁最高裁判所昭和三〇年一月二一日判決民集第九巻二二頁)

これに対し、給付の目的物の価額が判決当時と執行当時との間に一定不変の性質のものか又は少くとも将来騰貴するも下落する虞のないような性質のものでない限り、判決当時においてその数額を確定することはできない故に、このような性質を有しない物件の引渡執行不能の場合における填補賠償の請求は許されないとする見解がある。(大審院大正一五年一〇月六日判決民集五巻七一九頁、東京地方裁判所昭和三二年一〇月一七日判決下級民集八巻一九三一頁)

しかし執行不能の時に、本来の給付の目的物の価額が下落していた場合填補賠償請求権は執行不能時の価額をこえる部分については発生しなかつたことになるから、債務者は、請求異議の訴を提起して、執行不能時の価額をこえる部分について執行力の排除を求め得ると解すべきである。(現在存在する賃貸借契約に基き将来発生する賃料についてなされた給付判決に対し、将来賃料の減額のなされた場合賃借人が請求異議の訴を提起して、執行力の排除を求め得るのと同断である。)

債務者は請求異議の訴を提起しなければならない不利益を受けるが、これは債務者が本来の給付義務を履行しないことに基因して債務者が受ける利益である。本来の給付請求が認容される以上、執行不能の場合の填補賠償請求は口頭弁論終結当時の本来の給付の価額の限度において、当然認容されるべきである。

そこで大丸株式の口頭弁論終結当時の時価を考えるに、成立に争ない甲第七号証によれば昭和三二年一二月二八日現在大丸株式は一株金一八五円であることは明かで、その後の右の株価の変動については当事者雙方共何等の主張がなく、その後右の株価に大変動の生じた特別の事情も認められない本件においては、口頭弁論終結当時の価格も同一であると推認する。

よつて、原告の填補賠償を求める本訴請求中、大丸株式一〇〇株の株券引渡執行不能の場合一株金一八五円の割合の損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容しその余は失当として棄却する。

民事訴訟法第九二条第一九六条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 小西勝)

目録

銘柄        株数   単価

(一) 株式会社大丸株券    一〇〇株 一八五円

(二) 三菱地所株式会社株券  六〇〇株 一九五円

(三) 日本軽金属株式会社株券 四五五株 一四四円

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