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大阪地方裁判所 昭和33年(ヨ)988号 決定 1958年6月19日

申請人 新聞印刷株式会社

被申請人 新聞印刷労働組合

主文

申請会社の申請はこれを却下する。

申請費用は申請会社の負担とする。

理由

第一申請の趣旨

一、被申請組合は別紙目録記載の申請会社構内に立入つてはならない。

一、被申請組合は申請会社役員、被申請組合に所属しない申請会社従業員及び申請会社と取引関係に立つ第三者が右構内に出入し、若しくは右構内において操業し又は物品の搬出入をなすことを妨害してはならない。

第二、当裁判所の判断

当事者双方の提出にかかる疎明資料により当裁判所の一応認定した事実関係並びにこれに基く判断は次のとおりである。

一、争議に至る経過

申請会社(以下単に会社ともいう)は肩書地に本店を置き、従業員約八四名を使用して主に新聞・雑誌等定期刊行物の印刷業を営む資本金五、五〇〇、〇〇〇円の株式会社であり、被申請組合(以下単に組合ともいう)は申請会社の従業員中約四五名を以て組織する労働組合である。

組合は昭和三〇年一一月二日の結成にかかり、結成当時約六二名の組合員を有していたが、その後団結の強化に努めた結果、昭和三一年四月頃には殆ど全従業員の加入を得るほどまでに至つたものであるところ、同年五月一日会社が新たに職階制を採用し従業員中約二七名に部長・課長・副課長・係長等の地位を与えたためかなり多数の組合脱退者を生み、逐次加入者が漸減した末現在に及んでいる。そして右職階制採用後、同年八月頃に起つた公休出勤制度の廃止問題、昭和三二年二月に起つた配置転換問題、同年四月に起つた賃金査定問題、同年八月に起つた時差出勤制度の採用問題、同年一二月に起つた年末一時金要求闘争等をめぐつて、部課長等が組合と対立的な態度に出たこと等もあつて、組合は会社の行つた職階制の採用を組合切崩しのための工作と見てその対策に腐心し組織力の復活強化に力を注いできたが、結局ユニオン・シヨツプ協定の締結をはかることが最善の方途であるとの考えに達したので、昭和三三年三月一一日会社に対し、(一)一、三〇〇円の賃上(配分一律、三月分給料から実施)並びに(二)ユニオン・シヨツプ協定の締結を要求する旨の文書を手交して闘争態勢に入つた。その後同月一一日、二〇日、二四日、二七日、四月一日、五日の前後六回にわたり団体交渉を重ね、更に同月八日には組合から大阪地方労働委員会に斡旋を申請した結果、同月一四日、一六日の再度斡旋が試みられたが、賃上問題につき会社側が平均約六八〇円の昇給を認める線まで歩み寄つたのみで、ユニオン・シヨツプ協定の締結に関してはその要求を固執する組合とこれを頑強に拒否する会社との主張の対立が甚しく、斡旋打切のやむなきに至つた末、なお同月一七日、一九日、二二日の三回に及んで続行された団体交渉も決裂に終り、遂に組合は同月二四日午後会社に対し右要求貫徹のため無期限全面ストライキに入る旨を通告し、二五日午前八時頃前夜来の徹夜作業に従事していた従業員が作業を終えた頃から本件無期限ストライキに入つているものである。

二、争議行為の現況

組合はストライキに入ると共に、会社が所有占有する別紙目録記載の会社出入口の大門(幅約二間)については、前記徹夜作業終了後平常どおり保安係員(守衛)の手で閉ざされかんぬきをかけ突つ張り棒で支えられている状態であつたのを、更にかんぬきを繩で縛り、内側にセメント樽を置く等の手段をとつたが、四月二八日午前一一時頃右繩と樽は組合員によつて取除かれている。またこの大門は、同月二九日午前一〇時過ぎ後記のように会社側によつて一旦開放されたが、その直後再び組合員の手で閉鎖されたまま現在に至つている。他方大門の東横にある幅約二尺の小門は開かれているが、小門から会社構内に通ずる通路に沿うて数脚の長机或いは長椅子を並べ、更に会社出入門の内外にピケラインを張り、場合によつては会社構内に待機中の組合員を随次要所に集中してピケを強化し得る態勢を整えている。工場の出入口については、西側の大扉はストライキ突入以前から閉鎖旋錠されているままの状態であり、東側の小扉は夜間保安の必要上閉鎖旋錠される場合を除いて開放されており、その鍵は他の各建物の鍵と共に非組合員たる保安係員が保管に当つている。

ストライキ突入後のピケツテイングの状況は概要次のとおりである。

(1)  非組合員たる従業員の会社構内への入場は、労務課長及び保安係員を除き、ピケ隊によつて阻止されている(但し、保安係員はストライキ突入の当日たる四月二五日ピケ隊と押問答の末入場を阻まれたことがある。)すなわち

(イ) 四月二五日、二六日の両日にかけて出勤した非組合員のうち一部の者は、ストライキ中であることを知つて自発的に退去したが、他の者が就労のため会社構内に入場すべく小門附近にさしかかつたところ、ピケ隊は小門の内外にピケラインを張つてこれを拒み「入らせてくれ」「入ることはできない」等の押問答の末その入場を阻止した。

(ロ) 同月二八日午前一〇時頃非組合員約二六名が工場長を中心に近くの公園に集合した上、一団となつて会社構内に入場しようとしたところ、ピケ隊約一五名が二列のスクラムを組みその入場を阻止する一方、大門の上から組合幹部がその退去方を呼びかけたが、なおも入場を迫つたので、組合代表者の提案で双方代表者同志の話合いを行うため非組合員代表者二名を入場させただけでその余の非組合員は入場不可能であつた。その直後会社構内にいた会社代表者・保安係員等が内側から大門を開放すべくこれに近ずいたが、約一〇名のピケ隊に阻止された。

(ハ) 同月二九日午前一〇時頃、前同様工場長を中心に非組合員約二〇名が集合して会社門前でピケ隊に入場方を交渉したが、これを阻止され、会社出入口の西方約二〇メートルの電車通まで引揚げた。そこへ数名の警官が出動してきたのでことの意外に驚いたピケ隊が構内奥の工場入口附近まで後退した機に乗じ会社代表者の手で大門が開放され、先に一旦引揚げていた非組合員等が引きかえし大門から構内に入場して工場入口附近に殺到、同所でピケラインを張つて待機していたピケ隊との間に押し合い・もみ合いとなるうち、再び組合員によつて大門が閉鎖され、一度は構内に入場した非組合員等もピケ隊のため腕をとらえられて構外に押出された。

(ニ) その後も五月九日、同月一〇日をはじめ数日にわたり非組合員数名が会社構内に入場すべくピケ隊と交渉したが、何れもこれを阻止され入場不可能に終つている。

(2)  会社役員(代表取締役、その他の取締役及び監査役)の出入は自由に許されており、会社事務所内での執務に対してもこれを妨害するような行動に出ていない。尤も前記のごとく会社代表者等が内側から大門を開放しようとする試みはピケ隊に阻止されている。

(3)  会社と取引関係に立つ第三者の出入についても、ストライキ突入の当日である四月二五日午前九時三〇分頃一部組合員がその入場を阻止しようとして、組合幹部にたしなめられたことがあつたほか、自由にこれを許しており、鉛板・原稿等を搬出する際にも何らこれに妨害を加えていない。

三、争議行為の当否並びに仮処分の必要性

(1)  組合のストライキ中といえども、使用者たる会社が組合の統制外にある従来の従業員を使用してその操業を続行することは、それが著しい協約違反又は信義則に反する行為と認められない限り権利の行使として許されなければならない。一方組合においても、これに対し集団的ピケツテイングによりストライキ中の会社の操業に関与してくる者に対し言論による説得乃至団結による示威の方法によつてこれを阻止し会社の業務運営に打撃を加えることは、これまた組合に与えられた争議権行使の正当な範囲に属し、またその範囲に止まることが好ましいことはいうまでもないが、実際上右の如き単純な説得、団結の示威のみでは殆んどその効果を期待し難い争議の現状よりすれば、右説得・示威に止まらず、その補助手段として必要な最少限度の有形力の行使を絶対に排斥するものでなく、争議という力の対抗関係に照し、社会観念上使用者側も忍受するのが相当であると考えられる程度のものであれば、これを違法視して仮処分の保護を求めるに値しないものというべきである。これを本件に即して考えてみるのに、組合が大門を閉してその開扉を阻止し出入口内外のピケラインにおいて人垣を作り特に開かれたままの小門(幅二尺位)附近は人垣の重囲を強化した上スクラムを組み、ピケラインを突破して入場せんとする非組合員を押返したりして事実上その通行を阻止していること、特に二九日は、会社の大門より入込んで工場入口に殺到した非組合員(二〇数名)をスクラムで阻止した上、腕をとらえて門外に押出すといつた実力行使にでていることは、単なる平和的説得、団結の示威という観点よりすれば、いずれもその限度を超えた行為であり、とくに二九日においてはその度が強いが、右の事態も会社が工場長指揮のもとに非組合員による集団的なピケ突破を企てて且つ警察官の出動を要請し、その圧力により会社の大門を開いて非組合員を入場せしめたことに端を発するのであり、そのため組合員は工場入口で強力にこれを阻止せざるを得なくなり、両者もみ合いになつたとはいえ、極力非組合員の説得に意を用い、自発的な退去を促しながら連出したのであつて、とうてい暴力沙汰とはいえない状況であり、その他については、概ね静的・受動的な実力行使に終始し、使用者側の甘受すべき限度を超えたものとはいい難い。それに労使間の紛争は、自主的解決を本旨とするものである上、争議継続中はこれをとり巻く諸々の具体的事情に応じて、時々刻々労使双方の力関係に微妙な変化が生ずる性質のものであるから、偶々争議行為に際し組合のとつた手段の中に正当性の限界を逸脱していると認められる部分がかりにあつたとしても、仮処分によつてその禁止を命ずる必要性があるかどうかは別個に慎重な考慮を要するところであるので、この点より本件をみるに

(イ) 組合結成後昭和三一年五月一日に会社が新たに職階制を採用したのは、会社の主張によれば賃金査定の公平を期し指揮命令系統の明瞭化を目的とするものであつたというのであるが、従業員数に比して部課長等役付の者の数が不均衡に多きに過ぎると考えられること、また、工場長・部課長といつても、一定の総括的な権限を有するわけでなく、平常の担当業務は一般従業員と殆んど差異がないこと並びに叙上のとおり従来会社組合間に紛争を生じた際部課長等が概ね組合と対立的な立場をとつてきたこと等の諸点に徴すると必ずしも会社の主張どおりの目的のみから採用された制度ではなく、その背後に組合の団結力弱化をはかる意図が内在していたことを否み難い。そしてユニオン・シヨツプ協定の締結を要求項目の一とする本件争議が右職階制採用への対抗手段としての性格を帯びていることは先に認定したとおりであり、且つ構内入場を迫つてピケ隊と直接交渉に当つた非組合員の主力は右職階制採用とあい前後して組合を脱退した部課長等によつて占められている。

(ロ) ストライキ突入直後数日間は、会社並びに非組合員の側にも組合員の感情を不当に刺戟する言動のあつたこと、特に工場長の指揮下に非組合員の集団的なピケ突破が企てられた他、警察官の出動や会社代表者自ら大門を開放するためピケ隊の矢面に立つたこと、非組合員中に業務命令をふりかざし真実就労の意思がないのに構内入場を企てるかのような印象を与える発言をする者のあつたこと等が、組合を刺戟し前記実力行使を誘発したきらいのあることは否定できない。更に日時の経過に伴い、次第にピケ隊の態度は一般的に平穏となり、入場を迫る非組合員の数が減少しつつあることも加わつて、スト突入の当初見られたようなピケ隊と非組合員との間の緊迫感は徐々に薄らいでいる。

(ハ) また主に定期刊行物の印刷を業とするという本件企業においては、ストライキ中は、会社が非組合員を使用して操業を続行するとしても、非組合員が一部組合員の職場を代置するという不当行為に出でざるを得ないのみならず、三〇名位の非組合員では、流れ作業の円滑な操作は覚束なく、他面またどの程度第三者からの注文を受け得るかいささか疑問であり、会社として経済的被害の回復に多くの期待を託し得ない状況にある。むしろこれに反し現在組合に対し非組合員の出入等の妨害を禁ずることは、使用者・非組合員による組合の切崩しを招来しスト破りを誘発せしめるおそれの方が大きいことは、叙上のような本件争議の基本的性格に徴し推測しうるところであつて、組合の団結権に回復し難い程の致命的打撃を与える危険性が強い。

以上(イ)乃至(ハ)記載の各点並びに本件争議についての諸般の事情を総合して判断すれば、本件争議の現段階においては、非組合員の出入等妨害の禁止を求める部分は未だその必要性を認めるに足りないものというべきである。

もつとも、右の判断に対し、会社は自己の手駒たる非組合員による操業を止められて操業の自由を害され、非組合員もまた就労の自由を阻害されることになり、争議権偏重のきらいがあるとの反対論も予想されるが、操業の能率、利益に多くの期待ができず、むしろ非組合員の入場強行が直接争議の場を失わしめ、ストライキ妨害の結果をもたらすおそれが大きい以上、操業の自由も自ら制約を受けるのは当然であり、一方非組合員の就労の自由が事実上阻害せられても、同じ労働者であることの連帯性並びに就労が組合員の労務代替を余儀なくする点からすれば、強くこれを非難することができない道理であり、且つ賃金は、争議が使用者の責に帰すべき事由と解せられる以上、その請求権を失わない(現に支給を受けている)のであるから、非組合員の経済的被害を懸念する要はなく、ただ会社は操業不能のまま非組合員に対し賃金を支給しなければならないことになるが、右損失は争議に伴う必然的なものとして忍受しなければならないものというべきであつて、右の反対論はいまだ以て前記仮処分の必要性を首肯せしめるに足りないものといわなければならない。

(2)  また組合がストライキ突入後現在まで会社役員(代表取締役、その他の取締役及び監査役)・取引関係者の出入・事務の執行及び物品の搬出入等を妨害乃至阻止した事実のないことは前記のとおりであり且つ将来において組合がこれを妨害する行為に出る危険性があるとの申請会社の主張については、かかる危険性の存在を認めるに足る疎明がないので、申請会社において右の者等に対する妨害行為の禁止を求める部分は理由なきに帰する。もつとも会社役員の手で組合の閉鎖した大門を開放せんとした試みがピケ隊によつて阻止されたことは先に認定したとおりであるが、門外において構内入場の強行をはかる非組合員と相呼応しその入場を容易にするためピケ隊に対抗してとられた手段と評価すべき性質のものであるから、右のような妨害行為を禁ずべきものであるか否かは先に述べた非組合員の出入等妨害禁止を求める部分についての判断と同一の判断に服すべきものである。なお会社の工場長、その他部課長(労務課長を除く)に対してもピケツテイングを以て入場を阻止しているが、工場長・部課長といつても、名義上だけのことで、総括的な権限があるわけでなく、実質は組合員等一般従業員と殆んど異ることなく、使用者側の利益代表者と目し難いしまた容易に組合員の代替労務につきうることは前認定のとおりであるから、一般非組合員について説示したのと同様の理由により、同人等の出入等の妨害禁止の仮処分は許容し難いものといわなければならない。

(3)  さらに、申請会社は所有権乃至は占有権に基き、組合員の会社構内への立入禁止を求めるのであるが、組合が争議に入つてから会社出入門にピケラインを張り組合員がその構内に待機していることが認められること叙上のとおりであるけれども、会社役員、非組合員たる保安係員の構内への出入は自由であり、構内各建物の鍵は右保安係員においてこれを保管していることも叙上のとおりであつて、本件会社構内の占有が排他的に組合側に移行しているわけでなく、ただピケラインの延長として構内、しかも会社操業に関係のない前庭を中心とした敷地の一部だけ(闘争本部は男子組合員の宿所に充てられた部屋を使用している)を占拠しているのであり、それに、組合員は、元来会社従業員として構内敷地への立入りを許され、その所持品置場も構内に設けられているのであるから、たまたま争議により会社の指揮命令権を離れたとはいえ、右ピケツテイングが会社において甘受すべきものであり、これが禁止の必要性なきこと前説示のとおりであつてみれば、右ピケツテイングのための構内一部占拠を以てあながち違法というに由なく、他に組合に会社所有建物・機械等に対する破壊的意図の存することも認められない争議の現況において、組合の会社構内への立入禁止を求める部分は、その被保全請求権を欠き、これまた理由がないものといわなければならない。

四、結論

以上のとおり申請会社の本件仮処分申請はすべて失当であるからこれを却下すべく、申請費用の負担については民訴八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 金田宇佐夫 戸田勝 角谷三千夫)

(別紙)

目録

大阪市福島区海老江上二丁目三一番地

一、宅地 五坪三勺

同所三六番地

一、宅地 三八四坪四合三勺

右地上家屋番号同町六七番 木造陸屋根三階建事務所 一棟

(建坪 一二坪 二階坪 一二坪 三階坪 九坪七合五勺)

附属建物

木造瓦葺二階建工場兼居宅一棟(建坪 三五坪四合八勺 二階坪 一一坪八合四勺)

煉火造平屋建浴室一棟(建坪 二坪二合五勺)

木造スレート葺二階建居宅一棟(建坪 七坪 二階坪 九坪九合五勺)

木造スレート葺二階建工場一棟(建坪 一一坪二合五勺 二階坪 一三坪三合三勺)

木造スレート葺平屋建工場一棟(建坪 一五一坪一合)

木造スレート葺二階建工場一棟(建坪 七坪八合三勺 二階坪 七坪八合三勺)

木造スレート葺二階建工場一棟(建坪 二〇坪二合五勺 二階坪 二八坪四合二勺)

木造スレート葺平屋建工場一棟(建坪 二坪四合三勺)

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