大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)2325号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判旨の要点〕(一) 本件土地は交通の便に恵まれ、工場として利用するのに適した場所であり、附近はだいたい工場、住宅の混合地帯である。飲料機械の製造、販売を営む被告会社は昭和二三年四月以降、大阪工場の敷地として、原告から本件土地(もと三九九坪余、仮換地後二七二坪余)を、訴外吉川から三四三坪の土地を、訴外土田から三八九坪の土地をそれぞれ賃借していた。右各工場敷地の賃料は賃貸借成立後いずれも一坪当りの価額が同一であつて、一年ないし二年ごとに累進的に増額され、昭和三二年一月一日以降は一様に一ヶ月坪当り三〇円に増額されていたところ、訴外吉川、同土田より賃借した敷地の賃料は昭和三三年四月一日以降一ケ月坪当り四〇円に交渉が妥結して増額されたが、原告のみがこれを不服とし、同月二七日被告会社に対し、同年五月一日以降の賃料を一ケ月坪当り一〇五円に増額する旨の通知をした。
(二) 前回増額された昭和三二年一月一日と今回増額請求のなされた昭和三三年四月末とを比較すると、(1)本件土地の価額は三七・五%、(2)純客観的賃料は三五%、(3)固定資産税額は一五・二%それぞれ騰貴しており(このうち(1)(2)は、三つの鑑定があるところ、各鑑定に基いてそれぞれの数値を求めたのち算術平均したもの)、昭和三三年五月当時における比隣地の賃料はおおむね一ケ月坪当り三〇円ないし四〇円であり、ことに訴外吉川、土田よりの賃料は昭和三三年四月一日以降四〇円に増額された。
以上の事情に照らせば、本件土地に対する既定の一ケ月一坪当り三〇円の賃料は、昭和三三年五月当時においてはもはや当事者を拘束することは不相当となり、借地法一二条に定める賃料増額の事由を充足する。
(三) 被告は、前回の増額後わずか一年四ケ月を経過したに過ぎない、として時間的経過の相当性を争うが、いかなる時間的経過を以て相当とするかは各場合の事情に照らして判断すべく、本件土地の賃料が従来一年ないし二年ごとに累進的に増額されていること、その他前記のごとき経済的事情の変動、比隣地の賃料に照らせば、一年四ケ月の経過を以て、賃料増額の事由として必要な相当の時間的経過を経たものと解すべきである。
(四) 前述のごとき、(1)本件土地の地位、(2)比隣地の賃料との対比、(3)土地価額昂騰率、(4)純客観的賃料の増騰率、(5)公課漸増の事実を考慮するとき、昭和三三年五月一日当時の本件土地の賃料は一ケ月一坪当り四〇円が相当である。なんとなれば、三〇円から四〇円への増額は(二)の(1)(2)の騰貴率に比例し、使用目的、立地条件、賃料増額の経過を同一にする訴外吉川、土田の土地賃料と異別に取扱うべき格別の事情も見当らないし、おおむね一ケ月一坪当り三〇円ないし四〇円である比隣地の賃料にも照応するからである。
(五) 本件土地の相当売買価格に対する適正利潤と税金その他の管理費用を加えた、昭和三三年五月当時における純客観的賃料は、一鑑定によれば、一ケ月一坪当り一〇五円というのであつて、その算定の根基は合理的かつ妥当であり、原告も右金額までの増額が許されるべきであると主張するが、既定の賃料とその後に生じた経済的事情の変動との間の不均衡状態を公平の観念に照し合理的に調整しようとする借地法第一二条の法意によれば、従来特に純客観的賃料に比し低額であつた賃料を増額するようなばあいには、既定の賃料が当時の純客観的賃料に比し低額であつたこと自体を当然に賃料増額の事由とすることができないことはもとより、将来純客観的な賃料を以て賃料増額の標準とする趣旨の特約その他格別の事情のないかぎり、その関係を顧みて急激な増額は避けるべきであつて、純客観的な相当の賃料を標準とし、もつぱらそれによつて賃料を増額改訂することは許されない。
本件土地の賃料は、昭和二三年四月賃貸借成立後一年ないし二年ごとに累進的に増額され、昭和三二年一月一日以降一ケ月一坪当り三〇円に増額されたものであるが(原告は右賃料は暫定的なものと主張するが、暫定的に改訂された確証はない)、その間に将来純客観的な賃料を以て賃料増額の標準とする特約が成立したとか、その他純客観的な賃料を以て賃料増額の標準としなければならない格段の事情については、なんらこれを証すべき確証はない。三つの鑑定は、昭和三二年一月当時における純客観的賃料を一ケ月一坪当り八四円四二銭、七三円六二銭、五八円と鑑定しており、既定の三〇円は右のいずれと比べてもいちぢるしく低額であつたから、原告がこの関係を顧慮することなく、当然に昭和三三年五月当時における純客観的賃料を標準にし、もつぱらこれによつて一躍三倍半の一〇五円に増額請求することは、さきに述べた借地法第一二条の法意にも反し、是認することができない。