大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)3573号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告会社(製粉業者)は被告会社(小麦粉類の卸売商)に昭和三二年一月一日より翌三三年三月一五日まで継続して合計代金五八四万九、一四〇円相当の小麦粉類を売渡し、その取引期間中に特にいずれの売買代金と限定することなく、被告会社よりその代金の支払のために約束手形四二通合計金五八四万九、一四〇円(満期の最終のものが昭和三三年六月三〇日)が順次原告会社に裏書譲渡された。しかるに右手形が全部不渡となつたため、原告会社は右四二通の手形のうち最初の七通合計金一〇二万四、三七五円を訴求したが(訴訟係属は昭和三三年九月五日に生じた)、その後昭和三五年一二月八日の口頭弁論期日に残りの三五通の約束手形の請求を追加し、さらに予備的に原因関係上の右売掛代金債権合計金五八四万九、一四〇円を訴求した事案であるが、被告会社はまず右手形金請求の追加的変更につき、そもそも各手形債権は各発生原因、振出日、満期、金額を異にする別個独立の債権であるから、訴訟法上訴の変更の許される請求の基礎とは、この場合各手形金請求について各別に検討さるべきものであり、たまたま当初訴状において七つの手形による請求がなされてもそこには七個の請求が併合されているに過ぎず、併合された全体の基礎なる観念は存在しない。故に右三五通の手形の追加的請求は許されないと主張したのに対し、これを排斥して、次のとおり判示した。
「本件手形四二通は原告会社と被告会社との間で小麦粉の継続的売買取引があり、その取引期間中特にいずれの売買代金と限定されることなく被告会社より期間中の買受代金支払のため原告会社に裏書譲渡されたものである。原告会社は被告会社に対し本件手形裏書についての責任を追及するものであるが、その原因関係をなす基本の事実関係は右の如く互に関連共通するものであるから、訴の変更について所謂請求の基礎を変更するものではないと解するのが相当であり、また原告の訴の追加的変更によつて著しく訴訟手続を遅滞せしめる事情も認められないから、これを許すべきである。」
次に、原告会社が七通の手形金一〇二万四、三七五円について本訴を提起したことにより売掛代金五八四万九、一四〇円全体についても請求の基礎が同一であるから時効中断の効力が生じていると主張したのに対し、これを排斥して、次のとおり判示した。
「たとえ当初訴状において原因関係をなす売買の事実が記載されていても、それついての判決を求めておらず、単なる事情として記載されたもので訴訟物とはなつていないから、右当初の訴提起によつて右売掛代金債権についても消滅時効が中断されたものということはできない。」
そして、右売買代金の支払は本件各手形金対等額につきそれぞれその手形の満期日(その最終は昭和三三年六月三〇日)まで延期されたものと認定した上、本件売買代金債権金五八四万九、一四〇円は民法一七三条一号により右各満期より二年をもつて時効消滅しているとした。
さらに、右売買代金債権が時効により消滅しても、本件約束手形はその代金の支払の方法として裏書されたものであるから、(支払に代えて又は支払の保証としてなされた場合と異なり)、右代金債権の時効消滅をもつて右手形の支払拒絶の理由となし得ないと次のとおり判示した。
「売買代金支払のため約束手形が振出裏書された場合、たとえ原因関係をなす代金債権につき消滅時効期間が経過したとしても、約束手形上の権利が時効消滅しない以上、右売買代金債権について時効を援用し約束手形上の権利行使を拒むことはできないと解する。」