大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

大阪地方裁判所 昭和33年(行)29号 判決 1960年4月08日

原告 中村亀三郎 外一名

被告 国

主文

本訴のうち

(イ)  別紙第一、第二目録記載の土地が原告の所有であることの確認を求める部分は請求を棄却し、

(ロ)  その余の部分は訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、

「一、原告中村亀三郎と被告との間において、別紙第一目録記載の土地に対する買収ならびに売渡処分の無効であること、原告中村亀三郎が右土地の所有権を有することを確認する。

二、被告は右土地につき、大阪法務局中野出張所受付をもつてなされた自作創設特別措置法第一六条の規定による売渡を原因とする古川宗次郎への所有権移転登記の抹消登記手続を大阪府知事をしてなさしめよ。

三、原告坂寛吉との間において、別紙第二目録の土地に対する買収ならびに売渡処分の無効なること、原告坂寛吉が右土地の所有権を有することを確認する。

四、被告は右土地につき大阪法務局中野出張所受付をもつてなされた自作農創設特別措置法第一六条の規定による売渡を原因とする古川宗次郎への所有権移転登記の抹消登記手続を大阪府知事をしてなさしめよ。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、次のとおりのべた。

「別紙第一目録記載の土地(以下第一の土地と略称)は買収当時現況畑で原告中村亀三郎が昭和一九年以前より当時の所有者吉村音次郎より賃借耕作してきたが、昭和二二年七月七日同人より買い受けてその所有権を取得し、ひきつづき耕作していた土地、第二目録記載の土地(以下第二の土地と略称)も買収当時現況畑で原告坂寛吉が昭和一九年以前から当時の所有者吉村音次郎から賃借耕作してきたがその後吉村はこれを山田松雄に売り、原告坂は右山田より昭和二二年七月三〇日買い受けてその所有権を取得し、ひきつづき耕作していた土地である。原告等が右土地を買い受けるにつき大阪府知事の許可はえていないが、原告等が買い受けたことを地区農地委員会は承認していた事実があるから、原告等は農地調整法第四条により適法にその所有権を取得しているものであり、ただ登記簿上所有権移転登記がなされていなかつたのみである。しかるに被告は第一、第二の土地につき、買収計画を定めて買収した上、これを右土地に関係のない古川宗次郎に売り渡しその所有権移転登記をなした。

前記のとおり、第一の土地は原告中村の、第二の土地は原告坂の所有であり、かつ、精農家として右土地を耕作しつづけていたのに、被告は右土地を他人が耕作しているものと誤認して買収し、右訴外人に売り渡したのであるから、買収、売渡ともに無効である。

被告は「かりに原告等が真実の所有者としても登記簿の記載を信頼してなした買収処分は無効ではない」と主張するが、強制買収の場合には民法第一七七条は適用ないのであるから、被告の右主張は理由がない。

なお、古川宗次郎は右土地に家を建て、右土地をある病院に売却し、仮登記しており現況は宅地となつているる。

よつて請求の趣旨どおりの判決を求めるものである。」

被告訴訟代理人は、本案前の申立として、「原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として次のとおりのべた。

「被告が第一、第二の土地を自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)により、買収して所有権を取得した昭和二三年三月二日当時においては、右土地の所有者は原告等ではなく、訴外吉村音次郎である。右吉村は登記簿上の所有者であつたばかりでなく、買収計画に対して所有者として異議訴願をした上、取消訴訟を提起している大阪地方裁判所、昭和二三年(行)第六五号の一〇事件)。故に右土地が原告等の所有であることの確認を求める利益がない。

古川宗次郎への所有権移転登記の抹消を求める部分は、抹消登記義務者である古川宗次郎を被告とすべきで、被告は当事者適格を有しない。

原告等の昭和三三年一一月一〇日付訴状訂正申立書により追加された第一、第二の土地の買収ならびに売渡の無効確認を求める訴は併合の要件を欠くから不適法である。」

被告訴訟代理人は本案につき、「第一、第二の土地につき所有権の確認を求める部分を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、答弁として、次のとおりのべた。

「原告等の主張事実中、第一第二の土地が現況畑であり、吉村音次郎の所有であつたこと、被告がこれを買収した上、古川宗次郎に売り渡し所有権移転登記をなした事実は認めるが、その余の事実は争う。

第一、第二の土地(土地の表示として原告の主張している一六一八番地、一六二一番地、一七六四番地という地番は区劃整理施行中の仮地番であり、登記簿上の地番は別紙目録の但書記載のとおりである)は、前記のとおり吉村音次郎の所有する農地であつたが、昭和二二年一二月二八日大阪市東住吉区農地委員会が自創法第三条第一項第二号に該当する右吉村所有の保有限度外の小作地として、買収の時期を昭和二三年三月二日とする買収計画を定め、吉村より異議、訴願があつたが、いずれも棄却され、大阪府農地委員会の買収計画承認の決議を経て、昭和二三年九月上旬大阪府知事が吉村に買収令書を交付して買収処分がなされた。したがつて原告等が土地の真実の所有者であつたとしても、各処分庁が登記簿の記載を信頼してなした買収処分であるから、違法のかしがあるとしても、買収処分を無効ならしめるものではなく、買収処分を無効ならしめるものではなく、買収処分に基づく第一、第二の土地の所有権取得は有効であり、原告等にはもはや所有権はない。」

(証拠省略)

理由

(一)  併合要件を欠くとの被告主張について。

行政事件訴訟特例法第六条は「第二条の訴には、その請求に関連する原状回復、損害賠償その他の請求(関連請求)に係る訴に限り、これを併合することができる。」と定めている。この規定は通常の民事訴訟法の原則からは認められない、訴訟手続を異にする種類の訴の客観的併合を認め、かつ、その併合の要件を定めたものであるが、その規定の趣旨とするところは、抗告訴訟に通常訴訟を併合する場合にのみ妥当するにとどまらず、通常の民事訴訟に抗告訴訟を併合する場合、抗告訴訟に準ずべき行政処分の無効確認の訴と通常の民事訴訟との関係においても妥当するものというべきであるから、通常の民事上の請求の訴に行政処分の無効確認の訴を併合することのみは右第六条の準用によつて許され、両者が関連請求の関係にある場合に限つて許されるものと解するのが相当である。

原告等は最初訴状では第一、第二の土地の所有権確認と国より古川宗次郎への所有権移転登記の抹消とを求めていたのを昭和三三年一一月一〇日付訴状訂正申立と題する書面で、第一第二の土地の買収、売渡の無効確認の請求を追加したことは本件記録上明らかである。そして最初の所有権確認の請求も、請求の原因としては、右土地の買収、売渡処分の無効を理由としているのであるから、追加された新訴と旧訴とは関連請求であることは明らかであるから、本訴は、併合の要件を具備するものといわなければならない。被告の右主張は採用できない。

(二)  自創法による農地の買収、売渡処分の無効確認は抗告訴訟に準じ、買収、売渡の処分をした当該行政庁である大阪府知事を被告とすべきで、国は被告適格を有しないと解する(昭和三三年四月二一日当裁判所判決、行政事件裁判例集、第九巻第四号五六七頁参照)。この点において追加された新訴は不適法である

(三)  被告は所有権確認を求める請求につき、原告等は所有権者でないから、確認の利益がないと主張するが、所有権があるかないかは正に本案で審理すべきことで、訴訟要件ではないので被告の右抗弁は採用できない。

(四)  被告より古川宗次郎への所有権移転登記の抹消を求める請求は登記簿上の名義人の古川宗次郎を被告とすべきで、国は被告としての当事者適格を有しないから、不適法である。

(五)  所有権確認の請求について。

第一、第二の土地が元、吉村音次郎の所有であつたことは当事者間に争いがなく、原告の主張によれば、原告中村が吉村より買い受けたのは昭和二二年七月七日、原告坂が山田から買い受けたのは同年同月三〇日であり、右買受けについてはいずれも大阪府知事の許可をえていないことは原告の自ら認めるところである。原告等が買い受けたと主張する右昭和二二年七月当時施行されていた農地調整法(昭和二一年法律第四二号により改正された同法)第四条第一項、第三項、農地調整法施行令(昭和二一年勅令第五五六号により改正された同令)第二条第一項によれば地方長官の許可を受けずになされた所有権移転の行為はその効力を生じないのであるから、原告等が右土地の所有権を取得していないことはその主張自体より明らかである。(原告等訴訟代理人は「原告等が買い受けたことを地区農地委員会は承認していたから、農地調整法第四条により、適法に所有権を取得した」と主張するが、前記農地調整法施行令第二条第一項第二項によれば、市町村農地委員会の承認で足りるのは賃借権又は使用貸借による権利の取得の場合であつて、所有権の取得には地方長官の許可を要すること前記のとおりである。)

(六)  よつて本訴のうち第一、第二の土地の所有権確認を求める請求は失当であるから棄却し、その余の部分は不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決するる。

(裁判官 平峯隆 中村三郎 上谷清)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例