大阪地方裁判所 昭和33年(行)39号 判決 1962年5月31日
原告 福井弘 外四名
被告 大阪地方裁判所 大阪高等裁判所
主文
原告等の各請求を棄却する。
訴訟費用は、原告福井弘、同小林健二、同谷本幸雄と被告大阪地方裁判所との間において、同被告の支出した分を右原告等三名の負担とし、原告米虫寛、同弘岡経樹と被告大阪高等裁判所との間において、同被告の支出した分を右原告等両名の負担とし、その余は各自の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
原告等訴訟代理人は、
「昭和二十八年十月十七日被告大阪地方裁判所が原告福井弘、同小林健二、同谷本幸雄に対してなした各懲戒処分を取消す。
前同日被告大阪高等裁判所が原告米虫寛、同弘岡経樹に対してなした各懲戒処分を取消す。
訴訟費用は、原告福井弘、同小林健二、同谷本幸雄と被告大阪地方裁判所との間においては被告大阪地方裁判所の、原告米虫寛、同弘岡経樹と被告大阪高等裁判所との間においては被告大阪高等裁判所の各負担とする。」
との判決を求め、
被告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
第二、原告等の請求原因
一、原告福井弘、同小林健二、同米虫寛はいずれも裁判所書記官補であつて、原告福井は被告大阪地方裁判所(以下、適宜地裁と略称することがある)、原告小林は大阪簡易裁判所、原告米虫は被告大阪高等裁判所(以下、適宜高裁と略称することがある)にそれぞれ勤務していたもの、原告谷本は大阪簡易裁判所に雇として勤務していたもの、原告弘岡は被告大阪高等裁判所に雇見習として勤務していたものであるところ、昭和二十八年十月十七日、被告大阪地方裁判所は原告福井、同小林、同谷本に対し、又被告大阪高等裁判所は原告米虫、同弘岡に対し、それぞれ裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十二条による懲戒処分として免職の処分をなし、その旨を記載した処分書及び処分説明書は翌十八日各原告に送達された。
そこでこれに対し各原告は昭和二十九年一月八日最高裁判所に対して審査の請求をなしたところ、同裁判所は昭和三十二年十二月二十三日に右各処分を承認する旨の判定をなし、その判定書は同月二十四日過ぎ頃各原告に送達された。
二、しかしながら、本件各懲戒処分の根拠として被告等が認定した事実並びにこれに適用された法条は別紙一記載の各原告につき第一ないし第五に記載の各事実(以下これら事実を処分事由と称する)並びに法条であるが、本件各懲戒処分は次項に詳述するとおり懲戒に値する事実がないにもかかわらず事実の認定もしくは法の解釈適用を誤まつてなされたもの、処分の種類程度において著るしく不当なもの、又は無効な法規に基くものであるか、或いは右処分事由たる事実に藉口して正当な組合活動を抑圧するためになされた不利益な取扱で違法である。よつて原告等は本件各懲戒処分の取消を求めるため本訴に及ぶ。
三、本件懲戒処分の取消さるべき事由
(一) 雇見習の受験妨害(別紙〔一〕第一(原告福井)(一)、第五(原告弘岡)(一))について
(1) 処分事由中、昭和二十八年七月十三日高裁及び地裁が右両裁判所及び大阪家庭裁判所に勤務している雇見習を対象とする事務雇選考試験を行つたこと、右試験に際し受験資格者の一部が受験しなかつたこと、原告弘岡が試験当日山本晴彦、上原孝子、藤田昌子に対し受験しないよう説得活動を行つたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(2) 事務雇選考試験実施反対運動の実態並びに試験当日までの経過の概要
昭和二十八年六月下旬頃、本件事務雇選考試験の実施要領が発表されたが、右発表によれば学科試験により高等学校卒業程度の学力ありと認められた者だけを雇に昇任させるとのことであつたところ、当時、高裁、地裁及び大阪家庭裁判所では過去数年間雇見習に昇任の機会が与えられていなかつたため、旧制中学又は新制高校を卒業後五年前後勤続する古参の雇見習が少くなかつたので、右の選考方法ではこれらの者には著るしく不利であつた。そこで雇見習の多数がこれに同情し、右選考方法の是正を求めて昇任試験実施反対運動を起すに至り、雇見習の間で協議の結果、(イ)既定の選考方針を改め、経験と勤務成績を重視し、年功によつて順次昇任させるべきである、(ロ)もし学科試験の実施が止むを得なければ、古参者に不利にならぬよう出題、採点につき特に考慮すべきである、の二項目について意見の一致を見たので、この点を裁判所当局に要望するため自主的な活動を開始すると共に、全国司法部職員労働組合(以下、全司法と略称する)大阪支部(以下、適宜組合と略称することがある)に対し組合としてもこの問題を取上げることを求めた。
右のように本件試験実施反対運動は本来雇見習達の間の友愛精神に発し、且つ最後まで雇見習を中心とする運動だつたから、同僚の意志を抑圧してその受験を妨害したりする筈はなく、まして直接の利害関係のない雇見習以外の一般組合員が威力を用いてそのような行為をなす筈がないのである。
一方、組合内でも予てから雇見習の昇任を早急に実現することを求める気運が擡頭していたが、前記の如く昭和二十八年六月に発表された試験実施要領は大阪の裁判所における実情を無視し、実質的に著るしく不公平な結果を招くものであつたし、右のように雇見習からの申入もあつたので組合の拡大闘争委員会でこの問題につき討議した結果、同年七月初め頃、(イ)当局が実施せんとしている学科試験による選考に反対する、(ロ)経験と勤務成績を重視し、原則として勤続年数の長い者から順次昇任させるべく選考方法を改めるよう、又もし学科試験を実施するのであれば古参の雇見習に不利にならぬように出題採点の上で考慮するよう当局に要望する、との態度を決定し、これに基き、雇見習達の自主的活動と並行して当局との交渉を行つたが、数日経過しても所期の成果を挙げることができず、予定試験期日が近づくにつれて組合内には執行部の軟弱にあきたらず執行部不信、受験拒否を唱える者が増加して来た。そこで執行部は取敢えず受験願書の提出を見合わせることにしたうえで交渉を続けたところ、当局は願書締切日の延期を発表し、このため組合側は当局が雇見習の希望を容れ試験方法を緩和してくれるのではないかと希望を抱き、その場合に備えて受験願書だけは一応提出しておくよう雇見習達に勧告したので、締切日である同年七月九日、全員一斉に願書を提出した。この事実は、雇見習全員が組合の試験に関する方針を支持し、最悪の場合には受験を拒否するとの態度をとつていたこと並びに右願書提出に反対する者がなかつたことによつて明らかなとおり受験妨害を考えている者がなかつたことを示すものに外ならない。
しかし翌十日になつて選考試験は当初の予定どおり実施されることが判つたので、組合側は同月十一日拡大闘争委員会において善後策を協議した結果、次のように決定した。
(イ) 試験実施反対の方針を再確認する。
(ロ) 試験実施の中止又は延期を求めるため更に当局と交渉する。
(ハ) 受験資格者全員に対し、組合の方針を説明して支持を求め、なるべく受験しないように最後まで説得に努める。
右の決定は、説得によつて全員は無理でも大多数が受験を拒否すれば当局も選考方法を再考してくれるだろう、という予測に立つものであつた。
(3) 原告等の行動
本件受験拒否のために原告福井、同弘岡等がとつた行動は、あくまでも受験資格者たる相手方の自由意志を尊重した説得の範囲内であつて、組合の決定した前記方針を忠実に実行したまでのことに過ぎず、従つて受験しなかつた資格者は原告等の説得に応じ自己の自由な意思により受験しないことを決意したものである。受験資格者等を試験当日大阪中央郵便局前に集合させてピクニツクに行つたのも雇見習等の自発的な発案に基くもので、ピケツトラインを張つたような事実もなく、強制的に連行したものではない。
(4) 以上のとおりであるから、右原告両名の行動は何ら懲戒事由に該当せず、被告等がこれを本件処分の理由としたのは事実を誤認したか或いは故意に歪曲したものであり、仮に懲戒事由に該当するとしても本件処分は甚しく不相当である。
(二) 森口光二に対する暴行(別紙〔一〕第二(原告小林)(一)、第五(原告弘岡)(二))について
処分事由中、試験当日森田孝行名義の声明書が配布されたこと、処分事由記載の日時において組合事務所に来室した森口光二に対し原告小林、同弘岡が田頭和夫等と共に詰問をなした挙句、田頭が或程度の暴行に及んだことは認めるが、本件暴行自体は軽微なものであつて、被害者たる森口がこれを誇張して吹聴したものである。しかも田頭和夫が森口を殴打した事実はあるが原告小林が殴打したことはなく、原告弘岡も単に箒を持つて森口を脅したにとどまり、暴行を加えた事実はない。
更に、右事件の動機となつたのは処分事由記載のように組合内における意見の対立又はスパイ行為に対する制裁ではない。もし動機がそのようなものであつたとすれば森田孝行のように組合の執行委員長の資格を濫用して反組合的な活動をした者が当然制裁を加えられる筈だが、原告等は右森田に対しては同人が発行した前記声明書について釈明を求めたにとどまるものであつて、これは本事件の動機が右のようなものでなかつたことを示している。本件暴行は、田頭和夫及び原告小林、同弘岡等と森口光二とが森口が試験当日欠勤した理由等について暫らく口論したところ、森口が際限なく虚言を繰返してごまかそうとするので田頭及び原告等は馬鹿にされていると憤慨し、本件暴行となつたものであり、従つて全く偶発的な事件に過ぎない。
それ故、仮に原告小林、同弘岡が本件暴行につき責任があるとしても、右原告等の行為は非行ではあるにせよその職務とは何ら関係がないうえ、その動機、態様、結果とも特に悪質とはいえず、単純な内輪喧嘩に等しいものとしてせいぜい直近上司の口頭注意程度にしか値しないもので、国民全体の奉仕者たる公務員全体の名誉信用を傷つけ、もしくは公務員関係の秩序を害する程度には到底達しないから、国家公務員法第八十二条第三号には該当しない。又、仮にこれが懲戒事由に該当するとしても、前記の諸事情にかんがみ、これについてなされた本件懲戒処分は社会通念に照らし著るしく不相当である。
(三) 無許可欠勤(別紙〔一〕第一(原告福井)(三)、第二(原告小林)(二)、第五(原告弘岡)(三))について
原告福井、同小林、同弘岡につき処分事由掲記のような欠勤の事実があつたことは認めるが、原告福井は右欠勤期間中昭和二十八年八月三十一日以前の分については有給休暇の請求をなし上司の許可を得ていたものである。
同原告の同年九月一日以降の欠勤及び原告小林、同弘岡の欠勤は、大阪地方検察庁が前記田頭和夫の森口光二に対する些細な暴行事件を故らリンチ事件という架空犯罪に仕立て上げ、その捜査に藉口して或いは組合役員を逮捕し、或いはその自宅、組合事務所を捜索するなど強制捜査権を濫用し、全司法大阪支部の動向や同支部における活溌な組合活動者の思想傾向等右暴行事件と無関係な事実を調査して組合活動を不当に抑圧せんとしたので、右原告等は自衛の必要上欠勤したものである。逮捕されることの苦痛に加えて、組合の内部事情や自他の思想行動を追求されることの苦痛を考えれば、不当逮捕を受けることを予測しながら出勤することは通常人には期待し難い。従つて右欠勤は原告等の責に帰すべからざる事由によるものというべきで懲戒事由には該当しないものであり、少くとも情状酌量せらるべき余地が十分にあつて、これを懲戒事由とすることは極めて不当である。
(四) 長官室における事件(別紙〔一〕第一(原告福井)(二)、第三(原告谷本))について
処分事由中、いわゆる吹田騒擾事件公判中の黙祷事件につき下調査を行うため裁判官訴追委員押谷富三等の一行が処分事由記載の日時に大阪高等裁判所に来庁したこと、これに先立ち組合の拡大闘争委員会が右下調査を行うことは司法権の侵害であるとしてこれに反対する旨の決議をしたこと、原告谷本が吹田騒擾事件につき起訴されていたこと並びに処分事由記載の各時刻に原告福井及び同谷本が同裁判所長官室に入室し、また退去した事実は認めるが、その余は否認する。本事件に関する事実の概要は次のとおりである。
原告谷本は吹田事件被告人団の一員として、又原告福井は全司法大阪支部の一員として前記日時頃大阪高等裁判所会議室及び長官室において前記訴追委員等と面会したのであるが、右面会の主な目的は、訴追委員による今回の調査の法的根拠について説明を求めると共に裁判所以外の権力機関が現にその裁判所に係属している事件における裁判長の訴訟指揮に干渉することは司法権の独立を侵害する行為であり、特に吹田事件被告人等に深刻な危惧の念を抱かせることになるから右調査を中止するよう要求するにあつた。
そこでまず原告等は当日朝、調査開始前に訴追委員と面会すべく安倍高裁長官にその斡旋方を申入れて諒承を得、次いで押谷委員に対しても直接に調査開始前の面会を申入れたところ、同委員もこれを諒承した。その結果、長官室で調査の開始を待つていた藤田検事も同室から退去し、全司法関係者、吹田事件被告人団等陳情のために集まつていた群衆は訴追委員の指示に従つて代表者を選び、その名簿を委員側に提出したうえ面会時刻として指定された午後一時になるのを待つていた。
ところが、正午過ぎ頃、藤田検事がいつの間にか長官室に入つており、調査がすでに開始されているとの情報があつたので、原告谷本、同福井等は驚いて長官室に入り、調査中の訴追委員等に対し違約をなじり且つ前記理由を挙げて調査の中止を要求したが、その間処分事由記載のように罵言を浴びせたりした事実はなかつた。右入室の際、予め長官の許可を得てはいないが、特に入室を拒否又は制止されたこともなく、且つ長官室のドアは偶々押谷委員の秘書の出入のため開いていたもので原告等がこれを排して入つたものではなく、又、十数分後長官から退去を求められたので直ちに(遅くとも五分以内に)退去したのである。
右のように原告谷本、同福井等が許可を受けずに長官室に入つたことは不穏当ではあるが、入室目的及び入室後の右原告等の行動は、前記のような組合或いは吹田事件被告人としての意見を述べ調査の中止方を希望し、且つ長官に対して訴追委員に長官室を利用させることは適当でない旨を述べたにとどまり、別に脅迫暴行がましい行動もなく、又長官の命令に従つて直ちに退去したのであるから、取立てて非行と目すべきではない。殊に訴追委員が本件の場合実行しようとした調査は最高裁判所がこれを遺憾とする旨声明したことでも明らかなように司法権の独立を不当に脅やかすものであり、司法部に職を奉ずる右原告等としてこれを坐視するにしのびなかつたこと、原告谷本は同人自身吹田事件の被告人でもあり、右調査につき直接の利害関係を有していたこと、訴追委員側に前記の如き違約があつたこと、右原告等はかかる不信行為につき訴追委員等に対しては強硬に詰問したが上司たる長官には従順であり、公務員関係における秩序を乱していないこと等の諸事情を考慮すれば、右原告等の行動に多少不穏当な点があつてもそれは宥恕さるべきもので、本事件は懲戒事由に該らないか、少くともこれを懲戒事由とすることは甚しく不相当というべきである。
(五) 原告米虫に対する各処分事由について
(1) 調書不作成問題(別紙〔一〕第四(一))
処分事由中、原告米虫担当の当該各調書の作成が遅れ処分事由記載の日時までに完成しなかつたこと並びに右調書の作成につき同原告が主任書記官及び朝山裁判長から各一回催促を受けたことは認める。しかし右日時までに右調書のうち検証現場における証人尋問調書は全部作成されていたのであり、作成の遅れていたのは検証調書と検証図面であつたところ、これらも本件懲戒処分前の九月末までには完成していたのである。右以外の事実は否認する。
原告米虫は本件処分事由中の記載によつても明らかなように昭和二十八年五月二十二日から同年七月四日までの僅か一箇月余りの間に証人尋問(各三名)を伴うもの四回を含む五回の現場検証に立会つているが、短期間にこのように出張、検証が重なることは異例であり、又これらの出張はいずれも同原告所属部の非開廷日になされ、同原告はその間の開廷日の立会、調書作成は遅滞なく行つていたから、その仕事の負担は過重で本件各調書を遅滞なく完成することは至難であつた。しかも同原告は右調書の作成を全くしていなかつたわけではなく前記の如く完成に努力し部分的には作成できていたのであるが、それを机の引出しに入れておいたところを同原告の知らぬ間に事件記録についてのみ調書作成の有無を調査され、全部について作成を怠つているものとして本人に陳弁の機会を与えることなく懲戒事由とされたのであり、又結局九月末までには全部完成して当該事件の進行には著るしい支障を来たさなかつたのであるから、本件調書不作成を以て同原告を懲戒免職に付することは、その処分の程度において著るしく客観的妥当性を欠き、公正と条理に反し、国家公務員法第七十四条第一項にも違反するものである。
(2) 内灘における事件(別紙〔一〕第四(二))
処分事由中、原告米虫が市道治千代外全司法大阪地区連合会(以下、大阪地連と略称する)役員等と共に処分事由記載の日時に内灘村に赴いた事実は認めるが、村民に向かつて激励文を朗読したのは一行の団長だつた右市道であつて原告米虫ではない。同原告は現地において右市道等と共に警察官の不当な実力行使につき警察側と交渉をし、その結果を村民等に報告したのみであつて、かかる行為は国家公務員法第百二条及びこれに基く人事院規則一四―七の禁止に触れるものではない。
仮に同原告が右激励文朗読等につき市道等と共に責任を負うべきものとしても、同原告等の右所為は前記規則第六項第十号にいう「政治的目的を以て示威運動を援助」したものには該当しない。即ち、右規則にいう「援助」とは示威運動に参加する等これを現実に支援推進するための具体的行為をいうと解せられるところ、同原告等が内灘に赴いたのは、新潟において開催される全司法全国大会に大阪地連の代議員として出席する途中、当時社会問題となつており、全司法としても平和憲法擁護の立場から関心を持つていた内灘接収反対闘争の実情を調査見聞しようとしたもので、その際地連執行委員会で折角行くのなら激励文を持つて行こうという事が決定されたのである。従つて内灘村へ行つた主な目的は単なる現地調査であつて、かかる調査が右の「援助」に当らないのは勿論、右調査にあたつて激励文を携行した程度では反対闘争支持の意見の表明ではあつても右の援助とはいえない。
仮に右のような行為が前記「援助」に該当するとしても、米軍の駐留は憲法第九条第二項に違反するから内灘村の米軍試射場用地を接収する旨の閣議決定も平和憲法に違反し、従つてこれに反対する示威運動は愛国的正義に適つた正当な行動である。故に、原告米虫等が激励文によつてこれを援助することも憲法擁護のための正当な行為であり、これを以て懲戒処分の事由とすることはできないと謂わなければならない。
(3) ビラの発行(別紙〔一〕第四(三))
処分事由中、原告米虫が全司法大阪支部の情報宣伝部長等の地位に在つたこと並びに処分事由記載の日時頃、別紙〔三〕のような文言のビラが右情報宣伝部名義で発行されたことは認めるが、同原告は右ビラの起案作成、発行のいずれにも関与して居ない。右ビラを発行することは組合の拡大闘争委員会において決定されたのであるが、同原告はその決議にも関与しなかつたものである。
仮にいわゆる機関責任という観点から同原告がなお右ビラについて責任を負うべきものとしても、本件ビラ全体の趣旨は、平和憲法を擁護し民主的労働運動の弾圧に反対するという正当な目的の下に、佐々木裁判官訴追事件等の現実の状況や諸事件を通して平和憲法に違反する不当な諸行為について田中最高裁判所長官や政府の責任を明らかにすべく職場討議を起すようにと訴えるものであり、末尾に記載されている街頭署名運動の問題にしても、十分に職場討議がなされて組合員の意見が結集されることを希望し、そうなつた場合に街頭署名運動を実施するというに過ぎず、事実かかる街頭署名運動は行われなかつたのである。公務員の組織する労働組合といえども、平和憲法擁護を目的とし、そのために政治情勢を討論し憲法を踏みにじる反動的政策に対する批判を明らかにするための職場討議を行うことはできる筈で、本件ビラはこのような職場討議を求めるために、吉田内閣の政策が反憲法的体制を強化するものであるとの批判の上に立ち反動的な同内閣の退陣を要求する旨の意見を表明したにとどまり、それは労働組合として職場討議により組合員の意見を結集するための正当な情報宣伝活動に属する。現行公務員制度の原理たる公務員の政治的中立性の確保は、公務員に政府に対する無批判的忠誠義務を課するものではない。内閣が憲法を踏みにじり国民の諸権利や公務員の労働者としての権利を奪うような政策をとるような場合、公務員も真の憲法秩序を守る権利と義務とに基き自己の政治的意見の表明として、その政策に反対し内閣の退陣を求める自由があり、まして公務員の労働組合内部での討論は許されるといわなければならない。従つて本件ビラは人事院規則一四―七第六項第十三号所定の「政治的目的を有する文書」には該当しないものと解すべきである。
更に、右第六項第十三号に規定する政治的目的を有する文書の発行というのは、その文書が政治の方向に影響を与える意図を有することを前提とし、それは憲法の基本原則に変更を加えることを意味するものと解すべく且つ政治の基本方向に影響を与える現実的且つ明白な危険が存せねばならないところ、本件ビラは右基本原則に反するどころか却つてこれを擁護することを目的とするから、この点からしても本件ビラの発行行為が前記規則の条項に該当しないことは明らかである。
(4) 公務員の政治的行為の制限について
更に、一般に公務員といえども本来国民の一人として憲法上の権利と自由を保有するものであり、これに対する政治的行為の禁止は公務員の政治的中立性を確保する現実の必要上から止むを得ざる範囲内に限局せらるべきであるところ、かかる憲法上の基本的人権に関する事項について国家公務員法第百二条第一項が人事院規則に一般的包括的な立法の委任をしているのは憲法の許容する委任立法の範囲を越えた無効の定めであり、人事院が制度上いかに独立した官庁であつても、かかる重大な事項を一方的に規制することは許されないというべきである。従つて右国家公務員法の規定に基く人事院規則一四―七の規定を根拠とするところの原告米虫に対する本件懲戒処分は違法である。
(六) 原告小林、同弘岡の勤務成績について
一般に懲戒処分をなすべきか否か並びに選択すべき処分の種類程度を決するにあたつては本人の勤務成績が考慮さるべきで、殊に本件においては懲戒事由とされた事案は前記のとおりいずれも軽微であるから、かかる要請が一層強いといわなければならない。ところで、
(1) 原告小林に対する本件懲戒事由は、森口光二に対する暴行とこれに附随する無許可欠勤のみで、これらが仮に懲戒事由に当るとしても事実として軽微なものであることは既に縷述したとおりであるが、同原告の勤務成績は本件懲戒事由発生後の事実上処分が決定した時期のものを別にすれば「満足すべきもの」と判定されていた。
(2) 原告弘岡に対する本件懲戒事由は、受験妨害、森口に対する暴行及び無許可欠勤で、これらが仮に懲戒事由に当るとしてもいずれも軽微な事案であることも、上述したところから明らかであるが、同原告の勤務成績は極めて優秀であつて、その能力は同種職員の筆頭に位していた。
以上の事実からすれば、右両原告に対する本件懲戒処分が著るしく相当性を欠き違法性を帯びることは明らかである。
(七) 組合活動のための不利益取扱について
原告等は本件懲戒処分当時いずれも全司法の役員又は最も活溌な活動家であり、組合の活動のために尽力していたが、その当時から最高裁判所は全司法を事実上解散させ若しくは弱体化することを企図していた。このことは、本件処分後間もない昭和二十九年三月頃に至つて最高裁判所が四号調整問題を持出して全司法を事実上解散することを要求し、その団結権を侵害しようとした事実からしても明らかである。
右のような最高裁判所当局の不当な組合抑圧の意図の下において、被告等もまた全司法の活動の弱体化を企てていたところから、大阪における同組合の最も活溌な活動家であつた原告等の組合活動を嫌悪し、これを裁判所から排除するために原告等がなした正当な組合活動を敢えて懲戒事由に該るものとし、以て懲戒に名を借りて本件の各処分を行つたものである。団結権侵害を目的としたこのような処分が国家公務員法第九十八条第三項ひいては憲法第二十八条に違反し許されないものであることはいうまでもない。
第三、請求原因に対する被告等の答弁
一、請求原因第一項記載の事実並びに被告等が本件各懲戒処分の理由として認定した事実及びこれに適用された法条が別紙〔一〕記載の各原告につき第一ないし第五に記載の各事実及び法条であることは、いずれも認める。
本件懲戒処分は右処分事由たる各事実並びに法条に基いてなされたものであり、被告等がなした右処分事由の認定には何らの誤りもなく、且つ右処分事由たる各事実がその行為の態様、結果その他の情状に照らしてそれぞれ国家公務員法第八十二条所定の懲戒事由に該当することは右各事実自体よりして明らかである。
原告等は仮に処分事由たる事実の全部又は一部が認められるとしても本件の免職処分はその種類程度において著るしく不当である旨主張するけれども、各原告に対する本件処分事由がいずれも懲戒免職を相当とするものであることは処分事由自体及びこれに関する諸事情につき次項に述べるところよりも明らかであり、又、懲戒事由に該当する事実が認められる以上いかなる懲戒処分を以て臨むかは懲戒権者の自由裁量に属する事項であつて司法権による審査の及び得ない領域であるから、懲戒の種類程度に関しては違法の問題は生じないものというべきである。
二、各処分事由の情状に関する被告等の主張並びに本件処分の違法性の根拠として原告等が主張する事実に対する認否等は以下のとおりである。
(一) 雇見習の受験妨害について(別紙〔一〕第一(一)第五(一))
(1) 本処分事由につき原告等が本件処分の違法性の根拠として主張する事実はすべて争う。
(2) 試験の必要と当局の態度
本件試験当時はこのような最高裁判所の通達による選考試験を実施する以外に正規の試験によらないで年功順等によつて雇見習を昇任させる方法はなく、大阪においては全国にさきがけて右選考試験の便法により雇見習の昇進を実現しようとしたのであり、又試験の内容を右通達で定められた学力程度以下に下げることも許されていなかつたのであるから、本件選考試験は適法であるばかりか行政上の配慮においても全く欠けるところはなかつたのである。
全司法として試験による昇任制度自体に反対の意見を持ち、その改正を最高裁判所当局に要求する等は正当な組合活動たり得ようが、大阪の裁判所当局が現行の制度の下で適法にこれを運用して実施しようとする司法行政上の具体的措置(本件試験)に対し、その行政目的の達成を阻害する行動に出ることは、それが仮に平穏な説得的行為によつてであつても既に正当な行動の範囲を逸脱するものである。
(3) 試験実施に対する雇見習の一般的態度
裁判所当局は受験資格者に対し前記のように唯一の便宜的方法により昇進の機会を与えようとする当局の意図を説明して全員がこの機会を逃さぬよう説得し、受験のための講習まで実施したのであり、その上で全員から受験願書が出たのであるから、雇見習達はこの試験の前記のような制度上の意義或いは性格を認識しており、ただ自分一人では他の者の手前受けにくいが他の者が受けるなら自分もこの機会を逃したくない、という大勢順応的な気持で居た者が大多数であつた。従つて、全く雇見習各自の自主性に任したならば結局全員受験という結果に終つたであろうことは明らかである。
(4) 原告福井、同弘岡の行動
雇見習が右のような気持で居た時に、右原告等は処分事由記載のように組合の名で且つ事実を曲げて雇見習に働きかけ、その多くの者の気持を受験拒否に傾かせた。
即ち右原告等は組合の幹部として昭和二十八年七月十一日一部雇見習を中之島公園に集め、その指導、誘導により受験拒否のための結集した行動にこれらの雇見習を組織させた。そしてこれに基く虚言による受験拒否勧誘、ピクニツクにより裁判所の人事行政上の適法な措置が妨害され、これにより多数の雇見習が昇進の機会を逸したのであり、右は実質上受験の強制阻止に等しい。即ち右原告等の行為は強制もしくはこれに類する方法により試験実施を中止させようとしたものであり、それは他面公務員として行政上の秩序を乱すもので全体の奉仕者たるにふさわしくない非行というべきである。而して仮に右原告等の行動が組合の決議の趣旨を逸脱していないとしても、その行動が右のように懲戒事由に該当することに変りはない。
(二) 森口光二に対する暴行について(別紙〔一〕第二(一)第五(二))
本件暴行は、原告小林、同弘岡等が森口に対し、同人が前記のように違法不当な試験ボイコツトの運動に協力しないばかりかスパイ行為をしたのではないかとの疑いを掛け、同人を査問するという空気の下に行われたものである。而してその態様は著るしく同人の人権を侵害するものであつて、組合事務所とはいえ裁判所庁内において行われたものであるから、これを以て一時の喧嘩に等しい行為であるとか全く裁判所の圏外において行われた職務に無関係な行為であるとか看ることができないことは勿論であり、従つて右原告等の行為は全体の奉仕者たるにふさわしくない非行と評価さるべきは当然である。
(三) 無許可欠勤について(別紙〔一〕第一(三)第二(二)第五(三))
本件に関する原告等主張事実中、原告福井が本件欠勤期間中八月三十一日までの分については有給休暇の許可を得ていたこと並びに大阪地方検察庁が思想調査、組合活動の抑圧のための逮捕捜索を行つたことは否認する。本件無許可欠勤につきこれを宥恕すべき事由は存在せず、むしろ右欠勤のみを以てしても原告福井、同小林、同弘岡の懲戒免職の事由とするに十分である。
(四) 長官室における事件について(別紙〔一〕第一(二)第三)
裁判官訴追委員等が調査開始前に会見するとの約束を破つたとの原告等主張は否認する。訴追委員等は午後から全司法の代表者と会見すると約束したに過ぎないから何ら違約は存しなかつたものである。
原告福井、同谷本等が長官室に乱入し訴追委員等に対し罵言を浴びせる等の行為をなしたことによつてきわめて緊迫した事態を生じたことは、居合せた藤田検事が乱入者達を現行犯逮捕する旨宣言したことや高裁の西山事務局長が警察官の出勤を要請したこと等よりしても明白である。而して訴追委員の行う調査につき右原告等が司法部職員として関心を持つていたことや原告谷本が吹田事件の被告人として利害関係があつたとかいうことが、本事件のように上司の命令に背き著るしく職場の秩序を乱した行為を何ら正当化するものではないことはいうまでもないことであるから、本事件は正に公務員たるにふさわしくない非行というべきである。
(五) 原告米虫に対する各処分事由について(別紙〔一〕第四)
(1) 調書不作成問題((一))
原告米虫が本処分事由について本件懲戒処分を違法ならしめる根拠として主張する事実はすべて争う。
同原告の調書不作成はその主張するように出張が重なつたとか努力したが及ばなかつたとかいう宥恕すべき事情に基くものではなく、既に本件処分の一年位前にも高裁事務局長から注意を喚起し、且つ勤務成績不良を理由に何回か昇給停止の処置までとつて反省を求めたにもかかわらず、その後も担当の朝山裁判官の命令を受けながら長期間にわたつて多数の調書を作成しなかつたため、同裁判官の事件の進行に著るしい支障を来たしたものである。
(2) 内灘における事件((二))
原告米虫の主張事実中、激励文を朗読したのが一行の団長である市道治千代であつたこと、同原告が警察官に対し抗議をして来たことにつき村民等に対し報告をしたことは認める。大阪地連執行委員会で右激励文を持つて行くことが決められたことは不知。
同原告は内灘に同行した他の者達と共同して、吉田内閣に反対し(人事院規則一四―七第五項第四号)、国の基地政策の実施を妨害する(同項第六号)という政治的目的を有する文書を接収反対運動をしている村民等に配布し(同規則第六項第十三号)、これを読上げ、且つ前記のように米軍キヤンプ内へ許可なく立入つて警察官に抗議した後、自ら報告演説をして政治的目的を有する意見を多数人に向かつて述べ(同項第十一号)たもので、右は法の禁ずる政治的行為をなしたものにほかならない。
(3) ビラの発行((三))
本件ビラは組合の執行委員会の決議事項を記載したものであるから、原告米虫がその発行を前以て知らなかつたとは考えられない。
仮に、執行委員会の決定した方針等を一般組合員に流すことは日常活動として一々同原告の承諾を事前に得ないで行われており、本件ビラについても同原告は事後承諾を与えたに過ぎないとしても、右ビラの内容たる事項は既に昭和二十八年八月初め頃から執行委員会において論議されていたところで、同原告も右委員会の一員としてこれを承知していたのであるから、本件ビラの如き内容のビラが発行されることは同原告の十分予期していたところというべきである。それ故、たまたま実際のビラの作成、配布が他の者によつてなされたとしても、それは同原告の包括的承認の下に行われたものというべく、人事院規則一四―七第六項第十三号の適用上、右は同原告が直接になした作成、配布と同視されるべきである。
而して本件ビラは吉田内閣に反対し、その即時退陣を求めるため行動を開始し、街頭署名等の運動を展開することを宣明しているもので、かかるビラは前記人事院規則第五項第四号の「特定内閣に反対すること」を目的とする文書にあたり、その発行配布は同規則第六項第十三号に該当するところの違法行為である。
原告米虫は全体の奉仕者たる公務員として一党一派に偏することの許されぬ特別の地位を有するのであるから、当然その行動について一般国民とは異なる一定の制限を受け、仮に吉田内閣が憲法を蹂躙したとしてもこれを理由として同原告の右行為を正当化することはできない。
(六) 原告小林、同弘岡の勤務成績
右原告等の勤務成績が原告等主張のようなものであつたことは争う。仮にそれが原告等主張の如き成績であつたとしても、かかる事実から直ちに本件処分を懲戒権の濫用とすることはできない。
(七) 組合活動のための不利益取扱
本件処分を原告等の組合における正当な行為の故になされた不利益取扱とする根拠として原告等の主張する事実はすべて否認する。本件処分は上述のように原告等の行動が別紙〔一〕記載の各法条に該当するが故になされたものであつて、原告等の組合員としての正当な活動を理由とし、口実を設けてこれを抑圧しようと図つたものではない。
第四、証拠<省略>
理由
第一、原告等に対する懲戒処分及びその事由、本訴の適法性
原告福井、同小林、同米虫がいずれも裁判所書記官補であつて、原告福井は被告大阪地方裁判所、原告小林は大阪簡易裁判所、原告米虫は被告大阪高等裁判所にそれぞれ勤務していたもの、原告谷本は事務雇として大阪簡易裁判所に勤務していたもの、原告弘岡は雇見習として被告大阪高等裁判所に勤務していたものであること、昭和二十八年十月十七日、被告大阪地方裁判所は原告福井、同小林、同谷本に対し、被告大阪高等裁判所は原告米虫、同弘岡に対し、それぞれ裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十二条による懲戒処分として免職の処分をなし、その旨を記載した処分書及び処分説明書が翌十八日各原告に送達されたこと、右処分に対し各原告は昭和二十九年一月八日最高裁判所に対して審査の請求をなしたところ、同裁判所は昭和三十二年十二月二十三日に右各処分を承認する旨の判定をなしたこと、右判定書は同月二十四日過ぎ頃各原告に送達されたこと、右各処分の根拠として認定された事実並びにこれに適用された法条が別紙〔一〕記載の各原告につき第一ないし第五に記載の各事実並びに法条であること、以上については当事者間に争いがない。
右審査の請求は、原告等の処分説明書受領後裁判所職員臨時措置法によつて準用される国家公務員法第九十条所定の三十日の期間を経過した後になされたものであるが、右審査請求につき準用されるものと解される訴願法第八条第三項によれば最高裁判所は右期間経過後においても宥恕すべき事由があると認めた場合には審査請求を受理することができ、その場合宥恕すべき事由があると認めるか否かは同裁判所の自由裁量に属する事項と解せられるところ、同裁判所は前記のように右請求の実体につき審理したうえ原処分を承認する旨の判定をなしたのであるから、この点について他に格別の事情も認められない本件においては同裁判所は右請求につき宥恕すべき事由があると認めたものと解するのが相当であり、又これを自由裁量権の濫用とみるべき特段の事情も認められない。従つて本件審査請求が期間経過後になされたことは適法に宥恕されたものであり、その結果として右承認のあつたことを原告等が知つた日から六月内に提起された本件の訴も適法に提起されたものというべきである。
第二、懲戒事由たる各事実の存否並びにその態様、情状等
一、雇見習の受験妨害(別紙〔一〕第一(一)、第五(一))について
昭和二十八年七月十三日、被告大阪高等裁判所及び同地方裁判所が右両裁判所及び大阪家庭裁判所に勤務している雇見習を対象とする事務雇選考試験を行つたこと、右試験に際し受験資格者の一部が受験しなかつたこと、原告弘岡が試験当日山本晴彦、上原孝子、藤田昌子に対し受験しないよう説得活動を行つたことについては当事者間に争いがない。
いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第九、十号証(西村稔調書又は聴取書)、甲第二号証、乙第二十六号証(平瀬衣子同上)、甲第四号証の一ないし三(松下真児同上)、同第五号証、乙第十四号証(木村喜光同上)、甲第六号証、乙第十三号証(天野周三同上)、同第一ないし第四号証(森田孝行聴取書)(第三号証中、後記措信しない部分を除く)、同第八号証(太田勝三聴取書)、同第十一、十二号証(山本晴彦聴取書)、同第十五乃至第十七号証(松本美奈子聴取書)、同第十八乃至第二十二号証(藤田昌子聴取書)、同第二十三乃至第二十五号証(上原孝子聴取書)、同第二十七号証(塩谷公男聴取書)、同第四十二号証の一、二(西山要調書及び宣誓書)、原本の存在及び成立につき当事者間に争いのない甲第七号証(声明書の写)、文書の方式及び趣旨により真正に成立した公文書と推定される乙第四十四号証の一、二(西山要口述書及び宣誓書)、証人古元秀明、同米田一郎、同天野周三、同市道治千代(後記各措信しない部分を除く)、同西山要の各証言、原告弘岡の本人尋問の結果(後記各措信しない部分を除く)並びに前記当事者間に争いのない事実を綜合すると、次の事実が認められる。
被告大阪地方裁判所及び同大阪高等裁判所には昭和二十八年六月当時年令十八才以上の雇見習が三十数名勤務して居り、両裁判所合せて十七名の雇の欠員があつた。しかして右の欠員は正規の一般公開試験による候補者名簿からは採用し得ない状況にあり、しかも昭和二十四年五月以降雇見習から雇への昇任を行つていなかつたので、右両裁判所は最高裁判所昭和二十八年人任第八九〇号通達に基き、最高裁判所の承認を得たうえ部内者(被告両裁判所及び大阪家庭裁判所に勤務する者)のみを対象とする選考試験を行つて右欠員を補充すると共に雇見習に昇任の機会を与えることとし、昭和二十八年六月三十日右試験の計画を発表した。これによつて右選考試験の実施は同年七月十三日と予定され、右はこの種の試験の実施としては全国各地の裁判所中でも最も早い時期に属していた。(この点につき原告弘岡の本人尋問の結果中右認定に反する部分は、証人西山要の証言に照らし措信できない。)
ところが、当時地裁及び高裁に勤務していた雇見習の間では、右雇見習の大半は二十才以上で中学卒業後七、八年経つているにもかかわらず、右発表されたところによると作文、算数等の科目につき新制高校卒業程度の学力の試験を行うことになつていたため、かかる試験によつて昇任の可否を決せられれば学校卒業後年数を経た古参の者にとつて不利な結果になることが懸念され、又、実際の執務において雇見習は事実上雇と同じ仕事をしているにもかかわらず右のような試験に合格しなければ雇になれないことは不合理であるとの不満が生じた。そこでこの問題につき雇見習達の間では組合役員を混えて屡々会合を行い協議した結果、高裁及び地裁当局に対し、右試験によらない年功順の昇任或いは試験内容の変更等を求めて交渉を行つたが、一方全司法大阪支部でも予てから雇見習の昇任を問題にし、同年六月頃、同支部の夏期闘争期間中の議決、執行機関たる拡大闘争委員会において、受験すると否とは受験資格者の自由意思に任せるが組合としては試験による昇任制度には反対する旨の態度を決定していたので、右のような雇見習の動きに呼応して裁判所当局に対し(イ)組合としては前記のような試験に反対であること、(ロ)試験によらずに古参者から勤務成績の良い順に昇任させるべきであること、(ハ)もし試験実施が止むを得ないとすれば、その内容或いは採点方法につき特に考慮して事実上古参者が優先的に昇任されるように取計らつてもらいたいこと、等を申入れていた。
右のような雇見習及び組合側の申入に対し、裁判所当局は当初からの試験実施の方針を変えず、むしろ当時における任用制度上かかる内容の選考試験を実施するのが正規の試験によらずに雇見習を昇任させるために可能な唯一の方法であつたところから、この事を受験資格者たる雇見習等に周知せしめることにより希望者をして洩れなく受験せしめようとの考えに立ち、高裁西山事務局長が数回にわたり受験資格者を集めて懇談会や説明会を行い、以て右のような試験の趣旨の徹底を図り、又受験準備のための算数の講習会を行うなどして古参の雇見習にも受験の便宜を得させようとした。かくして七月九日の受験申込期限直前に至り、受験資格者中当初から受験を希望しない年長者二名を除く全員三十名が殆んど一斉に受験の申込をした。
かかる間にも雇見習達は受験するか否かについて会合討議を重ねたが、意見は容易に一致しないまま試験の前前日たる七月十一日(土曜日)となり、同日正午頃から高裁会議室で開かれた会合には二十名位の雇見習と一部組合役員等が出席して試験に対する態度につき協議したけれども、依然として受験拒否の意見の者と受験することを主張する者とがあつて、一致した結論は得られずに終つた。そこで、当時組合の拡大闘争委員であつた市道治千代、組合員の原告福井、三根勝等並びに原告弘岡等雇見習七、八名を含む右会合の出席者の一部(合計十四、五名)は、右会合終了後の午後二時頃、大阪市北区中之島公園音楽堂附近に集合のうえ、同所において原告福井等が中心となり試験に臨む対策を協議した結果、(一)受験を拒否する、(二)右協議の場に居合わさない受験資格者達に対しては出席者が手分けして連絡をとり、全員歩調を合せて受験しないことにする、(三)受験拒否の結果の乱れるのを防止するため試験当日の朝八時頃受験資格者は大阪中央郵便局前に集合する、(四)試験当日までに連絡の取れなかつた者には同日試験場と定められている高裁へ受験に来た際に右協議の結果を連絡し、中央郵便局前に集合させる、等の事項を申合せた。而して右会合に出席した者は右申合せに従い、翌十二日に手分けして地裁雇見習西村稔等の家を訪問するなどして右申合せの趣旨を他の雇見習達に連絡した。
一方、十一日夜午後七時頃から地裁刑事裁判官室で開かれた組合の拡大闘争委員会において再び選考試験に対する組合の方針が論議された結果、
(イ) 組合の方針としては右試験の実施にはあくまでも反対する。
(ロ) 試験当日の朝、組合の代表者が高裁長官、高裁事務局長等に対し試験を延期するよう交渉する。
(ハ) 試験当日の朝、組合幹部が受験資格者等に対し組合の方針を説明してなるべく受験しないよう説得に努める。(この点につき乙第三号証の森田孝行の供述中、右認定に反し説得でなく説明であるとする部分は前掲証拠殊に乙第一、二号証に照らしたやすく措信し難く、証人西山要の証言も右認定を覆えすに足りない。)しかし今回の試験を受けるか否かは受験資格者各人の自由意志に任せ、受験の強制阻止はしない。
(ニ) 右説得に従つて受験しなかつた者については組合としてできるだけの救済をする。
等のほぼ従前どおりの方針が決定された。(乙第五号証(森口光二聴取書)中には以上の認定に反する供述が存するが、右は証人森田孝行の証言、乙第二号証等に照らしたやすく措信できない。)
試験当日である同月十三日(月曜日)朝、
(一) 原告福井は、前日前記のように中央郵便局前に集まるよう連絡を受けていたがなお受験する積りでいた前記西村稔が午前八時頃同所へ出頭するや、同人に対し、「皆が一致して試験反対ということになつた。ここに来ていない人は家へ帰つたり始めから出て来ないのだ。」と告げ、よつて同人に全員が受験を拒否したため試験はできないものと思い込ませて帰宅させ、更に右同様連絡を受けて同所に参集した地裁雇見習太田勝三等七名位の受験資格者を引率して阪急電車沿線清荒神へピクニツクに赴き、これらの者をして同日欠勤せしめた。
(二) 原告弘岡は三根勝、田頭和夫と共に、前記十一日の中之島公園における申合せに従い、受験のため登庁して来る雇見習等に受験を放棄させるため高裁正面西寄り入口附近で待受けていたところ、午前八時過ぎ頃高裁雇見習山本晴彦が受験するため登庁して来たので、原告弘岡が同人に対し、「十一日に雇見習が集まつて相談した結果試験を受けないことに決めたから君も今日休んでくれ。会議室に集まつた者は知つているが連絡のつかない者は連絡している。今日全員登庁しないという決定の通知は皆に徹底している。」と告げた。それで前記十一日の高裁会議室における雇見習の会合の模様について何ら知るところのなかつた右山本は、他の者が皆受けないのに自分だけが受験するわけにもいかないと考え、受験を断念してそのまま帰宅した。
その後間もなく(午前八時二十分頃)高裁雇見習の上原孝子が受験の意思で登庁して来たのに対し、右田頭及び三根が「組合は受験しないことに決めた。皆受けないのだから協力して中央郵便局前へ集まつてくれ。」と勧誘し、続いて同じく受験の意思で登庁して来た高裁雇見習藤田昌子に対しては右田頭が、「中央郵便局前へ行つてくれ、皆が集まつているから。」と伝えたので、右二人の雇見習は、まだ試験開始までに時間もあつたところから一応中央郵便局前へ行くことにし、揃つて同所へ赴いた。そこで原告弘岡及び右三根は右藤田、上原を同所において待受け、更に右両名に対し、「組合の決議が変つて全員受験を拒否することになつた。誰も受ける人は居ないのだから受けないでくれ。」と受験放棄を求め、次いで原告弘岡は右両名に受験を放棄させるため両名が裁判所構内に置いて来た所持品を取りに行き、再び中央郵便局前へ戻つて来た際、上原が試験場の様子を訊ねたのに対し、「誰も受験していなかつた。」と告げ、以上の結果右上原及び藤田に組合が受験拒否の決議をしたため何人も受験しないものと誤信させて受験を断念させたうえ、藤田を岡野恵美子等他の受験資格者と共に前記原告福井等の後を追つて清荒神へピクニツクに赴かしめ上原をそのまま帰宅せしめた。
しかしながら、本件選考試験は受験者の集まりが悪いため定刻より三十分遅れたが、同日午前十時から筆記試験が実施され、筆記試験の免除者五名を除く受験申込者二十五名中、十三名が受験した。
上記各措信しない証拠を除き、以上の認定を覆えすに足る証拠はなく、原被告等の主張事実中以上において認定しなかつた点は本件全証拠によつてもこれを認めることができないか又は本件処理上必ずしも認定を要しない事実である。
以上認定した事実において、原告等が受験資格者に対し受験を放棄するよう勧誘、説得したことは、それが純然たる平和的な勧誘ないし説得の域にとどまる限り、たといその結果試験実施の本来の目的を十分達し得ないことが起るとしても、国家公務員法第四十一条に規定する「受験の阻害」乃至同法第三十九条に規定する「人事に関する不法行為」に該当せず(右四十一条の規定する受験の阻害とは、受験の意思ある者に対し何らかの方法により受験することを客観的に不能又は困難ならしめることを謂い、又右三十九条に該当するがためには試験若しくは任用の志望を撤回せしめるにつき脅迫、強制その他これに類する方法を用いる等同条所定の要件を充足せねばならず、単に受験しないよう説得又は勧誘することを含まないと解すべきである)、同法第八十二条第三号の公務員たるにふさわしくない非行にも該当しないというべきであるが、
(一) 原告福井が前示の如く試験当日西村稔に対し、「皆が一致して試験反対ということになつた。ここに来ていない人は家へ帰つたり始めから出て来ないのだ。」と、恰も雇見習全員が既に受験拒否の態度を確定したかの如く事実に反することを告げて同人に受験の意思を放棄させ、又受験資格者が受験を放棄する以上当日は平常どおり出勤すべきものであるにも拘らず太田勝三等の受験資格者を勧誘して出勤することなくピクニツクに赴かしめたのは、(そのうち西村に対する所為は後記(二)の原告弘岡の上原孝子等に対する所為と同様国家公務員法第三十九条に違反し従つて同法第八十二条第一号に該当すると同時に、)公務員関係における秩序維持のために必要な全体の奉仕者としての裁判所職員の義務に違反し、裁判所職員臨時措置法によつて準用される(以下、原則としてこの準用関係についての記述は省略する)国家公務員法第八十二条第三号に該当する所為である。
(二) 原告弘岡が、試験当日山本晴彦に対し受験を拒否するよう勧誘した際、十一日の高裁会議室における会合においては雇見習の意見が分れて結論が出ず、その後一部の雇見習のみが中之島公園に集合して受験拒否を申合せたに過ぎないにも拘らず、前示のように恰も会議室に集まつた雇見習全体の意見として受験拒否の方針が決定されたかの如く事実に反することを告げて同人を欺罔し、その結果同人をして受験の意思を放棄せしめた事実並びに同原告が中央郵便局前において上原孝子及び藤田昌子に対し三根勝と共に組合の決議が変つて全員受験を拒否することになり、誰も受験する者はない旨虚言を用い、以て右上原及び藤田を欺罔して受験を放棄するに至らしめた事実は、国家公務員法第三十九条が不法な手段による任用その他の人事に対する介入を防止し公務員制度における成績主義の原則を確立することを趣旨とする規定であることに鑑みれば、任用に対する競争の中止を実現するため同条にいう「脅迫、強制に類する方法」を用いたものと解すべきである。しかし同原告が上原及び藤田の所持品を裁判所へ取りに行つて戻つた際、上原に対し「誰も受験していなかつた。」と告げた点は、さきに認定したところによれば同原告が裁判所へ行つたのはほぼ試験開始の定刻(午前九時三十分)前後の時刻であつたこと並びに受験者の集まりが悪いため試験開始が定刻よりも三十分遅れたことより判断して、故ら虚言を弄したものとは断じ難い。
従つて別紙〔一〕第五(一)の処分事由に関しては右虚言となし難い点を除けばほぼ処分事由どおりの事実が存したことが認められ、且つそれは(原告福井の場合と同様国家公務員法第八十二条第三号に該当すると同時に、)国家公務員法第八十二条第一号、第三十九条第二号の懲戒事由に該当するというべきである。
二、森口光二に対する暴行(別紙〔一〕第二(一)、第五(二))について
前記選考試験当日森田孝行名義の声明書が配布されたこと、同日午後九時半頃全司法大阪支部書記局に来室した森口光二に対し原告小林、同弘岡が田頭和夫等と共に種々詰問をなした挙句、田頭が多少の暴行に及んだことについては当事者間に争いがない。
前顕甲第七号証、乙第一号証、ないし同第三号証(前記措信しない部分を除く)、同第五号証(前記及び後記の各措信しない部分を除く)、同第四十四号証の一、二、成立に争いのない乙第六、七号証(森口光二聴取書)(いずれも後記の措信しない部分を除く)、同第三十七号証の一、二、(森口光二調書)(第三十七号証の一につき後記措信しない部分を除く)、同第四十、四十一号証の各一、二、(栗本六朗、外村隆の各調書及び宣誓書)、証人山田久一、同市道治千代(後記各措信しない部分を除く)の各証言、原告小林、同弘岡(前記及び後記の各措信しない部分を除く)の各本人尋問の結果並びに右当事者間に争いのない事実を綜合すれば次の事実が認められる。
前記一、の選考試験実施当時全司法大阪支部執行委員長兼拡大闘争委員長であつた森田孝行は、試験が既に開始された試験当日の正午前頃、組合幹部の一部が裁判所庁舎の出入口より受験を希望する雇見習の一部を強制的に他へ連行したとの噂を聞き、右組合幹部の行動は前示の拡大闘争委員会で決定した方針に違反するものであるから組合としての方針をこの際明らかにする必要があると考え、拡大闘争委員高田静雄、大川県四郎と相談の上、森田名義で、「声明書」と題し、本日の試験開始前、組合執行部の受験については雇見習の自由意志に委ねる旨の決定にも拘らず一部の者が受験を強制阻止したことは組合執行部の存在を無視し健全な組合活動を破壊せんとするもので遺憾である、執行部は当初の方針を堅持しているから受験希望者は努めて午後の試験を受けるよう希望する、との趣旨のビラを作成し、その一部を右大川において地裁庁内に配布した。
これに対し、右事実を知つた原告小林、田頭和夫等一部拡大闘争委員は、かえつて右声明書の内容、ことにそれが受験を勧めている点を組合の方針に違背するものとし、この問題について善後策を協議するため、同日夜高裁構内に在る組合書記局において緊急の拡大闘争委員会を開催し、これら拡大闘争委員に同調する原告福井、同小林もこれに同席していた。
ところが、拡大闘争委員である高裁雇森口光二は、予てから受験に反対する組合の方針に対し批判的な見解を抱いていたところから同日は欠勤し、前記声明書に関するいきさつも知らなかつたが、同日午後九時半頃試験実施をめぐるその後の成行を知りたいと考えて右拡大闘争委員会開催中の書記局にやつて来たところ、前記原告等をはじめ書記局に居た者達は、右森口の日頃の試験問題に対する態度や同人が組合の運動方針等について平常森田孝行に同調していたこと等から、森口が右森田等一派に加担して前記声明書を配布し、又同派のスパイとして右原告等受験反対強硬派の様子を探りに来たのではないかと疑い、同人に対し同日欠勤した理由や森田との関係を問い糺した。(この点につき原告弘岡の本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲証拠に照らし又後記のように原告等が長時間にわたり糺問をなし所持品検査等を行つたことに徴して措信し難い。)しかるに森口は名古屋で同日平和連絡会議がありそれに行つて来たため欠勤した等と種々虚言を弄したので、右原告等は益々森口の行動に対する疑惑を深めると共にその虚言に立腹し、更に一時間余にわたり右書記局内で前記事項につき同人を厳しく追求し、同人の所持品をポケツトから出させて検査したりしたが、右書記局内では他に組合の仕事に従事中の者もあつたので、原告小林、同弘岡及び田頭和夫は森口を地裁十八号法廷南側の空地へ連れ出し、その際森口が階段を下りるのを躊躇するや原告小林は後方から森口の頭を突いて下りさせた。而して更に右空地において前記三名で前同様森口を追求したが、同人は相変らず言を左右にして右原告等の期待するような返答をしなかつたので田頭が平手で森口の頬を殴り、同人が逃げようとすると原告弘岡は傍にあつた棕櫚箒を手に取つてこれを妨げ、これにより森口が逃走を断念して地面に四つ這いになつたのに対し原告小林がその襟を取つて引起そうとしているところへ書記局に居た拡大闘争委員の山田久一が様子を見に来たので右原告等は再び書記局へ森口を連れ戻したが、その際原告弘岡は右箒の柄で森口の尻を突いた。その後更に書記局内において翌十四日午前零時ないし同一時頃に至るまで同人に対し前同様の追求或いは譴責がなされた。(乙第五ないし第七号証及び同第三十七号証の一記載の森口光二の供述中には、同人が右原告等三名によつて二度前記空地へ連行され、その都度右空地において右原告等に殴打され、又その前後に書記局内でも右原告両名に殴打された旨の供述が存し、又証人外村隆の証言中、森口が検察庁においてなした本暴行事件に関する供述を内容とする部分にも右の趣旨にやや近い証言がみられるが、乙第一ないし第三号証、証人山田久一の証言、原告小林及び同弘岡の各本人尋問の結果=乙第三号証及び原告弘岡の本人尋問の結果については前記各措信しない部分を除く=を綜合すると、森口光二は平常から相当常軌を逸した虚言ないし誇張傾向のあつた人物であり、又本事件の翌日同人は森田孝行に対し、田頭に空地で殴られ、原告弘岡にも箒で殴られたと述べたが原告小林について殴られた際に同原告に胸倉を取られたと述べているにとどまることが認められ、又この点に関する右乙第五ないし第七号証中の森口の供述自体もやや平板単調で右のように執拗な暴行を受けた者の供述としては幾分首肯し難いものを感じさせるから、これらの事実と前掲各証拠に照らすと、結局右乙第五ないし第七号証中上記認定に反する部分は容易く措信し難い。)
前記各措信し難い証拠を除き、他に上記認定を覆えすに足りる証拠はない。
以上によれば、別紙〔一〕第二(一)及び同第五(二)の処分事由については、暴行、詰問の動機が原告等の側の疑心のみならず森口光二の虚言にも存した点において相当に偶発性を帯びていたこと並びに暴行自体の態様が軽微であつたことの二点において上記認定事実は右処分事由と異なつているが、その余の点についてはほぼ処分事由記載どおりの事実が認められる。而して右認定した原告小林及び同弘岡の所為は、暴行としては比較的軽微であるとはいえ長時間にわたる詰問や所持品検査等の行為を伴つたものであり、又、一には裁判所当局が行つた試験の実施をめぐる職員間の意見の対立にも起因し且つ右原告等の勤務先又はその司法行政上の上級官庁たる高裁構内で起つた事件であるから、公務員関係の秩序維持と全く無関係な私行とは言い難く、国家公務員法第八十二条第三号に規定する全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に該当するものというべきである。
三、無許可欠勤(別紙〔一〕第一(三)、第二(二)、第五(三))について
(イ) 原告福井が昭和二十八年八月十四日から同月十八日までと同月二十一日から同年十月十六日まで
(ロ) 原告小林が同年八月二十二日から十月十七日まで、
(ハ) 原告弘岡が同年八月十七日から十月十七日まで
それぞれ欠勤したことについては当事者間に争いがない。
原告福井は、右のうち昭和二十八年八月中の欠勤については有給休暇の請求をなし上司からその許可を得ていたと主張するが、本件全証拠によるもかかる事実を認めることはできない。
右原告等は本件欠勤が原告等の責に帰すべからざる事由に基くとし、その事由として大阪地方検察庁をはじめとする捜査機関が前記森口光二に対する暴行事件を口実として強制捜査権を濫用し組合内の活動家の思想傾向等暴行事件と無関係な事項を調査し、以て組合活動を不当に抑圧しようとしたと主張するので以下この点につき検討する。
前顕乙第四十、四十一号証の各一、二、成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、同第九号証の一ないし六(押収品目録又は同交付書)、同第十号証(準抗告申立書)、同第十一号証の一ないし四(新聞紙)、乙第三十五号証の一、二(藤田太郎調書及び宣誓書)、同第三十六号証の各一、二(梶彦兵衛証人調顛末書と宣誓書)、同第三十八号証の一、二、同第四十三号証の一、二(前田晃文調書と宣誓書)並びに証人外村隆の証言、原告小林、同弘岡(前記各措信しない部分を除く)の各本人尋問の結果を綜合すると、前記の森口光二に対する暴行事件について昭和二十八年八月二十二日頃その被疑者として田頭和夫、中田四一、原告小林、同弘岡の四名に対する暴力行為等処罰に関する法律違反及び強要を罪名とする逮捕状並びに組合書記局、一部組合員自宅等に対する押収捜索令状が発付され、その直後田頭和夫のみが逮捕されたこと、同人の取調にあたつた検察官が同人に対し日本共産党機関紙「平和と独立」の配布関係を尋ねたこと、右押収捜索令状に基き機関紙、手帳、ノート等相当広汎にわたる組合関係書類等の押収捜索が行われたこと、当時右押収物の一部の還付に関する検察官の処分につき右押収が捜査権の範囲を逸脱すること等を理由とする準抗告が押収を受けた組合員から申立てられたこと、右逮捕状の発付をはじめとして右事件の捜査に関しては当時一部新聞紙上で「赤いリンチ事件」等の見出しの下に大々的に報道されたこと、同年八月二十七日附の大阪新聞には、前記組合書記局において行われた書類等の押収の表向きの理由はリンチ事件の証拠固めとなつているが、手入後某検事はリンチ事件は単なる足掛りに過ぎないと言明した、との趣旨の記事が掲載されたこと、以上の諸事実を認めることができる。しかし一方前記外村の証言によれば、大阪地方検察庁においては犯行の態様、被害者森口の供述、当時の社会情勢等にかんがみ右暴行事件を昇任試験をめぐる組合内の意見対立ひいては組合運営に関する意見対立を原因とするリンチ的事件と判断し、又かかる事件の動機には日本共産党の武力闘争方針等との関連が存するのではないかと考えて同党機関紙「アカハタ」等の新聞雑誌を含む書類の押収を行い、前記のように「平和と独立」の配布関係を調べたものであり、更に被害者、加害者以外に目撃者がないこと、犯行時間が深夜であること、前記のようにリンチ的行為ではないかとの疑いが存したこと、同一組合員間の犯行であること等から被疑者の逮捕を必要と判断したことが認められ、右暴行事件が地検の想定したようなリンチという程の内容を有するものでないことはさきに認定したところから明らかであるが、上記の事情に照らせば検察庁がかかる疑惑を抱き、事件の背後に組合内における政治イデオロギー的対立を推測したことも強ち偏頗な判断とは断じ難く、更に本件の押収、逮捕がいずれも裁判官の発した令状に基いて行われ、従つて一応その必要性についても資料に基く裁判官の判断を経ていることをも併せ考えれば、さきに認定した諸事実を以てしても未だ原告等主張の如き捜査権の濫用を認めるには足りず、その他本件全証拠によつても右主張事実を認めることはできない。
故に別紙〔一〕第一(三)、第二(二)、第五(三)の各処分事由についてはそれぞれ処分事由どおりの事実が存し、右は職務に専念すべき義務(国家公務員法第百一条等)の違反として国家公務員法第八十二条第二号に該当するものである。
四、長官室における事件(別紙〔一〕第一(二)、第三)について
昭和二十八年七月、大阪地裁における吹田騒擾事件の公判中に起つたいわゆる黙祷事件につき下調査を行うため、押谷富三外二名の裁判官訴追委員の一行が同年八月十一日大阪高裁に来庁したこと、これに先立ち全司法大阪支部の拡大闘争委員会では右下調査を行うことは司法権の侵害であるとしてこれに反対する旨の決議をしたこと、原告谷本が右吹田騒擾事件につき起訴されていたこと、同日午後零時十五分頃原告福井、同谷本が高裁長官室に入室し、同二十五分頃同室から退去したことについては当事者間に争いがない。
前顕乙第一号証、同第三号証(前記措信しない部分を除く)、同第四十四号証の一、二、成立に争いのない乙第二十八号証(宮本重男聴取書)、同第二十九号証(谷本幸雄聴取書)、同第三十九号証の一、二(藤田太郎調書と宣誓書)、証人植松元夫、同荒木治夫、同市道治千代(以上三名についてはそれぞれ後記各措信しない部分を除く)、同西山要、同藤田太郎の各証言並びに右当事者間に争いのない事実を綜合すると次の事実が認められる。
組合は前記の決議の後、更に同年八月十日の拡大闘争委員会において、訴追委員が来庁した際、その調査開始の前に面会を求め、調査の中止を要求することに決したので、翌十一日午前十時頃訴追委員等の一行が来庁するや、同じく訴追委員に対し吹田事件担当の裁判官、検察官、弁護人のみならず同事件の被告人等についても調査を行うべきであるとの要求をなすため高裁庁舎内に集まつていた原告谷本(当時休職中)等同事件被告人団及び支援外部団体の者と共に当時の高裁長官安倍恕に対し訴追委員との面会を斡旋するよう申入れ、同長官はこれを訴追委員に取次いだが、訴追委員側は全司法の代表者七名とは下調査終了後午後一時から会うが吹田事件関係者とは会わないと回答し、その旨組合側及び吹田被告人団等に伝達された。ところがこれらの者はこの回答を不満として右訴追委員等が高裁会議室において下調査を開始しようとしているところへ数十人が無断入室し、押谷等訴追委員を取囲んで調査開始前に会見することや吹田事件被告人等とも会見することを強硬に要求し、これを拒む訴追委員等と押問答を重ね、罵言を飛ばす者も現われる状態となつたため、訴追委員等は止むなく合議することを理由として隣接する高裁長官室に入ろうとした。その時たまたま訴追委員の召喚に応じてその調査を受けるために大阪地方検察庁検事藤田太郎が長官室に来合わせたので、これを目撃した組合員或いは吹田事件被告人等の間から同検事の退去を要求する声が挙り、訴追委員等もこれを容れて一応同検事を退室せしめたが、訴追委員等はそれから更に長官室内で協議した結果、さきの方針どおり藤田検事の取調を行つた上で午後一時から全司法の代表者に会うことに決め、その旨を長官室に隣接する高裁総務課事務室内に入室していた一部全司法組合員等に伝達したうえ、再び藤田検事を長官室に入室せしめ、午前十一時十五分頃から同室において同検事の陳述の聴取を開始した。(原告等は訴追委員が組合、被告人団側に対し調査開始前の会見に応ずることを諒承したと主張し、証人植松元夫、同荒木治夫、同市道治千代の各証言中には右主張に副う供述が存するが、右は乙第二十九号証、同第四十四号証の一及び証人西山要の証言に照らし容易く措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。)
ところが右のように訴追委員が既に調査を開始したことを遅れて聞き知つた原告谷本はじめ吹田事件関係者及び原告福井(当時地裁第一刑事部に所属し、吹田事件の立会書記官補であつた)、市道治千代等全司法関係者の一部合計十数名は、訴追委員側がさきに会議室内においてなされた要求に明確に回答を与えることなく調査を開始したことを以て委員側の違約となし、右調査を中止させ且つ委員側に右違約について抗議しようと企て、互いに意を通じたうえ午後零時十五分頃原告谷本を先頭に総務課室側より高裁長官の制止にも拘らずドアを押開けて長官室内へ乱入し、訴追委員等を取囲んだうえ、「どういう根拠に基いて調査をするのか。」と詰問し、押谷委員が「公務執行中だから質問に応じられない。」と答えたのに対し、「売国奴の手先だ。」「即時調査を中止しろ。」等と罵り、高裁長官が再三にわたり室外退去を命じたにも拘らず容易にこれに応じなかつたが、事態の険悪なのを看て前記藤田検事が不退去罪の現行犯として右乱入者を逮捕する旨警告し、更に高裁西山事務局長が警察官の出動を要請するに及んで、午後零時二十五分頃全員室外に退去した。(証人植松元夫、同荒木治夫、同市道治千代の各証言中には、入室に際して制止された点及び長官の退去命令に乱入者達が従わなかつた点につき右認定に反する供述が存するが、乙第三十九号証の一、同第四十四号証の一、証人藤田太郎の証言に照らし右はにわかに措信し難い。)
上記各措信しない証拠を除き、以上の認定を覆えすに足りる証拠はない。
従つて、別紙一第一(二)、第三の処分事由として掲げられたような事実が存したことが認められる。
右原告等は本件訴追委員の調査が司法権の独立を脅やかす不当なものであつたこと等を理由に、本件は懲戒事由たり得ないと主張する。右調査が現に当裁判所に係属中の特定の一事件における訴訟指揮の当否に関して担当裁判官の訴追の可否を検討することを目的とするものであつたことは公知の事実であり、裁判官訴追委員会によるものといえどもかかる時期における調査の実施が司法権の独立を不当に侵害するおそれがあることは原告等主張のとおりであるが、右の如く本件下調査が不当であり、右原告等が裁判所職員或いは吹田騒擾事件被告人としてこれに対し特別な関心或いは利害関係を有し、強硬に反対すべき理由があつたとしても、これを以て直ちに前示のような右原告等の行動を正当化することはできない。又、訴追委員側が調査開始前に会見する旨の約束を破つたとの原告等主張事実が認め難いことも前示のとおりであり、組合並びに吹田事件被告人等が調査開始前の会見を要求したのに対する訴追委員側の回答が右原告等に十分徹底しなかつたのがその回答方法の不手際によるものであつたとしても、組合並びに右被告人側が調査前の面会を要求した際の前示のような強引な遣り方からすれば、この程度の不手際を深く咎めることはできず、従つてかかる点から右原告等の行動を正当化することもまたできない。
以上によれば原告福井及び同谷本はその上司たる高裁長官の居室へ乱入し長官の命令にも拘らず退去せず前記訴追委員等を罵倒したのであるから、原告谷本については休職中の行為であるとはいえ、右が国家公務員法第八十二条第三号所定の公務員関係における秩序を乱し全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に当ることは明白である。
五、原告米虫に対する各処分事由について
(一) 調書不作成問題(別紙〔一〕第四(一))
原告米虫が高裁第四民事部所属の書記官補として別紙〔二〕の一覧表記載の七件の事件につき同表記載の日時場所において同表「証拠調の内容」欄記載のとおり行われた証拠調に立会つたが、その調書が昭和二十八年九月十五日当時いずれも未完成であつたこと、右調書の作成につき同原告所属の部の主任書記官及び朝山裁判長が各一回同原告に対し催促したことについては当事者間に争いがない。
前顕乙第四十四号証の一、二、成立に争いのない乙第四十五号証(磯崎善雄調書)(後記措信しない部分を除く)、証人西山要の証言、原告米虫の本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)並びに右当事者間に争いのない事実を綜合すると、昭和二十七年頃から原告米虫の調書作成が遅れる傾向があり、朝山裁判長はそのため事件の進行にも支障を感じて同原告の配置換を望んでいたこと、昭和二十八年初め頃から同裁判長が同原告に対し時々調書作成を督促することがあつたこと、右高裁第四民事部において裁判長から書記官または書記官補が右のような督促を受けるのは極めて異例なる事態であつたこと、同部における同原告の平素の事務負担量は特に重いとはいえなかつたこと、同原告は執務時間中自席を離れることが多いことや調書作成が遅れること等勤務成績不良のために定期昇給を停止されたこと(同原告の勤務状態が普通であつたとの乙第四十五号証中の磯崎善雄の供述は、同号証中の他の部分及び乙第四十四号証の一に照らし措信できない)、更に同原告の調書不作成が裁判官会議でも問題にされた結果、これについて何らかの措置をとる前提として調書不作成の実情を調べることとなり、その結果判明した未作成調書につき昭和二十八年七月末頃同裁判長から主任書記官を通じ同原告に対し同年八月七日までにこれを作成するよう命じ、その前後にも同裁判長自ら同原告に対し調書作成を促したが、右八月七日の期限までには調書は何ら作成されず、結局別紙〔二〕記載のような証拠調の調書が九月十五日現在未完成となつたこと、右調書未完成の事件中には相当難件で記録も膨大なものもあつたこと、本件の調書未完成の検証は前記民事部の非開廷日に出張して行われたものであること、本件調書未完成のものについてみられるように同一書記官又は書記官補立会の検証が頻繁に行われるのは異例の事態であつたこと、前記の未完成調書の調査は同原告に対しては内密に行われ、作成遅延につき同原告に特に説明弁解の機会は与えられなかつたこと、が認められ、上記措信しないものを除き右認定を覆えすに足りる証拠はない。
同原告は、前記九月十五日当時までには本件未完成調書のうち証人尋問の部分は既に作成していたが、同原告がこれを自己の机の引出しの中に納めて置いた間に事件記録についてのみ内密に調書作成の有無を調査されたと主張し、そのうち右調査が内密に行われたことは前示のとおりであるが、証人尋問調書作成の点については、同原告の本人尋問の結果中にはこれに副う供述も存するけれどもこれを以てしては未だ右主張事実を認めるに足りず、その他本件全証拠によつてもかかる事実を認めることはできない。
更に同原告は本件懲戒処分前の昭和二十八年九月末までにすべての調書の作成を完了したと主張するが本件全証拠によつてもこれを認めるに足りず、ただ乙第四十五号証によれば本件懲戒処分のなされる前後に本件の各調書が完成されたがそれは同原告及び村上書記官の両名によつて完成されたものであることが認められるにとどまる。
以上によれば、原告米虫に別紙〔一〕第四(一)の処分事由のような勤務成績不良、調書不作成等の事実はあつたが、右作成されなかつた調書七通はいずれも昭和二十八年三月二十七日以降同年七月四日までの間に行われた検証並びにこれに伴う証人又は当事者訊問の調書であるところ、右検証のうち五回は五月二十二日から七月四日までの一箇月余の間に実施され、一回を除きすべて二人ないし三人の証人又は当事者訊問を伴うものであつたのであり、かかる検証の異例な集中とこれら検証がその部の非開廷日に行われたことを勘案すれば、本件調書の作成の遅延については相当同情すべき事情があり、たとい長期的にみれば各書記官又は書記官補の事務負担量が平均化される結果同原告の負担が左程過重とはいえないにしても、右の如き出張検証の連続にも拘らず特に臨時的に同原告の事務負担を軽減せしめる処置がとられたような事実も認められない以上、同原告の調書作成が或程度普通の場合より遅延するのは止むを得ないところというべきである。しかし本件調書の不作成期間は証拠調実施後九月十五日現在で短いものでも七十日以上、最も長いものでは百六十日以上に及んでいるのであるから、前記の事情を考慮してもなお、かゝる長期間にわたる遅延を止むを得ないものとはいい難く、更に、同原告の平素の勤務状況が芳しくなかつたこと、再度にわたつて上司の督促を受けながら、なおかつ本件調書を一通も作成しなかつたこと、等前示の諸事情をも考慮に容れると、本件調書不作成が同原告の職務懈怠に基くものであることは明らかで、右は国家公務員法第八十二条第二号の懲戒事由に該当する。
(二) 内灘における事件(別紙〔一〕第四(二))
原告米虫が市道治千代を団長とする全司法大阪地連の役員等の一行に加つて昭和二十八年六月二十七日石川県内灘村へ赴いたこと、現地において試射場接収反対運動を行つている村民等に対し市道が、基地反対の闘い、永久接収反対の内灘の闘いに対する一切の弾圧に抗議し共闘を誓う旨の激励文を朗読したこと、一行が現地において警察官に不当な実力行使ありとし警察側と交渉し、その結果を同原告が地元民等に対し報告したこと、については当事者間に争いがない。
吉田内閣が昭和二十八年六月二日石川県内灘村の米軍試射場用地の接収を無期限に継続する旨の閣議決定をしたこと、これに対して反対運動が活溌化し、その過程において同月上旬から中旬にかけて地元民、支援労働組合員等は実力による試射場の鉄柵の撤去を決議し、試射場内立入りを企てて警察官と乱闘を演じ、或いは現地における政府代表の反対運動説得を実力で阻止しようと企てる等の行動に相次いで出たが、内灘永久接収反対実行委員会等がこれらの行動の中心となつていたこと、は公知の事実である。
成立に争いのない乙第三十一号証(激励文)、同第三十三号証の一、二(広場と題する印刷物)、内灘の写真であることにつき当事者間に争いのない同第三十二号証の二四、証人荒木治夫(前記各措信しない部分を除く)、同矢野恵美子、同森田和三、同市道治千代(前記及び後記の各措信しない部分を除く)、の各証言、原告米虫の本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)並びに右当事者間に争いのない事実及び公知の事実を綜合すると次の事実が認められる。
昭和二十八年六月、新潟市において全司法の全国大会が開催されることになり、大阪地連からも代表として市道治千代、原告米虫等約十名を派遣することになつたが、前記のように当時吉田内閣が石川県内灘村における米軍試射場用地の無期限接収を閣議決定し、これをめぐり地元民及び労働組合等による活溌な反対運動が行われていた折から、地連執行委員会において右代表者等を内灘村に立寄らせ、地連から反対運動を行つている者達への激励文を手交せしめることが決議された。そこで右代表者達は同月二十七日前記のように内灘へ立寄り、三箇所において一行の団長たる市道が坐り込み等により示威運動を行つている地元民等反対運動者達の面前で、大阪地連より内灘永久接収反対実行委員会外二団体に宛てた、大要「日本国民の基地反対の先頭に立ち実力を以て闘つている貴団体に深甚な敬意を表し、激励の挨拶を送る。われわれは基地反対闘争に対する一切の弾圧に断乎抗議し、売国吉田政府打倒、基地反対のため共に最後まで闘うことを誓う。」との趣旨の激励文を朗読手交したが、その際坐り込みを行つていた者達から警備に当つている警察官が乱暴を働いたから抗議してくれとの依頼を受けたので、これを引受けて一行は米軍用地の柵内に立入り、警察官詰所において右の趣旨の抗議を行つて引揚げ、その直後原告米虫は前記坐り込みを行つていた者達に対し抗議をして来たことを報告する演説をなした。(証人市道の証言中には右報告は同原告に限らず一行の者が雑談的に行つたものである旨の供述が存するが、右供述は同原告の本人尋問の結果により右報告中の状況の写真であることが認められる乙第三十二号証の二四に照らし措信し難い。)
右措信しない証拠を除き、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
別紙〔一〕第四(二)の処分事由は、原告米虫が前記市道等と共に前記のような激励文を朗読し、且つそれと同旨の演説をなした、との趣旨と解されるところ、同原告又はその一行の者が右朗読以外にかかる演説をなしたことは本件全証拠によつてもこれを認めることができない。
右処分事由は同原告が市道等と共同して右朗読演説をなした事実を以て懲戒事由としたものと解することができ、以上認定したところによれば同原告は大阪地連の決定に基き同地連名義の前記激励文を内灘へ携行することを委任された市道以下の一行の一員だつたのであるから、右処分事由については演説の点を除きほぼそのとおりの事実の存することが明らかになつたといえる。
而して職員の政治的行為がその職員が自ら実行する場合に限らずひろく他の職員と共同して行う場合にも禁止されることは人事院規則一四―七第二項の規定に照らしても明らかであり、又、公務員の政治的中立性を維持しようとする国家公務員法第百二条並びに右人事院規則の趣旨にかんがみ、同規則第六項第十一号にいう「意見」とは、必ずしもそれを述べる者自身の意見に限らずその者が他の者を代理又は代表して述べる意見をも含むと解すべきであるところ、前示のような内灘反対闘争の実態及び本件激励文の文言、その朗読の際の状況等に照らせば、原告米虫の本件所為は多数の人に接し得る場所において公に政府の決定した米軍基地政策の実施を実力を以て妨害する(右規則第五項第六号)目的を有する意見を述べた(同第六項第十一号)ものとして、裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第百二条第一項に基く裁判所職員に関する臨時措置規則によつて準用されるところの前記人事院規則の各条項に該当するものというべきである。
しかしながら、右人事院規則第六項第十号の規定は示威運動の企画、組織、指導に対する援助を禁ずるもので、単なる示威運動自体の援助を禁ずる趣旨ではないと解すべきところ、本件激励文朗読は、示威運動の援助には該当するとしても右企画等の援助に当るとはいえないから、右規則の条項にも該当しないものといわなければならない。
なお前記激励文の手交原告米虫自身のなした警察官に対する抗議の結果報告の演説については、別紙〔一〕第四(二)の処分事由に明確に記載されていないところであるから、この事由が処分事由の一部をなしているかどうか明かでないのみならず、これが当該示威運動の援助には該当するとしても、いまだその企画、組織、指導のいづれかの援助に当ると解し難いから、この行為もまた前記規則第六項第十号の政治的行為に該当しない。蓋し激励文の手交朗読も右演説も原告米虫等が示威運動の企画者、組織者、指導者等と気脈を通じてなしたものと認めるに足る証拠がないからである。
原告米虫は米軍の日本駐留は憲法第九条に違反し、従つて右駐留米軍の使用に供するため内灘試射場を無期限接収する旨の閣議決定も憲法に違反するから、右接収に反対する意見表明は憲法擁護のための正当な行為である旨主張するのでこの点につき考察する。当時における米軍の日本駐留の法的基礎をなす旧日米安全保障条約(昭和二十七年条約第六号)の内容が憲法第九条第二項に違反するか否かの問題は、右条約がその前文で明らかにしている如くわが国の安全と防衛の確保を主たる目的の一つとし、わが国の存立の基礎に極めて重大な関係を持ち高度の政治性を有するものであるところよりすれば、右条約を締結した内閣及びこれを承認した国会の高度に政治的且つ自由裁量的な判断ひいてはこれら国家の統治機関の存立の基盤をなす主権者たる国民の政治的批判に原則として委ねらるべきものであり、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り純司法的機能を営む司法裁判所の審査にはなじまない性質のものである。このことは違憲であるか否かが前提問題となつている場合であると否とを問わない。ところで憲法第九条はわが国がその平和と安全を維持するため他国に安全保障を求めることを禁ずるものではないと解せられるが、右安全保障条約及びその第三条に基く行政協定の規定によれば右条約に基く米国駐留軍はわが国に指揮、管理権のない外国軍隊であるからわが国自体の戦力ではないのみならず、その駐留の目的とするところは右条約前文及び第一条によれば国際の平和と安全の維持並びに外国からの攻撃に対するわが国の安全と防衛の確保に存するとされているのであるから、その駐留を許容する前記条約が憲法第九条に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは認められない。(最高裁判所昭和三十四年(あ)第七一〇号事件判決=同年十二月十六日=参照)故に右条約に基く米軍の駐留の違憲無効を前提とする原告米虫の前記主張は採用の限りではない。
以上の次第であるから、原告米虫の前記所為は前記人事院規則第六項第十一号に当る限りにおいて国家公務員法第八十二条第一号の懲戒事由に該当するというべきである。
(三) ビラの発行(別紙〔一〕第四(三))
原告米虫が昭和二十八年八月当時全司法大阪支部の情報宣伝部長であつたこと、同月十日右情報宣伝部名義で「政令三二五号事件を有罪とした田中最高裁長官の罷免を要求」と題し、別紙〔三〕のような文言を以て田中最高裁判所長官の罷免、吉田内閣の即時退陣等を要求し、これにつき職場における討議を求め且つ街頭署名を行う旨を記載したビラ(乙第三十四号証)が発行されたことについては当事者間に争いがない。
前顕乙第一号証並びに原告米虫の本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を綜合すると、前記ビラの発行当時大阪支部においては青年部や婦人部等が独自にビラを出すことはあつたが、原則として組合名義で発行するビラは全部情報宣伝部長の手許を通して発行していたこと、前記乙第三十四号証のビラに記載されたような要求をなし、その趣旨を組合員に徹底させることについては同支部拡大闘争委員会において前以て討議のうえ大多数の賛成を得ており、その際には原告米虫も出席してこれに賛成したこと、個々のビラの発行配布は特に拡大闘争委員会の決定を経ることなく行われていたこと、が認められ、以上によれば同原告は仮に自ら直接前記ビラの発行につき手を下さなかつたにせよ前記ビラの発行を予め知り、情報宣伝部長たる自らの責任においてこれを発行せしめたものと推認するのを相当とし、同原告の本人尋問の結果中右認定に反する部分は上記諸事実に照らし容易く措信することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
原告米虫は、本件ビラは全司法大阪支部が吉田内閣の反憲法的政策に対して憲法を擁護し労働者の民主的活動に対する弾圧に反対するという正当な目的の下に現実の政治的弾圧の状況を明らかにし、これにつき組合員が職場内で討議するよう求めるものであるから、かかるビラの発行は人事院規則一四―七第六項第十三号の「政治的目的を有する文書」の発行には当らないと主張するので以下この点につき検討する。
本件ビラはその冒頭において吹田黙祷事件等について論じた後、団規令、破防法、公労法、スト禁止法等弾圧諸法規の即時撤廃以下の数項目の要求事項と並んで以上の事項についての全責任を負う吉田政府の即時退陣を要求する旨を明らかにし、更にかかる要求事項につき職場で討議することを求めるものであつて、組合員に対し討議を求めると共にそれ自体組合として吉田内閣の個々の政策のみならず同内閣そのものに反対する態度を表明しているのであるから、人事院規則一四―七第五項第四号所定の政治的目的に該当し公務員の政治的中立性を害なうものというべきであり、又、仮に同内閣の政策が憲法に違反するとしても、それによつて憲法の基本的秩序が重大な侵害を受け、その存続が危胎に瀕し、通常の法的手段によつては憲法を維持することができないような特段の事情がある場合は格別、しからざる限りこれに対する救済は実定法上の権利保障の手段又は国民の参政権による政治的コントロールによつてなさるべきもので、直ちに実力を用い或いは個々の実定法規に違背するような行動に出でることが正当化されるものではないと解すべきところ、同原告の主張する佐々木裁判官訴追事件等別紙〔三〕のビラ記載の諸事実が右の特段の事情にあたるとは到底いえないし、他に同原告はかかる特段の事情について具体的な主張をしていない。従つて、右ビラの記載内容からこれが組合内部における意見結集の目的を以て発行されたものであることは窺われるにせよ、又仮に同原告の主張する如く右ビラが憲法擁護等の意図を以て発行されたものであるとしても、これを前記「政治的目的を有する文書」に該当せず、その発行は正当な組合の情報宣伝活動であるとすることはできない。
次に同原告は本件ビラが憲法の基本原則に変更を加えることを目的としていないことを理由に本件ビラ発行行為は前記人事院規則第六項第十三号に該当しないことを主張し、右主張は本件ビラの発行につき右規則第五項第五号の適用のあることを前提とするものと察せられるが当裁判所は本件ビラが同項第四号の規定により政治的目的を有するものと判断したものなること前叙の通りであつて原告の右主張は肯定することができない。
従つて別紙〔一〕第四(三)の処分事由についてはこれに相当する事実が存し、且つ右は裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第百二条に基く裁判所職員に関する臨時措置規則によつて準用されるところの前記人事院規則第六項第十三号に該当する政治的行為であるから、国家公務員法第八十二条第一号の懲戒事由に当るというべきである。
六、原告小林、同弘岡の勤務成績について
前顕乙第四十三号証の一、二、原本の存在及び成立に争いのない甲第十二号証の一ないし四、同第十三号証の一、二(同原告等の勤務評定書)を綜合すると、原告小林の勤務成績が本件処分事由たる事実の発生後の時期に関するものを除き「満足すべきもの」と判定されていたこと、原告弘岡の昭和二十七年末までの勤務成績も同様であり、且つ同原告のその頃までの勤務に対する熱意及び人格は上司からも良好と認められていたことを認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。しかし原告弘岡の成績が同種職員中の筆頭に位したとの同原告の主張事実は、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。
第三、国家公務員法第百二条第一項及びこれに基く人事院規則一四―七の効力に関する原告主張について
原告米虫は国家公務員法第百二条第一項は違憲であり従つて右条項及びこれに基く人事院規則一四―七を根拠とする同原告に対する懲戒処分は違法であると主張するので、以下この点について考察する。
裁判官及び裁判官の秘書官を除く裁判所職員(以下、裁判所職員と略称する)の政治運動の制限につき裁判所職員臨時措置法は国家公務員法第百二条第一項を準用し、その際同条項中「人事院規則」とあるのを「最高裁判所規則」と読み替える旨定めているので、これにより裁判所職員は最高裁判所規則で定める政治的行為を禁ぜられることになるが、裁判所職員に関する臨時措置規則(昭和二十七年最高裁判所規則第一号)は裁判所職員について国家公務員法の規定に基く人事院規則の規定を準用しているので、結局裁判所職員は同法第百二条第一項の規定に基く人事院規則一四―七の規定する政治的行為を禁ぜられることになる。
以上によれば、裁判所職員に対し政治活動を制限する直接の法規は前記臨時措置法及び臨時措置規則であつて、国家公務員法第百二条第一項は右臨時措置法によつて一部読み替えの上準用されるに過ぎず、又前記人事院規則も右臨時措置規則によつて準用される結果裁判所職員に対する政治活動の制限の具体的内容をなしているに止まる。従つて、仮に原告米虫の主張するように国家公務員法第百二条第一項が禁止さるべき政治的行為の具体的な定めを人事院規則に委任していることが憲法に違反するとしても、そのことは直ちに裁判所職員に対する前記の如き臨時措置法の定めの違憲を意味せず、むしろ同法が前記国家公務員法の規定を読み替えの上準用することにより裁判所職員に禁ぜらるべき政治的行為の内容を最高裁判所規則の定めるところに委ねていることは、憲法自体がその第七十七条において裁判所の内部規律等につき最高裁判所の規則制定権を認めていることよりして何ら憲法に違反するものではないことが明らかであり、又右臨時措置法に基いて制定された前記臨時措置規則が前記人事院規則の規定を準用していることも、それ自体最高裁判所規則の定めであつて人事院規則に立法の委任をしたものではないから、右人事院規則の制定の根拠たる国家公務員法の規定が違憲であるか否かにかかわりなく有効といわなければならない。
故に前記国家公務員法の規定の違憲無効を理由として原告米虫に対する本件懲戒処分を違法とする同原告の主張は失当である。
第四、各原告に対する懲戒処分の適法性及び相当性
本件各処分事由について、それぞれ処分の根拠とされた法条に該当するような事実が存したことは上述のとおりであるところ、一般に懲戒事由たる事実が存する場合に懲戒処分をなすか否か、又いかなる種類の懲戒処分を選択するかは懲戒権者の自由裁量に属する事項であり、ただその裁量権の行使が社会通念に照らし著るしく相当性を欠く等自由裁量権の濫用と目される場合にのみ処分を違法ならしめるものというべきであるが、前示したところによれば、
一、原告福井に対する本件各処分事由については、ほぼ処分事由とされたとおりの事実が認められ、そのうち
(一) 別紙〔一〕第一(一)の受験妨害の事件については、本件選考試験の実施により、雇見習の昇任に見方によつては不公平とも言える結果を生ずるおそれがあつたことは事実であり、その点で同原告等が試験実施に反対したことには理由がないではないけれども、同原告は単なる受験放棄の説得勧誘に止まらず虚言を用いて雇見習が雇に昇任するための受験の機会を失わしめたのであるからその情状は決して軽くなく、
(二) 同第一(二)の長官室における事件は、高裁長官の制止、命令に違反し裁判所構内で甚しい混乱を惹起したもので公務員として軽視すべからざる非行であつて、しかも同原告は当時吹田騒擾事件の立会書記官補だつたのであるから一層自重すべき立場にあつたにも拘らず敢て本件のような行動に出でたという点でも非難を免れず、
(三) 同第一(三)の無許可欠勤は一箇月以上にわたつたもので、さきに認定したとおり当時森口光二に対する暴行事件の実態が捜査機関或いは新聞紙上においてやや過大に評価されていた事を考慮してもなお、甚しい職務上の義務違反というべきであり、いずれもその内容は相当重大で、右の外同原告につきさきに認定した情状一切を併せ考えても、同原告を免職した本件懲戒処分が著るしく不相当とは認められない。
二、原告小林に対する本件各処分事由中、別紙〔一〕第二(二)の無許可欠勤については処分事由どおりの事実が認められるが、同第二(一)の森口光二に対する暴行については処分事由と前示認定事実との間に右暴行の態様、動機等に関し若干の喰違いが存し、その限度で本件懲戒処分の前提たる処分事由について事実の誤認があつたことは上述のとおりである。しかし、右事実誤認は右処分事由中の基本的事実たる森口に対する一連の暴行の一部分並びにその動機について存するに過ぎず、右暴行があつたこと自体並びにそれが懲戒事由に該当することには影響を及ぼすものではないから、これを以て直ちに本件懲戒処分を違法とすることはできず、又、前示認定に基く本件処分事由とされた事実並びに同原告の勤務成績等の情状を全体として考察してみても、右事実中には原告福井につき前述したところと同様一箇月以上に及ぶ無許可欠勤という重大な職務上の義務違反が含まれているのであるから、本件免職処分が社会通念に照らし著るしく不相当であるとはいえない。
三、原告谷本につきほぼ別紙〔一〕第三の処分事由どおりの事実が存したことは前示のとおりで、右事実が公務員として重大な非行であることも原告福井について前述したとおりであるところ、原告谷本は右の事件における中心的人物であつたのであるから、同原告が吹田騒擾事件の被告人として裁判官訴追委員の行う下調査に特別の利害関係を有していたこと等前示の諸事情を考慮に容れても、本件免職処分が社会通念に照らし著るしく不相当であるとはいえない。
四、原告米虫に対する本件各処分事由については、別紙〔一〕第四(二)の内灘における事件中の演説の点を除き、ほぼ処分事由とされたとおりの事実が認められるところ、右演説の点は激励文朗読と共に同一機会における一連の行為されたものの一部分の認定に誤りがあつたに止まるから、直ちに処分の違法を来たすものではないと解せられる。
又、別紙〔一〕第四(一)の調書不作成につき処分に先立つて特に同原告に弁解の機会を与えなかつたことが妥当でないとしても、そのために直ちに本件処分が公正を欠き国家公務員法第七十四条第一項に違反するとも言い難い。
右内灘における事件につき被告高裁は原告米虫の激励文朗読の所為に対して人事院規則一四―七第六項第十一号のみならず同項第十号をも適用したのであるが、右が法令の解釈適用を誤まつたものであることは既述のとおりである。しかし、一般にそれぞれ独立してでも一定の行政処分の要件事実を構成し得る数個の事由に基いて一個の処分がなされた場合に、その事由中の一つが処分事由として不適法であることが判明したときは、直ちにその処分が違法とされるのではなく、適法な処分事由と不適法とされた処分事由との軽重を比較し、仮にその適法な処分事由のみからでもやはり同じその処分がなされたであろうとの蓋然性が極めて高いと認められる場合には、右処分は個々の処分事由との関係では部分的に違法を内在せしめながら処分自体としてはなお適法とされると解するのを相当とする。これを本件についてみるに、右は激励文朗読という一個の行為を政治的意見の陳述及び示威運動の援助という二つの側面からそれぞれ法の禁ずる政治的行為として評価したその一方の評価を誤まつたに止まるから誤りの存した点は独立した処分事由としての価値は左程高くないのみならず、その余の適法に同原告に対する処分事由とされた事実とその軽重を比較してみると、右誤まつた法令適用が当初からなされなかつた場合にも本件の如き懲戒処分が行われたであろう蓋然性は極めて高いといい得る。従つて右の瑕疵は全体としての本件処分を違法ならしめるものではない。
而して前記調書不作成についてやや同原告に同情すべき点も存すること前記のとおりであるが、これを含め各処分事由につきさきに認定した事情一切を綜合勘案すれば、同原告に対する本件免職処分は社会通念に照らし著るしく不相当であるとは言い難い。
五、原告弘岡に対する本件各処分事由中、別紙〔一〕第五(一)の受験妨害について、同原告が上原孝子等の所持品を裁判所へ取りに行つて戻つた際、同女に対し虚偽の事実を述べたとの点は認め難いこと、同第五(二)の暴行の動機態様についても処分事由における認定に一部誤りがあつたことは前示のとおりであるが、右の各事実誤認が直ちに本件処分の違法を来たすものでないことは原告小林に対する暴行の処分事由に関して前述したところと同様である。
而して右誤認の部分を除いても、本件受験妨害が重大な違法行為と言い得るものであることは原告福井について前述したところと同様であり、且つ別紙〔一〕第五(三)の処分事由についてはそのとおりの事実が認められ、右は約二箇月にわたる無許可欠勤という重大な職務上の義務違反であるから、前示認定に基く原告弘岡に対する処分事由の全体並びに同原告の平素の勤務成績等の情状一切と対比しても本件免職処分が社会通念に照らし著るしく相当性を欠くとは言い難い。
第五、本件懲戒処分が国家公務員法第九十八条第三項に違反するとの原告等主張について
原告等は、本件処分は原告等が正当な組合活動をしたためになされた不利益取扱であると主張するので、以下これについて検討する。
前顕乙第四十四号証の一、二、並びに原告小林、同米虫の各本人尋問の結果によれば、原告小林、同米虫は昭和二十八年六月以降全司法大阪支部拡大闘争委員の地位にあり、且つ原告米虫は大阪地連財政部長を兼ねていたことが認められ、又同原告が同時に大阪支部情報宣伝部長でもあつたことは前示のとおりである。更に、原告等がいずれも活溌な組合活動家であつたことは上記第二、一ないし五の各項に認定した事実から推認し得るところであつて、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
しかしながら、最高裁判所及び被告等が全司法の事実上の解散又は弱体化を企図し、原告等の正当な組合活動自体を嫌悪して原告等を裁判所から排除するために懲戒に藉口して本件処分を行つた旨の原告等主張事実は本件全証拠によつてもこれを認めることができず、昭和二十九年三月頃最高裁判所がいわゆる四号調整問題を提起したことを以て直に右事実の証左とすることもできない。かえつて、本件処分事由として掲げられた事実との間に多少の差異があるとはいえ各原告につき懲戒処分に付さるべく、又免職を必ずしも不相当としないような事由が存したことは上記のとおりである。
故に右主張事実を前提とする原告等の前記主張は理由がない。
第六、結論
以上のとおりであるから、原告等に対する本件各懲戒処分はいずれも懲戒事由に該当する事実に基いて適法になされたものであり、これについて懲戒権の濫用にわたるような事情もしくは正当な組合活動を処分の理由としたような事実は認められない。よつて原告等の本訴請求はいずれも理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条第九十三条によりこれを原告等に負担せしめることとして主文のとおり判決する。
(裁判官 宅間達彦 安芸保寿 加茂紀久男)
別紙〔一〕(懲戒処分事由並びに適用法条)
第一、(原告福井弘)
福井弘は昭和二十二年五月十九日大阪地方裁判所雇を命ぜられ、同年六月三十日裁判所事務官に任命せられ同裁判所書記に補せられ、昭和二十四年七月一日裁判所書記官補を兼ね、同月三十日以降は書記官補に専任せられ昭和二十七年七月所謂吹田騒擾事件が起訴せられるや同裁判所第一刑事部書記官補として右事件等を担当していたものであるが、
(一) 昭和二十八年七月大阪高等裁判所及び大阪地方裁判所で行われた両裁判所及び大阪家庭裁判所の雇見習を対象とする事務雇選考試験に際し、全司法職員労働組合大阪支部(以下組合と略称)の夏期闘争期間における議決及び執行の機関として組織されていた拡大闘争委員会(以下拡闘と略称)においても、組合としては「右試験の実施には反対するが、試験実施の場合受験するかどうかは受験資格者の自由意思に任せ、受験の阻止はしない」旨の決議がせられ、筆記試験の前々日である同月十一日夜の拡闘においてもこの方針が確認せられ、ただ十三日の試験当日に組合の幹部が試験場前その他で受験者に対し更に試験制度に対する組合の根本方針を説明し、受験の拒否が結局組合員の利益となる旨の最後の説得をすることを決定したに過ぎないものであるのに、この組合決定の線を超え、前記十一日夜の拡闘委員会の数時間前である同日午後二時頃、後に拡闘委員長となつた市道治千代、大阪高等裁判所休職雇三根勝等組合幹部の一部、同裁判所雇見習弘岡経樹等受験資格者の一部と共に大阪市北区中之島公園音楽堂附近に会合し、福井弘において市道治千代と共に右会合における協議を指導して、筆記試験当日、いずれも当日受験するか、そうでなければ平常通り勤務すべき立場にある受験資格者を大阪中央郵便局前に集合させ、共に郊外ピクニツクを催し、これにより試験反対運動の実効を収めようとの申合せをなすに至らしめ、右会合員等をして各自分担して私宅訪問等の方法によりこれを受験資格者に連絡せしめ、同月十三日午前中大阪地方裁判所雇見習太田勝三等十名の雇見習を右中央郵便局前に参集させ、自らその第一班ともいうべき太田等約六名の雇見習を引率し、またその第二班ともいうべき同裁判所雇見習岡野恵美子等三名の受験資格者を後刻これに参加させ、共に阪急沿線清荒神にピクニツクを催し右雇見習等をして受験を放棄させると共に右郵便局前に参集した同裁判所雇見習西村稔に対し、「皆が一致して試験に反対することになつた。此処に集まつていない人もあるが、それは既に家に帰つたり或いは初めから家に居て出て来ないからだ。共にピクニツクに参加しないか」等と誘い、同人をしてそのまま帰宅させて受験を放棄させ、
(二) 吹田騒擾事件公判における所謂黙祷事件が裁判官訴追委員会の問題とするところとなり、昭和二十八年八月十一日同委員押谷富三外二委員がその下調べをすべく大阪高等裁判所に来庁するや、拡闘においても右取調を以て司法権を侵害するものとしてこれに反対し、委員に面談を申入れ、委員においても拡闘選定の代表者七名とは同日午後一時面談すべきことを約していたものであるが、福井弘はなお委員が調査前の面談に応ぜず調査を開始したことを不満として、自ら吹田事件の係書記官補たる立場にあることをも顧みず、拡闘委員長市道治千代、同事件被告人たる谷本幸雄外数名の吹田事件被告人らと共に恣に同日午後零時十五分頃突如訴追委員が藤田検事につき取調中の大阪高等裁判所長官室に同裁判所事務局総務課室を経て同室より長官室への入口ドアを排して乱入し、谷本、福井、市道が主となつて訴追委員に対し、調査の不当を叫び、質問に応ぜよと迫り、委員が「公務中故質問には応ぜられぬ」と述べるや、「売国奴だ」「アメリカの手先だ」等と罵り、高裁長官よりの退去命令にも拘らず同二十五分頃まで同室を退去せず、
(三) 休暇の承認もなく、また何等正当の事由もないのに昭和二十八年八月十四日より同月十八日まで及び同月二十一日以降は同年十月三日に至るも出勤せず、職務上の義務に違背した
ものである。
適用法案 右(一)、(二)の事実につき裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十二条第三号
右(三)の事実につき裁判所職員臨時措置法、同法第八十二条第二号
第二、(原告小林健二)
小林健二は昭和二十三年十二月十四日大阪地方裁判所雇を命ぜられ、昭和二十四年二月二十八日裁判所事務官に任命せられ、同年四月十八日大阪簡易裁判所勤務、同裁判所書記に補せられ、同年七月一日裁判所書記官補を兼ね、同月三十日書記官補に専任せられたものであるが、
(一) 前記事務雇選考試験に際し、前記のように試験当日組合員の一部が分派行動をとり、一部受験資格者を大阪中央郵便局前に集合させ何処かへ連行した事実が発生し、この事実を知つた当時の拡闘委員長森田孝行はこれに憤激して同日拡闘委員高田静雄、大川県四郎と相談の上、一部組合員の受験強制阻止の行動は洵に遺憾であり、これらは全く組合執行部の決議を無視し、執行部を破壊せんとするものである、受験資格者は努めて受験することを希望するとの趣旨を記載した声明書を作成し、その一部は同日大阪地方裁判所の庁内に配布せられた。ところが右声明書の配布を知りこれに反対の拡闘委員等即ち小林健二の外、福井弘、田頭和夫、弘岡経樹、市道治千代等十数名は同日夜大阪高等裁判所庁内の組合事務室に参集してその対策を協議していたが、同夜九時半頃たまたま従来右森田等と行動を共にしていた大阪高等裁判所雇森口光二(当時拡闘委員)がこの間の事情を全く知らずして来室した。
ここにおいて右委員等は森口をスパイとして種々詰問を重ねたが、その間小林、田頭等は右事務室及びその階下の地上で数回に亘り森口の頬等を平手で殴打する等の暴行を加え、翌十四日午前一時過頃になつて漸く同人を解放し、
(二) 休暇の承認もなく、また何等正当の事由もないのに、昭和二十八年八月二十二日以降は同年十月三日に至るも出勤せず、職務上の義務に違反し
たものである。
適用法条 右(一)の事実につき裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十二条第三号
右(二)の事実につき裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十二条第二号
第三、(原告谷本幸雄)
谷本幸雄は昭和二十四年一月三十一日大阪簡易裁判所雇を命ぜられ同裁判所に勤務していたところ、所謂吹田騒擾事件で起訴せられ、昭和二十七年七月十六日休職処分に付せられたものであるが、前記(第一(二))のように裁判官訴追委員会委員の来阪に際し、訴追委員が右事件の公判中の出来事を調査するのに、ただ裁判官、検察官、弁護士のみを取調べ、被告人についてもその取調をしないことを不当とし、訴追委員に面談を申入れたが同委員においてこれに応ぜず取調に着手したことを不満として昭和二十八年八月十一日午後零時十五分頃福井弘等と共に自ら先頭に立ち前記の如く高裁長官室に乱入し、長官の退去命令をも顧みず同二十五分頃まで同室を退去しなかつたものである。
適用法条 裁判所職員臨時措置法、国家公務員法第八十二条第三号
第四、(原告米虫寛)
米虫寛は昭和二十年九月十九日大阪控訴院雇を命ぜられ、昭和二十二年六月三十日裁判所事務官に任命せられ大阪高等裁判所書記に補せられ、昭和二十四年七月一日裁判所書記官補となり、大阪高等裁判所に勤務するものであるが、
(一) 上司から度々注意を与えられたにもかかわらず予てから勤務成績が挙らず、調書の作成の遅延することもしばしばあつて昇給も同僚に比し遅れていたところ、大阪高等裁判所第四民事部の書記官補として別紙〔二〕の一覧表記載の七件の事件について同表記載の日時場所において同表「証拠調の内容」欄記載のとおり行われた証拠調に立会つたが、その調書の作成を怠つていた。そこで朝山裁判長は昭和二十八年七月二十九日同民事部主任書記官を介して米虫に対し同年八月七日までに調書を作成すべきことを命じたが尚作成されないので、同年八月十日同裁判長自ら米虫に対し調書作成を促したところ、同人は同月末迄にこれを作成する旨言明しながら同年九月十五日に至るも右のうち一件の調書も作成せず、その職務上の義務に違反し、
(二) 全国司法部職員労働組合大阪支部の執行委員、情報宣伝部長、拡大闘争委員の地位にあるところ、拡大闘争委員市道治千代等右労働組合員約十名と共に同年六月二十七日石川県内灘村において、同月二日閣議で決定された内灘試射場接収を妨げる目的を以て、接収反対の示威運動を行つて試射場附近で坐り込み中の約九十名の村民に対し、組合旗二本を立て、「基地反対の闘い、永久接収反対の内灘の闘いに対する一切の弾圧に抗議し共闘を誓う」旨の激励文を朗読演説して示威運動を援助し、且つ公に政治的目的を有する意見を述べ、
(三) 前記のとおり情報宣伝部長その他の組合役員であるところ、同年八月十日全司法大阪支部情宣部名義で、「政令三二五号事件を有罪とした田中最高裁長官の罷免を要求」と題し、吉田内閣の即時退陣等を要求しこれがため街頭署名を行う旨の政治的目的を有する別紙〔三〕のような文言のビラを発行し
たものである。
適用法条 (一)ないし(三)の事実を通じ 裁判所職員臨時措置法
(二)、(三)の事実につき 裁判所職員に関する臨時措置規則
(一)の事実につき 国家公務員法第八十二条第二号
(二)の事実につき 同法第八十二条第一号、第百二条、人事院規則一四―七第六項第十、十一号
(三)の事実につき 国家公務員法第八十二条第一号、第百二条、人事院規則一四―七第六項第十三号
第五、(原告弘岡経樹)
弘岡経樹は昭和二十四年十二月一日大阪高等裁判所給仕を命ぜられ、昭和二十六年七月一日同裁判所雇見習を命ぜられ同裁判所事務局民事訟廷課に勤務するものであるが、
(一) 大阪高等裁判所、同地方裁判所においては昭和二十八年六月現在における雇の欠員十七名を補充するため両裁判所及び大阪家庭裁判所勤務の雇見習に対し最高裁判所人任第八九〇号通達二の2による事務雇選考試験を合同して行うことにし、同年六月三十日右試験の計画を公表したところ、全国司法部職員労働組合大阪支部の夏期闘争期間における組合の決議及び執行機関として組織せられている拡大闘争委員会においては、組合として今回の試験実施には反対するが試験が実施せられた場合受験資格者が受験することはその自由意思に任せこれを阻止するようなことはしない趣旨の決議がなされ、組合から裁判所当局に対ししばしば右試験実施に関し強硬な反対意見の申入がなされた。ところが組合の試験実施反対という方針にもかかわらず各受験資格者に対し裁判所当局からは受験勧告もあつて受験資格者の大多数は裁判所当局に対し受験願書を提出して受験の意思を表明し、組合の試験実施反対運動はもはやその実効を収めることが殆ど不可能な状態に立ち到つた。
ここにおいて組合の従来の運動方針では手緩しとして、拡大闘争委員の市道治千代等、右委員でない組合員の福井弘、三根勝及び弘岡経樹等受験資格者の一部の者は、同年七月十一日午後大阪市内中之島公園に集まり、受験を拒否する者は試験当日午前八時大阪中央郵便局前に集合すべく、なお受験資格者の私宅を訪ねて受験拒否を勧誘することを申し合わせた。しかし同日夜大阪地方裁判所庁舎内において拡大闘争委員会が開かれ受験を阻止するかどうかについて論争がなされたが、組合の当初の方針は変更せられるに至らなかつた。
弘岡経樹は、三根勝と共に試験当日の七月十三日朝登庁する志願者を大阪高等裁判所正面西入口附近で待ち受け試験の志望を撤回させようとし、
(1) 同日午前八時前頃右同所で志願者の同高等裁判所雇見習山本晴彦に対し、弘岡、三根において、「十一日雇見習の会議があつて全員受験しないことを決議の趣旨は全員に徹底しており、全員受験しない。」旨虚偽の事実を申し向け山本にその旨誤信させて試験を放棄させ、
(2) 同日午前八時過頃右同所で志願者の同高等裁判所雇見習上原孝子に対し、三根、田頭において、受験拒否に組合の決議が変更せられたことや、志願者全員が受験しないような事実はないのにかかわらず、「昨日殆どの雇見習の家に行つて組合は受験をしないことに決めたことを告げたところ皆これに協力することを承知したから全員受験しない、受験に来たのはあなただけだ。受験をやめて直ぐ志願者の集まつている大阪中央郵便局前に集合せられたい」旨申し向け、引き続いて右同所で志願者の同高等裁判所雇見習藤田昌子に対し、「直ぐ志願者の集まつている大阪中央郵便局前に集合せられたい」旨申し向け、両名を右郵便局前に誘い出し、同日午前九時頃右同所において弘岡、三根は上原、藤田に対し、「組合は全員受験拒否の決議をしたから受験を拒否して欲しい」と申し向け、更に弘岡が裁判所から上原、藤田の所持品を持つて右同所に引き返した際上原の質問に対し、「誰も受験していなかつた」旨虚偽の事実を申し向け、上原、藤田に組合が受験拒否の決議をし、何人も受験しないものと誤信させて受験を放棄させ、更に弘岡、三根は上原、藤田を他の受験しなかつた者と共に阪急宝塚線沿線清荒神へピクニツクに同行し、
(二) 拡大闘争委員会委員長森田孝行は同年七月十三日、同日の試験について組合員の一部の急進分子が拡大闘争委員会の決議を無視して受験を阻止する行動に出た結果志願者三十名中受験しなかつた者が十二名の多数に達したことを知り、同委員高田静雄、同大川県四郎と協議の上、組合員の一部の者が受験希望者の意志に反し強制阻止の挙に出たのは組合の決議を無視したものである旨の森田委員長名義の声明書を作成し配付しようとしたところ、これを知つた組合の急進分子は右声明書全部を回収し、同夜裁判所庁舎内組合事務室に集合しその対策を協議していた。拡大闘争委員の一人である森口光二はこの間の事情を全く知らないで同日午後九時半頃組合事務所を訪れたところ、福井弘は右声明書は森田、森口、大川等穏健分子が裁判所側と通じて行つた裏切行為であると想像していたので、市道治千代、小林健二、弘岡経樹、田頭和夫その他五、六名の面前で森口に対し、「お前はスパイだろう。今日何故休んだ。」と詰問し、小林は「スパイだろう、言え。」と言いながら平手で数回森口の頬を殴打したのを始めとして、右事務室内及び階下中庭において小林、弘岡、田頭は平手で森口の頬を殴り或いは箒の柄で森口の尻を殴打する等の暴行を加え、その間森口の所持品検査を行う等して詰問を続け、翌十四日午前一時過ぎに至り、
(三) 弘岡経樹は休暇の承認を得ることなく、何等正当の事由なくして同年八月十七日以降十月十五日に至るも出勤せず、その職務上の義務に違反し
たものである。
適用法条 (一)ないし(三)の事実を通じ 裁判所職員臨時措置法
(一)の事実につき 国家公務員法第八十二条第一号、第三十九条第二号
(二)の事実につき 同法第八十二条第三号
(三)の事実につき 同法第八十二条第二号
(別紙〔二〕省略)
別紙〔三〕
政令三二五号事件を有罪とした田中最高裁長官の罷免を要求
「民主主義を守る闘いへ」
吹田事件公判で被告人等は朝鮮休戦を祝つて拍手と犠牲者に対する黙祷をした。検事は“法廷の権威を害するものだ”と禁止を要求した。
佐々木裁判長は「日本の軍事基地化反対朝鮮戦争反対の闘いをやつたと主張している被告人等が朝鮮休戦を祝つて拍手と黙祷をするのは人間性の発露だ」と検事の要求をしりぞけ被告人等の行動の自由とその基本的人権をまもつた。
日本は平和と独立をねがい朝鮮休戦を心から祝つた。裁判所でも憲法を守り基本的人権をまもろうとする多くの良心のある裁判官たちは政令三二五号違反の公訴に対し無効の判決をした。これは国民感情と一致し日本国民の勝利の第一歩である。
検察当局は最高検佐藤検事総長を先頭として佐々木裁判長にくつてかかつている。
読売新聞もこれに一役買つている。彼等が占領法規並に占領制度に基いて制定された弾圧諸法規(団規令、破防法、公労法、スト規制法)によつて日本国民の自由と民主主義を奪いアメリカの占領制度にしばりつけようとして焦つていることは明らかである。平和と独立をねがう国民感情と真正面から対決できず、“法廷の権威を害した”とこじつけて攻撃してきているのは弱さである。
このような無法な暴圧は断じて許せない。
われわれは日本国民の完全な主権と自由、民主主義を守るため全国民と共に闘うことを声明し、次のことを要求する。
一、一切の占領法規並びに占領法規に基いて制定された弾圧諸法規(団規令、破防法、公労法、スト禁止法など)の即時撤廃
一、政令三二五号無効判決に反対した最高裁長官田中耕太郎氏はじめ霜山、本村、斉藤三裁判官の即時罷免
一、犬養法相、佐藤検事総長並びに三二五号違反で起訴した全検事の即時罷免
一、政令三二五号違反事件に有罪の判決を下した全裁判官の即時罷免
一、これについての全責任を負う吉田政府の即時退陣
以上の事は職場で討議されることをお願いします。
全大阪の闘いへ行動を開始
大阪支部は右の要求を全大阪の各労組に訴えて八月十一日、法務委員会に抗議するように要請し、全大阪の国民の闘いとする行動を開始し、街頭署名を行う。
全司法大阪支部情宣部 8月10日