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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)1524号 判決 1960年12月01日

被告 兵庫相互銀行

事実

原告ら訴訟代理人は「被告ら両名は連帯して原告長瀬順之助に対し金六三〇、四〇〇円同長瀬光枝に対し金一一二、〇〇〇円及び右各金員に対する昭和三四年四月二三日からその各支払済に至るまでの各年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のように述べた。

「一、被告Mは昭和二六年八月頃まで被告銀行今里支店の、同月頃より同三二年四月頃まで同銀行大阪支店の各支店長代理として勤務していたが、今里支店長代理をしていた頃、被告銀行H専務の甥であると偽称して、同支店の得意先である訴外Kから昭和三二年一月二五日を弁済期日として金六〇〇、〇〇〇円を借り受けたことがあり、そのことを知つたH専務は銀行の信用に関する問題として当時同支店支店長であつた訴外Oを通じて同被告に早急に解決するよう要望した。

二、被告Mは右借受金の弁済期日が迫つたが他に金策の途もないので被告銀行今里支店から右弁済のための六〇〇、〇〇〇円を借受けようと考えそのための担保を必要とすることから、昭和三二年一月二四日頃、原告X1の内縁の夫である部下の訴外Iに対し、内心では右借受金六〇〇、〇〇〇円のための担保として被告銀行今里支店に差し入れるつもりであるにも拘らず、表面は「自分が今里支店に勤務していた当時無担保で六〇〇、〇〇〇円を貸付けたことがあるが、近く本店の監査があつて発覚すると具合が悪いので監査が済めば直ちに返すからそれまで数日の間担保にするため株券を貸してほしい」と、粉飾した虚偽の事実を告げて同人をしてその旨誤信せしめたうえ、同日、同人とともに原告X1の父である同X2方へ赴き、Iの口添えを得て原告X2に対し右同様に偽りをいつて、同人をしてその旨誤信せしめ、その所有にかかる日立造船株式会社株券三〇〇〇株関西電力株式会社株券四〇〇株の交付を受けてこれを騙取し、Iをして原告X1に対し右同様の理由を告げさせてその旨誤信せしめ、翌二五日頃、Iを介して、日本電池株式会社株券五〇〇株、日本鉱業株式会社株券五〇〇株(以下、前述日立造船株三〇〇〇株、及び関西電力株四〇〇株とともに本件株券という)の交付を受けてこれを騙取し、同日これら本件株券を被告銀行今里支店に担保として差し入れて、同支店より金六〇〇、〇〇〇円を借受けた。

三、原告らは、被告Mの右不法行為によつて、それぞれ右株券を騙取されその所有権を喪失して、原告X2は金六三〇、四〇〇円、同X1は金一一二、〇〇〇円各相当の損害をそれぞれ蒙つた。

四、右不法行為は被告銀行大阪支店長代理である被告Mが原告らに対し、「自分の前任地である同銀行今里支店に近々本店の監査があるが、同支店在任当時、同被告がなした担保無しの貸付がわかると具合が悪いので監査の間担保を差し入れてあるように見せる必要があるから数日の間だけ株券を借りたい」と申向け原告らを欺罔して本件株券を騙取したものであり、しかも前に述べたように被告Mが本件株券を必要としたのは、Kから借受けている金六〇〇、〇〇〇円の返済を被告銀行H専務から強く要望されたためであつて、従つて右は被告銀行の従業員たる被告三木五郎がその職務の執行に当り与えた損害であるから、被告銀行は使用者として、被告Mと連帯して右損害を賠償する責任を負うものである。

五、よつて原告らは被告らに対し、原告X2に、右不法行為による損害金六三〇、四〇〇円、同X1に同不法行為による損害金一一二、〇〇〇円及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和三四年四月二三日より各支払済に至るまで各法定利率年五分の割合による金員を連帯して支払うべきことを求める」と述べ、

被告銀行訴訟代理人は「原告らの被告銀行に対する請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの連帯負担とする」との判決を求め、答弁として、次のように述べた。

「原告らの請求原因事実中、被告Mが、昭和二六年一月頃から同三一年八月頃まで被告銀行今里支店の、同月頃より同三二年四月頃まで同銀行大阪支店の各支店長代理として勤務していたこと、同被告がKから六〇〇、〇〇〇円を借受けたことについて被告銀行H専務がO今里支店長を通じて早急に解決するように要望したこと、及び被告Mが右借受金を返済するのに被告銀行今里支店から、本件株券を担保に差し入れて金六〇〇、〇〇〇円を借り受け、被告銀行は現に右株券を占有していることは認めるがその余の事実は知らない。かりに原告ら主張の事実が全て認められるとしても、当時被告銀行大阪支店の支店長代理であつた被告Mが同銀行今里支店の本店監査に対して同支店の無担保貸付をつくろうために見せ担保をつくることはいかなる意味においても民法七一五条にいう事業の執行に関するものでない。」

理由

原告らの被告銀行に対する請求についての判断。

被告Mが昭和二六年一月頃から同三一年八月頃まで被告銀行今里支店の、同月頃より同三二年四月頃まで同銀行大阪支店の各支店長代理として勤務していたこと、被告Mが今里支店在勤中同銀行の得意先である、Kから金六〇〇、〇〇〇円を借り受けたことがあり、H専務は銀行の信用に関すると思つて当時今里支店長であつたOを通じて被告Mに右借受金を早急に返済するよう要望したこと、被告Mは右借受金を返済するために昭和三二年一月二五日頃原告ら所有の本件株券を担保に差し入れて被告銀行今里支店から金六〇、〇〇〇円を借り受け、被告銀行は現に本件株券を占有していることは当事者間に争いがなく、証拠によると、被告Mは昭和三四年一月二四日頃、右本件株券を原告らから、原告らが主張するような方法で騙取したことが認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。よつて右認定のような事情の下でなされた被告Mの不法行為について被告銀行が民法七一五条所定の損害賠償責任を負うか否かについて案ずるに同条にいわゆる「事業の執行につき」ということの意義については当該不法行為が本件の場合のように取引行為である場合と自動車事故における如く非取引行為である場合とは自ら差異があるが、今これを前者に限定して考えるならば、当該取引が外形上当該使用者(被告銀行)の事業と適当な関連ある範囲内にあり、且つ取引の相手方(原告ら)の方で被用者(被告M)が平素当該事務を取扱つておりそれが正規の手続きでなされたと信ずるような一定の関係が必要であるところ、本件における被告Mの原告らに対する不法行為の外形は、同被告が、「自分が今里支店に在勤中、無担保で貸付をしたことがあつて、近く行なわれる本店の監査の際に発覚すると具合が悪いので、監査がすめば直ちに返すから、それまで数日間担保にするため株券を貸してほしい」といつて原告らを欺罔したことであつて、右のように当時大阪支店勤務であつた同被告が今里支店の無担保貸付について、本店の監査のためのいわゆる見せ担保をつくることは、社会的慣行ないしは一般人の意識において被告銀行の事業と適当な関連ある範囲内にある行為とは考えられないし、況や原告らにおいて被告Mが平素かかる他の支店における事務を取り扱つておりそれが正規の手続でなされたと信ずべき一定の関係があつたものとは本件全証拠によるも到底これを認めることができないから、被告Mの本件不法行為は被告銀行の「事業の執行につき」なされたというのに当らないというべきである。従つてその余について判断するまでもなく原告らの本訴請求のうち被告銀行に対する部分はいずれも理由がない。(被告Mに対する原告らの請求は全部認容)

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