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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)386号 判決 1960年12月19日

原告 佐竹千代子

被告 国

訴訟代理人 今井文雄 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金六、二四五、八五一円及びこれに対する昭和三四年三月七日より完済まで年五分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに保証を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は大阪市西成区今池町四〇番地において化粧品、小間物等の販売を営んでいた。昭和二三年度に所得税法は根本的に改正せられたが、税務署長は最初のことで調査ができぬため、大蔵省の指示によつて、通例前年度の倍額程度に課税した。原告は昭和二三年度の所得税について、訴外西成税務署長に対し、売上金額は金九六三、〇一三円、仕入その他に要した必要経費は金七六四、一一三円であるから、その所得金額は金一九七、九〇〇円として納税申告を行つた。しかるに同税務署長は金六三〇、〇〇〇円という巨額の更正処分を行つたので、原告は訴外大阪国税局長に対し審査の請求をしたが、同局長は法定の期間内に何らの決定をせぬので、原告は大阪地方裁判所に対し、右税務署長を被告として更正処分の取消を求める訴(同庁昭和二五年(行)第三二号取引高税及び所得税不当課税取消請求事件)を提起したところ、右更正処分のうち申告所得金額一九七、九〇〇円、同居の親族佐竹実の給与所得金額一四、六七二円七〇銭を超過する部分を取消す旨原告勝訴の判決があつた。右税務署長は右判決を不服として大阪高等裁判所に控訴したが、昭和三三年一二月一〇日控訴は棄却され判決は確定した。

二、当時の西成税務署長は、原告の昭和二三年度の所得税について納税者を原告の夫佐竹長太郎と誤り、同人名義を以て婚期にある娘の仕度の品を差押えたので、原告より不当差押解除の訴訟を提起したところ、同税務署長は感情に支配され、何らの根拠なく不当の更正処分をしたもので、右の課税処分は税務署長の過失による行政処分であり、国は原告に対し損害賠償の責任を負担せなばならない。

三、訴外西成税務署長が原告に対する昭和二三年度分所得税の滞納税金の不足額(更正処分のため生じた)を徴収するために差押えた原告所有の商品の価額は金一、四三九、五五一円であるにかかわらず、同税務署長は殆んど捨値に等しい金二九三、七〇〇円で公売し、原告の昭和二三年度分所得税に充当してしまつた。これがため、原告は金一、一四五、八五一円の損害を蒙つた。

四、本件不当課税を行うに至つた動機は甚だ不純なものがあり、原告の営業を漬滅廃止さすのが最終目的であつた。(一)昭和二五年二月九日原告の夫佐竹長太郎名義で原告店舗の全商品を差押え同月二三日納税名義を原告に改めて更正処分をなすと同時に右差押を解除し、改めて同日原告名義で商品全部を差押え、(二)同年九月一六日その後仕入れた原告の商品を差押え、これを昭和二六年三月頃二束三文に公売し、(三)その後原告の昭和二四年度分所得税について前同様の方法で執拗に差押えを反覆すること二回、原告は遂に刀折れ矢尽きて裸一貫となり、多年経営してきた営業を廃止するの余儀なきに至つた。訴外西成税務署長の不当課税、不当差押によつて原告の失つた老舗(通俗にいう暖簾の意味で多年の営業によつてきずかれた財産的の価値の生じた資産で一種の財産権である。)の損害は金五、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

五、原告は訴外西成税務署長のなした不当課税の取消を求めるため弁護士水田猛男に委任して行政訴訟を提起し、同弁護士に対し(一)一審、二審の着手金二五、〇〇〇円宛計金五〇、〇〇〇円(二)勝訴報酬(一審、二審を併せ)金五〇、〇〇〇円合計金一〇〇、〇〇〇円を支払つた。

六、よつて原告は被告に対し、原告の昭和二三年度分所得税について訴外西成税務署長がなした更正処分及びその滞納税金の滞納処分に基く前記三項、四項、五項の損害金及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和三四年三月七日より完済まで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

と述べ、被告の主張に対し、

一、税務署長が所得税額の更正処分をなすには、まず税務署長において納税者の提出した申告額の当否を調査し、その不当なることが発見せられた場合において、はじめてこれをなすべきものであることは税法上明らかなところ、本件においては何ら調査をなさず更正処分を行つたのであるから、税務署長に過失があること勿論である。被告は、訴外西成税務署長が本件更正処分をなすに当り、同署担当官において在庫品の調査をなし、回転率により売上高を推定し、これに標準率を乗じて所得金額を推定したと主張するが、全然かかる事実はない。被告の主張する現在品の調査は昭和二五年九、一〇月頃なしたものであつて、しかも書類上のものでしかない。訴外西成税務署員加藤、毛利、大浦等の作成した在庫商品在高調査表(甲第三号証)、昭和二四年分所得収支計算書(甲第九号証)は同人等の偽造したもので、昭和二五年二月二三日の本件更正処分当時存在していなかつたものである。

二、昭和二三年度は申告納税制度に税法が改正せられた最初の年で一々申告額の当否を調査する時間的余裕がなかつたから、大蔵省は全国各税務署に対し、一斉に前年度すなわち昭和二二年度の所得決定額の倍額をもつて目標として、これにより納税者と折衝課税するよう指示を与えたが、これは便宜上の取扱であつて、このためたとい大蔵省の通牒があつても税務署長の無過失の免責理由とはならない。

三、原告の昭和二二年度分の所得決定額は金一五〇、〇〇〇円であり原告の近所同種販売店山月及び西成区同業組合の組合長種ケ島の昭和二四年度分の課税額はともに金二〇〇、〇〇〇円程度である。原告の昭和二三年度分所得金額を金六三〇、〇〇〇円とした本件更正処分は、当時の貨幣価値よりみて甚だ多額に過ぎる。感情に支配せられ不当の処分をしたものに違いない。現に審査請求の調査にきたす税務職員により金六三〇、〇〇〇円は多額にすぎると言明していた事実がある。被告は、不当差押解除の訴訟を知つたのは昭和二五年四月頃であるから感情に支配せられて多額の更正処分をしたものでないと弁明しているが、原告代理人がこの不当差押の解除の交渉に行つたのは昭和二五年二月一一日である。すなわち、昭和二五年二月九日附の不当差押(名義を原告に変更してやり直したのは昭和二五年二月二三日)の抗議は本件更正処分の一〇日位前のことであり、また不当差押に対する異議申立は同年二月中旬に提出した。

四、本件不当差押が原告の営業を倒産漬滅せしめる目的で行われたことは西成税務署係員が原告に対して数回言明したとことである。また昭和二五年二月九日頃二日間にわたり係官一〇名程の多数人が原告店舗に出張し、脱税の調査に名を藉り、家宅捜索を行い、帳簿書類はもちろん子供の僅かばかりの予金通帳、娘の婚礼にと準備してあつた晴着、息子の背広服まで差押えたのである。現場(二階)は火事の焼跡の如き状態を呈し、税務署において特別の意図のもとに行われたことは明らかである。商品は全部陳列柵に入れ封印を施したまま同年九月一六日まで誰も手がつけられなかつたのであるから、同日税務署が引掲げるまで商品の現在高の調査は不可能のことである。被告は右不当差押を同年二月二三日解除したと主張するが、現実に解除せられた物件は前記子供の予金通帳、娘の衣服類、息子の背広服の類だけである。商品については書面上解除と差押通知が同時に送達されたに過ぎない。また被告は、昭和二五年二月二三日の差押は同年九月一六日一応解除したと主張しておるが、原告は解除の通知をうけたことがない。同年九月一六日にはその後工面して仕入れた商品を再び全部差押え、同年二月二三日の差押商品とともに全部を税務署がかねて借りていた松坂屋の地下室とかに引揚げて行つたのである。所得税の課税の当否について行政訴訟を提起し、その審理中に二回も三回も商品全部(価格百数十万円)の差押を敢行するが如きことは異例中の異例である。原告商店を漬滅してやると豪語していた点よりみて、本件不当差押の真相が感情に支配されていたものであることは断言してはばからない。

五、被告は、原告が昭和二三年度の所得税、昭和二四年度の所得税及び取引高税等を滞納していたと主張するが、昭和二三年度の所得税についてはその更正処分の行政訴訟において原告勝訴となり、昭和二四年度の所得税及び取引高税については、その更正処分の行政訴訟において原告敗訴となり、控訴、上告を経て昭和三五年二月一八日最高裁判所において上告棄却の判決があつたが、本件は昭和二三年度の所得税の課税及び徴収の当否の問題であるから、何ら関係がないのみならず、右判決は商品の一年間の売上高を推定するに当り、昭和二五年二月九日現在、同年九月一六日現在を合算したものに回転率を乗じたものを以て一年間の売上高として推定しているのであつて、これは二で割るべきものであることは数学上の原則であるから、かかる過誤を敢てした判決は最高裁判所の判決と雖もとるにたらない。

六、被告は、仮定抗弁として本件請求権は時効により消滅している旨を主張するが、原告の昭和二三年度分所得税について訴外西成税務署長がなした更正処分が不当のものとして裁判所において取消す旨の判決が確定したのは昭和三三年一二月であつて、それまでは行政処分として存在していたのである。従つて、本件請求権の権利を行使しうべき時期は右判決の確定によつてはじめて生じたもので、判決確定より三年間は消滅時効の完成せぬことは多言を要しないところである。

と述べた。

被告指定代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一の事実中、原告がその主張のような営業をしていたこと、昭和二三年度所得税について原告主張のような確定申告更正処分、審査請求及び一、二審の各判決があつたことは認めるが、その余は争う。請求原因二の事実は否認する。請求原因三の事実中、国税の滞納処分により原告の商品を差押え、これを金二九三、七〇〇円で公売し、昭和二三年度の所得税に充当したことは認めるが、その余は争う。請求原因四の事実中、原告主張の日に滞納処分による差押をなしたことは認めるが、その余は否認する。請求原因五の事実は知らない。

二、原告主張の更正処分について訴外西成税務署長には過失はない。原告は昭和二三年度分所得税について西成税務署長に対し、昭和二四年一月二五日付をもつて、所得金額を金一九七、九〇〇円とする確定申告書を提出した。しかしながら、原告はその営業上の収益を正確に算定するための帳簿を完備しておらず、殊に在庫商品に対する期首期末の柵卸も行われた形跡もなく、備付各帳簿間に記載上明白な食い違いがあつたり、取引高印紙の帳簿上の記載以上に現品を所持しており、また衣料につき配給統制の行われていた昭和二三年当時衣料登録店でなかつたにもかかわらず、当時衣料品を正規の手続によらず売買していた関係上いきおいその記帳を欠いていた。このような状況のため、西成税務署担当係官においては、原告の前記確定申告にかかる所得金額の計算を信用できないものと考え、やむなく原告方在庫商品の回転率により売上高を推定し、これに標準率を乗じて所得金額を推計し、また理論生計費により年間の所得を推計してその当否を勘案し、同税務署長において昭和二五年二月二一日付通知書をもつてその所得金額を金六三〇、〇〇〇円とする更正処分に及んだものである。

右の更正処分は、これを争う行政訴訟において税務署長が敗訴し確定したが、一、二審の判決とも右の処分が推計課税の手段を採ることは相当であるとして是認せられており、また推計方法に明白な経験則違背があつたわけでもないから、右行政訴訟に敗訴したからといつて、直ちに前記署長に過失があるとは到底いい得ないものと考える。けだし、前記更正処分の適否については、一審において五年一ケ月、二審において三年三ケ月の年月にわたる慎重審理の結果、はじめて判決が下されたのであるが、前記税務署長は、管内多数の納税者について毎歴年反覆的かつ制限された更正期間内に調査決定することを余儀なくされているものであつて、裁判におけるような慎重かつ高度の注意義務を要請することは、ことの性質上不可能であるからである。

原告は、原告が不当差押解除の訴訟を起したことから、当時の税務署長は感情に支配せられ、何らの根拠なく、不当の更正処分をしたと主張するが、そのような事実はもとより存しない。原告の主張する不当差押解除の訴訟とは、原告を佐竹千代子外二名、被告を西成税務署長丹羽彦次郎外一名とする昭和二五年(ワ)第七七五号所有物件取戻請求事件を指すものと思われるが、同事件の訴は昭和二五年三月二三日に提起され、同年四月二〇日被告たる西成税務署長に訴状が送達されたものであつて、いずれも前記更正の日(同年二月二一日)より後であるから、右の訴により同税務署長が感情に支配されて更正処分に及んだものとするのは全く当を得ないところである。

三、原告主張の差押処分には違法はない。

(1)西成税務署の収税官吏岩佐忠男は、松坂屋地下室において昭和二五年二月二二日原告の昭和二三年度分取引高税二〇、八五八円、昭和二四年度分所得税三七、六四四円及びこれに対する延滞金の滞納による滞納処分として、柱時計外一〇点の動産を差押えたが、右差押は同年九月一六日解除された。(2) 右同人は、同月二三日原告方において、原告の前記(1) の滞納による滞納処分として商品全部を差押えたが、右差押は同じく同年九月一六日解除された。(3) 同署収税官吏太田武男、阪東寛は原告方において同年五月一三日原告の昭和二三年度分取引高税二〇、八五八円、昭和二四年度分所得税七七八、七六三円、同年度分取引高税五三、一五五円、督促手数料六〇円(以上合計八五二、八三六円)及びこれらに対する利子税、延滞金の滞納による滞納処分として商品を差押え、ついで同署収税官吏西川博は、原告方において、同年九月一六日原告の昭和二三年度分取引高税二〇、八五八円、同年度分所得税四二五、七八八円、昭和二四年度分取引高税一〇三、五〇〇円、同年度分所得税二六二、九七五円、督促手数料五〇円(以上合計八一三、一二一円)及びこれに対する利子税、延滞金の滞納による滞納処分として商品四九六点を差押えた。この二回にわたる差押物件は、同月二五日見積価格を金二七二、四六四円と評定され、昭和二五年一〇月二三日より昭和二六年七月六日までの間逐次代金合計二九三、七〇〇円をもつて公売せられ、昭和二三年度分所得税金に充当された。(4) 同署収税官吏斉藤晃一は、原告方において、昭和二六年六月六日原告の昭和二三年度分取引高税二〇、八五八円、同年度分所得税一二一、八七二円、昭和二四年度分取引高税四、〇三〇円、同年度分所得税二四六、八三三円、昭和二五年度分所得税二九四、七七〇円(以上合計六八九、三六三円)及びこれらに対する利子税、延滞金の滞納による滞納処分として商品一、二二二点を差押え、右差押物件は同月八日見積価格を金一四一、九三〇円と評定され、昭和二六年一〇月二〇日代金合計金一四六、〇〇〇円をもつて公売せられた。(5) 右同人は、原告方において、同年七月三日原告の前記(4) の滞納による滞納処分として、商品九六点を追加して差押え、この差押物件は、同月六日見積価格を金四八、六五二円と評定され、昭和二六年九月二八日代金合計金五〇、〇〇〇円をもつて公売せられた。

以上前後五回にわたる滞納処分(ただし、前記(1) (2) は解除されているから、実質的には三回)は、原告が主張する原告の昭和二三年度分所得税のみによるものではない。しかも原告が提起した課税処分の取消を求める行政訴訟が係属中であつても、原告に対する滞納処分を執行する妨げとなるものでないから、前記滞納処分による差押ならびに公売にはなんらの違法はない。原告は前記のように多額の国税を滞納したから、反覆して原告の所有動産を差押え、これを公売したにすぎないのであつて、収税官吏がことさら原告の営業を覆滅せしめる目的その他職権を濫用してこれを行つたものでもない。原告は前記(3) の公売につき「差押えられた商品の価格は金一、四三九、五五一円であるにかかわらず、西成税務署長は昭和二六年三月頃殆んど捨値に等しい金二九三、七〇〇円で公売した」ため、差額相当額の損害を蒙つたと主張するが、差押ならびに公売が適法である以上、このような差額が常に損害となるわけではない。けだし、原告主張の商品価格は、原告方店頭において顧客に販売すべかりし売価であつて、公売時には、時価の値下りや公売という特殊性から、ある程度低廉な価格で公売せられるのが常であるからである。原告主張の損害は、原告が多額の租税債務を進んで納付しなかつたために滞納処分をうけるに至つた結果であつて、もつぱら原告の責に帰すべきであり、被告がこれを賠償すべきいわれはない。

四、仮りに被告に原告主張のような損害賠償の義務があるとしてもこの債務は時効により消滅している。原告の本訴請求は、国税の課税または徴収権の行使についての公務員の不法行為による損害の賠償を求めるものであるが、国家賠償法にもとずく被告に対する損害賠償の請求権の消滅時効は、同法第四条の規定により民法第七二四条が適用されるから、右損害賠償請求権は、原告において損害及び国の公務員が加害者である旨を知つたときから三年間これを行わないときは、短期消滅時効によつて消滅する。ところで原告主張の損害は、西成税務署長の更正処分または同署収税官吏の差押及び公売処分によるものであるが、右課税決定は昭和二四年一月二五日、差押及び公売処分はその最終の公売が昭和二六年一〇月二〇日であるから、その加害者及び損害を知つたのは右日時であつて、遅くとも昭和二九年一〇月二一日頃には消滅時効が完成している。

原告は本件損害賠償請求権の消滅時効の進行の起算日を原告の昭和二三年度所得税更正処分に関する行政訴訟の判決確定日とし、いまだ消滅時効が完成していないと主張するが、このように解すべき法律上の根拠は全く存しない。けだし、国税の課税または徴収処分による公務員の不法行為については、河川法第六一条第二項のような規定はなく、従つていつでも損害賠償の訴を提起することができるのであり、当該行政処分の違法が行政訴訟により確定してはじめて権利の行使が可能となるわけではないからである。このことは、行政事件訴訟特例法第六条も課税または徴収処分の取消または変更を求める訴と損害賠償の請求にかかる訴との併合を認めていることよりみても明白である。

と述べた。

証拠<省略>

理由

原告の本訴請求は、原告の昭和二三年度分所得税について、訴外西成税務署長のなした更正処分、その滞納税金の滞納処分として同署収税官吏がなした昭和二五年二月二三日の差押処分、同年九月一六日の差押処分及び代金一、四三九、五五一円に相当する差押物件を昭和二六年三月頃代金二九三、七〇〇円で公売した公売処分は右更正処分がその行政訴訟の判決により違法として取消されたことによつて、すべて違法であるのみならず、とくに右公売処分は差押物件の公売処分の時価に比較して著しく低廉な価格をもつてなした違法があるとし、右各処分は西成税務署長または同署収税官吏の故意または過失に基くものであると主張して、原告の蒙つた損害の賠償を国家賠償法に基き被告に対して訴求するものである。よつて、原告の請求の当否について順次検討することとする。

(一)  更正処分について

原告がその主張のような営業をしていたこと、原告が昭和二三年度分所得税についてその所得金額を金一九七、九〇〇円として訴外西成税務署長に対し確定申告をしたところ、同署長が右年度の所得金額を金六三〇、〇〇〇円と更正したので、右更正処分に対し大阪国税局長に審査請求をしたこと、大阪国税局長が右審査請求について法定の期間内に決定をしなかつたこと、原告が右西成税務署長に対してその更正処分の取消を求めて大阪地方裁判所に訴を提起したこと、同裁判所において右更正処分は違法であるとしてこれを取消す旨の判決があつたこと、これに対して右署長が大阪高等裁判所に控訴したけれども控訴棄却となり、この判決は昭和三三年一二月頂確定したことはいずれも当事者間に争いのないところである。

ところで、租税の賦課徴収に関する処分は国の権力作用に属する課税権の行使としてなされるものであるところ、かかる公権力の行使が適法要件を欠くことによつて違法と判断された場合には公権力の発効としての加害行為そのものは故意になされていることであつて、国が賠償責任を負うべきことは当然の事理のように考えられるが、国家賠償法第一条の規定によれば、かかる違法な公権力の行使により他人に損害を加えたときでも、当該処分の行使に当つた公務員に違法の認識における故意過失があつた場合に限つて、国に賠償責任を課する建前をとつているから、単に違法な行政処分がなされたこと自体から、直ちに当該公務員に故意過失があつたとし、国に賠償責任を課することはできない。そして行政処分は法令に適合してなされることが要求されるのであつて当該処分に当る公務員が関係法規を知らなかつたとか、必要な知識経験を欠いていたということは、何ら弁明になるものではないが行政法規の解釈、適用は常に必ずしも容易でなく、事案の内容によつては事情が複雑で適否の判断に相当微妙なものがある場合もありうるのであるから、一見明瞭な法解釈の誤りや、事実の誤認をおかしたのならば格別、当該公務員が職務上要求される通常の法律上の知識、経験法則に基いて正当であると判断してなした処分が、事後において上級官庁の判断、最終的には裁判所の判断により、結局違法と判定されたとしても、そのことから直ちに当該公務員に故意過失があつたものと推断することはできないのである。

これを本件についてみるに、各成立に争のない甲第一号証、第一〇号証によると、訴外西成税務署長は、原告の昭和二三年度分所得税について、本件更正処分をなすに当り、原告営業に備付の帳簿類は取引高税台帳、取引高帳、取引高税印紙購入通帳、手帳のみであつて、仕入、金銭出納等についての帳簿類の備付を欠きしかも右帳簿を対照してみるとその間に齟齬があり、そのくいちがいの理由が納得しがたいばかりか、原告の取扱う商品のうち、衣料について統制が行われていた昭和二三、四年当時原告が衣料配給登録店でなかつたのに、衣料品を正規の手続によらず売買していたところから、原告の営業に関する帳簿が正確にその取引を反映していないとして、推計課税の手段を採用することとし、(一)同署係員土肥米之が昭和二三年一二月二〇日頃原告の同年度の所得調査のため原告店舗においてその在庫商品高を調査したところにしたがつて、業界における同年度の商品回転率によつて売上高を推定し、これに収益率を乗じて原告の同年度の所得金額を金六三〇、〇〇〇円と推計し、(二)大阪商工会議所調査の理論生計費により原告世帯の昭和二三年度における年間生計費を推定し、これに原告が同年中に納付した所得税、市民税を加算し、原告の次男実が昭和二三年五月購入した店舗住宅の資金三〇〇、〇〇〇円は原告の同年度の営業収益より支出したものとして加算し、合計金六五八、〇二二円二八銭の支出は同年度の原告の営業所得によつて賄われたものと推定して(一)の所得金額の推計を正当と推定したこと本件更正処分の行政訴訟(昭和二五年(行)第三二号取引高税及び所得税不当課税取消請求事件)において一審裁判所たる大阪地方裁判所は、その更正処分の当否を判定するに当り、訴外西成税務署長において前記のとおり原告営業に備付の帳簿類が下整備、齟齬、不正確のため推計課税の手段を採用したことを妥当として是認したが、(一)同署係員土肥米之が昭和二三年一二月二〇日頃なした原告店舗の在庫商品の調査は、各商品の価額を詳細調査した右のでなく、わずか五分ないし一〇分間商品の陳列状態を観察したものであるから正確とはいえない、仮りに正確だとしても、終戦後物価は急激に高騰し、とくに昭和二三年にかけての時期において著しく、同年度においてようやくその昂進を弱めたが、なおその年始と年末では一般物価に三割以上の開きがあつたことは公知の事実であるから、右の調査に基く在庫商品高を基準として年間の売上高ひいては所得金額を推計することは不当であるとし、(二)訴外西成税務署長の採用した理論生計費は成年男子軽労務者の最低栄養基準量を定立し、これを摂取するために消費する商品の価格をもつて飲食費を算出し、これが生計費においてしめる割合を六〇パーセントとして生計費を算定したものであるから、右はあるべき最低所得(とくに労賃)決定の資料としては適当であつてもある時期の現実の標準所得推計の資料としては使用に堪えないものとして排斥し、原告の次男実が昭和二三年五月購入した店舗住宅の資金三〇〇、〇〇〇円を原告の同年度の所得によるものと推定したことについては、小市民が比較的高額の不動産を購入する場合その資金は日常生活品の購入費が日日の収入から支出されるのを通常とするのと異り、むしろ長期間の貯蓄により賄われるのを一般とするから、仮りに右資金が原告の営業収益から支出されたものとしても、直ちに昭和二三年度の営業収益から支出されたものと推定できないとして、訴外西成税務署長の採用した前記(一)(二)の推計方法を妥当でないと認定し、結局本件更正処分は違法であるとしてその処分を取消す旨の判決をなしたこと、右判決の控訴事件(昭和三〇年(ネ)第一〇九五号取引高税所得税更正決定取消請求控訴事件)において、二審裁判所たる大阪高等裁判所は、一審裁判所が訴外西成税務署長の採用した前記(一)(二)の推計方法を妥当でないと認定した点を悉く正当として是認し、同税務署長の提起した控訴を棄却したことが認められる。行政処分の取消又は変更を求める行政訴訟における請求認容の判決の効力は、行政処分の違法性を有権的に確定し、この確定に基き行政処分の効力を失わしめるものであるから、本件更正処分は前記一、二審判決の確定したところにしたがい違法であることは明らかであるが、右認定事実によれば、訴外西成税務署長において、その確定した違法性を認識しながら故意に本件更正処分をなしたものでないことは明白である。原告は、昭和二三年度は申告納税制度に税法が改正せられた最初の年で、いちいち申告額の当否を調査する時間的余裕がなく、大蔵省は全国各税務署長に対し前年度の倍額程度に課税することを指示したところから、訴外西成税務署長は、原告の昭和二三年度分所得税について本件更正処分をなすに当り、何らの調査をなすことなく、違法な処分をなしたものであると主張するのであるが、昭和二二年度の所得税の改正(昭和二二年三月三一日法律第二七号-同年四月一日施行)は、税制全般についてとられた税制の民主化の要請にこたえ、いわゆる前年実績課税主義にかえその年分の見積所得による予定申告納税制度を採用したことは公知の事実であるけれども、右認定の事実によれば、訴外西成税務署長が従来の前年実績課税主義を踏襲して申告額の当否を調査することなく本件更正処分をなしたものでないことは明らかである。原告は、また、訴外西成税務署長は感情に支配され何らの根拠もなく本件更正処分をなしたと主張するが、証人佐竹長太郎の証言と弁論の全趣旨によれば、訴外西成税務署長が、原告の昭和二三年度分所得税について、納税義務者を原告の夫佐竹長太郎と誤つて更正処分をなし、その滞納税金の滞納処分として昭和二五年二月九日原告店舗の商品を差押えたところから、原告が弁護士水田猛男に委任して、右税務署長に対し、右差押処分の解除の交渉、抗議、異議申立及び差押物件取戻の訴を提起したことを認めうるけれども、これらのことから、直ちに同税務署長が感情に支配せられて本件更正処分をなしたものとは断じがたく、新聞であること当事者間に争のない甲第四号証は採用できず、その他本件全証拠を仔細に検討してみても、同税務署長が感情に支配せられ、職権を濫用して本件更正処分をなしたと認めうる事跡はなにもないのである。

次にそれでは過失の点についてはどうかについて考えてみるに訴外西成税務署長が本件更正処分をなすに当り、原告営業に備付の帳簿が不整備、齟齬、不正確のために推計課税の手段を採用することとし、前記(一)(二)の推計方法を採用したが、その行政訴訟の一、二審裁判所の判決は推定方法の手段を採用したことを是認し、前記(一)(二)の推計方法は妥当でないと認定したことは、前記認定のとおりであるが、推計課税の方法として、納税義務者の一定日時における在庫品高を基準として、その者の年間を通じて在庫品高とし、これに納税義務者と同程度の営業条件を備えた同業者につき算定した商品回転率及び利益率を乗してその者の所得を推計する方法、一定地域における統計上の一人当りの平均年間生計費を基準として、納税義務者の家族の年間生計費を算出し、それに課税年度中に納付した公租公課及び資産の増加額を加算してその者の所得を推計する方法は、一般的には経験則に照らし合理的なものとして是認しうるものであつてただ本件においては、前記(一)の推計方法については、係員土肥米之の調査を正確なものと判断したこと、昭和二三年における一般物価の変動を重要ならずと判断したか、これを失念したことに過誤があつたのであり、前記(二)の推計方法については、大阪商工会議所調査の理論生計費を採用することを妥当と判断したこと、原告次男実が昭和二三年五月購入した店舗住宅資金を原告の同年度の営業収益によるものと推定したことに過誤があつたと考えられる。ところで、更正処分は、その行政訴訟の二審裁判所の判決(甲第一〇号証)がその理由中に述べている如く、「およそ納税義務者の課税物件についての申告が、これを算定するに足る程度に整備され、その記載も整然かつ明確で客観的にその正確度に信がおける帳簿その他の書類に基いてなされ、直接にその申告の正確さを証明するに足る資料のあるような場合は別として、その申告が右のような信をおくに足る資料に基かず、従つてその正確さに疑があり、しかも可能な限りの調査を遂げるも課税物件を算定するに足る直接の資料の得られないような場合には、税務当局者としては諸方面から調査してできるだけの資料を集め、それから認められる間接事実に基き合理的に課税物件を推計して申告を更正しうるものである」が、推計のための事実認定の基礎となる資料が確実であるかどうか、その推計方法が経験則その他に照らし合理性があるかどうかは、極めて微妙な問題を含むものであるから、管内多数の納税義務者について毎歴年反覆的かつ制限された更正期間内に調査処分をすることを余儀なくされている公知の事実から推及するも、本件更正処分がなされた当時としては、訴外西成税務署長が推計課税の方法として前記(一)(二)の推計方法を採用することを正当と判断したことは無理からぬものがあるのであつて、かく判断したことについてさきに述べたような過誤があつたとしても、一見明瞭な事実認定の誤をおかしたものともにわかに断じがたい。従つて訴外西成税務署長が本件更正処分をなすに当り推計課税の方法として前記(一)(二)の推計方法を採用したことが、同税務署長の不注意又は怠慢など責に帰すべき事由に基くものと認められない以上、その判断において過失あるものとは認められない。

そうすると、本件更正処分が、訴外西成税務署長の故意又は過失によつてなされたものであることを前提とする原告の請求は爾余の点について判断するまでもなく失当である。

(二)  滞納処分について。

原告は、本件更正処分による原告の昭和二三年度分所得税滞納税金徴収のための滞納処分として、西成税務署収税官吏が昭和二五年二月二三日なした差押処分、同年九月一六日になした差押処分及びその差押物件を昭和二六年三月頃代金二九三、七〇〇円で公売した公売処分が、いずれも違法であつて、西成税務署長又は同署収税官吏の故意又は過失に基くものであるから、これに基く原告の損害は被告において賠償すべきであると主張するが、原告の主張する昭和二五年二月二三日の差押処分及びこの差押物件に対する公売処分は、原告の全立証及び本件全証拠をもつても認められないから、その存在を前提とする原告の請求は既に失当たるを免れない。もつとも、成立に争のない甲第五号証によれば、西成税務署収税官吏岩佐忠男は昭和二五年二月二三日原告店舗において原告の昭和二三年度分取引高税二〇、八五八円、昭和二四年度分所得税三七、六四四円及び督促手数料三〇円の滞納による滞納処分として原告の商品(詳細は甲第五号証のとおり)を差押したことが認められるが、右差押処分は本件更正処分による所得税徴収のための滞納処分ではない。本件更正処分による原告の昭和二三年度分所得税滞納税金徴収のための滞納処分としては、(1) 西成税務署収税官吏太田武男、阪東覚が原告店舗において昭和二五年五月一三日原告の昭和二三年度分所得税四二五、七八八円のほか同年度分取引高税二〇、八五八円、昭和二四年度分所得税三五二、九七五円、同年度分取引高税五三、一五五円、督促手数料三〇円(以上合計八五二、八三六円)及びこれに対する利子税、延滞金の滞納による滞納処分として原告の商品(詳細は乙第一号証のとおり)を差押えたことが成立に争のない乙第一号証により認められ、(2) 同署収税官吏西川博が原告店舗において同年九月一六日原告の昭和二三年度分所得税四二五、七八八円のほか同年度分取引高税二〇、八五八円、昭和二四年度分取引高税一〇三、五〇〇円、同年度分所得税二六二、九七五円、督促手数料五〇円(以上合計八一三、一七一円)及びこれに対する利子税、延滞金の滞納による滞納処分として原告の商品(詳細は甲第六号証のとおり)を差押えたことが成立に争のない甲第六号証(乙第二号証)により認められ、(1) (2) の差押物件は昭和二六年七月六日までに代金二九三、七〇〇円で公売され、その公売代金は本件更正処分による原告の昭和二三年度分所得税滞納税金に充当されたことが成立に争のない甲第一一号証(甲第二号証)により推認でき、(3) 同署収税官吏斎藤晃一が原告店舗において昭和二六年六月六日原告の昭和二三年度分所得税一二二、八七二円のほか同年度分取引高税八、二四〇円、昭和二四年度分取引高税四、〇三〇円、同年度分所得税二四六、八三三円、昭和二五年度分所得税二九四、七七〇円(以上合計六七六、七四五円)及びこれに対する利子税、延滞金の滞納による滞納処分として原告の商品(詳細は乙第四号証のとおり)を差押えたことが成立に争のない乙第四号証により認められ、(3) の差押物件は同年一〇月二〇日代金一四六、〇〇〇円で公売され、その公売代金は原告の昭和二四年度分所得税滞納税金に充当されたことが成立に争のない甲第一二号証により認められる。従つて本件更正処分による所得税徴収のための滞納処分は、原告の主張にかかわらず、(1) (2) (3) の各差押処分及び(1) (2) の差押物件を代金二九三、七〇〇円で公売した公売処分である。

ところで、賦課処分と滞納処分とは別個独立の行政処分であるから、賦課処分が違法であつてもそれが取消されずに存続している以上、滞納処分はそれ自体に瑕疵がない限り、何ら違法となるものではなく、賦課処分が違法として取消されたならば、滞納処分も違法な取消しうべき処分となるものであるが、既に認定したところによれば、本件更正処分はその行政訴訟の確定判決により違法として取消されたのであるから、本件滞納処分もまた違法な取消しうべき処分となるものというべきである。原告は、(1) (2) の差押物件を代金二九三、七〇〇円で公売した公売処分は、右差押物件の公売当時の時価一、四三九、五五一円に比較して著しく低廉な価格をもつてなした違法があると主張するが(もつとも原告の主張する滞納処分は昭和二五年二月二三日の差押処分、同年九月一六日の差押処分及び右差押物件の公売処分であるところ、前段認定のとおり、昭和二五年二月二三日の差押処分とその差押物件の公売処分はその存在を認められず、昭和二五年九月一六日の差押処分(当裁判所の認定した(2) の差押処分)とその差押物件の公売処分についてのみ認めることができるのであるから、原告が代金二九三、七〇〇円で公売したと主張する差押物件は当裁判所が認定した(1) (2) の差押物件とは一致しないのであるが、この点はしばらくおく)、各成立に争のない甲第三号証、第九号証、第一〇号証によれば、西成税務署員大浦薫章、同毛利政男等が原告店舗の昭和二五年二月九日当時における在庫商品在高を化粧品二九五、五二五円、小間物三七八、七五七円、雑貨七六五、二六九円合計一、四三九、五五一円と評価したことが認められるけれども、右在庫商品と(1) (2) の差押物件が同一物件であるかどうかについてはこれを認めうる証拠がないのみならず、(1) (2) の差押物件の公売当時における時価を算定しうる的確な証拠もないから、(1) (2) の差押物件を代金二九三、七〇〇円で公売した公売処分が公売当時における時価に比較して著しく低廉な価格で公売した違法があるかどうかを知るよしもない。

よつて進んで本件滞納処分をなすについて訴外西成税務署長又は同署収税官吏に故意過失があつたかどうかを考えるに、原告は本件滞納処分をなすに至つた動機は不純なものがあり、原告の営業を潰滅廃止するのを最終目的としたものであつて、同署係員も数回その旨言明したと主張するが、新聞であること当事者間に争のない甲第四号証は採用できず、その他本件全証拠を仔細に検討してみてもかかる事跡は全く認められない。課税権の行使として更正処分により租税債務すなわち納税義務が具体的に確定せられその処分が取消されないならば、税務官庁としては租税徴収権の行使として未納者に対し国税滞納処分をなすることは職務遂行上当然であるから、既に説示したように、訴外西成税務署長が本件更正処分を適法と判断したことに故意過失が認められた以上、本件更正処分がその行政訴訟の確定判決によつて違法として取消される以前においてなされた本件滞納処分について、その違法性の認識において同税務署長又は同署収税官吏に故意過失があるとはいえない。そして、原告が本件更正処分を違法として大阪国税局長に対し審査請求をなし、ついで本件更正処分の取消を求めて行政訴訟を大阪地方裁判所に提起したことは被告の認めて争わないところであるが、さきに説示したように、本件更正処分の適否の判断には相当微妙なものがあるから、前記行政訴訟における裁判所の終局的判断が確定するまでは、税務官庁において本件更正処分を取消すことなく維持し、本件滞納処分を続行したとしても、そのために訴外西成税務署長又は同署収税官吏に故意過失の責を帰すことはできないと考える。

そうすると、本件滞納処分が、訴外西成税務署長又は同署収税官吏の故意又は過失によつてなされたものであることを前提とする原告の請求も爾余の点について判断するまでもなく失当である。

よつて、原告の本訴請求はすべて理由がないから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 阪井いく朗 浜田武律)

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