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大阪地方裁判所 昭和35年(行)9号 判決 1962年2月24日

奈良県吉野郡十津川村大字谷瀬二八三番地

原告

浦東忠信

大阪市東区大手前之町一丁目

被告

大阪国税局長

武樋寅三郎

右指定代理人

検事 藤井俊彦

法務事務官 坂田暁彦

大蔵事務官 畑中英男

中島国男

右当事者間の所得金額決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の昭和三一年分所得税に関し、被告が同三四年一一月九日付でなした「原告の審査請求を棄却する」旨の決定は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

主文と同旨の判決を求める。

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、主張

一、原告の請求原因

(1)  原告は奈良県吉野郡十津川村大字旭七〇三番地、山林五〇町歩の持分〇、二〇五五六八を所有していたが、訴外吉野税務署長は、原告が右山林持分を、昭和三一年中に、他に代金六〇〇万円で譲渡したのものと認定して、同三四年五月一八日、原告の同三一年分の所得税につき、譲渡所得五六、七六二円、山林所得三、五三五、三一六円、税額一、一三九、八三〇円とする課税決定をし、同日原告に通知した。そこで原告は、同三四年六月一二日付で同税務署長に対し再調査請求をしたが、棄却されたので、さらに、同年八月一一日付で被告に定し審査請求をしたところ、被告は同年一一月九日この請求を棄却する旨の決定をし、同月一三日原告に通知した。

(2)  しかしながら、原告は、前記山林持分を同三二年一月二〇日に、訴外山内一郎に代金一三〇万円で売渡したものであるから、前記課税決定は、右売渡時期(所得の帰属年度)及び譲渡価格を誤認した違法がある。従つて、右決定を是認した被告の前記審査決定も違法であることが明らかである。

(3)  よつて、原告は、被告のなした右審査決定の取消を求める。

二、被告の主張

(1)  原告の請求原因(1)は認めるが、同(2)は争う。

(2)  原告は、その主張の山林持分を、昭和三一年七月頃、代金六〇〇万円で訴外昭和林業株式会社に譲渡したものである。(なお、右山林持分は、その頃さらに同会社から訴外大昭和製紙株式会社に転売され、登記簿上は、原告から直接大昭和製紙株式会社に売渡された旨の中間省略登記が経由されている。)

(3)  原告は、右譲渡につき昭和三一年分所得税の確定申告書を提出しなかつたので、訴外吉野税務署長は原告主張の日に次のとおりの決定をした。

譲渡価格 六、〇〇〇、〇〇〇円

総所得額 三、五九二、〇七八円

(内訳)

譲渡所得 五六、七六二円

山林所得 三、五三五、三一六円

基礎控除額 八〇、〇〇〇円

課税所得金額 三、五一二、〇七八円

税額 一、一三九、八三〇円

右算定の根拠は、別紙のとおりである。

(4)  よつて、訴外税務署長のなした右課税決定は相当であり、従つてこれを是認した被告の審査決定には、なんらの違法はない。

第三、証拠

一、原告

甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証を提出し、証人山内一郎の証言を援用し、「乙第一号証の一のうち、原告名下の印影が原告の印章によるものであることは認めるが、その余は否認する。同号証の二の成立は認める。乙第二号証のうち、官署作成部分の成立は認めるが、その余は知らない。その余の乙号各証の成立はすべて認める。」と述べた。

二、被告

乙第一ないし第九号証(第一号証及び第三号証は各その一、二)を提出し、証人菊島重政、馬場清衛、小川実、中田栄次及び飯田滋蔵の各証言を援用し、「甲第一号証及び甲第四号証の成立は認める。甲第二号証の成立は知らない。甲第三号証の一のうち、官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分及び同号証の二の成立は、いずれも知らない。」と述べた。

理由

一、原告の請求原因(1)は、当事者間に争いがない。

二、そこで、まず原告主張の山林持分の譲渡時期及び譲渡価格について判断する。

証人山内一郎の証言によつて成立を認める甲第二号証、官署作成部分につき成立に争いがなくその余の部分については同証言によつて成立を認める甲第三号証の一、同証言によつて成立を認める同号証の二、原告名下の印影が原告の印章によるものであることが当事者間に争いない事実と右山内証言によつて成立を認める乙第一号証の一、官署作成部分につき成立に争いがなくその余の部分につき証人飯田滋蔵の証言によつて成立を認める乙第二号証、成立に争いのない乙第三号証の一、二及び乙第四七号証に、証人山内一郎、菊島重政、馬場清衛、小川実、中田栄次及び飯田滋蔵の各証言を総合すると、次の事実を認めることができる。

すなわち、訴外昭和林業株式会社(以下、昭和林業と略称)は、親会社である訴外大昭和製紙株式会社に納入する目的で、原告ほか多数名の共有にかゝる原告主張の山林の買受を図り、山林仲買人の訴外山内一郎に昭和林業買付主任の名称を使用させて、昭和三一年七月頃から、右山林の調査及び買受の交渉に当らせたこと、一方、昭和林業は、右大昭和製紙株式会社から山林買付資金を導入する手段として、右山内一郎を通じて原告の了解の下に、同年七月二〇日原告が右山林共有者のうち一名を除くその余の全員を代理して、昭和林業に右山林を代金二一〇〇万円で売渡す旨の虚偽の契約書(乙第一号証の一)を作成したこと、その後、右山内一郎は、右山林の共有者と買受の交渉を進め、売渡に応じる者との間には、個々に買主昭和林業名義で売買契約を締結したが、原告主張の持分については、昭和林業奈良出張所長川手正三の了解をえて、昭和林業から支払を受ける仲介手数料以外に収入を得る目的で、山内一郎自身が買主となつて、原告との間に同三二年一月二〇日代金三五〇万円、内金五〇万円は手附として即日交付する旨の売買契約を結び、同日右五〇万円を原告に支払い、残額三〇〇万円は同年三月二四日完済したこと、もつとも右契約の際、税金等の関係で原告の希望により代金額は一三〇万円、手附金一〇万円とする売買契約書(甲第二号証)を作成したこと、昭和林業は同年三月二四日原告主張の山林持分を右山内一郎から買受けたが、同社奈良出張所では、親会社である前記大昭和製紙株式会社に対する関係もあつて、記録上は、昭和林業が直接に原告から右持分を代金六〇〇万円で取得したように処理し、同月二五日原告から直接前記大昭和製紙株式会社に売渡した旨の所有権移転登記を経由したこと、以上の事実を認定することができる。

前掲各証拠中、右認定に反する部分は、証人山内一郎の証言に照してたやすく信用することができないし、他に右認定を覆えすにたる証拠はない。

三、右認定の事実によると、右売買契約の成立した昭和三二年一月二〇日に売渡代金三五〇万円について、原告に譲渡所得ないし山林所得が生じたものと解すべきである。

そうすると、原告が、その主張の山林持分を、昭和三一年中に代金六〇〇万円で売渡したものと認定してなされた訴外吉野税務署長の前記課税決定は違法であり、従つてこれを是認した被告の本件審査決定もまた違法である。

四、よつて、これが取消を求める原告の請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江菊之助 裁判官 中平健吉 裁判官 中川敏男)

本件所得税額算定の根拠

一、総所得額

原告の山林持分の譲渡価額は、土地と立木を含めた金額であるため、譲渡所得、山林所得の各課税対象となる土地、立木の価額を時価(相続税財産評価基準により算出した評価額)により按分して、土地の価額を三〇六、六八四円、立木の価額を五、六九三、三一六円とした。

(右按分計算の根拠)

(1) 当該全山林の時価は、次のとおりである。

(a) 土地 六二四、〇〇〇円

本件全山林の土地の仮賃貸価格一二〇円――公簿面積五〇町歩、賃貸価格一五円(町当り三〇銭)を、実測面積四〇〇町歩に換算した額――に、昭和三一年分相続税財産評価基準による評価倍数五、二〇〇倍を乗ずれば、その額は六二四、〇〇〇円となる。

(b) 立木 一一、五八四、〇〇〇円

本件立木(雑木、推定平均樹令六〇年生)の一町歩当り基準価額一四四、八〇〇円に、富裕税財産評価事務取扱通達による総合指数(地利級七、地味級中、立木度庸)一〇〇分の二〇を乗じた額二八、九五〇円に、全山林面積四〇〇町歩を乗ずれば、その額は一一、五八四、〇〇〇円となる。

(2) 右土地の価額並びに立木の価額の合計額に対するそれぞれの割合は、土地は〇、〇五一一四、立木は〇、九四八八八六となり、この比率を原告の持分譲渡金額六〇〇万円に乗ずれば、その額は、土地については三〇六、六八四円、立木については、五、六九三、三一六円となる。

(イ) 譲渡所得 二六三、五二四円

譲渡所得額は、譲渡金額から当該資産の取得価額、設備費改良費及び譲渡に関する経費を控除した金額であるが、本件土地については、原告は大正二年四月二四日贈与により取得しているから、資産再評価法による再評価を行つたものとみなされ、譲渡金額から控除される金額は、再評価額と昭和二七年一二月三一日後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の額の合計額である(所得税法九条一項八号、一〇条ノ四の二項二号)。

従つて、右金額は、土地の譲渡価額三〇六、六八四円から再評価額四三、一六〇円を控除した額二六三、五二四円となる。(昭和二七年一二月三一日後に支出した改良費、設備はない。)

(ロ) 山林所得 三、五三五、三一六円

山林所得額は、譲渡金額から当該山林の植林費、取得費、管理費、伐採費、その他必要な経費(本件山林については前記土地と同様、譲渡金額から控除される金額は、再評価額と昭和二七年一二月三一日後に支出した管理費その他必要な経費の額との合計額)を控除した金額より、さらに一五〇、〇〇〇円を控除した額となる(所得税法九条一項七号、一〇条ノ四の一項)。

すなわち、本件山林立木の譲渡価額五、六九三、三一六円から再評価額二、〇〇八、〇〇〇円を控除した額三、六八五、三一六円より、さらに一五〇、〇〇〇円を控除した額三、五三五、三一六円となる。

(右各再評価額計算の根拠)

(a) 土地の再評価額 四三、一六〇円

財産税評価額一、〇七九円――公簿面積四〇町歩に対する賃貸価格一五円に財産税評価倍数(財産税法施行規則二〇条、一二条)三五〇倍を乗じた額五、二五〇円に、さらに原告の持分〇、二〇五五六八を乗じた額――を四〇倍した四三、一六〇円が本件土地の再評価額となる(資産再評価法二一条二項)。

(b) 立木の再評価額 二、〇〇八、〇〇〇円

右と同じく、財産税評価額八〇、三二〇円――本件立木の一石当り財産税評価額三円五〇銭(雑木三号標準の「中」適用)に、推定石数一〇〇、〇〇〇石(譲渡時期における石数一二〇、〇〇〇石、一〇年間の成長量二割と推定)を乗じた額に、原告持分〇、二〇五五六八を乗じた額――に、再評価倍数二五倍(資産再評価法二五条二項)を乗ずれば、その額は二、〇〇八、〇〇〇円となる。 以上。

二、課税所得金額(課税山林所得金額)及び所得税額

(イ) 原告について、昭和三一年中に、本件山林持分の譲渡による所得以外の収入は認められないので、同年分課税所得金額は、譲渡所得課税価額五六、七六二円(譲渡所得額二六三、五二四円から、一五〇、〇〇〇円を控除した金額の一〇分の五――所得税法九条一項本文)、山林所得課税価格三、五三五、三一六円から、基礎控除額八〇、〇〇〇円を順次控除した金額三、五一二、〇七八円が、課税山林所得金額となる(所得税法一二条の二)。

(ロ) 右三、五一二、〇七八円に、所得税法一三条所定の税率を適用すれば、所得税額は一、一三九、八三〇円となる。 以上。

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