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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)176号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕被告銀行吹田支店が昭和三四年一二月一七日定期預金として金一〇〇万円を預り受け、柿田昌子名義金額一〇万円一口柿田武重、柿田健一、柿田義雄各名義で夫々金額三〇万円三口、期間はいずれも一ケ年、利息年六分とする旨記載した定期預金証書四通を発行したことは当事者に争いがない。

そこで右定期預金の預金者は何人であるかにつき審究するに、≪証拠略≫を総合すれば、訴外新高製菓株式会社(その後新高食品株式会社に商号変更)と原告とは従来から取引があつたのであるが、同会社の山陰地方の販売等を担当する浦上彦が原告方に赴いた際原告から原告の資産に対する課税を免かれるため、松江市東本町の柿田武重であることを秘して大阪地区の銀行に預金をしてもらいたい旨の依頼の下に現金の寄託を受けたので、右浦上は右会社の代表取締役社長森健太郎にその旨伝えると同時に右現金を手交した。そこで森はあらかじめ原告の印鑑を押捺した印鑑届(≪証拠略≫)を携えて昭和三四年五月二日被告銀行吹田支店に赴き、右現金の内の一部金一五〇万円につき被告銀行と定期預金契約をした。その際森は右印鑑届五通の各氏名欄に柿田武重、柿田栄子、柿田洋子、柿田宏太郎、柿田肇と夫々に記入して被告銀行吹田支店貸付係井口郁に之を提出し、預金者名義は右五名とするも、その住所は被告において適宜選定記入されたい旨申述べたので、同銀行の定期預金係りのものがその住所欄に吹田市千里山と記入し、右柿田姓の五名を各預金者とする金額三〇万円の定期預金証書五通を作成し、森はこれら定期預金証書をすべて右浦上を通じて原告に交付した。このようにして森はその後も同様な方法で昭和三四年五月九日、同年一二月七日、昭和三五年五月二四日の三回にわたり浦上が原告から寄託を受けた現金をもつて、柿田姓名義で、六〇万円、一〇〇万円、九〇万円の定期預金をし、その証書はいずれも浦上を通じて原告に交付されたもので、その中昭和三四年一二月七日の分が本件定期預金に該当するのであるが、森は右各預金契約のさい、原告のために預金する旨の意思表示は全くなさず、しかも従来から右訴外会社の金融取引のため被告銀行吹田支店に来店することが多かつたので、被告銀行としては右各定期預金は森の架空人名義をもつてする所謂隠し預金であると信じていたことが認められる。そうすると原告と被告銀行との間には何ら預金契約は存在せず、従つて原告は本件各定期預金の預金者ではないことが明らかである。元来定期預金は純然たる指名債権であるが、預金名義人がそのまま債権者即ち預金者であるとは限らない。課税を免れる等のため第三者もしくは架空人名義をもつて預金をすることも世間必ずしも少くないこと顕著な事実であるからである。しかして第三者から銀行預金の依頼の下に現金の寄託を受けたものが、架空人名義をもつて預金をした場合は、右第三者のために預金するものであることが表示されない以上、金銭の所有権は原則として占有と共に移転するのであり、従つて右寄託を受けた者に既に右現金の所有権が帰属しているのであるから、右預金は右の寄託を受けた者の預金であるというべきである。これを本件についてみるに、本件各定期預金の名義人は、柿田武重、柿田健一、柿田義雄、柿田昌子の四名であり、この中柿田武重は原告と同姓同名であるが、その印鑑届記載の住所は前記のように被告係員において勝手に選定した吹田市千里山であり従つて原告とは別異の架空人であるといわざるを得ず、その余の三名が架空人であることも≪証拠略≫により明白であり、しかも森がその預金の際原告のためにすることを表示していないこと前記のとおりであるから、本件各預金当時、原告が支出した現金一〇〇万円は森の所有に帰属しており、その預金者は森健太郎をおいて外にはないといわざるを得ない。しかも≪証拠略≫によれば、森は本件各預金契約を締結すると同時に、本件各預金であることを確認した上、これら預金をもつて、訴外新高製菓株式会社の被告に対する債務と相殺の用に供されても異議はない旨相殺の予約をなし、その旨記載した念書(≪証拠略≫)を被告に差入れ、もつてその直後右訴外会社のために被告から金一〇〇万円の融資を受けたことが認められるのであるから、森が本件預金の預金者であることは動かし難い事実といわなければならない。原告は右≪証拠略≫は昭和三五年八月二日に作成された旨主張するがその証拠はない。同号証中同日の公証人作成の確定日附印があるが、≪証拠略≫によれば、これは被告銀行が同日に至り必要上公証人に依頼して得たものに過ぎないことが認められるので、なんら前記認定のさまたげとはならない。なお原告が本件各定期預金証書(≪証拠略≫)を所持していることは前叙のとおりであるがその裏面記載の定期預金規定第七項の譲渡禁止の条項等から明らかなように、右証書は有価証券ではないのであるから、原告が右証書を所持していることから直ちに原告が本件預金債権を有していると断じ得ないことはいうまでもない。(新田圭一)

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