大判例

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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)3339号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕株式会社の代表取締役の会社経営方法がその忠実義務、善管義務に違反し、かつ株式会社が第三者と行つた取引につき代表取締役に重過失があるとして商法第二六六条の三の責任が認められた一事例

〔判決理由〕原告と訴外千代田商事株式会社との間において、ベルトコンベア等の商品についた売買取引のあつたことは当事者間に争がなく、<証拠>によると、その取引の期間および内容が別表第二記載のとおりであることを認めることができ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

そこで、第一次請求原因について検討するに、成立に争のない乙第二号証および証人石井義臣の証言、被告本人の供述に弁論の全趣旨を総合すると、被告はもと原告と取引のある会社の従業員であつたが、右会社を退職して独立し、建築機械の売買業を営もうと企て、昭和三五年九月ころから千代田機械産業株式会社と称し個人で営業を始めたが、昭和三六年二月ころ諸般の便宜を考慮し法人に組織がえすることを考え、同年三月四日千代田商事株式会社の設立登記をし、自らその代表取締役となつた(しかし、その経営は被告が一切主宰し、実質的には個人経営と異らなかつた)。ところが、同年六月ころから早くも経営難に陥り、同年七月一〇日手形を不渡にして倒産し、そのころ店舗を閉鎖する結果に終り、結局原告に交付した最初の約束手形金の支払もできず、前記取引により原告に対して負担した債務は全く弁済できなかつた。元来、右訴外会社は設立当時から資産がなく(登記簿上には資本金一〇〇万円の記載があるが、見せ金による会社設立であることが推認できる)。従つて長期間決裁の手形によつて商品を仕入れ、これを他に転売して中間利益を取得する方法により営業したが、月間取引高は被告の供述をそのまま認めてもせいぜい二〇〇千円程度であり、その利潤率は一割五分以上は望みえない実情にあつたところ、被告は一挙に事業の拡大を図り、従前二人であつた従業員を一〇人に場員し(しかも、彼らは殆んどこの業種に素人であつた)、一人当り二万円の月給を支払い、営業用自動車を購入し、接待費として月間一五万円ないし二〇万円を支出していた。かくして、負債は逐次累積し、倒産当時一五〇万円ないし一六〇万円の債務を負担し、在庫品は一部債権者の引揚げにあつたこともあるが皆無に等しく、積極資産としてはわずかに不良債権二〇万円位を有する状況であつて、被告は同年七月九日金策のため上京したが失敗し、結局営業の継続が不可能に帰した。かような事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

以上のごとき事実関係によれば、訴外会社の設立から倒産までの期間は極めて短期間であり、ことに原告より仕入れた商品の買掛代金は全く支払できず、原告に交付された訴外会社振出名義の最初の手形の満期に倒産している有様である。かかる早期の破綻をみた原因は、前認定のごとき長期決済によるやりくり取引が順調に回転継続しないかぎり成りたたない業態であり、かつ殆んど無資産であるのに、予想される収益をはるかに超えた経費を無計画に漫然支出したことなど被告のずさんな会社経営にあつたと認めるのが相当である。もとより企業に投機性を伴うことは当然であり、被告主張のごとく被告がかような経営方法をとつたことは、人的陣容の整備および販路の開拓のため過渡的な措置であつたことは認めえないではないが、しかし、かような被告の会社経営は、なお代表取締役としての忠実義務善管義務に違反していると断ぜざるをえない。そして、原告との本件取引は、訴外会社発足後一カ月半から倒産前一カ月の間二カ月間に前後八回にわたり行われているのであつて、被告においてかかる取引をしても、その会社の経理状態からしてその代金の支払ができるかどうか、その見込が薄いことを予見しうべき筈であつたのに、漫然本件取引をし、その結果前認定をのごとき始末になつたものである。従つて、被告が訴外会社の代表取締役として本件取引をした行為は、商法第二六六条の三所定の取締役がその職務を行うについて少くとも重過失があつたものというべきである。

よつて、被告は、右行為により第三者である原告が蒙つた損害を賠償するべき義務があるところ、それは本件売買代金に相当する。そして、その額が合計金七六七、五〇〇円であることは前認定のとおりである。(寺沢栄)

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