大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)3031号 判決
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〔判決理由〕一、(三) 次に、原告は被告侃が訴外両名の注文取次により成立した株式の委託売買につき受渡に従事する場合には株券と代金を引換えにすべきであるのに、これを怠つたため、原告に損害を与えたものである旨主張するので、判断する。
原告主張のように同被告が訴外両名の買付注文にかかる株券を買付代金の支払を受けずに引渡し、右両名の売付注文にかかる株券の引渡を受けずに売付代金ないし相殺差額を支払つたことは当事者間に争がない。
いわゆる株式の現物取引において外務員が自己の仲介により成立した売買につき証券業者の代理人として顧客との受渡に従事する場合には、所属証券業者の承認を得ているか、または顧客側の受渡の履行が後日になつても確実に担保されているような特別の事情がない限り、買付注文にあつては顧客から買付代金の支払を受けるのと引換に買付株券を引渡し、売付注文にあつては顧客から売付株券の引渡を受けるのと引換に売付代金を支払い、もつて後日に至り顧客から代金の支払または株券の引渡を受け得ないため所属業者に損害を与えないようにすべき業務上の注意義務があるものと解すべきである。
そこで、被告侃が代金と株券を引換に授受しなかつた点につき原告の承認を得ていたかどうかを調べてみるに、本件全証拠によるもこれを認めるにたりず(同被告は受渡が遅れる毎にその旨を原告会社受渡部長に報告していたというが、そのような事後報告をもつて原告の承認があつたものとは認めがたい)、また、訴外両名側の受渡の履行が後日に至つても確保されるような特別の事情があつたことも認められない。かえつて、<証拠>を総合すると、同被告は昭和三七年五月中旬ごろから株券だけを先に引渡して代金の支払を一時猶予するなど同被告独自の判断により訴外両名のため受渡に便宜を与えていたところ、当時買付注文と売付注文とを相殺勘定に付しその差額だけを決済していた事情もあつて、代金の決済が順繰りに遅れることとなり、同被告としてはこの点に若干の不安を覚えながらも同様の取扱を続けた結果、同年六月に入つて右両名の資金操作に行詰りを生じたため、結局、原告主張の同月上旬から中旬にかけての取引が決済不能に終つたことが認められるから、同被告においてこのような受渡の便宜を供与する限り後日に至り訴外両名から買付代金の支払または売付株券の引渡を受け得なくなり原告に不測の損害を与える虞があることを予測しながら敢えてこれをなしたものというべく、前記(一)記載の誓約(注「故意、怠慢若くは過失等により原告に損害を生じたときは「全額を弁償する旨の誓約)の約旨からいつて被告侃はこれによつて原告の蒙つた損害の賠償責任を免れることはできないものというべきである。
もつとも、代金と株券を引換にしなかつたからといつて、原告の訴外両名に対する代金支払請求権ないし株券引渡請求権が消滅するわけではないが、右両名にこれを履行する能力がないため、結局、原告は支払を受けるべき代金及び引渡を受けるべき株券を受け得ないのであるから、これに相当する原告主張の損害を蒙つたものといわなければならない。
(四) そこで、被告侃主張の過失相殺の抗弁について判断する。<証人>はいずれも原告会社では訴外両名との取引が行詰るに至るまで右両名と被告侃との関係を全く知らなかつた旨供述しているが、<証拠>及び弁論の全趣旨から推測すると、原告会社では同被告が他の証券業者所属の外務員に対し株式売買の注文を発していることを知つていながら黙認していた様子であり、逆に同被告が他の証券業者所属の外務員から注文を受けこれを原告に取次いでいることをも感知していながら黙認していたとみられる節が強い。また、前記認定のように原告は原告主張の本件取引に至る約一ケ月前から被告侃の取次ぐ注文の受渡が遅延しがちで、以前の取引がまだ決済されていないのに、同被告の報告するままに新たな取引に基く株券ないし代金(または相殺差額)を同被告に渡して受渡にあたらせ、いわゆる現株取引では本来許さるべきでない売付注文と買付注文との相殺勘定をルーズに認めていたものであり、同被告の注文取次の実態、訴外両名の信用・資力について調査したような形跡もうかがわれない。そして、<証拠>を総合すると、訴外大商証券株式会社や訴外高木証券株式会社では売買の四日目に受渡をすべき原則が守られているのに、原告会社では受渡がルーズですこぶる便宜的な取扱を許しており、右両社に比し外務員に対する監督が一段とゆるやかであつたことが認められるのであつて、いわゆる歩合外務員に対する監督が証券業者にとつて相当困難であることは否定できないとしても、本件においては原告側にも相当の過失があつたものというべく、被告の過失相殺の主張は理由がある(なお、前記当事者間に争のない(一)記載の誓約の契約は原告と被告侃との間においては、被告侃の契約上の債務不履行に基く賠償責任を定めた特約と解し得るが、この特約はこれをもつてしても債務者において民法四一八条の抗弁を提出することを排除するものとは考えられないところである)。そこで、被告侃の賠償すべき金額につき考えるに、前認定の原告側の過失など諸般の情状を斟酌して前記損害額金八一八万六九一九円のうちの三分の一の金額二七二万八九七三円をもつて相当と考える。(石崎甚八 潮久郎 安井正弘)