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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)345号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、被告両名が昭和一九年原告より別紙目録記載の家屋を、敷金、権利金等を差入れることなく賃借し現にこれを占有使用していること、右家屋の賃料が昭和三四年七月より調停により月額四万四、〇〇〇円となつたこと、原告は被告両名に対し昭和三五年三月、右賃料を同年四月一日より月額七万五、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争ない。而して当事者間に争いない六大都市における地価推移指数(昭和三〇年三月を一〇〇とする)によると昭和三四年七月より同三五年四月の間に六大都市の地価は約二七パーセントの上昇であつたことが認められるから(計算略)本件家屋の敷地についても略同程度の上昇があつたと推認されるところ、適正家賃額の決定に当り敷地の時価が重要な一要素となるから、右程度の地価の上昇があれば、本件家屋の増額請求権を認めるべき経済事情の変更があつたと言える。被告等は昭和三四年七月に増額された月額四万四、〇〇〇円の賃料が既に近隣の家賃に比して高額であつたから、それより一〇ケ月を経たに過ぎない同三五年四月当時には原告は未だ増額請求権を取得していない旨主張するが<証拠>によると本件家屋の附近には借家は少く、僅かに<証拠>記載の西村吉治郎、並に島久薬品株式会社が賃借している家屋があるのみであることが認められ、右<証拠>によれば成程本件家屋の賃料より低額であることが認められるが、このことのみから前記昭和三四年七月に合意された賃料額が既に高きに失したものとは言えず、むしろ調停に於る原被告の合意によつて定まつたところからみれば右賃料額は当時の相当額であつたと推認され、その後地価が上昇すればそれに応じて賃料増額請求権は発生するものと解すべきであるから、被告等の右主張は採用し難い。(中略)

仍て進んで昭和三五年四月当時における本件家屋の相当賃料額について考える。

1 当該家屋並にその敷地を貸主の投下資本とみ、これに相当利潤率を乗じて得られる利潤額に、当該土地建物に課せられる固定資産税、並に都市計画税(以下単に税金と言う)を加算した額は右相当賃料額を決定する一つの基準となり得るものと考えるので先づこの方法によつて試算してみる。

(イ) 本件建物敷地の価格について、鑑定人佃順太郎作成の鑑定書(以下単に佃鑑定という)には、相当経年した木造建物の敷地として利用することを前提とした価格として、一、三九四万三、四八三円と評価し、これを貸主の土地投下資本額としているのに対し、鑑定人御門正明作成の鑑定書(以下単に御門鑑定という)には、更地価格を一、二八五万二、〇〇〇円と評価した上、本件家屋は老朽度著るしく敷地の経済的効用を充分発揮していないものとし、これによる敷地の現実利用価値を更地価格の七割と評価し、八九九万六、四〇〇円を以て貸主の土地投下資本額と評価している。ところで不動産の評価については人により或程度の差異の生ずることは避け難いところであるし、又右両評価のうち何れを正当とし、他を然らざるものと断定するに足るべき資料も本件には存しない。そこで斯る場合は右両評価の平均値が最も妥当に貸主の土地投下資本額を表わすものと考えられるところ、その平均値は一、一四六万九、九四一円となること計算上明らかである。

(ロ) 次に本件建物の価格につき佃鑑定は一〇三万八、一〇〇円と評価しこれを貸主の建物投下資本額としているのに対し、御門鑑定においては建物時価を一〇九万二、四六八円と評価し、その七割即ち七六万四、七二七円を以て貸主の建物投下資本額と評価している。而してこれについても前同様の理由により両評価の平均値をとると九〇万一、四一四円が建物についての投下資本額となる。

(ハ) 次に賃借権の価格として佃鑑定においては右(イ)(ロ)の土地建物投下資本額の各三〇パーセントと評価するに対し、御門鑑定においては土地については更地価格の三〇パーセント(故に(イ)の投下資本額の四三パーセントとなる)と評価し、建物については時価の五〇パーセント(故に(ロ)の投下資本額の七一パーセントとなる)と評価している。而してこれについても両評価の平均値をとると、土地については(イ)の投下資本額(平均値)の三六パーセント、建物については(ロ)の投下資本額(平均値)の五〇%となる。

(二) 次に土地の利潤率については佃、御門両鑑定共(イ)の投下資本額の年六パーセントと評価しているが、建物利潤率については、佃鑑定は(ロ)の投下資本額の年一八パーセントと評価しているのに対し、御門鑑定は管理費並に減価償却費(以下管理費等という)年額合計六万三、九四六円を別に賃料に加算する前提のもとに(ロ)の投下資本額の年八パーセントと評価しているが、右管理費等を建物利潤額に加算して建物利潤率を逆算すると年一六パーセントとなる。従つて建物利潤率の平均値は一七パーセントである。

(ホ) 以上の各平均値に基いて利潤額(年額)を算出すると土地については四四万〇、四五五円、建物については七万六、六二〇円となり、これに当事者間に争ない昭和三五年度の税金年額八万七、四二〇円を加算して一二ケ月で除すると、一ケ月の額は五万〇、三七四円となる。

2 昭和三四年七月調停によつて合意せられた月額四万四、〇〇〇円の賃料額は、当時における相当な額であつたと推察される。ところで昭和三五年四月の賃料増額請求権発生の主たる原因は昭和三四年七月以後の地価の上昇にあるのであるから(建物については殆ど価格変動はないと考えられる)右四万四、〇〇〇円にその後の地価上昇による利潤額を加算したものも又昭和三五年四月当時の相当賃料額を決定する一つの基準となり得るものと考える。そこでこの方法によつて試算してみるに、昭和三四年度の税金が年額八万七、四二〇円であつたこと当事者間に争ないからその一二分の一を四万四、〇〇〇円から控除した三万六、七一五円が当時の本件土地建物の利潤額(月額)であつたと推認される。ところで六大都市の地価が昭和三四年七月から昭和三五年四月迄の間に約二七パーセントの上昇であつたこと前認定の通りであり、本件土地についても同程度の上昇があつたと推認されるから、仮に本件建物についても同率の上昇があつたと仮定した場合、昭和三五年四月当時の本件土地建物の利潤額合計は月額四万六、六二八円となり、これに同年度の税金月額を加算すると五万三、九〇三円となるが、これにより建物についての仮定上昇利潤額を控除しなければならない。

3 尚佃鑑定、並に御門鑑定における昭和三五年四月当時の賃料額は前者においては月額六万六、九八九円であり、後者においては月額四万〇、五〇四円である。

そこで以上の如き試算額、鑑定額を勘案し、尚本件土地建物についての税金額が昭和三四年、三五年両年度に変更のないことを考慮し、昭和三五年四月当時における本件家屋の賃料額は月額五万円を以て相当であると考える。よつて本件家屋の賃料は原告の増額の意思表示により右同月一日以降月額五万円に増額せられたものである。

二、(略)

三、次に原告が昭和三六年一二月一八日被告等に到達の書面を以て本件家屋の賃料を月額九万五、〇〇〇円に増額する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争はない。仍て右当時の相当賃料額について考える。

1 2 3 (略)

そこで以上の如き試算額並に鑑定額を勘案し、尚本件建物についての昭和三六年度の税金の増加額が昭和三五年度より僅かに年額二、四一〇円に過ぎない点を考慮し(昭和三六年一二月当時の本件家屋の賃料は月額八万円をもつて相当である)と考える。従つて原告のなした前記増額の意思表示により本件建物の賃料は同年一二月一九日以降月額八万円に増額せられたものである。(林義一)

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