大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)384号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は紳士服の縫製販売業者であるが、被告は原告に対し一二万円の約束手形債権を有するとして、そのうち七万円を被保全債権とする有体動産仮差押決定を得て、昭和三五年九月一七日原告の有体動産(合服生地六着および夏服生地一四着分を含む)に対して仮差押えの執行をなした。しかし右仮差押の本案訴訟においては、同三六年九月二日被告の原告に対する手形債権の不存在のため被告敗訴の判決が確定し、同三七年一月一九日右仮差押が解放された。そこで原告は、右仮差押を受けた二〇着分の洋服生地がいずれも顧客からの注文で縫製にかかる直前のものであり、右仮差押えにより縫製不能となつたため、縫製工賃二六万一一〇〇〇円と素地販売利益二万八八三〇円の合計二八万九九三〇円の得べかりし利益を喪失したことを損害とし、原告が右仮差押執行前に、前記一二万円の約束手形金の支払いを求めてきた被告に対し書面で原告が右手形を振出したことなく、その手形は偽造のものと推定されるから手形を呈示されたい旨申し込れたのに、被告はこれに応ぜず、何らの回答もしないで本件仮差押の執行に及んだものであるから、右損害の発生につき被告に故意過失があると主張し、右二八万九九三〇円の損害賠償を求めた。これに対し被告は、原告主張の損害および故意過失の点を争うとともに、原告が本件仮差押に対し異議申立又は解放金を供託して執行処分の取消を求めていたなら原告の損害はその範囲を拡大せずにすんだ筈で、かかる手続をとらなかったことは原告の過失である。」と主張して、過失相殺がなされるべきであるとした。
裁判所は、原告主張どおりの事実を認定し、被告が被保全権利を有しないのに安易にこれあるものと信じて仮差押の執行に及んだ点において過失あるものと認めたが、他方被告の過失相殺の主張に対しても、次のように判示してこれを肯定した。なお、判決では右過失相殺した結果、被告から原告に対し支払うべき損害額は二五万円と認定されている。
「仮差押、仮処分は債権者に対し簡易迅速に強力な執行手段を付与する制度であるだけに、ともすれば債務者に不測の損害を蒙らしめる結果を惹起することも少くないので、かかる債務者のために種々の対抗手段が定められているが、前記損害の態様に鑑みて、原告においては少くとも解放金額を供託して仮差押の執行停止又は既になされた執行処分の取消を求め自らその損害の発生を防止することができたのであるから、この措置に出なかつた(原告がこの措置をとらなかつたことは弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる)点に損害発生について原告にも過失があるということができる。」