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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)4009号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで右解約申入に正当事由があるかどうかについて判断する。

<証拠>を総合すると、

本件建物は道路に南面して建てられた木造二階建(一部平家)屋根厚型スレート葺の建物であるところ、その東側面および西側面の外部はモルタル塗りであるがそのほぼ全面にわたり、外壁仕上げモルタルは剥落し下地張りが露出し、したがつて風雨に対する保護が十分でなく、下地板、柱、間柱等が腐朽しつつあり、その南面外部はタイル張りであるが玄関入口上の庇のタイルが一部剥落し下地木部が露出して腐朽しつつあること、西側面南端の平家部分の外壁廻りの土台、柱および間柱の根元は全く腐朽しており、西側面北部に位置する階段室付近の外壁はモルタル塗りが亀裂により剥落の状態にありかつ土台柱、間柱等が腐朽して危険な状態にあること、二階外壁のタイル張りにも亀裂を生じている部分があり、胴差が腐朽して外壁に傾斜している部分があること、北側面外壁はモルタル塗りであつて異状は認められないこと、建物の一階の内部に関しては各室および廊下の天井仕上げのシックイ塗りに亀裂を生じている部分があり一部に補修をした部分があるが特に西北隅の天井は階上からの漏水により下地木部が腐朽して剥落していること、一階廊下床にはほとんど異状がなくその他水を使用する場所で部分的に土台、柱の根元が腐朽していること、室内内側シックイ塗りは現状では異常がないが柱の一部に著しく腐触したものがあること、二階部分に関しては一部に雨漏りも見られるが天井、床等には異状はないこと、屋根瓦、棟等に異状はなく軸組構造が傾斜している状態はないこと

本件建物を修理せずして居住の用に供するときには、暴風雨地震等の場合に危険がないといえないこと

本件建物については必ずしも全面的改修をする必要があるとは認められないが、前記危険をなくして安心裡に使用可能のようにするためには部分的補修が必要であること

以上の諸事実を認めることができ、<反証排斥>。

次に右の如く本件建物が腐朽した事情について検討するに本件建物が建築後四〇年以上を経たものであることは被告らの明かに争わないところであり、<証拠>を総合すると、原告は昭和二八年六、七月ごろ本件建物を前所有者である増田留吉から買受けたものであるが、右建物はそのころかなり腐朽しており、雨漏りする部分があつたので、原告はそのころ屋根瓦の修理をし、その後も昭和三〇年五月ごろ、同年七月ごろ、同三一年八月ごろ、同三六年一一月ごろ本件建物の部分的修理をしていたが、本件建物は、建築後かなりの年数を経ていた関係もあつて、破損、腐朽箇所が多く発生したにかかわらず原告がその十分の修理をしなかつたので腐朽の程度が著しくなつたものであり、建築後の時間の経過に伴う自然的損壊が修理不十分により助長されて前認定のような腐朽状態となつたものであることが認められる。

一方、本件建物には二八の居室があり遅くとも昭和三六年一月ごろまでは満室であつたところ、遅くとも同三八年一一月ごろまでには少くとも一三名が各居室から退去し一三の居室が空室となつたこと、被告岡本居住の(一)の居室の賃料は一ケ月金一、三〇〇円、橋本居住の(二)の居室の賃料は一ケ月金三、〇〇〇円、同黒川居住の(三)の居室の賃料は一ケ月金一、二〇〇円、同田辺居住の(四)の居室の賃料は一ケ月金一、五〇〇円、同谷口居住の(五)の居室の賃料は一ケ月金一、二〇〇円であつたことは当事者間に争いがなく、右事実に原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、本件建物中の右各居室以外の居室の賃料もほぼ金一、二〇〇円ないし金三、〇〇〇円であつたこと、原告は被告らを含む居住者に本件建物の各居室の明渡を求めるに際して、原告所有の東大阪市若江岩田所在のアパートを賃料一ケ月六畳五、五〇〇円、四畳半四、五〇〇円、三畳三、五〇〇円、保証金は本件居室の保証金を流用するとの条件で賃貸する、立退料として金五〇、〇〇〇円を支払う旨の条件を呈示したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

思うに家屋の賃貸借にあつては賃貸人は賃借人に賃貸目的家屋を使用させる義務がありこれに必要な修理をなす義務があることは当然であるが反面賃貸人は木造家屋など一定の耐用命数の尽きかけている建物については、その家屋の効用が全く尽きはてるに先きだち大修繕改築等によりできるかぎりその経済的効用の維持をはかることがその家屋の所有者としてできるものであることは、これまた当然のことである。

ところで、本件建物は、必ずしも全面的改修をする必要があるとはいえないこと前認定のとおりであるが、右認定の基礎となつた鑑定人M、同Kの各鑑定は、それぞれ昭和三九年六月、同四〇年一月のものであり、当時から現在までは相当の年数も経つていることでもあり、本件建物の腐朽度は当時よりはなお相当進んでいるものであることは容易に推認できるところである。しかして、賃貸家屋の所有者としては、必ずしもその賃貸家屋が現在全面的改修をしなければ朽廃に立ち至るようなおそれのない場合であつても、なおその建物を改修して朽廃に立ち至るのを防ぎ、あるいはその建物をとり壊して別に新しい建物を建築し、もつて建物賃貸から生ずる収益を保持したいと考える場合がありうることは見易い道理である。問題はその建物に賃借人がいる場合に、賃借人の賃借物について有する使用権と賃貸人の右のようないわば所有権の行使との衝突の調和をどのようにして求めるかにある。賃借人の賃借家屋に対する賃借権は、保護される必要のあることは当然である。しかしながら、賃借人の右権利は、建物の朽廃に至るまであくまでも守らるべき権利であるとはいえないことは、賃貸人が右建物の朽廃を免れるために改築、大修繕することを要し、賃借人がいたままではこれをすることができない場合に、賃貸人に賃貸借解約申入の正当事由ありと認められることから言つても明かである。本件建物は、必ずしも全面的改修をする必要があるとはいえないにしても、前掲鑑定の結果ならびに検甲号証によれば、居宅として通常の人が住むに値するように通常の体裁に改修する必要があり、そのためには、本件建物を一応危険なくして使用できるように改修するに要する以上の費用を要するものと認められ、そのように腐朽した外観を呈するに至つたことが仮に被告ら主張のように原告が一部作為したことがあつたとしても、なおその大部分は前示の如く、建築後かなりの年数を経過したこと、低家賃のためもあつて賃貸人において十分な修理ができなかつたことが原因であると認められるうえに前認定の如く本件建物は、このまま使用を続けるときは、暴風雨、地震のときなどには危険な程度に耐久力がなくなつているものである。

右のような事情になお本件建物の居室のうち少くとも一三は昭和三八年一一月ごろまでに空室となり現在に至つていることなどを併せ考えると被告らに対し本件居室からの退去を求めて、本件建物の全面的改修を実施しようという原告の意図は、被告らの本件居室に対する賃借権の存在を考えても、また前記一三の居室の退去者がどのような事情で退去したものであつたとしても、なお、是認できるところである。なおこれに加えて原告は、被告らに対して本件各居室の明渡を求めるに際して他に代りの場所を賃貸する旨申し出たこと(その賃料は本件居室の賃料に比べかなり高額ではあるが、なお一般の家賃に比し高額すぎるとはいえない)、本件各居室の賃料の額などを併せ考えると、原告の被告らに対する本件各居室の賃貸借解約の申入れは、正当の事由があるものということができる。

したがつて、原告と被告岡本、同橋本、同黒川間の各賃貸借契約は解約申入後六ケ月を経過した遅くとも昭和三七年一二月一八日限り、被告田辺、同谷口間の各賃貸借契約は解約申入後六ケ月を経過した遅くとも同月二七日限り消滅したものである。(高林克己 惣脇春雄 坪井俊輔)

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